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ハツコイ(ン)ランドリー

作者: たかげるげ

引っ越しの荷物が片付いて一息つくと、この家に洗濯機がない事に気が付いた。学生向けのアパート、1DK、ユニットバス。タンスやテーブル、冷蔵庫など生活に必要なものはそろっていて、すぐに生活できる家。だけど、洗濯機だけがない。いや、正確には洗濯機を置く場所はある。冷蔵庫はあるのに、洗濯機がないのはおかしいと思いつつ、近くにコインランドリーがあった事を思い出し、行ってみることにした。

 

 二日分の洗濯物を抱えて、アパートのすぐ近くのコインランドリーへ。そういえば、コインランドリーって初めて来た。地元にはそんな場所はなかったから。大きなうずまきの機械がいくつもつながっている。洗剤のにおいがする。コインランドリーって、店だと思って来てみたけれど、店員らしき人がいない。どうしよう、どうやって使えばいいのかわからない。私が迷っていると、

「ここに洗濯物を入れて、ふたを閉めて、100円入れればいいよ」

大学生かな、親切に教えてくれた男の人がいた。

「ありがとう、ございます」

私はお礼を言うのが精一杯。だって、すごくドキドキした。

「学生さん? どこの大学?」

「え、と…ここのK大学で、来週入学式で、えと…」

彼の問いかけにもまともに答えられない。だって、地元にはこんな垢ぬけた人はいなかったから。サラサラとした少し色素の抜けた前髪、穏やかで優しい声。地元には坊主で横暴な男子しかいなかったから。なんか都会って全然違う。

 洗濯物が洗われるまで10数分、彼は色々話しかけてくれた。この街は大学、専門学校が多く大学専用アパートが多く建っていて、学生向けに安い食堂や店がある事。大学での賢い履修の仕方とか。そして、彼は私と住んでいるアパートの隣のアパートに住んでいて、管理人が同じ人らしい。生活できる物が予め揃っている家に、洗濯機がないのもなにかのミスだから、彼がアパートの管理人に言っておいてくれるって。干す残りのはアパートでできるから、まだ乾燥までやる彼を残して、コインランドリーを出た。


 都会は怖い場所だから気を付け~とおばあちゃんから言われて上京したけれど、都会にも優しい人がいるんだな。そういえば、彼の名前も学年も聞いていなかったな。また会えるといいなと、私はそんな事を考えながら、。お茶を入れていた。

「あ…」

 部屋の隅に畳んであった毛布にお茶こぼしちゃった。でもまだ洗濯機ないし。コインランドリーで毛布も洗えたっけ? 私は毛布を持ってコインランドリーへ。1日に2回もコインランドリーに行くなんて、とほほ。

 「あれ、さっきの、どうしたの、毛布?」

また、彼がいた。彼はコインランドリーの隅にある椅子とテーブルがあるところで、文庫本を読んでいた。

「毛布に、お茶をこぼしてしまって…」

「大きな物はこっちで洗うといいよ」

彼は文庫本を閉じて、私に近づく。さっきとは違う大きな洗濯機の使い方を教えてくれた。

「あとは、大丈夫だね、じゃあ、僕は洗濯物が出来たから帰るね」

彼は乾いた洗濯物を持って、コインランドリーを去った。


 今日は洗濯物、ないなあ。一人だとそんなに洗濯物もたまらない。今日は大学の入学式だから、そろそろ行かないと。支度をしていたら、スマホが鳴った。出ると電気屋さん。洗濯機が明日届く事になった。もうコインランドリーに行くこともないかな。そしたら、あの彼とももう会えないのか、次に会ったら、せめて名前を聞いておこう。そんなことを考えながら、行く前に水筒にお茶でもつめようかと、やかんから水筒へお茶を入れて、あ、こぼした。

どうして毛布が台所にあるんだろう。思いっきり毛布にお茶をこぼしたじゃない!


 入学式のあと家に帰って着替えて、毛布を持ってコインランドリーへ。明日洗濯機が来るけれど、このままじゃあ今日寝られない。

アパートの前に、引っ越しのトラックが停まっている。荷物を荷台に詰めて、これから出発しようとしている。隣のアパートから、出てきたのは

「あ…」

彼は荷物をいっぱい抱えている。

「あれ? またコインランドリー」

彼は私を見て、声をかけてきた。

「また、こぼしてしまって…」

「あら、大変。もう、一人で大丈夫? 僕これから引越すんだ。じゃあ元気でね」

彼は手を振った。


その手の薬指に、指輪が見えた。


「さようなら」

私は去っていく彼を、毛布を抱えて見送った。


 多分、最後のコインランドリー。毛布を入れてお金を入れるとドラムが回転する。洗濯物が洗われる。そして私の初恋も洗われる。


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