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第11話 二人旅、その初日


「リュシアンたら、そんなに気を使って。気の毒にね」


「まあ、エルが聞いてる前では本音は言えないわよね」


伯母様、リーゼロッテお姉様、そんなに同情の視線をリュシアンに浴びせないでください。


「いえ、そういう訳では。1年あれば、当初予定していたよりも遠くまで足を延ばせますし、時間も掛けられます。本当に私にとっても良いお話で、国王陛下のお気遣いに感謝しているほどです」


リュシアンは、みんなを安心させるようにニコリと微笑んだ。

それを見たヴァインロート伯爵家の面々は、リュシアンが嫌がっていないことにほっと胸を撫で下ろしたようだった。


「それならよかった。これからもいろいろと迷惑をかけてしまうと思うが、リュシアン、私たちの姪をよろしく頼むよ」


伯父様……、なぜ私が迷惑をかけると確信しているのでしょうか?


「はい。お任せください」


「それで、2人はどこを目指しているんだい?」


私たち、どこを目指しているのかな?

私はリュシアンを見た。


「まずはフリューリング王国の王都、フリューゲルを目指そうと思います。そこから先は、手がかりを探しながらの、手探りの旅になるかと思いますが」


「そうか。たまにはレーヌたちに手紙を出してやってくれ」


「はい、もちろんです」


「そういえば、レピエルにレーヌから伝言があったな」


お母様から……。

お母様も急に私がいなくなって心配していたのかな。


「伯父様、どんなことでしょうか?」


「ええと、『学校が始まるまでに帰ってらっしゃい』だったかな」


お母様、それは前にも聞きました……。

どうせだったら違う言葉が聞きたかったです。


「はい、わかりました……」


(アンタのお母さんてさ、ちょっとアレよね……)


ええ、アレだということは私もうすうす感じていました。

お母様と話すとなんだか脱力するんですよね……。


そして私たちは、昼食を一緒にと勧めるヴァインロート伯爵一家の誘いを固辞して、先を急ぐことにした。

玄関先で預けた馬を待っていると、リュシアンがふと思い出したように伯父様に話しかける。


「ヴァインロート伯爵様。報告するのを失念しておりましたが、実は昨日の帰り道、私たちは盗賊に出くわしまして」


そうだった、伯父様にもその話をしておかないと!


「なんだって!? 無事だったのかい?」


無事なような、無事ではないような……。

何とも言えない状況になってますけど、少なくとも盗賊に襲われたせいでこうなった訳ではありません。


「ええ、こちらはお守りもありましたので被害はありません。ですが、他に被害が出る前に討伐された方がよろしいかと」


「わかった。すぐに対応するよ。知らせてくれてありがとう」


そうして私たちは、見送る伯父様たちに手を振り、王都フリューゲルを目指して屋敷を後にした。






「レピエル様、今日はこの町に泊まりましょう」


ヴァインロート伯爵家を出て何度か休憩し、比較的大きな町に着いたところで、リュシアンは言った。


もうすでに日が傾き始めているから、次の町を目指せるような時間ではない。

私に異論はなかった。


「ねえ、リュシアン。私のことレピエル様って呼ぶのはおかしいんじゃないかしら?」


知らない人が見たらきっと私たちを恋人同士だと思うだろうし、恋人なら呼び捨てじゃないと変だと思う。


「おかしいとは?」


「だって、様なんて付けたら、人におかしいと思われるでしょう?」


恋人なら。


「……ああ、主従関係だと他人に悟られない方がいいという意味ですか? なるほど、よからぬ人間に目を付けられないように、金持ちの娘だと思われない方が賢明ですね」


え、そういう意味じゃなかったけど。

まあ、呼び捨てにしてくれるなら理由はなんでもいいか。


「昔みたいにエルって呼んでほしいわ。どうしてエルって呼んでくれなくなっちゃったの?」


「私たちももう大人になりましたから、身分を弁えなければなりません。それに、エルと呼ぶと、ルシエル様が反応してしまうので」


そう……、ルシエルが物心つくまでは、私はずっとエルで通っていたのに……。

エルと聞くと、ルシエルが自分のことだと勘違いしてしまうという理由で、私はみんなから愛称で呼ばれなくなってしまったのだ。


ルシエルという名前の中にもエルが入っているから紛らわしいのは分かるんだけど……、でも、ルシエルが産まれる前からずっと私の愛称だったのに……。


「ここにはルルはいないじゃない。だからエルと呼んで! それに、リュシアンの言葉遣いはちょっと堅苦しすぎるわよ。長旅になるんだから、もっと普通に話してほしいわ」


「はあ……。わかったよ、エル。これで満足か?」


リュシアン!

何年振りかで敬語抜きで話しかけられ、私は気分が高揚するのを抑えきれなかった。


「ええ、それでいいわ!」


恋人同士はこうでなくちゃね!

さあ、張り切って今日の宿を探しに行きましょう!





ほんの少し前まで幸福感を満喫していた私だったけど……、今は自分の不甲斐なさにガクリと肩を落としているところだ。


ああっ、どうして……、どうして私、お金を持ってくるの忘れちゃったの……!?

なんてことだ、これからどうすればいいんだろう。


ここからプレシウス王国まで戻るのはさすがに辛いけど、ヴァインロート伯爵家までならそう遠くはない。

伯父様にお金を借りて……、でも、ここから往復したら2日は無駄になってしまう。


「エル、そんなに落ち込むなよ。豪華な旅とは行かなくなったが、節約しながらなんとかやっていこう」


リュシアンはそう言って笑いながら、私の頭にポンポンと手を乗せた。


「リュシアン! 私……、ごめんなさい」


「もう気にするな」


「はい……」


私たちは気を取り直し、空きを尋ねるために入った高級宿を退散して、馬を引きながら安宿を物色することにした。


「そこの宿は悪くなさそうだ。空いているか聞いてくるから、ノワールの手綱を頼むよ」


リュシアンは1軒の宿に目を留め、馬の手綱を私に渡してきた。


「わかったわ」


小さな宿だが、よく手入れされた花壇には花が咲いていてなかなか小奇麗な宿だ。

うん、こういう宿もたまにはいいと思う!


「うーん、どうしたものか……」


「リュシアン、どうしたの?」


すぐに宿から出てきたリュシアンがなぜか唸っている。


「一部屋しか空きがないんだ。他に安い宿があるか聞いてみたんだが、女性連れには勧められない宿だと言う話だ」


「あら、ここが空いているならここでいいじゃない! ここに決めましょうよ」


(アンタって……ほんと考えなしな子よね。リュシ君も苦労するわよ)


「リュシ君? 名前はリュシアンですよ?」


(わかってるのよ、そんなことは! 愛称よ!)


え……、私のリュシアンなのに、勝手に変な愛称付けないでほしいな。


「エル、あんまり道端で独り言を話さないようにした方がいいぞ。頭がおかしいと思われる」


「そ、そうね。わかったわ」


(あら……。アタシも気を付けるわ)


そうだった、麗しの薔薇の声は普通の人には聞こえないんだ。

変に思われないように気を付けないと……。






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