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陛下への挨拶

ドルーが寮に帰って来て話してくれたのだが、突然の一時帰宅の理由を聞いて納得した。おじい様のエクスムア公爵が、急な心臓発作を起こして倒れたそうだ。そのためラザフォード侯爵家ではなく、エクスムア公爵家の方に親戚一同が集まったらしい。


「エクスムアの大叔父様は、私たちのおじい様とは違って身体が弱いから……」


「そうね、うちの父や陛下やクリフ大公は、ありがたいことに前陛下に似たのね」


プリシラとドルーが話をしているのを聞いて、トティはやっと二人が従姉妹だという意味がわかった。

ドルーの父親のラザフォード侯爵は、前国王ファジャンシル15世の息子だったのだ。つまり今回病気になったエクスムア公爵は、ドルーの父親にとっては養子先の義理の親で、本来は叔父にあたる人らしい。

トティはそれを聞いて、ドルーの魔法量が王族並みなことに、やっと合点(がてん)がいった。



こんな時ではあるが、エクスムア公爵の病状も小康状態を保っているらしく、ドルーもトティの歓迎パーティーに出席してくれることになった。

湖曜日の夕方、パーティーに先駆けて国王陛下に挨拶をしておいた方がいいだろうということで、予定よりも早めに馬車に乗り、三人揃って宮殿に向かっている。


「私は公爵の直系とは言っても、跡取りじゃないでしょ? だから本来は招待されないと思う。今回はトティの友達枠で呼ばれたのよきっと」


ドルーの意見にプリシラも頷いた。


「こういう時は嫡男が呼ばれるから、今夜は男の人が多いわよ。王族には全員声がかかっていると思うけど、おじい様は離宮に引っ込んでるから出てこないと思うわ」


「そう言えば、二人とも婚約者と一緒じゃなくて良かったの?」


自分に婚約者がいないから忘れてたけど、パーティーには婚約者と一緒に出るんじゃないのかしら?


「マイケル兄様もジョシュも次男だからね。それにこういう内々の歓迎会だとあんまり形式にこだわらなくてもいいのよ」


ドルーはケロリとそんなことを言ったが、たぶんトティに婚約者がいないので合わせてくれたのかもしれない。



宮殿の正面玄関はものすごく変わった建築デザインだった。

車寄せから玄関が遠くに見えるのだが、その間に意匠を凝らした高い円柱が林立(りんりつ)している。馬車から降りて玄関までそぞろ歩いて行く間に、ファジャンシル王国の威厳をこれでもかと感じるような造りになっていた。


トティたちが玄関前に立った時には、もう王家の使用人が進み出ていて、(すみ)やかに国王がいる控室の方へ案内された。

衛兵が立っているそばを抜けて廊下を進んでいくと、中から声が漏れているドアがあった。執事がノックをすると中の声がピタリと止まった。


「なんだ?」


「トリニティ皇女様、プリシラ様、ドルー・ラザフォード様をご案内いたしました」


「入れ」


部屋の中に入ると、奥の窓際にしつらえられているソファにファジャンシル16世国王夫妻が座っていた。

トティは写し絵でしか見たことがなかったが、明るい金髪の威風堂々としたジュリアン陛下と落ち着いたブロンドの美しいグロリア第一王妃が、こちらを興味深そうに見ていた。


「お初にお目にかかります、国王陛下、王妃様。オディエ国第五皇女、トリニティ・セルマと申します。この度は私のために歓迎の宴を催していただき、ありがとうございます」


「よく来てくださった。親戚になるとはいえ、なかなか会うことも叶わぬ。どうぞこちらへきて座ってください」


陛下が立ち上がって迎えてくれたので、トティは膝を曲げてお二人に挨拶した後に、恐縮してソファに座った。プリシラとドルーも同じように挨拶をすると、トティの隣に座ってくれたので、心強くてホッとした。


「プリシラもドルーも元気そうだな。勉強を頑張ってるか?」


「ええ、ドルーはね。私は刺繍だけは頑張っています」


「プリシィ、お前は全く……。クリフに似たな。お前の母御(ははご)のシンシアは優秀だったんだがなぁ」


陛下とプリシラの会話は伯父と姪の親しさをよく表していた。プリシラは初めての人の前では一歩引いた対応をして、いつもはドルーにその場の主導権を任せるのだが、さすがに今日は身内の特権を生かしてイニシアチブをとってくれている。


「トリニティさん、ファジャンシル王国はいかがですか? 困っていることはありませんか?」


王妃様が優しくトティに聞いてくださったので、トティも王妃様の方へ向き直った。

あ、こうしてみるとアーロン殿下によく似ている。ふわりとした落ち着いた笑顔がそっくりだ。


「ありがとうございます。こちらの活気のある様子に驚いています。同じ部屋のプリシラとドルーがよくしてくださるので、他の人たちともすぐに打ち解けられて、ありがたく思っています」


そう答えたトティに向かって、王妃様はいたずらっ子のような顔をして微笑んだ。


「あらプリシラさんたちがいないところでも親しくなった人がいるんじゃなくて? アーロンから話を聞きましたよ」


「え、なになに?! トティったら、アーロン兄様と会ってたの? 聞いてないわよー!」


プリシラ……。そんなにキラキラした目で聞かれるような話じゃないんだって。


「たまたま万年筆を買いに寄った文具店で、殿下にお会いしたの。アリソンさんという服飾店の方と話をしてたら、殿下が声をかけてくださったのよ。ドルーの知り合いなんでしょ?」


「ああ、アリソンおばさまね。うちの父のお姉さんみたいな存在なのよ。でも貴族なら皆アリソンおばさまのことを知ってるわよ」


「そうね、ブリアン服飾店のアリソン・デクスターといったら有名だから。いくら頼んでもお気に入りの貴族にしか服を作ってくれないのよ」


へぇ~、そんな人だったんだ。


「本当にいいご縁があったこと。トリニティさん、どうかアーロンのことをよろしくね」


王妃様ににこやかに言われて、ハッとして陛下の顔を伺ったのだが、陛下の方も満足そうに微笑まれていた。


え、えっ?

どーいうこと?


まさか、アーロン殿下と私の婚姻を考えていらっしゃるんじゃないでしょうね……。

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