page.08
街から帰る途中、シズクはクロウから聞いた話を考えていた。
(辺境の集落がいくつか焼き討ちにあった、か…。普通に考えるならヒューマンの仕業なんだろうとは思うんだけど…)
頭の知識に潜るかぎりでは、この世界の人間----ヒューマンは好戦的ではない。これにもいくつか理由はあるのだが大きな一因は『魔法がうまく使えない』ということになる。ヒューマンは決して魔法が使えないわけではない。しかし、他の種族と違って自由自在には使えない。
簡単に言ってしまえばヒューマンは基本的に0か100でしか使えない。まったく発動しないか、発動させられるヒューマンは最大火力でしか使えない。つまりは威力の調整が一切効かないのだ。下手に使えば使った本人にも危険が及ぶ。
(だからこそ、小さな集落とはいえヒューマンが襲うだろうか…?)
奇襲すれば確かに可能だ。だが、ヒューマンがいくつもの集落を襲うとなると話は少々変わってくる。そもそもの話、他種族の領地を侵犯することにはリスクの割には見返りとなる旨みは極めて少ない。短期的には得られるものがあったとしても長期的に考えると交易の停止や反抗戦等の発生により最初期のメリットは霞んでしまう。
そもそも、人族は他四種族と違って全ての集落や街を統括する領主がいないと聞いている。つまり、集落や街ごとに起きた問題はそれぞれが解決する必要がある。そんな中で今回のような他種族の領地を侵犯したあげく、集落を焼き払うとなるとそれを行うことを許した長となる人物は相当の狂人か豪胆な傑物ということになる。
(ただ、傑物だとするといくらなんでもやりすぎだと思うんだがなぁ…)
「お兄様、どうかしましたか?」
「うん?あぁ、街で聞いたことでちょっとな」
「焼き払われた集落、ですか…」
「あぁ。いくら考えてもヒューマンには大きなメリットとなるものが無い気がするんだ。それでも実際に行われているとなると何があったのか―――」
「そう、ですね…。考えられることは少ないですが。一つはお兄様の言う通り『ヒューマンが何らかの理由があって焼き払った』というもの。二つ目は『ヒューマンは関係なく、何らかの現象によって集落が燃えた』というもの。あり得るのはどちらかだとは思います。思うのですが…」
「まだ何かありそうか?」
少し逡巡するように口を開いては閉じる。何度かそれを繰り返し、口に出すことを決めたのかこちらを見上げ―――
「『ほかの種族が関わっている』――というものでしょうか…」
「―――!!」
それは考慮していなかった答えだ。それなら不可解な点であるメリットやデメリットには説明がつく。だが、コレについては考えなかったというより、考えたくなかったという方が強い。なぜなら―――
(危険人物が近場に潜んでいることになる…)
今後も続くのなら対策を考えねばならない。街の騎士を信用していないわけではないが、こっちは混ざり者だ。いざというときに真っ先に切り捨てられる存在なのは記憶からも理解している。
(帰ったら何か対策を考えよう)
自分と、隣で不安そうにこちらを見上げるユイのためにも―――