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フランシーヌ・ドゥ・メイ・ジョルジュの気晴らし

フランシーヌのお話はこれで終わりです。


 あの散々だったお披露目会から、フランシーヌの元には訪問客と贈り物がひっきりなしにやってくるようになった。

 客はすべて断っている。心配しているだろう友人たちには申し訳なかったが、まだ数日しか経っていないのにすっかり気を取り直しているフランシーヌを見て、いらぬ憶測を招かぬためだ。

 代わりに贈り物は受け取り、礼状をしたためている。正直客を断って正解だった。送り主を確認し、いちいち手書きで礼文を書くのは非常に時間がかかるのだ


「少し休むわ」

「お疲れ様です、お嬢様」

「お茶をお持ちしますね」


 ずっとペンを持っているのですっかり手が疲れている。メイドがやってきてフランシーヌの手にマッサージをはじめた。


「お嬢様、また贈り物です…」


 こうも数が多いと、さすがにメイドも気の毒になってくる。傷心していると思っているのなら、もう少し気づかってもらえないのだろうか。


「腕がぱんぱんに張ってますよ。お嬢様、今夜は湿布をしましょう」

「ありがとう…」


 贈り物に添えられた手紙はフランシーヌを心配するものがほとんどなのだが、貴族の中には息子とお見合いしてみないかと早々と婚約を匂わせるものまである。いくらなんでも早すぎるだろう。もちろんフランシーヌは遠回しに断っている。

 あれからクラーラには一度も会っていない。真珠のネックレスは使いの者が受け取りに来た。その際クラーラからの手紙を受け取っている。

 内容はあの夜のフランシーヌの痛快さについてだった。店に来た少女たちから色々聞いたらしい。よくやった!と褒め言葉が並んでいた。

 まさかあれを褒められるとは思わず、フランシーヌは手紙を読んで噴き出してしまった。クラーラらしい快活さで、憂鬱な気分が吹き飛んだ。


「ひと段落したらクラーラ様のお店に行ってみましょうか」

「まあ、お嬢様本当ですか?」

「ええ。わたくしもお会いしたいし、どんなものがあるのか興味があるもの」


 今までのフランシーヌなら、王都とはいえ店に行くなんてはしたないとためらっていただろう。だが今は違う。フランシーヌは、自由だった。貴族であることに変わりはないが、王子の婚約者という責務から解き放たれた今、心はとても自由だ。


 あれからアルベールは他国で謹慎、ユージェニーは別の男との結婚が決まった。謹慎というのは名ばかりで実質は人質である。だが、不義密通の罰としては非常識なほど軽い処分であった。

 エドゥアールとフローラの苦肉の策だ。法に則ってアルベールとユージェニーを処刑したら、今度は王と王妃に裁きをと声があがるのは目に見えている。なにしろ王家にはまだ王子と王女がいて、王と王妃がいなくても困らないのだ。むしろ今からでもクラストロ公爵の望む罰を与え、宰相に返り咲いてもらったほうが良いとまで言い出すだろう。ならば甘すぎると批判を浴びるのは覚悟の上で、子に甘い親になったほうが良い。

 フランソワ前将軍はこの一件でぐっと老け込み、領地へと帰って行った。

 フランシーヌはクラーラの正体を知らない。薄々感づいてはいるが、知らないままでいいと思っている。クラーラから教えない限り、それで良いのだ。


 フランシーヌが手紙祭りから解放されたのは半年も経ってからだった。貴賓として訪れていた他国の使者も帰り、貴族たちも常の生活に戻っている。


 クラーラの店は王都の装飾品街の隅にあった。趣向を凝らした木彫りの彫刻で飾られたドアの中央には、リボンが円を描く大理石のレリーフがかけられ、『クラーラの店』と書かれている。小さなガラス窓の向こうには可愛らしい小物がライトに照らされ、まるでかけがえのない宝石であるかのように魅せていた。


「ここが……」


 フランシーヌはごくりと唾を飲み込み、ドアノブを掴んだ。供として付いてきたメイドが励ます。

 ちりりん。

 軽やかなベルが鳴り、店が開く。


「いらっしゃーい!」


 懐かしいクラーラの声。フランシーヌはつんと鼻の奥が痛くなるのを感じた。


「クラーラ様、わたくしやってやりましたわ!」


 店内には彼女の友人たちと、見知らぬ庶民らしき少女。フランシーヌの第一声に彼女たちは何事かと振り返り、いっせいに笑顔になった。

 フランシーヌは鮮やかに笑った。



今回はお待たせしすぎるのも申し訳ないので、一気に書き上げてから投稿しました。

次回からは一話完結のクラーラとお客様のお話になる予定です。


楽しんでいただけたら嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] オネエ襲来の衝撃の後は、ご都合主義ではなくしっかりとしたお話が組み上がっていて凄いです。
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