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あな、うれし ー 夜中1時の話声 ー

作者: 上山悟

夜中1時に目が覚めた。

原因は隣室の話声である。どうやら、友人を呼ん酒宴でもしているらしい。三、四人といったところか。


私は以前、今住んでいるマンションからさほど遠くないマンションに居住していた。

しかし、そこの大家がそのマンションの改築工事をしたいというので退去せざるを得なかった。

まあ、それはそれでよいのであるが、私が転居に際して、重視したのはやはり防音性である。

その旨は不動産仲介業者にも伝えていた。


もちろん、壁はコンクリート。

その中でも、構造上、数種類あるようで、多少家賃が高くなってもよい、遮音性がしっかりした物件を選んだ。


遮音性が優れていないと、テレビ、CD音楽の音など、こちらとしても隣室に対して気を遣うし、逆もまた然り、私自身の生活も乱されたくはない。


しかし、理屈と現実には齟齬があるらしく、物事はそうは上手くは運ばない。


以前、その隣室の住居人と挨拶を交わしたことがある。私が仕事から戻り、部屋に入ろうとした時、ちょうど、その隣人が自室から出てきた。軽い会釈を交わした。


容姿の細部までは覚えていないが、大学生ではないらしい。20代半ば過ぎ。大学院生と言ったところであろうか。というのも、このマンションから数百メートルの所にマンモス大学があり、この近辺は学生の下宿人が多い。


そして、宴会は、私が目を覚ました後も続いた。私は多少のイラつきを覚えた。私は寝つきの悪い方で、一度、目覚めるとなかなか寝付けない。また、わざわざ、高めの家賃の物件を選んだのに、という期待外れの感もあった。と言っても、わざわざ苦情を言いに行く勇気もないし、後々の事もある。


その悶々とした気分が何分、いや、何十分続いた時か、隣室の玄関口で何か会話するような声がしたかと思うと、そこを立ち去る数人の靴音がマンションの廊下に響いた。どうやら、宴会は終わったらしかった。


静けさは取り戻された。


しかし、私は寝付けない。

窓の外の暗闇にしじまが広がっていた。


その時、私をある不安が襲った。

この近辺は学生街。大通りから引っ込んでるとは言え、大学に上下校する自転車に乗った学生同士はもちろんの事、主婦をはじめとする住人の喋り声、数は多くはないが車の走る音。そういった、ささやかな他者の息づかいが、昼間はこの部屋に飛び込んでくる。


しかし、今はどうだろう。

外に広がっているのは、ただただ静寂である。

他者の息づかいが感ぜられない。

この無音の世界で、耳をすまして聞こえてくるのは、私が発する私の呼吸音。ただ、それだけである。


ー私はこの世界でひとりなのか?ー


そんな強迫観念じみた不安が私を襲ったのである。こんな想念が馬鹿げていることは、自分でも重々承知している。しかし、理性では分かっていても、感覚として、不安が私を苦しめる。


ーどうすればいい?ー


答えは簡単だ。再び眠りにつくことである。そうすれば、きっと、朝、ささやかな喧騒が取り戻され、この強迫観念は霧散していることだろう。


しかし、焦れば焦るほど事は上手くいかない。寝入ろうとすればするほど、焦りが入眠を妨害する。

私はどうしようもなくなった。


こんな状態がどれほど続いたのであろか。

足音が聞こえてきた。隣室のドアに向かう数人の靴音である。ドアを開ける音がして、靴音はその中に消えていった。


再び、話声が聞こえきた。酒宴は再開された。酒がきれたのか、酒の肴でも買いに行っていたのであろうか。いずれにしても、他者の息づかいが感じられる。私は、その事実に感謝した。不安は次第に解消されていった。


まぁ、明日は休日だ。

寝れようが寝れまいが、今やたいした問題ではない。不安が解かれていく事に安堵を覚えた。

青年たちよ、朝まで飲み明かすがいい。





読んでくださって有難うございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夜中に目覚めるとそのまま思考が飛躍して眠れなくなる事がよくあるので共感できる内容でした。 一度抱いた不安が解かれるのであればそのきっかけは何だっていい、と思ってしまう心理も「それあるよなぁ…
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