67話 お父さんとミナさんとわたしの音楽
「おはよう。茜。」
「んくぅぁぁ…うん…おはよう…
……ってお父さん!?なんでここに?」
わたしが目を覚まして一番に聞いた声はお父さんの声だった。
「あー…一応な、俺も関係者な訳だし少しだけでも目を通しておこうかと思ってな…
だから悪いが録音してるところからずっと見させてもらってた。」
「ふーん…本当にひーちゃんとユニットで使えるのかどうか見に来たってところ?」
来ることを言ってなかった事とか諸々になんだか腹が立ったのでわたしは少しトゲのある感じに返した。
もちろんタダの嫌味だからお父さんがそんなつもりだったわけじゃないってことくらいはわかってるけど…
「その話は無かったことになったって言わなかったか?…」
「えーそうだっけ?まあ今のわたしにそんな実力も自身もないからそうであってもらわなきゃ困るけどね。」
わたしはあえてはぐらかす様にそう言った。
「まあ、使えるか見に来たってのはあながち間違いじゃないかもしれないけどな。
茜、ここからはお父さんとしてじゃなくて”君”の所属会社の所属プロデューサーとして話をさせてもらう。
正直に答えてほしいんだが、1曲目を歌い終えて”君”は何を思った?
上手くできたと思ったか?それとももっとやれだと思ったか?」
わたしがちょっとおちゃらけた雰囲気を作り始めたのを察したのかお父さんは急に真面目な顔をしていつもとは違った口調でそう言いだした。
お父さんのそのまっすぐな視線とその口調は、なんだかもっとやれたんじゃないのか?あれで満足してるのか?とでも言いたげに感じた。
「いや…練習して来たことは出来たかなって…思いましたけど…
わたしだってあれで上出来だとは思わないです…けど、課題としては出来てたかなって…」
なんだか怒られてる子供みたいにだんだん声も身体も小さく縮こまって行くのが分かる。
「まあ、確かによく練習したのが伝わってくるいい歌だった。」
次に続いたお父さんの思わぬ言葉にわたしは驚いて少しの間変な顔をして固まってしまったけどすぐにその言葉の意味を実感して呆けた顔からニヤケが溢れ始めてしまった。
「だが、それだけだ。」
わたしの様子に注意を注いでいたのか、お父さんは少し間を空けてそう言葉を続けた。
さっきまでとは打って変わってとても冷たい声で…
「それ…だけ………うぐっ…ぐす…」
そんなつもりじゃなかったけどだんだんと目頭が熱くなって来てついにはちょっとずつ涙が流れ始めてしまった。
「まあ、そんな泣くな。俺はそれが悪いことだとは言ってない。
アイドルやタレントの歌として見たら上出来と言っていいレベルの歌だったよ。
それに本格的なレッスンを始めたばかりだとは思えないレベルではあったんだ。」
お父さんはいつものお父さん口調に戻りそうになるのを隠しながら慰めの言葉を言った。
「俺が言いたいのはシンガーとしてあの歌を聞かされたら響かねぇなって事だ。量産・画一、そんなのはヴォーカリストにはいらないんだ、“君“だってそれはわかってるはずだ。
話を変えようか…
逆に突貫工事だったはずの2曲目の方はどうだった?」
お父さんは少しだけアツくなってきたところを隣にいたミナさんに冷たい目線で制されてすこしだけバツが悪そうに話題をいきなり歌わされた2曲目の話題に移した。
「うぐっ…2曲目…ですか…
とっても歌いやすかったから…気持ちよく歌えました…でも、まだまだでしたし、なによりあかちゃんを呼んじゃいましたし…
ダメダメだったなって…」
わたしは涙をぬぐいながらもなんとかお父さんにそう返せた。
「俺はな、2曲目の方がよかったと思う。
荒削りでも何かを感じたよ。なあ、ミナちゃん」
「正直こいつの意見に乗っかるのは癪なんだけど…でもあたしも同じ意見よ。」
あー…この前のお葬式の時から思ってたけどこの2人ってやっぱり仲悪いんだね…
「ほらな?…
だからさ、お前にあの曲やるよ。」
「ふぇっ!?」
ちょっと脱線した発想をしていたわたしはお父さんの斜め上の発言にわたしは言葉にならない変な声を上げてしまった。
え?くれるってどういうこと!?
そもそもあの曲ってなんだったの?
あの様子だとお父さんが用意した曲だって事は違いないんだろうけど?
くれる????
お父さんが何を言いたいのかなんだかよくわからなくなって来てしまった。
「あんた本当そういうところ直した方がいいわよ?」
「あー…すまん…
あのな、茜。あの曲は俺が書き下ろした曲だ。
茜の歌をテストするためだけに。
だからあの曲はお前にやるよ。
あの曲でデビューとかそういう話でもなく、あの曲はお前が手を加えてお前のものとして完成させろ。」
ミナさんに突っ込まれてお父さんは言葉を改めてとても真面目なアツい口調でそう言った。
今までに見たことのないお父さんの表情だった。
「え…ちょ…いきなりっていうか…」
わたしはいきなりの事態に動揺してしどろもどろの感じになってしまった…
でも、絶対に伝えなきゃいけない言葉がある。
「お父さん。気持ちはとっても嬉しいけど受け取れないよ…
だって…わたしだってバンドマンの端くれ、ミュージシャンの端くれなんだよ?
人が書いた曲をおいそれと自分のものに…なんて出来ない。」
わたしにだってプライドがあるし、スカーレットでやるようなのとはちょっと違う気がするし、なによりスカーレットのみんなになんて言えばいいかわからないし。
「だったらなかったことにすればいいさ。
でも、この曲は俺がミュージシャンとしてお前にしてやれることの最初で最後だ。
k’sプロってのはお前が思ってるより大きな事務所でな…」
お父さんの言ってる事はよくわからなかった。
そもそもお父さんにミュージシャンとして何かしてほしいだなんて思ってないし…
「新しくバンドユニットのプロデュースをする事になったんだ…
今の乱戦のバンド業界でてっぺんを取る為のバンドのな。
だから…まあなんだ…茜のバンド活動を応援できる立場じゃなくなったからこれが最初で最後だ…
気にくわないならあの曲については忘れてもらって構わない。
これからどうするかはお前の自由だからな。
じゃあ、俺は会社戻るわ。
あとはミナちゃんよろしくな。」
「ちょ…ちょっと…」
あまりの事にぽかーんとしてしまっているわたしのかわりにミナさんがお父さんを呼び止めてくれた。
でもお父さんは振り返ることはなくそのままドアを閉めて出ていってしまった。
「まあ、あいつらしいっちゃあいつらしいわね…
茜ちゃんはあたしがしっかりマネジメントしていってあげるから心配しないで?」
まるで嵐が過ぎ去るかのようだった今までの出来事を頭の中で整理して居たらミナさんが慰めとも激励とも取れる言葉を言ってくれた。
「ありがとうございます。わたしもお父さんが連れてくる人達に負けないくらいになりたいです。」
わたしはあえてミナさんの言葉に元気をもらったかのように返した。
そうする事でわたしもこの人の下で芸能人として努力していく決心が強くなるような気がしたから。
「あいつの言ってた事に乗るようなのはとっても癪なのだけれど茜ちゃんはさっき歌ってもらった曲の方がいいと思うしそれが合うのはやっぱりバンド形態だと思うのよ。
だから…最高のメンバーを探して最高のバンドを茜ちゃんが組めるようにあたしも準備させてもらうわね。
まあ、”今のうちは”自分のやりたいメンバーとやりたい音楽を突き詰めるのもアリだと思うわ…
高校生活は短いしとっても貴重な時間だから…少しずつお仕事して芸能界にも自分の身体にも慣れていく為の準備期間だと思えばいいのよ。」
ミナさんもわたしに同調してそう言ってくれた。
まあ、なんだか含みのあるように聞こえないでもなかったけど気にしても仕方ないよね。
「じゃあ、今日はここまでにしましょうか。ちょっと時間過ぎちゃった気はするけどマネジメント陣も連れてランチでも行きましょっか」
「わかりました!わたしお腹ペコペコだったんです!」
ミナさんがそう言って話を終わりにしてくれたからわたしもそれに同調して雰囲気を明るいものにするようにつとめた。
いろんなことが急にありすぎたけど今はわたしにできることをするしかないんだ。
それが今はこの場の雰囲気を少しでも明るいものにすることだと思った。




