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事の顛末と縁談話

トティとダグラスが屋敷に入ると、執事のバトラーが待ち構えていて、侯爵閣下が書斎でお待ちですと言われた。

そこにはパーシヴァルと知らない女性もいて、真っ青な顔をしてペコペコとトティに謝ってきた。


「この度は、息子が大変失礼なことをしてしまい申し訳ございません。ほら、パーシヴァル」


「申し訳ない……君に話が通っていないと知らなかったんだ」


知らない女性は、パーシヴァルのお母様だったらしい。


「パーシヴァル、知らないでは済まされないぞ! 女性に同意のない接触は犯罪と同じだ。お前が警備局に引き渡されて首をはねられるのは良い方で、両国の間で戦争問題に発展するかもしれない出来事だ」


ラザフォード侯爵の厳しい叱責に、パーシヴァルは震えあがっていた。

トティはさすがに気の毒になってきた。


「わかっていただければ、それでいいのです。私はどのような理由があれ、パーシヴァルと結婚するつもりはありません。今後、近づいてこないということを約束いただけるのなら、今日のことは不問にいたします」


「しかしトリニティ皇女様、それだけではしめしがつかないでしょう」


侯爵の反論に、パーシヴァルとお母様はビクリと飛び上がった。


「そちらの方はこれからパーシヴァルのお母様に再教育をお任せしたいと思います。お母様、お願いできますでしょうか?」


「は、はいっ!」


「皇女様が、お心の広い方で助かったな。今後ディロン伯爵家を潰さないためにも、アナベル、心して息子に(さと)してやってくれ」


「わかりました。お義兄様にも、ご面倒をおかけして申し訳ありませんでした」



二人がうなだれて部屋を出ていくと、ラザフォード侯爵にも深く頭を下げられた。


「トリニティ皇女様、我が家でこのようなご不快な思いをさせてしまい、誠に誠に申し訳ございません」


「頭をお上げくださいませ。侯爵閣下は何も悪くないのですから。私が不用意に庭へ出たのも悪かったのです。それよりもパーシヴァルの言っていた話とは何なのでしょう? 私は本当に何も耳にしていないのですけど……」


「ダグラス……」


侯爵が目線を息子のダグラスに向け部屋から出そうとしたので、トティはダグの服を掴んでこの場に留めた。


「すみません、ダグがここにいてくれると気持ちが落ち着きますので、いてもらってもいいでしょうか?」


侯爵とダグラスは互いに目を見合わせて会話をしていたが、トティの気持ちを優先することにしてくれたようで、三人でソファに座ることになった。



「義妹のアナベルから聞いた話によると、トリニティ皇女様とお会いしてすぐに、パーシヴァルは以前から母親にも強く勧められていたこともあって、こちらの大使館を通じてオディエ国に婚姻の申し入れをしていたようなんです」


「……まぁ、初めて聞きました」


「皇女様の護衛の方々に先程、我が国のアーロン殿下との結婚のお話も出ていると伺いました」


侯爵の言葉を聞いて、隣に座っていたダグラスがピクリと身じろぎしたのがわかった。


「そちらも、私は聞いておりません」


「そうですか、王子殿下のお話の方が優先されますので、どうやらパーシヴァルの方の申し込みは捨て置かれていたようです。それもあるのか、あちらの国からはハッキリとしたお断りの返事はなかったと聞いています。ハァ~……パーシヴァルの母親のアナベルは、妄想癖が強い強引で厄介な性格をしているんです。そして息子もその血をひいたのでしょう。二人して皇女様をもう嫁に貰ったかのように勘違いをしていたんでしょうね」


それはまた……何と言っていいのか、迷惑な性質だ。侯爵の溜息には義妹に対する長年の自分の労苦も入っているような気がした。


「それは我が国の大使館の対応も曖昧な面があったということですね。当事者である私に何の説明がないのも困ったことです。レイトに帰りましたら、すぐにお断りの書状を出すように言っておきます」


「そうして頂ければ、助かります」



その時には、念話器のことを失念していたのだが、後でドルーたちと話をしていた時にその存在を思い出して、貸してもらうことにした。


マルタ大使の弁明によると、アーロン殿下の申し出というのは、グロリア第一王妃様からトティのことについての内々の質問だけだったそうだ。何故なのかわからないが、どうも王陛下が話が先へ進むのを止めているらしい。

そのためパーシヴァルからの申し出をキープしておいたということだ。


……本当に、間が悪いというかなんというか。

こちらの事情を説明して、とにかく即座に断りの書状を送っておくようにと頼んでおいた。



翌日、トティが今度はちゃんとナサリーを伴って庭を歩いていると、以前カツカレーを食べに行った先で会ったロナルド・バール男爵に偶然出会った。

バール男爵も昨夜はここに泊ったようだ。


本当に、ここの家族と親しくしているみたい。最初にからかわれたことを思い出して、ついついナサリーと一緒に身構えてしまった。

けれど男爵はそんなトティたちの気持ちも知らずに呑気なものだ。


「暑くもなく寒くもない良い気候ですね、トリニティ皇女様。庭の秋の花が満開でしたよ」


「そうですね。こちらのお庭は本当に綺麗です。私の守護妖精もここに住みたいなんて言ってましたし」


トティがそう言うと、バール男爵はおやっ?という顔をした。


「望み通りにずっと住めるでしょう。ダグラス坊やは見たところ皇女様にゾッコンのようだ。私はお二人の結婚式の招待状をもう頂いたつもりでおりましたよ」


「え?」


不意をつかれたトティがみるみるうちに真っ赤になっていくのを、バール男爵はしたり顔でニヤニヤと笑いながら見ていた。

本当に人を揶揄(からか)うのが好きなぶしつけな人だ。


ダグが私を? 

それって……いやダメだ、またこの人の冗談に引っかかるところだった。


トティは気を引き締めて、根拠のないことを喋らないでくださいとバール男爵を諭したのだった。

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