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街へと歩く道すがら、薬の素になる木の実や草花を拾いながら歩いていると不意に人影が森の奥の方へと歩いていくのが見える。
「なんだ?」
「街の、方でしょうか?」
それはない、と記憶が断言する。今から行く街にとって『この森』はとても神聖な森なのだ。街道のようになっている道を歩いているのならわかるが、そういう道はここ以外にはないはず。
仮に新しい道を作ったのだとしたら1人で歩いているのはおかしいのだ。ユイはおそらく出会ったことはないのかもしれないが、この森には熊や猪などの人に対して攻撃的な生物は住んでいる。うっかりなわばりに足を踏み入れれば、それが熊のなわばりなら1人では狩人といえど返り討ちにあってしまいかねない。
「おーい!」
「そこの方ー!1人では危ないですよー!」
しかし、相手はこちらの声が聞こえていないのかそのまま歩いていき、ついにはこちらからでは見えなくなってしまう。
「お兄様、どうします?」
「そうだな…」
今から追いかければ間に合うかもしれないが街道に戻って来れなくなると一度ロッジを目印に戻るしかない。そうなると街に行けなくなる可能性が高い。
「街まで行ってほかの人に頼んだ方が安全だ。俺とユイだけじゃ万が一迷ったときはロッジに戻ってから街に向かうことになる。そうなると、暗くなる前に帰って来られなくなっても困る」
「では?」
「このまま街へ向かおう。薬の納品ができないとお金も無いしな」
浮浪者であった場合は自分達にできることはないのだし…と無理矢理に納得できることで言い訳して街道を歩く。
「お兄様」
しばらく無言で歩いていたユイは手持ちぶさたに手元の木の実を転がしながら----
「お兄様は街に行くことは怖くはないのですか?」
不安に満ちた顔を向けてそう問うてきた。
「そう、だなぁ…」
記憶の‘シズク‘なら毎日のように街へ向かえと言われれば拒否していただろう。だが、ここにいるのは‘シズク‘の身体を借りている?‘雫‘だ。記憶を覗けばなるほど、街へ行くのは怖いと感じるだろう。
「怖いといっても生きることに比べると仕方ないだろう?兄妹そろって引きこもっても生活していくことはできないのだし。なら、怖いことを引き受けるのは兄の役目としたものだろう?」
少し茶目っ気な感じでウインクをしてやるとユイはポカンとした顔でこちらを見やり----
「…ぷっ」
小さく吹き出すと、それが皮切りになって笑いだす。しばらく笑っていたユイは笑いの波が引いたのか、目尻に浮かんだ涙を拭いながら----
「お兄様、かっこよく決められるならもう少しどうにかなりませんか?」
「いいじゃねーかよ。ユイが笑えたなら及第だろ?」
「ふふっ。そういうことにしておきましょう」
納得のいく答えは出たのか、ロッジを出た頃と同じような笑顔を浮かべるユイが追いついてきた。並んだところで再び街へ向けて歩き出す。