Dance With Succubus
◯◯様のところは筆者の本名が入ります
ここはどこであろうか。何処ともしれぬこの屋敷は。そう、いつの間にか私は古風なスリーピースの礼服に身を包んで洋館の車寄せにいた。他にどこかに行くでもないので、その重厚な玄関口へと踏み出した。大きな扉で、高さは3メートル半はあるだろうか。非常に分厚い木製のそれ。その前に立ち居るは、執事服に身を包んだ女。その容姿は男ならば思わず何度もその隅々まで見てしまうのではなかろうか。そう、彼女はサキュバスであった。
「◯◯様ですね。お嬢様方がお待ちです。」
彼女に先導されながら客間に歩いてゆく。まったく現実感があるんだかないんだかわからない。誘うように揺れている彼女の腰回りとしっぽ。もしここが完全に現実感のない空間であったならば襲い掛かっていたかもしれないが、ここは中途半端に現実感があって、仮にそれをしたときにどうなるのかわからない。壁際に整列しているメイドたちもおそらく人間であるまい。みなサキュバスなのだろう。ということは『お嬢様方』もそうか。
奥の、これまた重厚な扉のある部屋。その扉を先導していた執事の子が扉をノッカーで叩いて、中に呼びかける。
「◯◯様をお連れいたしました。」
扉が開く。執事の子に腰に手を回されながら部屋に押し込まれる。そこで心が浮ついたのは男ならば仕方ない。すぐに扉は閉められた。
ただっぴろい部屋の中には私のほかに二名だけが居る。それぞれ在り方は異なるが、高位のサキュバスであるということはわかる。方や、フワフワとしたドレスの似合う色の白い女。方や細身につくられたパンツスタイルのスーツが似合う女。例えるならば前者はゆるふわ系お姉さん、後者は『快楽堕ちさせられそうな種類の姫騎士』という見た目である。誰だかわかっているのであるが。双方共に私の作品、『異世界で大元帥』の登場キャラクターだ。前者は偉大なる帝国指導者閣下の妻の一人、エーリカ・フォン・ホーネカーで、後者は今度登場予定のヴィルヘルミーナ・フォン・パッツェンデールだ。エーリカが口を開く。ナニかをねじ込んでみたくなる口だ。
「◯◯様、ご機嫌いかがかしら。」
「良い。しかし何だ。このようなところに来たのは初めてだ。感極まっておって仕方がない。」
「今のような季節でなければあなた様のことをお招きすることはできませんから。」
「そうか」
「私たちは感謝しているんですのよ、物語を紡いでいただけることを。以前にお悩みなさっていた時にはここまではっきりとお伝えできませんでしたから、ここで改めて伝えさせていただきます。」
そういってほほ笑む彼女の顔の淫なること。おそらくそれを意識しているわけであるまい。そういう生き物なのだ。
「あなた様の書く筋書きだから演じようという者もおりますこと、お忘れなく。」
「なんだ、その執筆者冥利に尽きる話のためだけに呼んだのか?それだけでもうれしいが、こんなところにいる理由を問いたい。」
「ですから、日ごろの感謝を込めて一緒に踊っていただきたいのです。」
いつの間にか楽団が控えている。やはりここは夢とも現ともつかぬ空間なのだ。ある種何でもありだろう、目の前のこの屋敷の主の思うままに。ただ、これだけは言わねばならぬ。
「私は不調法でね、まったく自信がない。」
「大丈夫です。リードして差し上げますから、体を私にゆだねてくだされば結構です。」
そういってエーリカは私の手を取った。始まる演奏に合わせてくるりくるりと回る。相手の足を踏まないようにするのが精いっぱいだ。踏みそうになる時に素知らぬ顔ですっとかわして見せたり、転びそうになった時にさりげなくフォローしてくれたりと、まるで彼女は少女漫画の王子様のようにふるまってみせる。この辺でようやく気が付いた。私のほうが女性のパートであることに。
「なんで私が女性のパートなのかな?」
声に違和感。エーリカはいたずらに成功した少年のような笑みを張り付けて私にささやく。
「今のあなた様は女の身ですから、何の問題もございませんわ。」
ゾクリとした。気が付けば着ているものが白を基調としたドレスになっている。そして、小さいながら自己主張しているお胸。思わず視線が下がる。その時に首筋から顎にかけてするりとエーリカの指が伝い、目線をあげられる。
「ダンスの時は相手をしっかり見るのが礼儀、ですのよ。」
思わずその唇に引き込まれそうになった時に曲が終わった。あら、残念との言葉を残してさっと離れるエーリカ。その代わりに私の手を取るヴィルヘルミーナ。左肩から下がる金糸の飾緒が彩を添えている。私はこのキャラクタが好きで仕方がない。踊らされる。まるで最初からこのためにここに呼ばれたとでもいうように。いや、このためなのだろう。サキュバスは淫らで、いたずらが好きで、独占欲の強い生き物なのだから。そのいたずらの一環なのだろう。ヴィルヘルミーナはエーリカとは違ってより強く、より熱情的にリードしてくる。腰に手を回された時など、悶え死ぬかと思ったくらいだ。私が彼女を好きだからそう感じるということもあるのかもしれないが。
曲の終わりにヴィルヘルミーナはが私に口づけをした。そうしたら、そこで私の意識は失せていった。




