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茜色で描く未来  作者: みやしろましろ
茜&緋那 新生活はハツラツに!
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65話 テストと録音

「はい。それじゃー1回目マイクテストも兼ねて軽く行ってみようか。」



わたしはこの前に案内してもらった録音のできるスタジオで一人レコーディングに使うようなゴツいマイクの前に立っていた。



「はい!よろしくお願いします!!」



そう言ってわたしはガラス張りにされた向こうにいるはずのエンジニアの人達とミナさんや喜多山さん以下わたしのマネジメントチームの人達に向かって一礼をした。




『それじゃあ、頭から流すから軽くでいいので下さい。』


なんだかヘッドホンの中からさっきまで話してた人の声が聞こえてくるのは変な感覚だ…


あー。そういえばこの間ラジオをした時も似たような感覚だったなぁ。


そんなことを考えているうちにヘッドホンからイントロが流れ始めた。



流れてくるのはこの間カラオケでも歌ったひーちゃんのヒット曲『バラ色メトロノーム』。



わたしの声域でちょうどよく歌えそうな曲だって事で課題曲に決まったらしいけどわたしが歌えそうだと思って練習していた曲と全く同じだったのはほんと驚いた。



うん。あれだけ練習してきたんだからしっかりやれるはず。



そう心の中でつぶやいてわたしは曲に合わせて歌い出した。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆




「うん。しっかり練習してきたのがよくわかるいい顔をしてるわ。

今回は茜ちゃんの実力を軽く測る程度だからそんなに気負わずに伸び伸びとやってくれればいいわ?」



ついにやってきた歌のテストの日。


事務所に行くとそんな事を言ってミナさんとすみれさんと壮一さんが出迎えてくれた。


そうは言われてもこの間見た本格的なレコーディングブースみたいな所で歌うのは初めてだから緊張しないわけがない。



「とりあえずブースに向かって準備しましょっか。

それと今日の服装しっかり可愛いわよ?

この間言ったポイントを掴んでてとってもステキだわ。」


少し硬くなってしまっているわたしを解す為なのかわからないけどいつもより少しだけベタベタしながらそう言ってくるすみれさん。



「そう言ってもらえると嬉しいです。」


そんな風に話しながらわたし達はこの間見せてもらったレコーディングスタジオみたいなところへ向かう。



「よろしくお願いしまーす。茜ちゃんお連れしましたー。」



「よ、よろしくお願いしますっ!」


部屋に入る時にすみれさんが元気よくそう言ってくれたおかげでわたしも続いて挨拶することができた。



こういう部屋に入る時はきっとこうするのが当たり前なのだろう。



「それじゃあ、茜ちゃんが準備をしたら早速始めようかしら。」



わたしの後ろから入ってきたミナさんはいかにも社長さんらしい貫禄でソファに腰を下ろしながらそう言った。



「了解でーす。」


「ほんじゃやりますかー。」



そう言った声が機械をいじってたスタッフさんから出るあたりどちらかというと実態は女船長とかそんな感じに近いのかもしれない…。



「それじゃあ茜ちゃんはそっちのブースの中で準備してもらおうかな、正輝!ブースの中の説明とマイクの調整してやってくれ!」



ミナさんがソファに腰掛けて書類に目を通し始めるのを待ってミキサーの前に座ったいかにもエンジニアって感じのおじさんがそう言った。



「それじゃあ案内するよ。」


そう言って正輝さんが窓を隔てた向こう側に続く扉に手をかけて手招きしながらそう言った。



「はい!」


わたしはそう言って正輝さんの後に続く。



「それじゃあ、まずはそこの壁にかかってるヘッドホンをつけて?」



部屋に入るなり正輝さんはそう促した。


私は促されるままヘッドホンをつけた。


「そうしたら、そこのマイクの前に立って?


そうそう。うーん。高さはこのくらいでいいかな?

どう?マイクの位置に要望があれば聞くけど?」


ヘッドホンをつけたわたしにまるで耳打ちするかのような距離で正輝さんはそう言った。



「ひゃんっ!」


思わず変な声を出してしまった…



「あ、ごめんね。

別にそういうつもりじゃなかったんだ。

ヘッドホン外してもらってからの方が良かったよね。」


正輝さんは驚いてヘッドホンを外したわたしに顔の前で手を合わせて謝ってくれた。


「いえ、ちょっと驚いただけなので…

それとわたしこういうマイク使うの初めてなので高さとかよくわからないです…」



わたしは本音でそう言った。



「それじゃテストしながら調整していくから正輝そっちに残しておくな」


どこからか聞こえたその声がすこし離れたガラスの先にいるさっきのエンジニアっぽい感じの人のものだと気がつくまでに時間がかかってしまった。


さっき向こうからこっちをみた時は見えてたのにこっち側に来てみると案外向こう側の顔とかが見えない。


なんて言うか向こうの表情が見えないってだけで 不安になってくるから正輝さんをこっち側にいさせてくれたのは素直に嬉しい…


「それじゃあすこし声を出してみようか。ヘッドホンつけてもらってもいいかな」


正輝さんが視線に入っているのを確認して今度はさっきみたいにならないように周囲に気を配りながらヘッドホンをつけた。



『それじゃあ、軽く発声練習でもするつもりで声を出してごらん。』


そう言われたわたしはいつもやる様に発声の練習をしてみる。


ヴォイストレーニングとか受けた事ないから完全に自己流だしプロの人から見たら何だこれって感じだろうしそもそも今の体と声に合った方法じゃないからあんまり意味はないんだけど…


でも今までずっとやってきた方法だから不思議と落ち着いてくる。


「うん。マイクの位置はそんなもんで大丈夫そうだな。

正輝ー。戻ってきていいぞ」


すこしの間発声練習を続けていると今度はヘッドホンからじゃなくってお部屋のスピーカーからそう声が聞こえた。


「わかりました!」


正輝さんはそう言って戻っていこうとする。


「あのっ!あ…ありがとうございました!」


わたしは気がついたら正輝さんにそんな言葉をかけていた。


「おう、ぜひ頑張ってね!」


正輝さんはバイトの時によく見た頼もしい感じでそう言って向こうの部屋に戻っていった。


よし…わたしも頑張らなくちゃ!



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「うーん。まあ、正直全然合格点ではあるわよね…」


「そうですね。まあ、社長が期待しすぎだったんじゃないかとは思いますけどね…

正直素人さんのアイドル路線ならこんなもんですよ。」


茜ちゃんがブースで歌っている間、社長とミキサーのヤマさんはそんな会話をしていた…



俺は茜ちゃんの歌はすごい上手だと思うしこの歌を聴いて何だか微妙な反応を示している社長は一体どれだけ彼女に期待していたのだろう…


だって雪菜ちゃんや緋雪ちゃんの妹さんだとはいえただその見た目で世間に騒がれただけの普通の女の子じゃないか…

まあ、正直見た目の可愛さは絶世の美少女といった形容がピタリと当てはまるほどの容姿だけど…



この娘にアイドルとかモデル以外の何を求めようって言うのだろう…



ガチャ…



「おーやってるじゃねーか。

ミナちゃん、葬式以来だなぁ…」



いきなりドアが開いたと思ったら何だかラフな格好のおじさんともお兄さんとも言い難い男が部屋に入ってきた。


入ってきた男は社長に対してそんな口を聞きながら社長の座る隣にどかっと座った。


その行動を誰も咎めないあたりこの人はもしかして何らかの偉い人なのだろうか。



「あんた一体どうやって入ってきたわけ?」


社長の第一声はそれだった


俺はその声を聴いて意外感を感じ得なかったけど周囲の反応は僕とは全く逆のもので社長に対しての呆れみたいな感じが強かった。



「ミナさん…この人にそんな常識は通用しませんよ…

しかも一応この会社の設立にも関わった人なわけですし…」


社長のそんな反応にいち早く反応したのはヤマさんだった。




ヤマさんのそんな言い草から察するにこの男はおそらく偉い人なのだろう…


それこそ茜ちゃんの本当の所属先のk'sプロの人だとか…


それにしては社長のあの反応はおかしいな…



「アカヤさんそれにしてもどうやってこの事を嗅ぎつけたんです?

それこそ今はフリーランスのプロデューサーだったんじゃないんですか?」



「そもそも論だけど俺こいつのオヤジだからなぁ。

あとよ、この間から俺またk'sプロの役員になったから所属タレントのスケジュールくらいたやすくわかるぜ?ヤマちゃん。

まあ、ここに入ってこられたのはその肩書きとあとは人徳ってやつだな」



ヤマさんのまるでこの場にいる人たちの気持ちを代弁するかのような問いかけにアカヤと呼ばれたこの男は今現在も必死に歌っているガラス越しの茜ちゃんを指差しながらそう言った…


ん?今ヤマさんこの人のことアカヤさんって呼ばなかった?


アカヤってまさかあのアカヤ?



この業界じゃ知らない人のいないような超有名プロデューサーアカヤだっていうのかよこのオヤジ…




「人徳ってどうせ受付してたのがたまたま梅ちゃんだったとかでしょ?」


社長はいつもの威厳たっぷりなセレブリティな感じはすっかり顔を潜めてしまってまるで昔仲よかった男の人にでも見せるかのような表情でアカヤと呼ばれた男に食ってかかる。



「いやーそんなことないって。まあ、梅ちゃんを受付の女の子が呼んでくれたから入れたようなものだけどな。


まあ、そんなことはどうでもいいとしてこいつのテストこっちの曲でもやってやってくれねぇか?

そしたら面白いものが見られると思うぜ?」


そういってアカヤと呼ばれた男は社長のツッコミを軽く受け流してヤマさんに一枚のCDを投げ渡した。



「これって?」



「またどうせ娘のためにとかいって一曲書いてきたとかじゃないでしょうね?」



そう言って少し呆れたように社長がそう言った。


あ、あのアカヤって言ってもそういう娘バカな所があるんだな…



「あれは緋雪だったからやっただけだ。

今回はそんなことはねーよ。あいつに合った曲を見繕ってきただけだ

あ、あと俺がここに来たってことはあいつには内緒にしといてやってや

あいつの集中が切れたりしたら悪いからな。」



「はあ、まあ好きにしなさいよ。

ヤマ。茜ちゃんに説明して歌詞カード渡してきてちょうだい。

しばらく練習したらテスト再開するって伝えておいて。

それとこの男のことは内密にね」



「了解です。」


社長の鶴の一声を聴いたヤマさんはアカヤ(本当か?)に渡された歌詞カードを持って茜ちゃんの方に行ってしまった。


茜ちゃんのところに行ったヤマさんはうまくぼやかして説明したようで茜ちゃんも渋々といった感じだけど特に何か疑う感じもなく受け入れてくれたみたいだ。




「それじゃあ、何回か通しでかけてみるからあんまり時間取れないけど練習しちゃってください。

一応こっちではモニターしないでおくから準備良くなったら手をあげてください時間がギリギリになったらこちらから声をかけるので」



こっち側に戻って来たヤマさんはすぐに卓のまえに座ってマイクで向こうの茜ちゃんに指示を出していた。


こっちでモニターしないっていうのはそれで緊張して練習に身が入らないっていうのを防ぐためっていうのとこっちも練習の過程を聴いてしまってそのイメージにの引っ張られないようにする為らしい

一応茜ちゃんの今の完成度を見る為っていう口実があるからだとしてもそこまでしなくてもいいんじゃないかって気はするけど…



だってほら…いきなりの事で混乱しちゃってるみたいじゃないか。

少しくらいこっちから方向性くらい示してあげてもいいんじゃないだろうか。


そんなことを考えてるうちに茜ちゃんの準備が整ったみたいで茜ちゃんの右手が自信なさげにあがった。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「よし。まずは一回曲を聴いて感じを掴まなきゃ…

なんだかさっきの曲とは違ってロックで激しい印象だなぁ…

こんな感じはむしろ上手くノせられるからわかんないなぁ…」



いくらモニターされてないとはいえこんな呟きが溢れるなんてダメだなぁ…



一応課題曲のバラ色メトロノームを歌いきって暫くした頃にミキサーの人がこっちに来たかと思えば他のパターンも見てみたいとかなんだかでこっちも歌って欲しいって歌詞カードを渡しにきた。



わたしはいきなりの事に少し驚いてしまってなんだかよくわからないまま了承しちゃったけどこれって一体どういう意味なんだろう…



他のパターンが見たいって事はそれだけ出来がよかったって事かな…


いや、逆の線の方があるだろうなぁ…


あまりに歌い方とかが違ったとか…



いけないいけない。


そんなことばっかり考えてないで今は目の前の新しい課題曲に集中しなきゃ。



うーん。なんて言うか結構うろ覚えだしなんだか声出しづらいなぁ。


あ、でもサビあたりとかはやりやすいかも…



なんて言うかこの曲の方が今までやってきた音楽にあってる気がする。



ちょっと調子出てきたかも。


うん。結構歌いやすいじゃん!



2回くらい全体が通ったところでなんとかエンジンがかかってきた。



最後の調整にじゃないけど音を聞かないで通してみていけそうだって確信したから自身はないけど手を挙げた。



この勢いを殺さない為にも掴めてるうちにやるべきだと思うもん。



「それじゃあ、イントロから一通りいってみようか。

まあ、いきなりの事だし間違えたりしても気にしないでいいから。

それじゃあ、4カウントから始めまーす」



ミキサーの人がそう言ったあとでカウントが始まった。


のっけからロックな感じで激しい…



なんだかさっきまでより深く集中できてる気がする。


まるでステージに立ってバンドの演奏で歌っているかのような感覚になってくる。



こうなってくるとわたしはもう自分を止められない。


正直ここまで気持ちよく歌えそうになってしまったらまたあかちゃんのお世話になるであろうことは必至だけどもうそんなことはどうでもよく感じてる。




ああ、ごめんなさい…


せっかくのテストだったのにこんな結果になるなんて…


まあ、でもここまで気持ちよく全部出せるのならばいいか。



あれ、なんでわたしこんなに気持ちよく歌えてるのにこんな状態になって言ってるんだろう。



だんだん感覚が遠のいていくのはわかっている…でも歌うことだけは止めることができない…


いや…、しないのか…



まあ、どうでもよくなってきたけどここまで歌ってて楽しいのは久しぶりだ…


ああ、最後のワンスレーズ…



あ、終わっちゃった…



ドスン…



またわたしは同じ過ちを繰り返してしまった。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



この場にいる誰もがその歌に聞き惚れていた…



彼女の一挙手一投足がだんだんぎこちないものになっていくのも気にならないほどには全員がその歌声に度肝を抜かれていたのだ。



ドスン…


そして曲が終わると同時に彼女の華奢な身体は崩れ落ちた。



「「!!」」


その歌声の余韻に浸っていたこの場の空気が一気に凍りついた。



最初に動き出したのは意外にもアカヤと呼ばれた男だった。



まあ、よくよく考えれば大事な娘なわけだし無理もない。


間髪入れずに社長がアカヤ(仮)についていく。



その社長の姿を見てやっと僕らも茜ちゃんのマネージャーさん達も社長の後に続いてブースまで入る。



「んっ…んん…」



僕らが狭いブースの中に入る頃には茜ちゃんは自称アカヤに膝枕をされて介抱されているようだった。



幸い意識はあるようでさっきからアカヤ(仮)とボソボソと会話をしているようだった。



その様子を見て後から入ってきた僕たちはほっと胸をなでおろした。




「とりあえず社長室のソファで休ませるわ。こいつと私が運ぶからヤマと正輝はスタジオの片付け。出向組の二人は茜ちゃんの主治医の先生に連絡を取ってもらっていいかしら。」



「「「「はい!」」」」


社長の的確な指示で場の空気は一気にせかせかしたものに変わった。



正直僕らの仕事は時間は押してないからせかせかする必要はないと思うけどそれでもなんだかそうしてしまう。



「なぁ、正輝。正直あの子の歌、どう思った。」


みんなそれぞれの仕事をしに部屋から出ていってヤマさんと二人で片付けを始めたあたりでミキサーを拭いていたヤマさんがそんなことを言い始めた。



「え?そりゃあ声すら出ないってああ言うことを言うんだなぁって…それくらい驚きましたよ。」



「そうだよなぁ。あの声であの歌い方…

確かに声の重さとか厚みみたいなのは少し足りない気もするけどそれを補ってあまりある歌と声の強さ…

あんなの磨いたら絶対光るに決まってる。


ただなぁ…なんか違和感があった気がするんだよなぁ

なんていうか制御しきれてないっていうか慣れきってないって言うか…」



ヤマさんがここまでベタ褒めするなんて珍しい…

でも…ヤマさんが言うほどの違和感は感じなかったからなぁ…


正直僕のレベルじゃ圧倒されるしかなかったしヤマさんの言ってることは全然わからない…




「まあ、俺たちが気にしても仕方ない。

とりあえず俺たちは早くここを片付けちまおう」



「はい!」


そうだよな、別にそんなのは僕達が考えることじゃないよな。



僕はそう言い聞かせて仕事に集中することにした。

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