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第8話 レピエルの決意


「……失礼しました。幽霊ではなく、本人いわく精霊だそうです」


精霊は生まれたときから精霊なのかと思っていたけど、元人間も精霊になれるのだろうか?


「ふーむ。事情がよく分かりませんな。この石と旅に出ることに何の関係が?」


「ええと、その石は呪いの石なんですけど、その石の片割れを見つければ、天国にいけるんじゃないかと思って!」


「ますます意味が分からない……」


ヴィクトワール将軍の眉間の縦皺は深まるばかりだ。


「オスカー、信じられないかもしれないが、レピエルの言っていることは本当のことなんだよ。その石には人の魂が宿り、過去にあった悲劇に今もなお苦しんでいる。私たちはそれを助けたいんだ」


「……なるほど。陛下がそうおっしゃるのでしたら確かなのでしょう。プレシウス王家の血を引く方々は不思議な力をお持ちですから。このオスカー・ヴィクトワール、喜んでレピエル様のお供をいたしましょう」


ヴィクトワール将軍……、あ、ありがたいけど……、先のことを思うとちょっとだけ涙が出そうです。

私、叱られるのはあんまり得意ではないので、お手柔らかにお願いいたしますね。


(きゃああああああ! オスカーーーーー! どこまでもあなたに付いて行くわ!)


「おねえちゃま、こわいー!」


ルシエル、私もまったく同じ気持ちよ!


「ははっ、麗しの薔薇は君のことがたいぶ気に入ったようだよ、オスカー?」


「はあ。それはそれは、なんと申し上げればよいのか」


嫌われてネチネチいびられるよりずっといいと思います……。


「じゃあ、いろいろ準備もあるだろうし、出立は1週間後でいいかな?」


「承知しました」


「はい、私もそれで大丈夫です」


私は2人に向かって頷いた。


「僕も大丈夫です!」

「ルルもだいじょぶー」


自分達が旅の一行に加わると思っているらしいグレナディオンとルシエルも、満面の笑顔でコクコクと頷いている。


「グレンとルルはお留守番だよ。2人とも旅に出るにはまだ小さいからね」


「ええー! 僕はもう11歳です!」


「うん、まだ11歳だね。家宝のお守りは1つしかないからね、自分の身を守れるくらい強くならないと旅には出られないんだよ」


2人に効果があるように常にくっついているのも難しいし、かといって交代で持っていてもあまり意味がない。


「そんなあ……、僕も冒険したかったのに……」

「ルルも、ぼうけん……。ぼうけんってなあに?」


「ははっ、ルルはたくさん食べて大きくなって、馬に乗れるようになること。冒険の前に、まずはそこからだね」


お父様は、話はこれで終わりだとばかりにパンと手を打って立ち上がった。


「ではみんな、食堂へ行こうか。そろそろ夕食の時間だ」


いろいろあったせいで私ももうお腹がぺこぺこだ。

みんなでぞろぞろと連れ立って食堂へと向かった。





夕食を終え、お風呂に入ってさっぱりした私は、ベッドに横になりかけたところでリュシアンとまだ話をしていないことを思い出した。


「そうだ! リュシアンにいってらっしゃいって言わないと! きっと私を待ってるに違いないわ!」


私は慌ててベッドから飛び降りた。


(アンタ……、まさか、こんな時間から男の部屋に行くつもりじゃないでしょうね?)


麗しの薔薇が咎めるような口調で言う。


「え? そうですけど?」


(ハア……、まだまだお子ちゃまなのね)


「え? 法的には来年成人ですので子どもといえば子どもですが、もう大人も同然ですよ?」


この話長いのかな……?

早くリュシアンのところに行かないと、もう眠ってしまうかもしれないのに。


(あ、そう。もういいわ……)


「そうですか。じゃあ私、ちょっと行ってきますね」


私は夜着にガウンを羽織ると、急ぎ足でリュシアンのいる兵舎へ向かった。

兵舎とは渡り廊下で繋がっているので、外へ出ることなくすぐに到着する。


……と思っていたが、ドアノブを捻ってみて、渡り廊下の扉に鍵がかけられていることに気が付いた。

無駄だとは思いつつ、何度かガチャガチャと音を立ててみる。


「ダメだわ……。ここ、夜は鍵がかかってるのね、知らなかったわ。仕方がない、窓から挨拶しましょう」


リュシアンの部屋は幸いにも1階にある。


私は外を回ってリュシアンの部屋の窓ガラスをトントンと叩いた。

まだ明かりがついているから起きているようだ。


「リュシアン、リュシアーン」


「……レピエル様? こんな時間にこんなところで何を?」


窓を叩く音に気が付き、カーテンと窓を開けてくれたリュシアンが呆れた顔をする。


「何って別れの挨拶に来たのよ? 明日から1ヵ月もリュシアンに会えないんですもの」


「1ヵ月?」


リュシアンは何を言っているんだという顔で私を見た。


「えっ、リュシアンの休みは1ヵ月でしょ?」


「私の休みは1ヵ月ですが、レピエル様はたしか長旅に出られるのでは?」


リュシアンの指摘に私は愕然とした。


「ああっ!? そうだわ! 嘘、リュシアンに1年近く会えないということなの? そんなの嫌だわ!」


どうして今まで気付かなかったんだろう。

旅に出るということは、1年もの間、リュシアンに会えないということなのだ。


今更ながら不安になってくる。

そんなに長く離れ離れになることなんて今までになかった。


「どうしよう……、今からでも断れる?」


(断れないわよ!)


そ、そうですよね。


「旅もきっと楽しいですよ。色んな出会いや、学ぶことがたくさんある筈です」


「そうかもしれないけど……」


リュシアンがいないなら楽しさも半減だ……。


「1年も経てば私のことなど忘れてしまうでしょう」


「そんなことない! 忘れるわけがないわ!」


生まれたときからずっと一緒だったリュシアンを、忘れることなんてありえないんだから!


(アッサリ忘れるのってさあ、案外こっちの男の子の方だったりしてねー? ププッ)


「え……」


リュシアンが忘れる?

私を?


(アンタみたいなお子ちゃまのお守りばかりじゃ息が詰まるから旅に出るんじゃないのー? 旅先で羽目を外したりしてさあー、なんなら奥さん見つけてきちゃうかもね? くくく)


「……」


私は麗しの薔薇の話に言葉を失っていた。


リュシアンが……、私のリュシアンが……、奥さんを見つけてくる?

そんなことはありえない、麗しの薔薇はわざと意地悪なことを言って楽しんでいるんだと思おうとしても、その可能性があることは否定出来なかった。


「レピエル様?」


「リュシアン……」


何か手を打たなければ……。


「どうかしましたか?」


リュシアンは心配そうに私の頭を撫でてくれた。

この手が、いつか離れて行ってしまう……?


「どうもしないわ! リュシアン、頑張りましょうね、お互いに! じゃあ、おやすみなさい!」


私はくるりと後ろを向いた。


絶対に諦めない!

私の心は決まった!


私はある決意を胸に秘め、ダッと駆け出した。






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