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伝説

お昼ご飯の後の11~12刻にある授業は、いつもはとても眠い。


あ、ちなみにファジャンシル王国は1日が20刻で分けられていて、日の出の5刻から日の入りの15刻までが昼間になる。

1週間は、()(ふう)()(よう)()()()()()(とう)の10日間で、湖曜日と糖曜日がお休みだ。

月の終わりにもまとまった感謝の日というお休みがある。

ちなみに1か月は50日。1年は10か月だ。1月・2月が冬、3月・4月・5月が春、6月・7月が夏、8月・9月・10月が秋という、オディエ国とあまり変わらない季節になっている。

うちのおばあちゃんちがあるムーンランドは北の方にあるので、ちょっと冬が長いけどね。



今日の4講義目の「魔法科学の歴史」は、トティにとってとても興味深いものだった。

いつもはお腹がいっぱいになると、午前中の疲れも相まって、ウトウトと閉じそうになる目を開けておくのに苦労する。けれどトティは先生の話を聞いて、目を見開くほど驚いた。午後の講義は父様や兄様に受けた指令を、早くも達成できそうな中身の濃い内容だったのだ。



ファジャンシル王国の発展の秘密、それはラザフォード侯爵夫妻にあるのではないだろうか?



本当に聞けば聞くほど、ドルーのお父さんは凄い。


魔法科学研究所を立ち上げ、最初に魔電力事情を改善する。

次に念話器の開発に始まって、魔導車、クーラー、セキュリティ機器などの様々な近代機器を発明し、生産ラインまで作っている。さらに平民が使えるように電気を改良し、今、世界中に流通している電気製品を次々と作ってきた。


全ての歴史に自分の父親が出てくるというのは、どんな気持ちなのだろう?

クラスの皆がドルーに注目してしまうのも仕方がないことだ。

先生の口からダニエル・ラザフォード侯爵の名前が出ると、皆がドルーのことを振り返って見るので、ドルーは講義の間中ずっと苦笑していた。


そして5講義目、女子は「刺繍」だった。

トティはここで、プリシラが自己紹介の時に言っていた「セリカ刺繍」の意味がわかった。

リボンを使った斬新な構図とデザインは、ドルーのお母さんが流行らせたものらしい。


皆で刺繍を刺しながら話をしている時にカレーの話が出たので、トティはこの時とばかりに、マルタ大使に連れていってもらった、バール男爵領のカレーの話をした。


「カツカレーはオディエ国の『カツ丼』のようなものだと聞いたけれど、全然違うものだったの。ご飯をお皿に入れて、スプーンで食べるのに一番驚いたわ!」


「私もランディのお店に行って、あのカレーライスを初めて食べた時は驚いたわ。あんな食べ物は見たことがなかったから……。でもドルーは生まれた時から、そんな風にして食べるカレーライスに慣れてるでしょ?」


プリシラが聞くと、ドルーはここでも苦笑して肩をすくめながら話してくれた。


「そうね。変わったものと言っても、うちには普通にあったから。でも、ジュリアン陛下を広告塔にして『ピザ・ラン』の宅配チェーン店を作ると母親が言い出した時に、うちの父が困っていた顔は覚えてるわ」


「ラザフォード侯爵閣下でも困ることがあるのねぇ!」

「『ピザ・ラン』は今や王国中の都市にあるでしょ。お母様もすごい人だわぁ」


クラスの皆も感心するスーパー両親だ。

ドルーのことを話す時に、寮監のポアン先生は「伝説的な両親の子どもさん」と言ってたような気がする。

確かにレジェンドだ。


ファジャンシル王国発展の秘密の鍵を握る二人の娘と、トティはルームメイトなっている。

これは神の采配かもね。

できるだけ仲良くなって、ご両親の話をたっぷりと聞きたいな。




◇◇◇




5講義目が終わると、授業は終わりだ。トティはドルーやプリシラと一緒に寮に歩いて帰った。


道沿いの柵の向こうには校庭があって、馬に乗ってポロ競技をしている男の人たちが見える。上級貴族クラスの一年生の男子は5講義目が乗馬だったので、そのまま遊んでいるのかもしれない。


「あの赤と黒の縞のポロシャツを着ている人で、ほら今ボールを打った人がいるでしょ?」


「え? ああ、白に灰色のブチ模様の馬の人かしら?」


「あの人がケージ第三王子よ。三年生なの」


プリシラがドルーとトティに教えてくれた。


「ふーん。あそこにいるのは一年生だけかと思ったら、三年生もいたのね」


「クスクス、トティったら本当に王子殿下との婚姻を考えていないのね」


「そういうプリシラは、まだそんなことを勘ぐってたの?」


「だって……一応王族に連なる者としては、隣国の動向もつぶさに掴んでおくべきでしょ?」


確かに、それは見上げた心がけだ。でも友達とする話としては、ちょっぴり堅苦しい気分になる。

そんなトティの気分を察したのか、ドルーが話題を変えてくれた。



「ねぇ、週末はどうするの? 私は家に帰るんだけど」


「私も帰る予定。秋の叙勲式前だから、パーティーが多いの。トティは?」


ドルーもプリシラも湖曜日と糖曜日は寮にいないのね。ちょっと寂しいけど仕方がない。


「私はレイトの街を歩いてみるつもり。まだ学院の中しかこの国を見てないから」


「あら、でもバール男爵領には行ったんでしょ? あそこのロナルドおじさんときたら、本当に頭に来るんだから!」


うっ、そういえばドルーとロナルド・バール男爵は犬猿の仲だったわね。


「ドルーはいつもからかわれてるものね。よほどのお気に入りなのよ」


「へ?」


お気入り? どういうこと?


「何故かうちの兄弟の中で、私を一番気に入ってるのよ。ハァー、からかうのが愛情表現だなんて、信じられる?」


「仲が悪いんじゃなかったの?」


「え、なんで?」


トティがバール男爵が話したことをを聞いて、最初はドルーのことが怖かったと言ったら、ドルーにお腹を抱えて笑われた。


「ハハッ、それトティは気に入られちゃったのよ! あの人、気に入った人はからかうのが癖だから」


…………………


迷惑な癖だね、それ。

こっちはナサリーと二人でオロオロしたのに……


とにかく、ドルーのことは完全なる誤解だということがわかった。でもじゃれ合いの中でバール男爵を蹴ったことはあるらしい。5歳の頃の話らしいけど。

どうやらあの男爵の話は、本気で聞かないほうが良さそうだ。

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