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第24話 そして2人は


あまりラインハルトさんを疲れさせてもいけないということで、その後私たちは国王の執務室へと引き返した。

しばらく3人でとりとめのない話をしていると、コンコンというノックの音が聞こえてきた。


「入れ」


「失礼致します」


部屋にやって来たのはボーデン伯だ。


「陛下。ご聖体を調べましたところ、確かに毒が仕込まれていたことが確認できました。それから大司教ですが、錯乱されていて取り調べが出来る状態ではありません。ですが、気になることを口にしております。『王家の子どもは、一人残らず死ななければならない』と……」


「なんだと!? まさか、亡くなった子ども達は全員毒殺されていたということなのか!」


国王は顔色を失くし、愕然とした様子でボーデン伯に詰め寄った。


「おそらくは……。聖職者からいただくご聖体だけは、毒味をしない慣習でしたので……」


ボーデン伯も無念そうに目を伏せた。

聖職者が人殺しをするかもしれないなんて、誰が想像できただろう。


過去を悔やむ2人にかける言葉が見つからず、私たちはただその場に立ち尽くすしかなかった。





すっかり日が傾き始めた王宮からの帰り道、私たちはゆっくりと石畳の道を歩いていた。


「右往左往している間に、色々なことが一気に片付いたな……」


「そうね……」


あれから国王は、リュシアンに王宮へ戻って来いと言ったことなど忘れてしまったかのように、私たちを引き留めることなく王宮を辞することを許してくれた。


「あの国王、ラインハルトが死んだ時に身代わりにするために俺を呼び戻そうとしたんじゃないか?」


「あの態度の変わりようを見てたら、そうとしか思えないわよね」


どちらも自分の大切な子どもだと口では言いつつも、やはり共に暮らしたラインハルトさんをより大切に思っているのが完全に態度に現れていた。


あの様子では、仮にリュシアンが今からフリューリング王家に戻ったとしても、ラインハルトさんと同等の扱いを受けるとは到底思えない。


それならば、血の繋がった実の家族と暮らすよりも、私たち家族の一員でいた方がリュシアンにとって幸せだと思う!


「エル……、そこに座らないか?」


リュシアンが指さした先にはベンチがある。


「ええ」


私は頷いて、街中を流れる大きな川を見下ろすベンチに腰を下ろした。

そこから見えるオレンジ色の夕日と整然とした街並み、そして夕日を反射して煌めく川が絵のように美しかった。


「綺麗ね……」


「ああ、綺麗だ」


チラリと横を見ると、綺麗だと言う割にリュシアンは川を見ていない。


「見ていないじゃないの」


「見ているよ。とても綺麗になった」


えっ、もももも、もしかして、私のことを言っているのっ!?

そんなこと初めて言われた!


「リュ、リュシアン?」


「幼い頃は妹のように愛おしく思っていたが……、エルはどんどん美しく成長して、いつの間にか俺は他の男に渡したくないと思うようになっていたんだ。俺が今回自分の出自を探す旅に出たのは、身分を確かめたかったからなんだよ。赤ん坊の時の所持品から、ある程度の身分の高さだろうと期待していたんだ」


この話の流れは……、リュシアンは何を言おうとしているの……?

ドキドキと、私の胸が早鐘のように鳴り出す。


「みっ、身分を確かめたらどうするつもりだったの?」


「それはーー」


リュシアンはサッと立ち上がったかと思うと、私の前で片膝を付いた。


「ーーレピエル・プレシウス嬢。私と結婚していただけますか?」


「リュシアン!」


夢を見ているのだろうか?

私は嬉しさのあまりリュシアンに飛びついた。


今までに何度も好きだと言い、その度に軽くあしらわれてきた。

それなのに、リュシアンの方からプロポーズしてくれるなんて……。


「俺はエルにプロポーズするために、どうしても身分を確かめたかったんだ。孤児である自分が、王女と結婚できる筈がないと思っていたから」


「そんなこと私は気にしないわ! お父様やお母様だって気にしないに決まっているのに、そんな理由であんなにそっけない態度だったなんて酷い!」


リュシアンも前から私のことが好きだったなら、そういう態度を見せてくれてもよかったと思う!


「そんな理由って言われてもな……、王女と孤児じゃ釣り合いが取れないにも程がある。結婚してくれなんて、とてもじゃないけど言い出せないよ」


「もう、知らないわ!」


私は拗ねてツンと横を向いた。


「ーーそれは、プロポーズは断るという意味か?」


「えっ、ちょっと待って! プロポーズは受けるわよ!」


勝手にプロポーズを取り下げないで!

もうとっくに了承してますから!


「はは、よかった」


「結婚は早い方がいいわ。私が成人したらすぐに結婚しましょう!」


モタモタしていて、なかったことされたら困るもの!


「留学はどうするんだ?」


「留学はしないわ! 今回の旅で留学にも等しい貴重な経験が出来たし、これ以上は必要ないもの!」


留学なんてしている間に何が起こるか分からない。

何かが起こってしまってからでは遅いのだ。


「まあ、3年も離れ離れになるのは俺も寂しいしな。デルフィニオン様とレーヌ様に相談してみるか」


「お父様もお母様も、きっとこの案に大賛成よ! 私が保証するわ!」


「そうだといいな」


私はポケットの中の石にそっと触れて、しみじみと言った。


「麗しの薔薇がここにいたら……、きっと私たちのために喜んでくれたわね……」


あの後、国王の執務室へ戻る時に再び中庭を通った私たちは、花壇の中から呪いの石を拾い上げた。


不思議なことに、2つのブルー・サファイアだった原石は、今では1つの大きなホワイト・サファイアに変わっている。

石に宿っていた魂の恨みや憎しみが消えたから、こうして透明になったのだろうか……。


「ああ、きっと喜んでくれたと俺も思うよ」


「口は悪いけど、心の優しい人だったものね……」


この石を拾い上げた時、国王は見るのも忌まわしいといった態度で、出来るだけ遠くに捨てろと言い放った。


フリューリング王家にとっては災いをもたらした石かもしれないけど……。

私にとっては麗しの薔薇との思い出のある石だ。


粗末に扱うのは気が引けたので、私はこうして大切に持ち帰ることにした。


(ーーあら。それはどうかしら?)


「えっ!?」


突然の声に、キョロキョロと辺りを見回す。


「どうした、エル?」


「う、麗しの薔薇の声が聞こえる! この世に未練もなくなって天国へ行ったんじゃなかったんですか? スーッと天に昇って行きましたよね?」


(なによ、人を悪霊みたいに言わないで! 天に昇って行ったのは、彼と彼の奥さんの2人よ!) 


な、なるほど……。

てっきり、石に宿っていた魂は全員天国へ行ったのかと思いきや、麗しの薔薇は例外でしたか……。


「あの……、この後は麗しの薔薇を天国へお送りする旅を続けるのでしょうか? 実は私、急に結婚することになりましたので、国へ帰りたいのですが……」


(あー、結婚ね。フン! 国に帰ればいいじゃない。別に2人の幸せを邪魔したりしないわよ、アタシはそんな心の狭い女じゃないもの!)


なぜか麗しの薔薇が怒っていらっしゃる……?

だけど、とりあえず帰国を許してくれたことはよかった。


(……それに、デルちゃん達とは会話が出来るから、あの国にいれば話し相手にも困らないしね)


「リュシアン! 旅は続けなくていいって言っているわ。早く帰りましょう、私たちの国へ」


「そうだな。帰ろう、俺たちの国へ」


私たちはお互いの顔を見て微笑み合った。


もうこれからは、リュシアンがどこかに行ってしまうんじゃないかと心配しなくてもいいんだ……。

私たちの国で、夫婦としてずっと一緒に暮らして行ける。


幼い頃からの願いが叶い、私は今泣きたくなるような幸福感に満たされていた。






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