68話 日常に戻って
結局昨日はランチした後とりあえずテストはできたし今日はここまででいいよと言われたので帰りがけに少しウィンドウショッピングをして家路についた。
なんだかあかちゃんを呼び出したにも関わらずこの間より体の怠さみたいなものを感じなかった…
強制的にとはいえ入れ替わりに慣れてきたってことなのだろうか…
今日はなんだか早く起きてしまったのでいつもギリギリに行くところ早めに学校に行くことにした。
「お姉ちゃん先に学校行ってるね~なんだか今日は早く学校行きたい気分」
寝ぼけ眼でシリアルを食べている雪ねぇにそう告げてわたしは家を出ることにした。
「ううん…珍しく早いのね…行ってらっしゃい!気を付けてね!」
お姉ちゃんの寝ぼけてる様子なんていつ振りに見るだろう…朝弱いとはいえ人並みに起きてきていたはずだけど…
まあ、いつもはわたしのほうが寝ぼけているから気付かないってことなんだろうけど…
今日早く学校に出たのはちょっとだけ理由がある。
朝早くだったら通学中に鼻歌でも歌ってても人目を気にしなくていいかなと思ったからだ。
「ふんふふーん♪」
昨日お父さんに歌わされた曲が頭から離れない…
お父さん書き下ろしの曲でわたしにくれるなんていうこと言ってたけどやっぱり昨日からどう考えてもこの曲をわたしの物にするなんて考えられない
それでもわたしの今の歌える全力の方向性がわかったことは嬉しい事なのかもしれない。
「こんど日向たちにも聞かせてあげたいな~」
「俺に何を聞かせるって??」
「んひゃあっ…なんだ日向か…もう驚かせないでよっ」
急に後ろから声を掛けられたわたしは変な声を出してしまったがすぐにその声の主が日向だと気づいて振り返って抗議の目線を送る。
「いや、一人で俺の話でもしてんのかなって思って…驚かせたならすまん…」
なんだかバツの悪そうな顔をして言う日向はなんだか愛らしく見えた…
日向を愛らしく思うなんてわたしどうかしちゃったのだろうか…
「茜?どうした?」
「な、何でもない!」
不思議そうに日向がこちらを覗いてくるので恥ずかしくなってしまったわたしは日向の顔を押しのけるようにして顔をそらした。
「んで、何を俺に聞かせたいって??」
今までの流れはなかったですよと言わんとばかりに日向は話題を戻してきた。
「んー昨日事務所に歌のテストしに行った時にもらった曲なんだけど…聞く??」
今度はさっきの仕返しとばかりに日向の顔を覗き込んでそう言った。
「んんっ…んじゃあ聞かせてもらおうかな…」
日向は少し顔を赤くして顔をそらしながらそう答えた。
女の子苦手な日向には刺激が強かったかな…
「はい、これ。急に覚えた曲だからピッチとかひどいかもだから気を付けてね…」
そういって昨日のデータの入ったmypodを渡してイヤホンを差し出す。
「お、おう…心して聞くわ…」
そういって日向はイヤホンをして真剣に耳を傾けていた。
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「これ、もしかしてアカヤ曲??」
「ふえぇぇっ?いや…何のことだろう…」
日向があまりにドンピシャなこと言うから驚いてはぐらかしてしまった…
「いや、どう考えたってアカヤ曲だろこれ…でもアカヤ曲にしては知らない曲だなぁ…
茜ついにアカヤ曲書いてもらえるくらいにって事かもしや…いくら自分の娘だとは言え…」
「いやいやいや、違うから!まあ違くないんだけど…
なんか…曲書いてきてくれたみたいで…」
お父さんの事なのになんだか恥ずかしくなってもじもじしながらそう答えた…
日向はキョトンとした表情でマジかよ…なんて呟いてた
「昨日颯爽と現れてこの曲だけ渡して帰って行った…
それもその曲私にくれるとか言い出して…」
何か変な解釈してそうな日向に昨日の状況を説明する。
「いや、ちょっとよくわかんないし結局アカヤ曲茜用に書き下ろしてもらったって事だろ??」
「まあそうなんだけどちょっと特殊でさ…この曲でデビューがとかそういう話じゃなくってさ…」
日向なりにかみ砕いた結論に対してわたしはなんだか勘違いしていそうなことを訂正した。
「???それってどういう事??」
日向は本当に何を言ってるのか理解できないといった表情でそう返してきた。
「この曲は娘へのプレゼントみたいなもんだから好きに使えって…わたしはいらないって突き返したんだけど…」
「なんてもったいないことをするつもりだったんだよ…」
ちゃんと説明したはずなのにいまだにキョトンとした表情で日向は呆けてしまっている。
「まあ、わたしは自分の曲にすることはできないってつもりだったから楽曲提供とかそういう機会があるって言うならありかなって思うところなんだけど
でもお父さんは自分で手を入れて自分の曲にしろって…」
まあ実際のところ楽曲提供って体があったとしてもこの曲を自分の物にしてしまうことはなんだか悔しい気がしてならないのだが…
「それにしてもこの倒れる音これ最後のところ緋那ちゃん呼び出してるだろ…やっぱまだ全力出せないんだなぁ?」
「ギクっ…まあ、それはご愛嬌ってことで…」
痛いところを突かれてしまったのでわたしは逃げに走るしかなかった…
「それでもこの曲の感じは茜の声質とかすごい捉えててめっちゃ合うんだろうなとは思うよな…」
「わたしもそれにはびっくりした…歌っててなんかピッタリハマる感覚あったんだよね…心地よいっていうかなんか…」
「茜の悩んでた歌の方向性ってものがこれで見えてきたって感じかもな…この感じの曲だったらベースプレイはあー言う感じで…」
そう言う日向はなんだか考え込んでしまったようでブツブツ何か言っている
「まあそれとわたしの音楽がどう言う風に向いていくとか昔のように歌えるかってのは別問題なんだけどね」
「それはそうなんだけどな…でも俺この方向性好きだぜ?
茜がやったらめっちゃいいと思うんだよな!」
割と全肯定botと化してしまった日向からはそんな言葉しか出てこなかった。
「わたしは人が聞いていい悪いじゃないって思うんだけどなぁ…やっぱり自分がそこに納得いかないと…」
「まあそんな考えすぎんなって!大事な問題かもしれないけど意外と慣れとかそう言うものが肝心だったりすることもあるからな!」
「日向は女の子苦手なの慣れだよって言われたらどうするよ…」
軽い感じで励まそうとしてくれてるのはわかったのだけどなんだか腑に落ちなくて日向にそんな毒を吐く…
「まあ実際のところ慣れって言う話だとは思うぞ?…
俺がそれに向き合えてないだけで…だからお互い一歩ずつ慣れていこうや」
「日向は前向きでいいなぁ…わたしはまだそうはなれないよ…」
「まあ悩み持ちの先輩みたいなもんだからな、俺。茜も時間をかけてやればいいのさ」
日向はそういって頭をポンポンしようとしてくるがいろんな意味で遠慮することにして頭をすっと動かした。
日向も自分の自然の行動に驚いている様子だったけどわたしも内心心臓バクバクだった。
「あ、ごめんごめん…なんか自然に…」
「日向も慣れの第一歩を進んでるってことだね。わたしもうかうかしてられないかも!
今度しっかり自分の声質と向き合って曲作ってみるよ!」
「ああ、そうだな!それがいいと思う。」
そういって日向は優しい目でこちらを見つめている。
さ、さて学校へ歩を急ぎますか!
わたしは晴やかな顔で学校へ向かう歩様を急がせた。
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「おはようございます!皆さんよいゴールデンウィークは過ごせましたか??
今週末には宿泊研修も控えてますからお休み気分からリセットしていきましょうね!」
朝のホームルームでさっちゃんはそんなことを言い出した。
え?…宿泊研修??なにそれ…
宿泊ってことはみんなとお泊りって事??
「金曜日から宿泊研修なので皆さんちゃんと準備しておいてくださいね!」
さっちゃんはそう言うが準備どころか心の準備すらままなっていない。
そもそも知らなかったので心の準備もクソもないのだけれど
「茜~宿泊研修お部屋の班一緒だといいね~」
「そう…だけど…ううむ…」
後ろを向いて話しかけてきてくれた希穂に対しても難しい顔をしてよくわからない答えを返すことしかできなかった。
「茜どうしたの??どこか変??」
「いやっ…なんでもないよ?そもそも宿泊研修知らなかっただけだし…」
心配そうに希穂が覗き込んできたのでケロッとした顔を努めて作って返事をする。
出来てるかどうかじゃなくてやってるかどうかが大事なんだこういうのは。
「茜意外とさっちゃんの話聞いてないんだね…ちゃんと聞いてるように見えてボケっとしてるなぁ?さては」
痛いところを希穂につつかれてしまった。うう…確かにそうではあるけど…
「それでもなんかもっと大々的に言ってくれても良かったのにねぇ~
結構な一大事なような気がしてならないんだけど…」
「まあみんな去年から宿泊研修と修学旅行は2年のビッグイベントって認識があっただろうからさっちゃんもさらっとしか言ってなかったもんね
今年から入ってきた茜は確かに聞き流しててもおかしくないか…」
なんだか合点の言ったような顔をして希穂はそう言うが中身的にはわたしも去年からこの学校の学生なので知らないって事自体おかしいんだけれどまったく頭に入ってなかった…
あながちみんなの言う音楽バカってのも間違いじゃないのかもしれない…
ちゃんと改めよ…
「そうそう、そういう事だよ!でも家族以外の人と旅行行くなんて初めてだからなんだかキンチョーしちゃうなぁ…」
「そっか、茜ってずっと入院してたんだもんね…宿泊研修でもたっくさん思い出作ろうね!」
希穂はそう言ってにっこにこな笑顔を見せた、なんだか今日はめっちゃ機嫌がいいらしい。
「ちゃあんとわたしもその思い出の中に入れてよね!」
そういって奏でもようやく話に入ってきた。さっきまで他の女の子グループに話しかけられていたようだった。
「もちろんよ!茜と奏と三人で並んで寝ましょうね!」
こりゃあこの様子だとなにか大和と進展があったに違いない…明らかにいつもより上機嫌だもん。
「そうだね!わたしも楽しみになってきた!あ、そういえば昨日言ってたテストって件はどうなったの?
なんか茜的にはここで何が決まるって訳じゃないって言ってたけど」
奏がちょうど昨日の事について思い出したのかそういってワクワクした感じの目で聞いてきた。
「うーん…正直なところわかんない…うまく歌えたかもわかんないしなんだかうまくいかなかったような気もするし…」
「まあ、茜だったら芸能活動するって言っても歌だけじゃないもんね!アイドルならダンスもだし俳優さんなら演技もだもん!まだまだ茜は頑張ることがたくさんって事ね!」
「大丈夫よ!茜だったらそのかわいい声だけで十分魅力的なんだから歌ってもきっとかわいいはずよ!」
奏も希穂もわたしのなんだか暗い表情を見て励まそうとしてくれてるみたいだ…
「そんな言ったって希穂わたしの歌ほぼ聞いたことないでしょ~」
私は希穂にちょっとおどけた感じでそう返した。最近はこうやってちょっとおちょくったりみたいなことができる仲になってきていた。
「ぐぬぬ…それは確かにそうね…それじゃあ今日部活もないし帰りにカラオケでも寄っていく??私も茜の歌聞きたいもの!」
「さんせー!わたしも聞きたいなぁ…茜の歌!」
ちょっと痛いところを突かれたような希穂だったがすぐにそんな提案をして、奏もそれにノリノリで乗ってきた。
「ちょうどレッスンもないしいいかもね!わたしの全力魅せちゃうんだから!」
ちょっとアイドルチックに言ってみた、まあ全力なんて出したらまたあかちゃんのお世話になってしまうからやりたくてもできないんだけど…
「うわっ…ちょっと今の本物のアイドルみたい!もう一回やって!!」
「かなで~そういうの良くないよ~でもホントにテレビで見るアイドルみたいだった!
やっぱ茜は可愛いのが一番ね!!」
思ってたよりちゃんと反応が返ってきてびっくりした。やっぱそういう目で見られるようになってきているのだろうか…
「えへへっ、思ったより二人から反応帰ってきてびっくりしちゃった…でももう一回はやらないからね?」
「ごめんね〜茜〜。今度からわたしもそういうの気をつけるね〜」
そう言って奏は所在なさげにしている。そこまで気にしなくていいのに…
「そこまで気にしなくって大丈夫だよ!わたしもそう言われたりするの慣れてないだけだから!」
努めてなにも気にしてない感じで返した。
本当に特に気にしてないからちゃんとわかってもらいたくて。
「それじゃ!席戻るね!放課後楽しみにしてる!」
そう言って奏は自分の席に戻っていく。
そうだ、話し込んでたら予鈴のなる時間だ。
あ、次の授業の準備してない…
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「いやー!茜の歌すごい可愛かったね!あれであんまり良くない反応だったなんて事務所の人たち何考えてるんだろ!」
「確かに茜の歌はめっちゃ可愛かったわね!まあ茜の望むようなバンドってなるともうちょっと違う雰囲気が必要かもしれないけどね!」
わたし達は朝言ってた通りカラオケに遊びに行ってきた。
奏はキャラ通り元気で可愛いポップスを歌ってたし希穂に至っては普段見せないバンギャもろ出しの選曲で意外だった。
希穂曰く奏と茜くらいにしかこんな面は見せられないわよ。とのことだった
かたやわたしはこの前練習してたひーちゃんの歌やアイドルポップス中心に可愛い感じで頑張ってみた。
あんまりアイドルポップスとかわかんないけどわたしでも知ってる程度の曲でも十分人楽しめた。
やっぱりバンド曲を歌うのはなんだかあかちゃんを呼び出しちゃいそうで気が引けて歌うことはできなかった…
「やっぱり希穂はバンドの事となると厳しいね!でもわたしも言いたいことはわかるかも〜もうちょっとバンドの人はカッコいい感じがいいよねぇ…あ、茜の歌が気に食わないってことじゃないんだよ?」
「わたしもそれは理解してるしわたし的にもバンドの曲は納得いかないから歌わなかった!気を遣ってくれてありがとね!でもわたしに求められてるのってあーいうのかなって思ったりもするからいーんだ!」
本心はちょっとだけ悔しかったけれど少しもそれを見せないような屈託のない笑顔で二人にそう返した。
「やっぱ茜はアイドルの才能あるって…」
「うんうん。これは放っておいちゃいけないわね」
二人してうんうん言いながらわたしの顔を見つめてくる…
なんだか恥ずかしいのでやめてほしい…
「ちょっと二人とも恥ずかしいって!」
「あーごめんっ!あまりにも茜が可愛すぎて。」
「茜ちょっと自分のかわいさ自覚しようか…」
再起動した二人はそんなことを言ってくる。
「そうそう今の笑顔は見せないって!わたしも色々そういうのなれてきたんだから!」
「ほんとかなぁ〜。奏ちゃんは茜が心配だよぉ」
「ぷっ…あははっ…なんか大袈裟でおもしろっ!」
「あー茜笑ったなぁー!」
「ごめんってー!」
あははっ…こうやって三人仲良く帰るの楽しいなぁ!
「私もまーぜて!」
そう言って希穂もわたしと奏のいちゃつきに混じって三人仲良くおしゃべりをしながらその日は家路についた。




