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門から歩いていくと街並みが見える。街並みは中世ヨーロッパをベースにした感じではあるが、魔法があることで光の技術や店の方は現代日本にも見劣りしないほどの高度文明を兼ね備えたような歪な感じになっている。
しばらく歩いた先には噴水のある広場。さらに奥にはこの街を治める領主の住む城が見えている。そこまで歩いて、ユイが初めて足を止めた。
「どうした、ユイ?」
「…お兄様…」
俯いたユイの顔を覗き込むと、そこには吐き気を耐えるような…青さの増していく顔があった。そこでようやく、シズクはこの広場で何があったのかを悟る。
「きついなら先に城門まで戻っていてもいいんだぞ?」
「………」
首を左右に振るユイは、それでも青い顔をしながらもゆっくりと後をついてくる。気遣いながらも少しずつ落ち着いてはきたのか青さは酷くなることはなく、やがて目的地である宿屋へと到着する。
宿屋の前には屈強な腕をさらし、健康的に焼けた1人の男性エルフがこちらに向かって手を振っていた。それに軽く手をあげて答えるとユイを伴って近づく。
「お久しぶりです、クロウさん」
「はははっ!今回は少しばかり来るのが遅かったじゃねーか。いつものやつを頼んだつもりだったんだがよ」
「まぁ、いつもよりは量が多かったですから」
「お前さんの薬は旅人に人気でな。仕入れた分は確実に売れるから好い収入源さ!」
二カッと快活に笑ったクロウはわずかに隠れるように立っていたユイに気づく。
「ユイ嬢じゃねーかよ!はっはっはっ!久しぶりだな、元気だったか?!」
「は、はい…。お久しぶりです…」
ユイの反応にクロウは先ほどまでの明るさを収め、力強い、それでいて優しい手つきでユイの頭をなでる。
「ユイ嬢、怖-のかもしれねーのにここまでよく来てくれた。久しぶりにお前さんの顔が見れたのは俺は本当に嬉しいぜ」
「はい…」
目を閉じて静かになでられているユイを見ながら、シズクは安堵のため息をつく。
「クロウさん、あいさつはそれぐらいで」
「なんでい。もう少しいいじゃねーかよ。へるもんでもなし」
「やりすぎてユイの頭取れたらどうするんですか」
「わ、私の首はそこまで弱くありませんよ!」
「はははっ!そうだな、取れても困るしここまでにしとこう!」
「く、クロウさんまでっ!」
恥ずかしそうに膨れるユイに男2人が大笑いする。そこには先ほどまで暗く沈んでいた雰囲気はまったく無くなっていた。