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同室の子との出会い

レイトの街の貴族学院には、魔導車に乗っているとあっという間に着いた。


やっぱりこの馬車、いいなぁ。

輸出してくれればいいのに……。


学院の校門をくぐると、赤いレンガの壁にアイビーが絡まっている校舎が何棟も続いているのが見える。

魔導車はその校舎の横を走り抜け、広々とした校庭の側を通り過ぎて、一面に芝生が生えた敷地に入ると、やっとガーディ女子寮と書いてある建物の玄関に止まった。


「着きましたよ、トリニティ様。これから二年間、この寮が殿下の家になります。充実した学生生活が送れますよう、お祈りしております」


マルタ大使が言うように、トティはここの貴族学院で二年間学ぶことになる。


そのまま学業を続ける人は「専科」と呼ばれる三年生に上がる。ただ女性の場合は十四歳で卒業して、成人するまで一年間、自宅で花嫁修業をする人がほとんどらしい。

オディエ国では学院を卒業した後に大学に行く人は非常に少ないが、ファジャンシル王国では最近、大学に入学する人が増えていると聞いた。



ふわぁ……ここが、これから暮らすところか。


トティが大きな異国風の建物を見上げていると、ナサリーに小突かれた。


「ほらほら、トティ嬢ちゃま、建物はこれから嫌というほど眺められますよ。まずはお部屋に落ち着きましょう」


もう、ナサリーったら情緒がないなぁ。


情緒を持ち出す十二歳もなかなかいないが、そのへんはトティもわかっていない。


寮の受付に行くと、マルタ大使が事前に根回しをしてくれていたおかげで、トティたちはスムーズに入寮手続きをすることが出来た。



「こちらがトリニティさんのお部屋になります。このお部屋だけ広くなっているのは、三人部屋だからなんですの」


ちょっとぽっちゃりした優しそうな寮監さんが、トティとナサリーを連れて二階にある部屋まで案内してくれた。


「二人部屋じゃなかったんですか?」


トティはすっかりそう思い込んでいた。


「トリニティさんは皇女ですから、同室になる方をどうしても選別しなければならないんです。我が国のプリシラさんも、同じ理由で同室者を選ぶのが難しくて……。けれど王族の姫君同士で組ませて二人だけにするのは、その、ちょっと心もとないという意見も出たんです。そこで、しっかりした方を一人、一緒のお部屋にすることになりました」


「……………………」


学院内では身分をなくして皆さん一律に「さん」呼びさせていただきますとさっき言われたけど、やっぱりそういう配慮というか、暗黙の扱いがあるのね。

でも心もとないと思われていたとは心外だ。背は低いけど、私はしっかりしてる方だと思うんだけどなぁ……。


「ということは、先輩と同室になるということですか?」


「いえ、同級生ですよ。ドルー・ラザフォードさんとおっしゃって、ラザフォード侯爵家の長女の方です」


「え?! ドルー?」


ちょっと、その子って昼食を食べた時に会ったあの領主さんを、いつも蹴っているっていう女の子じゃなかった?


トティとナサリーは青くなって顔を見合わせた。


「あの、部屋を変えていただくわけには……?」


「心配ないですよ。伝説的なご両親を持つ娘さんだからといって、とっつきにくい方ではないですから」


ニコニコしながらそう(さと)してくれる寮監さんは、何か勘違いをしていると思う。




◇◇◇




「もしかしたら、そのドルーさんとバール領主さまの仲だけが悪いのかもしれませんよ。私はお付きの人たちが宿泊する棟に行かなければなりませんので、もし乱暴をされそうだったら内線をかけて下さいね」


ナサリーはそんなことを言い残して、部屋を辞していった。


内線と言っても紐やベルではない。部屋の中に通信機があるのだ。トティは受話器というものを持ち上げてみた。すると、ツーという音が流れてきた。


ここの数字が書いてあるボタンを押せばいいのね。

ナサリーの番号は110番。110、110……よし、覚えた。


トティがそんなことをしていると、部屋のドアがノックされた。廊下から先ほど会った寮監の声が聞こえる。


「トリニティさん、同室の方たちがお着きですよ。開けてもいいですか?」


うわっ、とうとう来た。

ドキドキする。


「は、はい。どうぞ」


ドアを開けて部屋に入って来たのは、寮監と二人の女の子だった。

一人は黒髪で、青い目が綺麗なお人形さんのような美人だ。もう一人は、茶色い髪の女の子だった。

茶髪の子は、生き生きとした顔つきをしていて、物珍しそうにトティや部屋の中を眺めている。


どっちがドルー・ラザフォードなんだろう?


寮監がおっとりとした声で、二人に部屋の中の設備のことや、寮の決まりなどを話している間に、トティは二人の女の子をじっくりと見ながら、頭の中で情報を整理していた。


たぶんあの黒髪の美人が、プリシラね。

クリフ元第三王子であるサウス大公は、シオン大叔母様に似て黒髪だった。サウス大公は、娘が一人しか生まれなかったのに、第一夫人を尊重して、二人目の奥様を持たなかったのよね。

そういう愛妻家を父親に持っているからだろうか、プリシラは大事に育てられた一人娘というような楚々とした雰囲気を持っている。


たぶん、もう一人のあの元気のよさそうな子のほうが、ドルー・ラザフォードだろう。

まさかお付きの人じゃないわよね。


そんなことを考えながら見ていると、その茶髪の女の子と目が合ってしまった。


向こうはニッコリと笑いかけてくれたようだが、トティは思わず顔を伏せてしまった。


ヤバっ、対応を間違えたかしら?



初めて会ったこの時の印象で、ドルーは、トティのことを恥ずかしがり屋の小さな女の子だと思ったらしい。

そんな内向的なところは、トティのどこを探しても見つからない。


後々、ドルーは、あまりに第一印象と違うトティの性格を知って、詐欺師だとトティを責めた。

でもこれは、トティの責任じゃないよね。

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