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第5話 プレシウス王国へ


(ええッ! いまから向こう側に行くの?)


「はい、そうですよ?」


「また独り言ですか……。レピエル様、道を出しますから気をつけて渡ってくださいよ? もうだいぶ暗いので、あまり端を歩かないようにしてください」


「はあい」


私の返事に頷くと、リュシアンは首から下げたネックレスを右側の岩にかざした。


すると、目の前にパッと崖の向こう側まで続く長い道が現れた。


(はっ? ええっ、なんで急に道ができたの?)


「えーと、道が出来たというよりも、元々そこに道はあったんですけど、魔法で見えなくなっていたんです」


(ま、魔法……)


「うふふ、驚きました? すごいですよね。さあ、行きましょう!」


そして私たちは先を急ぐべく、慎重に馬の足を進めた。





(す、すごいわ……。下は底が見えないくらいの深い谷なのね。アタシはいいけど、アンタ落ちたら間違いなく死ぬわよ)


「そうなんです。馬の上から見るともっと怖いんですけど、でも、この道のおかげで私たちの国は平和なんですよ」


(どういう意味?)


「悪い人が入ってこられませんから」


何も知らなければ、どう見ても深い谷にしか見えないところに足を踏み出せる者などいない。

おかげで、私たちの国は敵の軍隊や盗賊に襲われることなく、のんびり平和に暮らしていけるのだ。


万が一国内で犯罪を犯したものは国外追放になってしまうから、私たちの国には犯罪を企てるような者もいない。

国王から国民にいたるまで、温厚な性格なのが自慢の国なのだ。

すこーし、のんきすぎるかなと思うこともあるけれど、私の大好きな人たちだ。


(ああ、なるほどね。それにしてもすごい魔法使いがいるものなのねぇー。アタシの生まれ故郷には魔法使いなんていなかったのよ)


「私たちの国にも魔法使いはあまりいませんよ」


残念ながら、大陸全体で魔法使いの数は年々減少しているのが現状だ。


(えっ、じゃあこの魔法は誰がかけたの?)


「私のご先祖さまがエルフとお友達で、そのお友達が魔法をかけてくれたんです」


(へえー、持つべきものは友達ねぇー)


「そうですねー」


薄暗い中、慎重に道を確かめながら渡りきったところでほっと息をつき、私はずっと俯き加減だった顔をあげた。


「レピエル様、ここからは少し急ぎますよ。しっかり付いてきてください」


「わかったわ」


崖を渡るときはやはり緊張していたようで、なんとなく首が凝ってしまったような気がする。

私は左右に首を曲げながら、リュシアンの後に続いた。


「あっ、私の家が見えてきましたよ」


この森を抜けたところに私たちの住む街がある。

ここまでくれば、あと30分ほどで着くだろう。


(どこどこ?)


「あれです!」


私は我が家が見える方向を指差した。


(えっ、どれ? 家なんて見えないけど……)


はっきり見えているのに、どうして見えないなんていうんだろう?

もしかして、麗しの薔薇は鳥目なのかもしれない。


「あそこですよ? たくさん明かりがついています」


(手前に森が広がってるんだから、民家なんて見えないわよ。ここから見えるのなんてお城だけじゃないの!)


どうやら視力に問題はなかったようだ。


「見えてるじゃないですか。そのお城が私の家なんです」


(えええええー? アンタお城に住んでるの!? 生意気ッ! 踏ん付けたい!)


「生意気と言われましても……。私は生まれたときからあの城に住んでいます」


生意気の基準とは……?


(あのさ、まさかとは思うけど、さっき言ってたアンタのお父さん。国王じゃないわよね……?)


「ええ、プレシウス王国の国王、デルフィニオン・プレシウスが私の父です。申し遅れましたけど、私はレピエル・プレシウスで、彼はリュシアン・ヴァンクールです。リュシアンは光、ヴァンクールには勝者という意味があるんですよ? 素敵な名前でしょ?」


私はリュシアンの名前が大好きなのだ。

だって本人にぴったりなんだもの!


(申し遅れすぎよ……! それより何より、アンタ説明がおかしいからね!? お父さんは何してるのって人に聞かれたら、普段の行動パターンを説明するんじゃなくて、職業を言うのが常識なのよ!)


「まあ、そうだったんですね。それは失礼いたしました」


私の父が国王だということを知らない人はいなかったから、そういう風に返事をするべきだなんて思わなかったな。

街ですれ違う人なんかに、『今日は国王陛下は何をしてなさるんで?』と聞かれたら、『ディアマンテ山に採掘に出かけてますよ』と普通に答えていた。


でも、『今日は国王陛下は何をしてなさるんで?』に『国王をしております』と答えるのは、とてもおかしい気がするんだけど……。

本当に常識なんだろうか。


(ハア……。アンタの護衛も苦労するわねって言ったけどさ、アンタの両親もかなり苦労してるわね、間違いなく)


「それはないと思います。レピエルはしっかりしてるから助かる、っていつも言われますから」


(……アンタってとんでもなく自己評価高いわよね。みかけによらずとんだ自信家だわ)


「うふふ、褒められちゃった!」


お父様もお母様も、自信を持つのはいいことだといつも言っている。

他人の意見に惑わされず、自分の信念を貫ける人になりなさいって。


(褒めてないんだけど……)


「あ、もう街に入りますよ。もっと早い時間だったらいろいろ案内できたのに残念です」


(うん、まあ、次の機会にお願いするわよ)


おしゃべりしているうちに、すっかり日が落ちてしまった。

ちょうど街に入れて助かった。


私たちは街中を駆け抜け、ほどなく城門に着くことができた。


「どうどう! ふう、なんとか帰って来れましたね」


「そうね。ギリギリだったわ」


「真っ暗になってしまっては、さすがにあの崖は渡れませんからね」


うっかり足を踏み外してしまったら谷底へ真っ逆さまだ。


玄関先に馬を下り、うーんと体を伸ばしていると、中から執事のジョルジュが慌てた様子でやってきた。


「レピエル様、お帰りなさいませ。国王陛下も王妃様も大変心配なさっております。どうぞお早くお顔を見せて差し上げてください」


どうやら、お父様とお母様が私の帰りはまだかと騒ぎ始めたようだ。

こんなに真っ暗になるほど遅くなったのは初めてだから、心配するのも無理はない。


「ごめんなさい。うっかり川に落ちてしまって。それで時間を取られてしまったのよ」


「さようでございましたか。ご無事で何よりでした」


私は馬番に手綱を渡すと、急ぎ足で玄関をくぐった。


「エル姉様!」

「おねえちゃまー!」


11歳になる弟のグレナディオンと5歳になる妹のルシエルが、玄関ホールの向こうからタタタと走り寄ってきた。

2人にも心配をかけてしまったようだ。


「よかった、無事だったんですね。何かあったのかと心配していたのです」

「もう、おねえちゃま、おそいー! うう、うわー!」


ルシエルは私に体当たりすると、私と同じ新緑色の目から大粒の涙をあふれさせ、声をあげて泣き出してしまった。

私は妹のふわふわの髪にぽんぽんと手を乗せた。


私たち3人は、お父様から新緑色の目と、くるんとした蜂蜜色の巻き毛を受け継いでいる。

一番下のルシエルは、今はまだお母様の金髪に近い薄い髪色だけど、おそらく成長とともにどんどん私たちの髪色になっていくだろう。


「グレン、ルル、心配かけてごめんね。さあ、お父様とお母様のところへ行きましょう。そこで説明するわ」


私はそう言って、弟と妹に左右に従えて歩き出した。

両側からピッタリくっつかれて歩きにくいけど、ここは我慢だ。


「お父様、お母様、ただいま帰りました。帰りが遅くなってしまって申し訳ありません」


「おお、レピエル! 心配していたんだよ。何かあったのかい?」


ソファに座って深刻そうな顔をしていたお父様は、私が声をかけるとパッと表情を一変させた。


「あらレピエル、お帰りなさい。遅かったわねえー。その服はどうしたの? あらまあ、髪もボサボサ。鳥の巣みたいよ、うふっ」


お母様?

本当に心配してました?






度重なるタイトル変更があり、誠に申し訳ございません……。

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