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第10話 ヴァインロート伯爵家にて


「えっ?」


思わぬ返事に、私は頭をぐるりと巡らせた。

どこから声が?


「ここですよ」


私の背後の木立から現れたのは、やっぱりリュシアンだった。


「リュシアン!? どうして?」


「どうしてとはこっちの台詞です」


「えっ? えっ? ……リュシアンの後を付けてきたのに、どうして私の後ろから現れるの?」


いつの間に追い抜いてしまったんだろう。

道理でいつまでたっても追いつかない訳だ。


「厩の陰に隠れていたでしょう?」


「ええっ! 知ってたの?」


「見送るわけでもなく隠れているということは、もしかして付いてくる気なのかと心配になったんです」


私の行動を完全に読まれていたなんて!

そうだとしても、リュシアンが私の先を走って行ったのは確実なんだけど……。


「あの……、私、いつの間にリュシアンを追い抜いたのかしら?」


「念のために崖を渡る手前で隠れていたんですよ。プレシウス王国ならば1人でもそう危険はありませんが、フリューリング王国へ入るとなると何があるか分かりませんから」


ええっ、そんなに前から私の後ろを走ってたんだ。

必死で追いかけていたのに、後ろを振り向けばリュシアンがいたなんて信じられない……!


「そうだったの……」


「それで、これからどうなさるおつもりなのです? まさか私に気付かれずにいつまでも後を付いてこられると思っていたわけではないですよね?」


……思ってました。

こっそり付いて行って、リュシアンの出会いを潰して、合間に探し物の石が見つかるといいな、と……。


「だって、リュシアンのことが心配で」


「レピエル様に心配していただかなくても、自分の身は自分で守れます」


そうかなあ!?

女の人を甘く見てはいけないと思うな、どんな手を使って結婚に持ち込んで来るかわかったもんじゃないんだから!


「でも……」


「レピエル様の旅には誰と出ることになっていたのですか?」


ヴィクトワール将軍の名前を言ったら叱られそうな気がするけど、言わない訳にはいかないだろうな……。

私はチラリと上目遣いでリュシアンを見て、恐る恐る名前を口にした。


「ヴィクトワール将軍が付いて来てくれることになったの……」


「えっ!? ヴィクトワール将軍自らレピエル様の護衛に? それなのに、勝手に私に付いて来てしまったんですか!」


(そうなのよ! アタシのオスカーを置き去りにするなんて、ほんと何様のつもりかしら!)


リュシアンに便乗して、麗しの薔薇もここぞとばかりに私を責めたててくる。


「ご、ごめんなさい……」


「……仕方がありません。まずはヴァインロート伯爵家へ行って、鷹を飛ばしてもらいましょう。国王陛下も王妃様もきっと心配しておられます」


ここから城に帰るよりも、リーゼロッテお姉様のところの方が近い。

昨日も訪ねてきたのにまた来たのかと驚かれてしまうけど、両親に無事であることは一応伝えた方がいいようだ。


「部屋に手紙は残して来たのよ?」


「それでもです。1人で国を出るなんて無茶をして。城に帰ったら両陛下にはたっぷり叱っていただかないと」


「えっ? 私、城に帰るの?」


せっかくここまで来たのに?


「当然です。迎えが来るまでヴァインロート伯爵家で待たせてもらえばよろしいかと」


「リュシアンは?」


「私はヴァインロート伯爵家までお送りしたら失礼させていただきますよ。先を急ぎますから」


「ええっ!」


そ、そんな!

それじゃあ苦労してリュシアンに付いて来た意味がまるで無くなっちゃう!


「さあ、そろそろ出発しましょう」


「はい……」


何かいい方法はないものか……。

ヴァインロート伯爵家に着くまでにいい手をひねり出さなければ。

私は必死に考え込んだ。





結果。

何も思いつきませんでした。


もうヴァインロート伯爵家の屋敷は目の前だ。

道中、顔見知りのヴァインロート伯爵家所属の騎士に出くわして、その騎士と一緒にここまでやって来た。


「レピエル様、着きましたよ」


「そうね……」


「さあ、中へ入りましょう。私も一緒にご挨拶させていただきます」


私はリュシアンに促され、ヴァインロート伯爵家の屋敷に足を踏み入れた。


「あら、本当に来たわね」


通された部屋には、お母様の兄であるヴァインロート伯爵と伯爵夫人、そして笑いを堪えるかのような顔をしたリーゼロッテお姉様がいた。


「こちらへ来てお座りなさい。リュシアンも座ってちょうだい」


伯母様に促された私たちは大人しく席に着く。


「突然の訪問をお許しください。実はーー」


リュシアンが事情を説明しようとしたところで、伯父様が軽く手を振って遮った。


「ああ、事情はわかっているよ。レピエルが、ククッ、勝手に君の後を付いて来てしまったんだろう?」


「ぷっ! うふふっ!」

「あら、リーゼ、そんなに笑ったら、オホホ」


え、なぜか皆さんすでに事情を把握してらっしゃる!?

ポカンとしてヴァインロート伯爵家の3人を見つめていると、伯父様が種明かしをしてくれた。


「少し前に鷹が飛んできてね、君の父上から手紙が届いたんだよ。だからうちの騎士を迎えにやっただろう?」


なんと、偶然ばったり会ったのかと思いきや、あの騎士は私たちがいることを知っていて迎えに来ていたのだ。


「えっ、お父様から? 私を捕まえてほしいと言ってきたんですか?」


「いいや、そうではないよ。普通の父親ならそうするだろうとは思うがね」


じゃあなんて書いてあるんですか?

私が早く話してほしいと期待を込めてじーっと見ていると、伯父様は内ポケットから手紙を取り出してガサガサと広げた。


「ーー手紙には、こう書いてあるよ。『うちのレピエルが一人旅に出る筈のリュシアンに付いて行ってしまったんだよ。悪いけど、リュシアンにレピエルを連れて行ってやってくれと伝えてもらえるかな? 連れて行ってくれる代わりに、休暇は1ヵ月じゃなくて11ヵ月半取っていいからねと言ってほしい』……ぶふっ! はっはっは! リュシアン、災難だったな!」


伯父様は涙を流さんばかりに大笑いしている。

何がそんなに面白かったのかよくわからないけど、お父様がリュシアンと一緒に行くことを許してくれたんだ!


「わあっ、よかった! よかったわね、リュシアン?」


私は隣に座るリュシアンに満面の笑顔を向けた。


「ぷっ、リュシアンはよかったと思ってないわよ。エルと一緒じゃ休暇にならないじゃないの」

「ああ、あまり笑わせないでちょうだい! お腹が痛いわ」


リーゼロッテお姉様も伯母様も酷いこと言わないでほしいな!

リュシアンだってきっと喜んでます!


「……ハア」


「ぷっ! ほら、ため息吐いてる!」


(まあ、そりゃねー。せっかく羽目を外そうと思ったのに、こんなお荷物が一緒じゃあねー、ため息も出るわ)


麗しの薔薇までそんな!

私の味方が一人もいない!


「いえ……。約1年もの間、旅に出られるということは私にとってもいいお話です」


ほらっ!

リュシアンもこう言ってるじゃないですか!






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