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剣聖

「ここからリムルまでは今から歩けば明日の昼には着けると思う。念のために2日分の糧食と薬草の類いもカバンに入れておいた。持っていくといいよ」


「なにからなにまですいません、ありがとうございます」


「いや、こちらこそ本当に助かったよ」


結局、あの後アイヴィーはすぐにセドリックの後に続いて部屋を出て行ってしまったので、魔法を使うことで生じるかもしれないデメリットについて聞くことはできなかった。

それでもセドリックと話し合ったのか、アイヴィーは少し心配そうな表情を残しながらもレナードを笑顔で送り出そうと努力しているのが見受けられた。

一方セドリックの方はレナードから見て、少し体調が優れていないように見える。魔法を使う前は元気そうであったのに比べると幾分か疲れている。明らかに魔法を使ったことでそうなっていることは分かるが、あえて言及しない方がセドリックをたてられるとそう考えた。


「ここからだとリムル北東の方向だよ。この草原で目立つものもなくて迷うかもしれないから一応教えておくと、ここから東へ行くと森がある。もし森に行き当たったら北の方向へ向かうといい。ここから北へ行くとそのまま草原が続いていて幾つかの町にあたる。もし別の町に行き当たったら改めてリムルの方向を教えてもらうといい。方位は太陽をある程度の目印にするといいよ」


セドリックは北東の方向を指差し、このまま真っ直ぐ行けばリムルの町に辿り着けるとも付け足して言った。

しかしこの何もなく幾つかの丘陵がある草原で真っ直ぐ進める自信はなかった。


「なに、心配しなくていい、リムルの方へ行けば巡回している本国の兵に出会うこともある。その人に事情を説明したら大丈夫さ」


「レナード、どうか気をつけてね。あなたなら大丈夫だと思うのだけれど、あなたがいなくなれば悲しむ人がいることを忘れないで」


セドリックとアイヴィーの励ましに心から暖かくなるのを感じる。

まだ何もわからないけど、2人に会えて本当に良かったと思う。


「ありがとうございます、セドリックさん、アイヴィーさん。それじゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい、レナード・アリットセン」


「何があっても君なら出来るぞ、レナード・アリットセン!」











「あなた、具合は大丈夫?」


「ああ、大丈夫だよ。思っていたよりかは体が軽い」


彼はそう言うけれど私から見ても明らかに疲弊している。

それでも私ができることといえば精力がつくような精進料理を彼に作ってあげることくらいしかない。

もし彼と代わってあげられたら。もし私にも魔法の心得があれば。

自分の無力さを呪うしかなかった。


「レナード、無事にリムルまで辿り着けているといいな」


彼はそう呟くと窓の外をまるで子供を思いやる親のように見つめていた。


(もう、あなただってレナードとそれほど歳は変わらないじゃない)


そう思うと少し面白い気がしてクスクスと笑う。

何か面白いことがあったのかい?と聞いてくる彼に、そろそろ子供が欲しいと思わない?なんていたずらな笑みを浮かべて返す。

すると彼はまるで少年のように顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

それが面白くて私はまたクスクスと笑うのだった。


それから少しして、2人で寛いでいるとドアがノックされた。

この家の周りには何もなく、王都とリムルをつなぐ街道にも接していないので、この近くを通る人はほとんどいない。

少し西の方へ行かなければお隣さんもいない所だ。

そんな所への来訪は単純に珍しく、そして今の状況を鑑みれば少し警戒してしまう。


「あなた、どうするの?」


アイヴィーは小さな声でセドリックに問う。


「レナードに会いに来た兵士かもしれない。とにかく、居留守は出来なさそうだよ」


巡回に来るには少し早い時間だ。巡回の兵士ではないだろう。

しかし、少し様子をみて黙っていてもドアの前から来訪者が消える気配がない。

家に人がいるのを知っているのかもしれない。

それでもずっと待っているということは敵意がないことの裏付けにもなる。

セドリックは今の状態であればアイヴィーを守ることは出来ないかもしれないが、その突然の来訪者は危害を加えることがないだろうと判断し、ドアの前まで歩み寄る。


「はい、すいませんが、どちら様でしょうか」


「ははっ、やっと返事してくれたか。いやあ、このまま居留守使われたらどうしようかと思ったよ。ああ、どちら様ってね。俺の名前はズーリエル・ワンダ・アルビオル。剣聖って言えば分かるかな?」


セドリックについてドアの前まで来ていたアイヴィーには剣聖が何か分からなかったが、セドリックは驚いたような表情、いやありえないといったような表情をしていたので、何かあまり良くない人なのかと思い、体に緊張が走る。

しかしそれとは裏腹にセドリックはすぐにドアを開き、その剣聖とやらを家に招き入れた。

その剣聖と呼ばれる男は2m近くあるのではないかと思うほど背が高く、スラッとした筋肉が服の上からも分かった。にこやかな表情を浮かべていたため、アイヴィーもやっと肩から力を抜いてセドリックと同様に頭を下げる。


「アルビオル様だとは知らずお待たせして本当に申し訳ありませんでした。どうぞ、こちらへ」


「ああ、気を使わなくていい、ここでいいよ。それよりここにリムルの生存者が来ていると耳にしてね。その人に会わせてもらえないかい?」


アイヴィーはまたしても体を強張らせる。如何にも位の高そうな格好をしている人がレナードに会いたいと言っている。

ただの兵士ではないことに、アイヴィーはあまり良いことではないことが起こっているのではないかと表情を曇らせた。

ズーリエルはアイヴィーのそんな表情に気付いたのか、


「ああ、心配しないでくれ。知り合いの知り合いがリムルに住んでいたようでな。その知り合いはどうしても手が離せないってんで、俺がその知り合いの知り合いが生きてるか確認しに来たってだけなんだ。だから、その生存者ってのに合わせてくれねえかな」


「すいませんアルビオル様、レナードは先ほどリムルの町へここを発ったばかりでここにはもういないのです」


「ってことは行き違ったか?俺もリムルからまっすぐここに来れたわけじゃねえし、その可能性もあるな。それで、レナードだっけ?その生存者の名前を教えてくれるか?」


「はい、彼の名は、レナード・アリットセンです」


「よし、ありがとうな。それじゃあ」


ズーリエルはそう言い残すと近くにいた愛馬に跨り、草原を駆けていった。


「あなた、レナードの記憶のこと言わなくてよかったの?」


セドリックは困ったような顔をして、


「言おうか迷ったけど、僕たちが思っている以上に彼の記憶のことはデリケートなことだからね。勝手に広めるのも悪いよ」


それもそうかしらと納得したアイヴィーは、あの剣聖と呼ばれる人の知り合いの知り合いがレナードなのであれば、彼は近いうちに知り合いに会えるのかもしれないと、自分のことさながら嬉しくなった。

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