50話 出発!!
「ふぁぁぁ」
昨日あかちゃんと入れ替わってからすぐに心の部屋で寝てしまったからまだ心の部屋の中かと思ってあたりを見渡せば見慣れたわたしの部屋だった。
「ってまだ6時じゃん。」
その割にはよく目が覚めてるような気がする…
昨日早く寝ちゃったからかなぁ…
とりあえずあかちゃんと入れ替わった後の日課となっている日記の確認をして昨日あの後どうなったのかを確認した。
「ええ〜。絶対こんなの嘘だって。
だってわたしの歌あんなのだったんだよぉ?
ささやくような細い声とか甲高く響く高音とか全然ダメだったじゃん…なんか納得いかないなぁ…」
あかちゃんの日記に書いてあったお父さんとかひーちゃんのコメントはどう考えてもないって…
それにどういう評価だろうとわたしが納得できないならそれはわたしの音楽じゃないし納得できない音楽をやるほどわたしはバカじゃない…
さっ、学校行く準備して制服をベッドの上に準備する
一昨日も思ったけど生理が終わってからというものわたしの部屋がだいぶ女の子な匂いに変わってきてるなぁ…なんて思いながら制服に着替えようと寝間着のパーカーを脱いでキャミソールを新しいのに変えた。
「ってそう言えば今日は学校休むんだった。」
今日と明日は学校を休んでお葬式の為にお父さんの実家に帰ることを思い出して手に取ったシャツをシワにならないように制服をかける用のポールに戻してお仕事でもらったダボダボのフェスTに着替えた。
さすがにTシャツだけだとあれだから部屋着用のパーカーに着替えるけどすぐ出るのかそれともちょっと時間があるのかわからないからこのまま出られるようなパーカーを選んだ。
さすがに6時に家を出るなんてことはないだろうからあんまり時間をかけないようなご飯を作ることにした。
「うーん…あんまり材料がなぁ…」
冷蔵庫を覗いてみてもあまり食材がないし当たり前ではあるけどご飯も炊けていない…
となるとパンとあとは簡単なサラダとスクランブルエッグとかになっちゃうなぁ…
まあ、いいか。あるだけありがたいしなかったら行く途中で食べるから良かったのにとか言い出しそうだもんなぁ…お父さんとか特に…
そうすると移動しながら食べれるやつの方がいいのかなぁ…
朝だしあったまる奴もありだなぁ。
でもお野菜も取りたいしなぁ…
そんなことを考えながら手を動かしているといつの間にか出来上がっていたのはポーチドエッグサンドとチーズとハムのホットサンドとコールスローサンドだった…
「あれ?わたしこんなに気合い入れて作ったっけ?」
「あーちゃんほんとに料理するの好きだね。
私が降りてきたのに気づかないくらい夢中になってたみたいだし」
「そ…そんなことないって…考え事してただけだよ…」
「まあ、私はあーちゃんがお料理大好きでいてくれた方が美味しいご飯にありつけて嬉しいんだけどね」
「そう言えば今日何時くらいに出るとかお父さんから聞いてる?」
雪ねぇの普通に嬉しそうな顔を見ながらわたしは思い出したようにそう雪ねぇにきいてみた。
「えーっとねぇ。明確に何時頃かは言ってなかったけど朝ごはん食べたら出るとか言ってたよ?
そういえば服とかどうしよう?本当なら制服を着るべきなんだろうけどうちの学校の制服はアレじゃない?」
「わたしは制服を着るべきかなぁって思ってたんだけど…特にわたしは女の人の正装とか知らないし…お母さんのお葬式の時は男だったもん…」
そう言ってダイニングテーブルに座って電気ケトルのスイッチを入れる雪ねぇをみてわたしは雪ねぇのマグカップとコーヒーサーバーを準備してそう返した。
ついでにわたしのも準備しちゃおう!
わたしは牛乳いっぱいのカフェオレだけど…
男の時はしっかりコーヒー好きだったのにこの身体になってからというものコーヒーがとっても苦く感じてブラックでは飲めなくなってしまったのだ…
「私だって知らないって…それにお母さんのお葬式の時は私達だっておばあちゃんが用意してくれたやつを着ただけだもん。」
「その辺は心配しなくてもいいぞ?
もうレンタル頼んであるから多分今日あたり向こうに届いてるはずだ。」
ウキウキしながら準備をするわたしとそれを見ながらため息をつく雪ねぇという構図を見事に切り裂いたのはお父さんの突然の一言だった。
「あれ、お父さん早いね〜。
っていう事は出るのも早い?」
「って俺がいつもねぼすけみたいな言い方だなぁ…
全く、俺は勤勉な真人間なんだぞ?この時間に帰ってきてるだけでねぼすけな訳じゃない。」
「そっちの方が常人じゃないから。
それより何時に出るつもりだったのよ?」
雪ねぇが鋭いツッコミをキメたあと普通のテンションに戻ってそうお父さんに聞いた。
「んぁ〜…8時くらい?
ふぁぁ〜実際何時でもいいぞ?」
「親父が昼ご飯を一緒に食べたがってるらしいから早く出ようと思っただけだからな。」
現在時刻は6時45分をまわったあたり…
ゆっくり朝ごはんを食べる時間ぐらいはあるわけだ…
「それなら8時でいいわよ。私達はどうせそれくらいには出かけてるわけだし簡単なお泊りの準備くらいすぐできるわよ。」
「そうだね。ご飯早めに食べてお泊りの準備をするくらいの時間はあるわけだし」
雪ねぇの言葉でお泊りの準備を思い出したわたしはそう付け加えた。
「わたし先に準備してきちゃおっかなぁ…
どうせ雪ねぇとかは昨日のうちに準備してあるんでしょ?」
わたしは昨日のあかちゃんと入れ替わった影響で準備できてないけどきっと雪ねぇは準備してあるだろうしお父さんはそもそもそういう準備をほとんどしない人だ。
「確かに私はほとんど準備してあるけどそれならご飯食べたら二人で準備すれば早いじゃない
お泊りに必要なドライヤーとかシャンプーとかコスメとは私がちゃんと持ってるから準備しなくてもいいわけだし二人でやればすぐ終わるよ。」
「確かにそれもそうか…じゃあそうする。
すぐご飯出すから座って待っててね〜。」
雪ねぇの言い分にそう納得してすぐに出来上がっていたサンドウィッチを盛り付けてテーブルに運ぶ。
その帰りにお湯の湧いたケトルをちゃんとキッチンまで持ってきてドリップポットに移し替えて(ほんとはこのやり方をするのは紅茶を淹れる時なんだけどケトルでお湯を沸かした方が早いからこうしてしまった。紅茶は95℃くらいで淹れなきゃいけないらしくて沸騰したお湯は100℃だからこうして入れ物を入れ替えてお湯を少し冷ますのだ。)ドリッパーにゆっくりとお湯を注ぐ。
(茜はこういう紅茶の淹れ方をしてるようですが実際は沸騰したケトルのお湯の温度は95度程度なのでそのまま淹れる方がよっぽど適温で淹れられます。)
お父さんも起きてきたから先にお父さんの飲むブルーマウンテンを先に淹れてしまう事にした。
なんか高級品らしくってお父さんが秘蔵にしていたのを最近になって教えてもらったからお父さんのコーヒーはこれにしてわたし達はいつものキリマンジャロを淹れる様にしてる。
確かに美味しいけどお父さんの楽しみを削るほどじゃないしわたし達じゃ味の違いあんまりわかんないもん。
コーヒーの淹れ方は本格的っぽい感じで淹れるのに豆は気にしないってのはなんだか変な感じだけど仕方がないのだ。
でもお父さんにも美味しいって言ってもらえるくらいちゃんと淹れられてるみたいだし気にする事じゃないでしょ。
そんなことを考えている間にコーヒの準備はできたので全員分のコーヒーを持って食卓に向かう。
「おし、じゃあ食べますか」
「そうね〜さっ、あーちゃんも早く席ついて!」
わたしがテーブルに全員分のコーヒーを置くと二人して待ちきれないと言った感じでそう言ってきた。
「別に先に食べてても良かったんだよ?」
そうは言っても溢れる嬉しさを堪え切れないのは仕方ないよね?…
だってこうやってみんなでご飯を食べることの大事さを実感したんだもん!
「じゃあ、いただきまーす。」
「いただきまーす!!」
「いただきます」
雪ねぇの掛け声にお父さんもわたしも続いてそう言って食べ始めた。
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「んふ〜〜!!美味しかったぁ!あ、ごちそうさまでした。」
「ごちそうさま。茜の料理は本当に美味いな…茜菜より美味しいかもしれないよ。」
ご飯を食べ終わると雪ねぇのいつも通りの嬉しそうな声とお父さんからの褒め言葉が出てきた。
「えへへ〜。そうかなぁ?ありがと。」
なんていうかお母さんと比べて美味しいなんて言われたらどうにも嬉しくなっちゃう。
やっぱり料理は美味しいって言ってもらえるととっても楽しいし嬉しい!
「よし、じゃあ俺はそこでダラダラしながらテレビでも見てるから準備しておいで。」
「うん。食器洗ったらすぐに準備するね。」
「あ!あーちゃん食器は私が洗っておくから先に準備しておいで?」
そう言って雪ねぇが食器を片付け始めたのでわたしはお言葉に甘えて先に準備しに行くことにした。
「ありがとっ。お姉ちゃんっ!」
リップサービスだけど雪ねぇにそう言うと雪ねぇは顔を真っ赤にしてモジモジしてしまった。
なんかこのまま突っ立っていると変態モードになった雪ねぇに襲われかねないのでそそくさと部屋に逃げ帰る事にした。
「…はぁぁ。雪ねぇ顔真っ赤にしてたけどあれあのまま居たらきっと暴走した雪ねぇに襲われてただろうなぁ…」
そんな風に溜息をつきながら洋服を準備し始めたけどこの身体になってから誰かの家に泊まりに行くなんて初めてだしましてやこの身体になって初めて会うおじいちゃんおばあちゃん家に行くなんて考えたらどんな服を着たらいいのか全くわからなくなって来た…
「はぁぁぁ、どんな服着て言ったらいいんだよぉ…」
「どんな風におじいちゃん達に見られたいの?
それがわかれば自ずと答えは出るって!」
「ひやぁぁぁぁぁっ!!って雪ねぇじゃん。」
完璧気が緩んでたわたしは急に雪ねぇの声がしたので変な悲鳴をあげてしまった。
「もーっっ!驚かせないでよっ!」
「あははっ。ゴメンね?
で、あーちゃんはおじいちゃん達にどんな風に見られたいの?昔のまま?それとも新しく女の子になった姿?それとも自分らしい姿?」
最後の雪ねぇの言葉になんだか胸を刺された…
そうだよね。わたしらしく居ればいいじゃん!
わたしが着たいと思ったもの、わたしがいいと思ったものを着ればいいじゃないか。
「そっか。雪ねぇありがとね?やっぱりわたしらしくなきゃダメだよね。」
「うんうん。その意気だね。じゃあ私下着とかタオルとか用意しちゃうからあーちゃんはそのまま服選んで用意しちゃいな?」
「そういえばカバンとかどうしよ…」
「大丈夫よ?ちゃんとかわいいボストン用意してるから!ほら!」
そう言って雪ねぇが取り出したのは下が黒くて上半分が赤くて小さくはじっこぐらしのキャラが所々にプリントされたファンシーなボストンバックだった。
「うわぁぁっ!!はじっこだぁぁ!
ってそうじゃなくって!!これはさすがに恥ずかしいって…」
バックの可愛さについテンションが上がってしまったけどすぐに冷静になって天然物のノリツッコミをキメてしまった。
「大丈夫よぉ。遠くから見たら水玉とかにしか見えないわけだしそれにあーちゃんなら似合うわよ!!」
「ぐぬぬ…確かにそう見えなくも…
まあどうせこれしかないからこれにするんだけど…」
そう言って雪ねぇからバッグを受け取ってスリスリしたい気持ちをなんとか押し込めて選んだ洋服をきっちり畳んでバッグに入れ始めた。
「ぐふふふ…あーちゃんの天然物パンツ…」
静かに荷物を整理していたら雪ねぇがそんなことを口走った。
「いやぁぁぁ!!ちょっと何やってるのさっ!!」
嫌な予感がしたからパンツとかが入ってるタンスで作業している雪ねぇの方に振り返ってみるとわたしのパンツを1つ手に取って…あろうことか匂いを嗅いでいた…
慌てて取り返しはしたけど匂いを嗅がれてしまった事実は消えない…はぁ…もうこの人に洗濯とか任せるの怖くなってきちゃった…
「そんなに焦らなくたって洗濯してるのわたしなんだしあーちゃんの知らない所でこれくらいいっぱいできるわよ?もちろん使用済みだって…」
「うみゃぁぁぁ!!最悪!!いくらお姉ちゃんでもそこまでやったら犯罪だよ!!もう雪ねぇに洗濯たのめなくなっちゃうじゃん!!」
そう言って出来るだけ雪ねぇから距離をとって咄嗟に胸と大事なところを手で隠すような仕草をしてしまう。
なんていうかこんな時にこんなことを考えるのもあれだけどしっかり反応まで女の子になってきてしまってるのがなんだか複雑な気分…
「そこまでしなくてもっ!!…
ゴメンね?ほんとはそんなことしてないから。
安心してくれていいんだよ?今のもなんて言うかネタみたいなものだから。」
(そうそう。本当にしてないんだよ?ちょっとだけしかしてないんだよ?)
そう言って雪ねぇがにじり寄ってきたから少し後ずさりしたけどさすがに雪ねぇでもそんな事はしてないとわかったので許してあげる事にした。
(あーちゃんは全くやってないと思ってるみたいだけどまあいっか。毎日10秒くらいだからやってないと一緒だよね?)
「じゃあ準備もできたことだしそろそろメイクとかしないとお父さんが痺れを切らしちゃうよ。」
「お父さんそこまでせっかちじゃないでしょ。」
「「あははっ!」」
そんな感じで雪ねぇと喋りながら階段を降りるとそこにはなんかカチッとキメたお父さんが玄関に立っていた。
「…お父さんどうしたの?ゴメンね?まだメイクとか髪の毛とかやってないからもうちょっとかかるよ?」
雪ねぇがそう言うと少しショボンとしてしまったお父さんだけどキチンとした格好だからかなんだか少しカッコよく見えてしまう…
「お父さんゴメンね?すぐに準備するから。」
「いや、大丈夫だよ?お父さんちゃんとここで待ってるからな。」
(なんて言うか茜すごい可愛いな…娘だからか茜菜に似てるからかよくわからないけどもう可愛くて仕方がなく見える…)
「お父さん鼻伸ばしちゃって…キモいよ?」
雪ねぇがお父さんの顔を見てそんなひどいことを言ったけどお父さんはちょっとだけ悲しそうな表情を見せた後にボソッと「いいもん。茜がいればいいもん…」なんて呟いてたからさすがにわたしもキモいと思った…
まあ、口には出さないでおいたけど…
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「「お父さんゴメンね〜!」」
二人でリビングで待つお父さんに可愛らしくそう言うとお父さんは一瞬だけニヤニヤしたけどすぐに顔を戻して立ち上がった。
「うし、行くか。」
そう言ってお父さんは車のキーを、持って玄関に向かう。
「なんかああ言う一瞬のニヤけとかなければお父さんってカッコいいのにね」
「そうなんだよねぇ〜残念だよねぇ〜」
「まあ、雪ねぇも人のこと言えない残念な美少女っぷりだけどね。」
「なんだってぇ〜。」
「本当のことでしょ〜?」
そんな風にたのしく車の中でも過ごしていたら気づいたらお父さんの実家の近くまでついてしまっていた。
「そろそろ着くからなぁ〜!」
「「はーい!!」」
そんなお父さんの声を聞いて外の景色を見てみたらなんだかみたことのある景色な気がした。




