62話 Blow Up Promotion
2/4 誤字と最後の一部を修正しました。
多少読みづらかったようなので…
『おはようございます。起きてますか?』
「んは…お、おはようございます?
んば…もうこんな時間です?…」
不意に鳴った電話に勢いで出てしまったけどまだまだ半分くらい寝ぼけてるわたしは電話口の相手が誰なのか見当もつかなかった。
『しっかりしなさいね。
あと1時間くらいでそちらに到着するのでしっかりしておくように。
はー。緋雪から朝弱いって聞いてて本当に良かったわ』
電話口の人は到着とかなんとか言ってる…
ん?ひーちゃんから聞いた?
到着?準備!?
あ!この声ひーちゃんのマネージャーさんの喜多山さんだ!!
「お、おはようございます!!
今起きたのですぐに準備します!!」
喜多山さんだって気づいて急激に目が覚めたわたしは布団から飛び起きて姿勢を正してそう答えた。
『あははは。そんなに気負わなくったっていいわよ。
じゃあ、しっかり準備しておいて下さいね。』
プッ…ツー…ツー…
喜多山さんはわたしの反応に笑って答えて最後に念を押して電話を切ってしまった。
「早く準備しなきゃ!!」
電話が切れてすぐ真っ先にわたしは顔を洗いに行くために部屋を出て階段を駆け下りた。
「えーと。顔洗ったら洋服決めて。着替えたら髪の毛。余裕があればちょっとだけメイク…一人で出来るかな…」
わたしは洗面所で顔を濡らして洗顔を手に取りながらこのあとやる事を順番に並べてみる。
「スムージー作ってあげるからそれくらいは飲んでいきなさいね?ってまあ私もついて行くから二人仲良くスムージーなんだけど…」
雪ねぇ…違った。お姉ちゃんがひょっこり洗面所に顔を出してそう言った。
そっか。いつもならお姉ちゃんが起き出してくる音とアラームとで起きるのに今日はお姉ちゃんもお寝坊さんだったから最近にしては珍しく寝坊しちゃったわけだ…
(まあ、大方の原因は昨日の夜更かしだろうけど…)
「んー。ありがと。わたしセロリ入ってたらやだからねー。」
「はいはい。セロリ美味しいし美容にもいいのになー。」
わたしは化粧水(お姉ちゃんの)をお肌にペチペチしながらお姉ちゃんにそう要望を飛ばした。
お姉ちゃんも文句言いながらだけど要望に応えてくれそうだ。
よかった。わたしセロリのあのクセの強い感じニガテ…
「あ、あーちゃん今日は時間ないみたいだからメイクはガマンしてね?」
「わかってるぅーー。それにお姉ちゃん起きてこなくて余裕があったら自分でやってみようと思ってたくらいだから大丈夫ーー。」
お姉ちゃんにそう返すとお姉ちゃんはキョトンとした顔をしてしまっていた。
「そんなにお化粧も覚えたいっていうなら今日わたしのメイクしてくれてたスタッフさんに聞いて教えてもらえるように言ってみるわ!!!
帰りに教えてもらった道具も買ってくればいい話だしね?」
一転嬉々としてまくし立ててくるお姉ちゃん。
わたしがしっかり女の子する為にお金とか出てる事を知ってるからかお姉ちゃんは軽くそう言った。
そんな事に使うなんて…
『国からの助成金は茜ちゃんが可愛く女の子する事にいち早く慣れる為のお金だからね。しばらくしたらもらえなくなっちゃうんだからお化粧とか美容院とかお洋服とかにしっかり使っちゃっていいのよ?
私の時なんて足りなくて困っちゃったくらいだもの!』
ふと楓さんのそんな言葉が頭によぎった。
そっか。今のうちに買って慣らしておかないとだよね…それにわたしはこれから芸能人になって人前に出るお仕事をしようっていうのにお化粧すらできないなんて恥ずかしいもんね。
「そうだね!!
そうなったらお姉ちゃんも一緒に買い物ついて来てね?」
「もちろんよ。」
こうしてわたし達はお仕事のお話以外にも今日の目的を作ってしまった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「おはようございます。」
「おはよー!」
「おはよう。」
喜多山さんから連絡をもらって家の外に出ると喜多山さんとすみれさんと壮一さんが三者三様の挨拶で出迎えて?くれた。
「おはようございます。
今日はよろしくお願いします!」
わたしもさっきの電話口のわたしとは打って変わってしっかり挨拶をした。
ちなみに喜多山さんも一緒なのは一応わたしのマネジメントチームのチーフが喜多山さんだからだそうだ。
「それじゃあ。行きましょう。
アカヤさんと葛原さんは別件で今日は来れないそうなのであまり緊張しなくてもいいですからね。」
そう言う喜多山さんは厳しくも優しく見守ってくれる学校の先生みたいでなんだか少し安心した。
なんて言うんだろ…
親戚のおばさん…って言ったら失礼だな…
親戚のお姉さんみたいな優しさとお母さんみたいな暖かさを感じる…
さっちゃんと小悪魔せんせー(国広先生の事)を足して2で割ったような…
「お姉様はどうしますか?
ブロウの所属だそうなので別で来る事も出来ると思いますが…」
わたしにひっついて出てきたお姉ちゃんに遠回しな言い方で喜多山さんが着いて来るのかと聞いた。
こう言うところ女の人って怖い…
「わたしも保護者の代わりとして挨拶をさせていただこうと思っているので同行させてください。」
こう言う腹の探り合いは負けないといった感じでお姉ちゃんはまるで気づいてないかのように返してた。
やっぱりこう言う裏のあるやり取り見たいなのって女の人の方が壮絶そうだなぁ…
「それじゃあ、行きましょうか。」
「はい!」
喜多山さんがそう促すのでわたしは元気よく返事をして壮一さんがドアを開けて待っててくれたちょっと高そうな車に乗り込んだ。
こうやってエスコートしてもらえるとお姫様気分って言うかなんだか自分が偉くなったように勘違いしてしまいそう。
「それじゃあー出発しんこー!!」
全員が乗り込んだところですみれさんがそう言った。
何て言うかムードメーカーな感じで雰囲気が和む。
ちなみに壮一さんが運転席で喜多山さんが助手席。
後部座席はわたしの右隣にすみれさん、左隣にお姉ちゃん、わたしは真ん中だ…。
真ん中って事故ったら危ないとか…
「そうなったらアタシが守ってあげるから大丈夫よ?」
そんなことを考えてるとすみれさんがまるでわたしの心を読んでるかのように言ってきた。
「そうならないから心配しなくていいわよ」
喜多山さんもおんなじように心を読んだかのような発言を笑いながら返してきた。
やっぱりわたしってそんなわかりやすい?
そんな疑念でもやもやしながらわたしは車に揺られるのだった。
しばらくすると車は住宅街を抜けて駅ビルがあったりデパートがあったりするこの辺で一番の繁華街に差し掛かった。
「あ、そこのビルの先左折してください。
すぐの機械式がうちの駐車場なので。」
事務所に近くになってきてこの辺の地理に明るいお姉ちゃんが近道とかを案内していたところ、さして綺麗でも汚くもない、よくありそうなビルを指差してそう言った。
お姉ちゃんの指示通りに壮一さんが車を進めるとビルの側面側になんだかヘリポートのように地面に丸が書いてあるところがあった。
知ってる。車がなんか機械の中に収納されてくやつだ。
なんだかこういう駐車場ってSFみたいな近未来な感じがしてカッコイイ。
その丸いところに難なく車を入れると警備員らしき男の人が声をかけてきて何やら壮一さんと話していた。
警備員さんが備え付けの電話で何かを確認して戻ってくるとわたし達は車を降りるように指示された。
壮一さんは車を入れるからって言って残ってしまったけどわたし達はそのまま警備員さんが開けてくれた扉から中に入るように言われたので先導するお姉ちゃんに続いてみんなで中に進んだ。
「いらっしゃい、お葬式の時以来ね。
歓迎するわ、茜ちゃん。
それと、久しぶりね…
キタちゃん。」
Blow up Promotionと書かれた扉を開けるとミナさんが待ちかねていたといった感じで口を開いた。
「そうね。また一緒に仕事ができて嬉しいわ。
よろしくね。ミナちゃん。」
「ええ、よろしく。」
そんなミナさんに対して喜多山さんは懐かしそうな感じで握手を求めてミナさんもそれに返していた。
「あっ…えっ…よ、よろしくお願いします。」
流れからかミナさんがわたしにも握手を求めて来たのでわたしはどもりながらもそう返してミナさんの手を握った。
「それじゃあ、中でゆっくり説明させてもらうわね。」
そういってミナさんがわたし達を扉の中に招き入れた。
扉の中はなんて言うかこじんまりとしてるけど昨日行ったk'sプロとさほど変わらないような雰囲気があった。
ただ大きな違いはオフィスらしきところにあるデスクの数だ…
k'sプロはそれ専用の部屋で沢山のデスクが並んでいたけどここは応接室みたいなソファとか給湯室とかがワンフロアにあってデスクも4.5個しかなかった。
なんて言うかk'sプロと比べるのはとても申し訳ない気がしたけどこじんまりとしてるなぁって思ってしまった。
でもお姉ちゃんが事務所に入るなりオフィスとは反対側にある休憩スペースみたいなところでお茶を入れてお菓子を食べ始めたのを見てなんだかその奔放さとそれに誰も何も言わないアットホームな感じに少し安心感を覚えた。
「じゃあとりあえず雪菜は置いておいて契約の話をしに行きましょうか。」
「えー。私も同席するつもりで来たのにぃ。」
「あんたはまずはスケジュール確認するのが先よ。」
そう言ってミナさんは文句たらたらなお姉ちゃんに書類を押し付けた。
「はぁい。」
そう言ってお姉ちゃんは半ば渋々さっきのスペースに戻って書類に目を通し始めた。
「じゃあ、あたし達はこっちで。」
そう言ってミナさんは珍しく別の部屋になっているところの扉を開けた。
「それじゃあ、そっちにかけていただきましょっか。」
そうミナさんに促されたので全員でミナさんに促された側に座ろうとしたらわたしだけミナさんに引っ張られてミナさんの隣に座らされてしまった。
「茜ちゃんはこっちよ。
それじゃあ、詳しく話を聞かせていただきましょうか。」
そう言ってミナさんは少し怪訝そうな表情をしてそう言い放った。
「昨日電話でお告げした通りですがそちらの宮代茜ちゃんのプロジェクトについて協力をしていただきます。」
「はー。貴女達ねぇ。いくら一応電話でその話をあたしが了承したとはいえいきなりすぎるのよ。
グループ企業の奴らに放るとかならまだしも…」
なんて言うかこういうお仕事のやり取りの現場に放り込まれたのって初めてだからほとんどわたしは蚊帳の外なのになんだか緊張して来てしまった。
「大事な茜ちゃんをそんな訳のわからないところに放っていいと?」
「茜ちゃんだったからこそ受けたのよ?この話。
そうじゃなかったらお断りしてるわよ。」
ちょっと悔しそうな表情を浮かべるミナさん。
「今日に関しては色々細かいところも詰められたらと思って馳せ参じさせていただいただけよ。
それと茜ちゃん本人とこの子達の挨拶もさせていただこうと思ってね。」
こちらは少ししてやったりな表情をしている喜多山さん。
「k'sプロダクションから来週よりこちらに出向させていただます。桜庭すみれです。」
「同じく竹内壮一。」
喜多山さんが目配せをすると二人とも堅苦しい感じの挨拶をした。
「いいのよ。そんなに堅苦しくしなくて。
どうせこの期間が終わってもうちには出入りすることになるだろうしいい関係を気づきましょ?」
そう言って軽く含み笑いのような表情でミナさんは二人に握手を求めた。
「ええ。」
コクッ。
二人ともミナさんに同調して握手を返した。
「それじゃああたしとキタちゃんで色々打ち合わせをしようと思うから3人は誰かに案内してもらって色々見て回ってくるといいわ。」
そう言ってミナさんが奥の重厚な机に置いてあった呼び鈴みたいなものを押した。
トントン…
「どうぞ」
「お呼びですか?社長。」
礼儀正しくドアをノックしてやって来たのはわたしやお姉ちゃんとほぼおんなじくらいの年代の…むしろ下に見えるくらいの男の子?男の人?が入ってきた。
…ん?なんか見たことあるなぁ…
「この3人に事務所の中を案内してあげて?
この子はうちの新人の藤野正輝。最近バイトで採用したばっかりだからこき使ってあげて?」
とうの…まさき?…
聞いたことあるような……
あっ!!!
バイト先の先輩の正輝さんだ!!
確か日向と仲良かったチーフの人だよ!!
「お願いね。」
「色々教えてもらえると助かる。」
「はい。よろしくお願いします。
ではこちらへ。」
わたしがそんなことを思い出してるとやりとりが進んでしまっていた。
「あの、よろしくおねがします!」
「ああ、よろしくね。」
そういって微笑む顔はお仕事を説明してくれるの時の正輝さんそのものだった。
「じゃあ、いきましょうか。」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「ここが最後ですかね。
一応ここが所属の方達用のスタジオですね。
そっちのAスタBスタが普通のリハスタでCスタがゲネプロとかをするのに使う広めのスタジオですね。
そして、このDスタがレコーディング用のスタジオですね。」
色々この事務所の中を案内してもらって最後に案内してもらったのが一つ下のフロアにあるスタジオだった。
「ビルの上の方のフロアにスタジオがあるのってなんだか違和感ですね。」
わたしはなんとなくそんなことをこぼしてしまった。
わたし達の使ってるスタジオとかあとこの辺のスタジオはほとんど地下か一階フロアにあったから少し変な気分がしてしまったのだ。
「そうですね。本当なら地下に作った方が良かったと思うんですけどね。響きとかも違いますし。
でも駐車場があるから出来なかったそうです。
ちなみに東京支社の方は地下にしっかりとしたスタジオとレコーディングスタジオが併設されてるので本当に本格的な録音をするならそっちをオススメしてるそうです。
それでもここも防音もしっかりしてますしそこまで遜色はないと思うんですけどね。」
正輝さんがわたしの疑問に的確に答えてくれた。
「正輝さんって音楽とか詳しいんですね!
わたしも防音とか響きとかどうなんだろうって思ってたので。」
「まあ、人の受け売りですかね。
僕自身はそんなに"違い"はわかりませんから。」
わたしの渾身の探りも全然気付かずにスルーされてしまった。
なんていうか正輝さんがうちのバイト先をやめて他でバイトを始めるなんて未だに信用できなかったから。
なんて言うか未だに本人なのかまだ疑ってしまってるところがある…
同姓同名のそっくりさんとか…
双子の弟さんがいてとか…
一緒に仕事してた頃はPAさんとかスタッフさんにものすごい信頼されてる人だったからてっきり音楽とかバリバリにやってて詳しい人なんだと思ってたけどどうも違ったみたい。
これじゃあ探りも意味なかったかなぁ。
「それじゃここであらかた終わりなので戻りましょうか。」
そう言って正輝さんはスタジオフロアの防音扉を開いた。




