バカと勘違いとメガネ聖女
幼馴染の清水珠美がいなくなったのは、一か月ほど前だった。
黒の長い髪にメガネをかけ、地味目な感じがする彼女はいつも本を読んでいた。クール委員長と陰で囁かれていたが、俺は知っている。あいつはそんな無表情系じゃないってことに。
飼い猫が亡くなれば泣く奴だし、猫が捨てられてたらこっそりと拾ってくる奴だ。ゲームに興味があるのか、教室で友達と話をしていると耳をそばだてる奴だ。でも視点が合うとすぐに本読みを再開する。
そして、メガネを外すとちょっと可愛い。
そんな彼女が行方不明。
警察、俺を含む友人たちは捜索したが見つけられなかった。痕跡は何一つない。高校から帰宅する道中でいなくなったことはわかっていたが。
特別なことといえば、その日バレンタインデーだったこと。
俺気にしてねーし、といつもの感じを出しつつちょっと期待したのだが、結果は母からのチョコ一つ。チョコは甘いが現実は甘くない。
田中健は家の自分の部屋(二階)で窓を開け、ベランダの手すりに手を置いた。夕焼けの空を眺めていた。ふと視線を落とすと、渦巻き模様の何かが小さく見える。場所は庭だ。
気になった田中は部屋を出て階段を下り、家を出た。すぐ横の庭に足を踏み入れる。
向かい側は道路、壁を挟んでいるので、あちらからは見えない。草ボウボウだ。何か月も手入れしていないのがわかる。
渦巻きは指ほどのサイズで丸い形をしていた。ドラクエのワープする渦巻きに似ている。
これはひょっとして……。
異世界への扉?
田中はアニメ、ゲームなどたしなむ高校生。異世界ものと呼ばれる小説も知っていた。
まさか、この先に清水が?
可能性は低くない。だとしたら助けにいかなければ。
いや待て。その前に警察を呼ぶ方が先か。
だが、渦巻きは弱弱しく渦を巻いていた。さっきより小さくなっている気がする。もしかして、これは急がないと扉が消去してしまうのでは?
両親はまだ帰っていない。
ここで誰かを呼びに行っている間、消えてしまっては最悪だ。そんなことになったら俺は一生、悔やむだろう。あいつの顔を思い出しながら。
ええいっ! 飛び込んでやる!
田中は渦巻きに指を入れた。瞬間、穴は大きくなり、強力な引力で引っ張られた田中は、そのまま姿を消した。そして、渦巻きも残りの力を使い果たしたのか、消去した。
★★★
「う~ん」
「聖女様、こちらの方はどうですか?」
「うう~ん」
「迷われるのはわかりますが、明日の朝までに決めて頂かないと」
机にはたくさんの書類が山積みになっている。椅子に腰かけるのは聖女と呼ばれた女性。メガネをかけ、白のローブに身を包んでいる。頭には金色の模様が入った帽子をかぶっていた。机に膝をつけ、眉間にしわを寄せている。
傍に立っているのはハゲ頭にちょび髭の四十ぐらいの男。身にまとう、ゆったりとしたローブには細かい模様があり、高級感があった。
彼女、清水珠美は今、聖女のお供を選んでいた。
候補者が国中から殺到し、その中から選抜された者でも合計三百人。紙一枚のプロフィールではわかるはずもなく、どの男も似たような感じに見えてきた。写真もないから顔もわからない。
明日までとか、ムリゲーじゃない?
なんて思ってるとドアがノックもせず突然開いた。
「なんだ騒々しい」
「高官! 新たな異世界からの者が来ました!」
「なに!? すぐに行く!」
報告した兵士とハゲのおじさんは出ていった。清水はホッとした顔をし、伸びをする。
朝から晩までこんな缶詰されるとか、頭がどうかしそう。
清水は立ち上がり、部屋をそっと開けた。廊下に誰もいないことを確認し、そっとドアを閉じる。
異世界からの来訪者、か。
気になる。私と一緒、地球人かな?
えーっと、どこがどの部屋だったかな?
清水は辺りを見回しながら廊下を歩き始めた。
★★★
やっぱりそうですか。
異世界に転移したとき、田中は一番にそんなことを思った。しかし、目の前に立っている兵士たちの目つきが険しいのは何でかな?
ここは地下だろうか。ひんやりとした床には魔法陣があり、ここに転移したことはあきらかだ。
危険な臭いがする中、座ってずっと待っていた。話しかけようとすると、持っている槍を身構える兵士がいたからだ。兜に鎧を着ているところを見ると中世ヨーロッパの世界なのか。
階段を下る慌ただしい足音が近づいてきた。ハゲ頭の偉そうな髭おやじがやってきた。
「君は誰だ?」
「ええっと……」
なんと答えればいいんだ? とりあえず地球人です、と言った。するとハゲは険しい顔を見せる。
「地球人だと? 嘘をつくな」
「え? いや、本当ですけど」
「地球人なら、メガネをかけているはずだろう」
「へ?」
意味がわからない。
地球人はメガネをかけている? いや、確かに日本だとメガネ率は高いかもしれないが。
「どういうことですか?」
「我々が代々、呼び出してきたものたちは全員、メガネをかけていた」
それはたまたま! 偶然!
「そして、メガネをかけている者で真偽を判断せよ、という先代からの教えがある」
それ間違った教え! 呼び出した数が少なすぎて、あてになってないパターンだからそれ!
「この偽物をひっ捕らえろ!」
「はっ!」
「お待ちなさい!」
懐かしい声が地下に響いた。
「キャ!」
あ、足にローブが引っかかってこけた。
「大丈夫ですか!? 聖女様!」
傍にいる兵士が寄ってくる。
「だ、大丈夫よ」
おでこをさすりながら聖女は起き上がる。
うん。やっぱり清水だ。
「その者は私の知り合い。乱暴に扱うことは許しません」
「そ、そうでしたか。これは失礼」
ハゲ頭は柔和な表情に変わった。
「さあ、お立ちなさい。あなたの部屋はこっちよ」
田中は清水に誘われるがまま、部屋に入った。そこは二人部屋ぐらいの広さで、天蓋付きのベッド、勉強机のような机には書類が山積みされていた。食事をするところだろう、大きなダイニングテーブルまである。
「ふう……」
彼女は席に座った。
「清水、お前……」
「どう? 私の新しい人生は?」
「どうって……。心配したんだぜ」
「私はこの通り、ピンピンよ」
田中は壁近くに椅子があるのでそこに座る。
「にしても、お前が聖女?」
「そう呼んでるみたいね。ここの人たちは」
「聖女ってなにやるんだ?」
「巡礼救済」
「なんだそれ?」
「各地を回って、困っている人がいたら手を差し伸べることよ」
「水戸黄門みたいなものか?」
「似てるわね」
「机の上での作業が忙しいようだけど?」
「これは書類選考。聖女はお供が必要なの。一人だと色々物騒だからってことで。それでね。今、選んでる最中なわけ」
「パートナーを選び中ってことか」
「そうね。強くて頼りになる男がいいのだけど、誰がいいのか迷っちゃって」
清水は疲れたように、もう一度ため息をつく。
「地球に帰らないのか?」
「帰らないのではなく、帰れないの。一度、こっちに来たら元の位置に戻ることは難しいらしいわ。だから……」
「だからってお前がそんなことしなくても……」
「わかってるわよ。でも、あまりにも熱心に頭を下げられたものだから、ね」
ああ。そういえばこいつ、押しに弱かったな。
「それに聖女っていう名前、結構いい響きじゃない?」
「お前にはもったいないかもな」
「なによそれ~。腹立つ」
「うそうそ冗談だよ」
怒ると怖いからなだめておく。
昔、幼いときにケンカしたことがあり、本を投げつけられたことを覚えている。
「じゃあ、こっから戻るのは無理ってことか?」
「難しい、って言ってたわ。あのハゲたお偉いさん」
大人の言う『難しい』は無理と同等の意味だと思う。それに、あのハゲはなんか信用できない。地球人だと言って信じてもらえなかったことが影響しているかもしれないが。
「あ、そういえば……」
清水は引き出しを開けたところで固まった。
なんだ?
「な、なんでもない」
「なんだよそれ。気になるだろ?」
田中は立ち上がり、傍に寄ったところで引き出しは勢いよく閉められた。
「うわっ。急に閉めるなよ」
「なんでもない。あっち行って」
気になる。めちゃくちゃ気になる。
「あ、あれはなんだ?」
「え?」
指さす先にはなにもない。清水は見事に引っかかり、壁を向く。その隙をついて田中は引き出しを強引に開けた。
「あっ!」
彼女の悲鳴。そこには梱包された長方形の箱があった。紙で包んでリボンで飾り付けされたものだ。ひょいっと持ち上げる。
「なんだこれ?」
清水はうつ向き、なにも言わない。
「開けていいか?」
「……」
無言だ。ていうか、なんでそんなに顔を赤くしているのかわからないんだが。
リボンを緩め、紙を剥がす。中から出てきたのは……。
ドロドロの茶色い物体だった。
チョコが溶けてグチャグチャになっている。
ああ、そうか。
「バレンタインデーのチョコか」
「う、うん……ま、まあね」
「誰にあげる予定だったんだ?」
「へ?」
「お前好きな奴とかいたのかよ。どうせサッカー部のイケメンとかだろ? お前、イケメン好きだもんな。ははは」
清水はゆっくりと立ち上がった。先ほどまでの赤い顔はそのまま、眉を吊り上げていて、なんだかご立腹のご様子。握りこぶしなんか作っちゃって、怒りのあまりプルプルと震えているのが怖い。
「え? 清水? どうしたんだ?」
「……せ」
「え?」
「返せ!」
バッ、とチョコ入り(ドロドロ)の箱をとられた。チョコが飛び散り、聖女の白いローブ、その胸辺りを汚す。
「お、おい! チョコが飛び散ったぞ!」
「出てって」
「え? ちょっと待てよ」
「出てって!」
田中は追い出されてしまった。
出ていけと言われても、この部屋の存在しか知らないんだが。
ていうか、なぜあんなに怒りだしたんだ? なにかマズいことでも言ったか?
ドアを出ると、ハゲ頭のおじさんと鉢合わせした。
あ、こいつ、ドアの傍で盗み聞きしてやがったな。
口笛を吹こうとして吹けてないおじさんの演技に付き合っている場合じゃない。
「あの。空いてる部屋はありますか?」
時間は今、朝から昼の間だろうか。窓から差し込む陽ざしは強い。クーラーをつけたくなるが、そんなものあるわけないので我慢する。
この世界でクーラー作ったら絶対売れるだろうな、なんて考えてみるが、やっぱり考えることは彼女のことで。
先ほどの部屋の半分くらいの大きさの部屋に通された田中は、ベッドに仰向けに寝転がっていた。
なにかまずいこと言ったかな?
俺は鈍感系を貫くほど心は強くない。だから、あれこれとうんうん悩む。まあたいてい、最初は相手の非難から始まる。相手を責めて、いかに自分が正しいかを心の中で表明するのだ。例えば今回の場合、いきなり怒るとか非常識すぎだろうとか、あのヒステリー女め、とかだ。
だが、時間が経って冷静になれば見えてくることがざらにある。
そうかわかったぞ。なんでこんな簡単なことに気がつかなかったんだ。
イケメンが好きだって決めつけられたからだろう。間違いない。
俺だって、「どうせ可愛い顔の女の子が好きなんだろう?」なんて決めつけられると腹が立つからな。ほとんど合ってるけど決めつけるな! 一パーセントぐらい心が大事だ! って怒りが湧く。
謝りに行くか。なるべく早いほうがいいだろう。
田中は部屋を出て廊下を歩き、彼女の部屋にたどり着いた。ノックする。「はい」と返事があったので入った。田中が目に入ったとたん、彼女は険しい顔を一瞬見せて、机の書類に視線を落とす。机横まで近づく田中。
「なに? 私、忙しいんだけど」
「すまん」
「突然、頭下げられても困るわ」
「すべて理解した。知らなかったんだ。許してくれ」
「……やっと気づいたんだ。バカ。鈍感」
頭を上げると、清水はやっと目を合わせてくれた。頬がいつの間にか赤くなっている。
「お前が、イケメン嫌いだって知らなかったんだ」
「――は?」
「いや、だからお前がイケメン」
チョコの箱を顔に投げつけられた。
「出てけっ!」
バタン!
茶色い粘性のある液体が顔や髪にこびりついた。そして例によって例のごとく、ハゲおやじが廊下にいて、わざとらしくUターンをする途中、田中は尋ねた。
「あの。水道ってあります?」
顔を洗ったあと、田中は部屋に戻った。ベッドに仰向けに寝転がる。
おかしい。なぜだ?
完璧なはずだった。「そうなの。私イケメン嫌いなのよ」となって和解するはずだった。「もし帰ることができたら、ブサイク紹介してやるよ」というフォローも用意しておいたのに。
なんという誤算。ということはイケメン好きなのか。やっぱりな。
ちくしょうあの女。溶けたチョコを顔に投げつけるとかありえねえ。まじで絶交してやろうか。
……いや待て。怒りに囚われるな。冷静にクールになれ。怒りによる行動は破滅をもたらす。
あいつはサッカー部のイケメンが好き……いや、違うのか。
サッカー部じゃないのか?
だとしたら陸上部のさわやか系部長か? バスケ部の背の高いクール系レギュラーか? さすがにそこまで予想できない。
ここは今すぐにでも謝らねば。すまなかったと誠意を見せるために、ドアを開けた瞬間、謝ろう。それで許してくれるだろう。完璧だ。
再度部屋を出た。彼女の部屋の前に立つ。面接を受けるときみたいに緊張する。ドアから黒いオーラが出てるように感じるのは気のせいか。
行くぜ俺。先手必勝!
ドアを開ける。
「すまん! 俺はサッカー部のイケメンと決めつけていた! バスケ部か? 陸上部か? よくわからんが許してくれがふあっ!」
分厚い本が投げつけられ、角がおでこに直撃した。
「消えろっ!」
バタンとドアが閉まり、廊下に後頭部を打ちつけた田中。そして、その様子を見下ろすハゲオヤジ。
お前、毎回どっから出てきた。
「君はいったいさっきから何をしているのかね?」
「す、すみません」
ブーメランでその言葉そっくりお返ししようかと思ったが、田中はしぶしぶ部屋に戻った。
あの女。消えろとか酷くない? 先に姿を消したのはお前だろ、っていうツッコミをする暇もなかったわ。
わからん。ここまできたら怒りが静まるまで待つしかない、か。
昼食は可愛いメイドさんが部屋まで運んできてくれた。にっこりと微笑む美人さんにドキッとしてしまう。ワンピースにエプロン、頭にフリルがついたヘッドドレスと、メイドさんといえばこれ、という衣装に身を包んでいた。
さすがに「ご主人様」とは言ってくれなかったが、頭を下げて礼儀正しく部屋を出ていった。
食べた後、眠気がきたので寝た。
気がつくと夕方だ。起きあがって目をこすり、あくびをする。暇なので清水の様子を見に行くことにした。今度は刺激しないように何も言わないつもりでいた。
しかし、ドアの前にはハゲおやじが守護神のように立っていた。田中を見ると一言。
「田中様には申し訳ないですが、聖女様がここを通すなとのご命令です」
入室禁止された。
ちなみにこのハゲおやじも「気が散るから」と追い出されたようだ。似たもの同士だな。親近感湧かないけど。
★★★
清水はその晩、お供を誰にするか決められず悶々としていた。深夜になって、諦めてベッドに潜り込む。しばらくして思い出すのは田中への怒りだ。
普通、気づくでしょ! あの鈍感!
ムカムカして体が熱くなり、なかなか眠りにつけず寝返りを繰り返す。
清水は、彼が助けに来てくれたことは嬉しかった。私がいなくなって、もし助けてに来てくれたら・・・・・・なんて期待が現実に起こったからだ。
本当に嬉しかった。当然、田中は私の気持ちに気づいていると思っていた。なのに・・・・・・あのバカ。
考えるのは田中のことばかり。
なんであいつのことで私が苦しまなければいけないのよ。バカバカしい。
それでも眠れず、眠りについたのは起きる二時間ほど前だった。
夢を見ていた。
あの日、異世界へと行くことになった日。
田中にバレンタインデーのチョコを渡そうとしていた。ずっと前から準備していたものだ。
彼の家の玄関ドア、その前まで来ることはできた。だが、チャイムを鳴らすことがどうしてもできなかった。チャイムを押そうとしてはやめ、うろうろを繰り返す不審者のようだった。
恥ずかしい。それに受け取ってくれるかどうか不安だった。
そんなとき庭に渦が見えた。空間にぽっかりそこだけ切り取られたように、ボーリング玉の大きさのそれに近寄ってみる。好奇心から触れてみたのが間違いで、吸い込まれてしまった。そして現在に至る。
トントン。
ドアのノック音に目を覚ました。
「失礼します」
メイドが朝食を持ってきた。ダイニングテーブルの上に並べる彼女。その姿をぼんやりと見つめる清水。
「今日はいらないわ」
メイドの手がピタリと止まった。
「大丈夫ですか? 昨日の夕食も残しておられたようですけど」
「大丈夫・・・・・・」
立ち上がると目眩がしてよろけた。慌ててメイドが近寄ってくる。
「大事なお体なのですから、ご無理はなさらずに」
メイドは心配そうな顔を浮かべる。
親身になってくれる彼女に、以前から清水は好感を持っていた。
そうだ。彼女に聞いてみよう。私の考えが正しいかどうかわかるはず。
「一つ聞いていい?」
「はい。なんでしょう?」
「もしあなたが聖女という立場だったら、どういうタイプのお供を選ぶ?」
「私、ですか?」
「うん」
メイドはうつむき、唇に指をあてて考え込む仕草を見せた。
「あ、私に遠慮しなくていいよ。本心で言ってもらって構わないから」
「でしたら、そうですね・・・・・・。やっぱり好きな人ですかね」
「え? 好きな、人?」
「はい。これから長く一緒にいるわけですし、それでしたら好きな人がいいですね」
「そう」
清水は少しの間、その場に立っていた。メイドが強くて頼りになる人という回答を言ってくると期待した。でも違った。
好きな人と一緒にいたい。
その回答は清水にとって衝撃だった。世界の景色が一変するほど、あれほど苦しんでいた、悩んでいた黒い霧が一気に取り除かれる、それほどの威力があった。
「あ、あの。すみません。私ごときが聖女様に・・・・・・」
「いや。ありがとう。助かったわ」
「それでは失礼します」
メイドは部屋から出ていった。
朝食を食べ、しばらくしてハゲのお偉いさんがやってきた。清水は部屋を出る。すると、田中が廊下に立っていた。彼はすれ違う直前、小さくこう言った。
「頑張れよ」
清水は反応するようにこう返した。
「ちょっとついてきて」
そこは城のベランダのような場所で、下には多くの人々が待っていた。これから聖女が誰を選ぶか、みんなその言葉を逃すまいとしている。
清水は見上げる彼らに対し、こう言った。
「みなさんお集まり頂きありがとうございます。さっそくですが、私のお供の方を発表したいと思います」
シーンと静かになる。清水は意を決し、息を吸った。
「私のお供はここにいる彼、田中に決めました」
どよめきが起こる。ハゲおやじは口を開けたまま固まり、田中も固まっていた。目を点にしているお供に対し、清水は近づいた。耳元でささやく。
「これからもよろしくね。パートナーさん?」