4話 新しい名前!?(後編)
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
突然奇声をあげながら茜はベッドに倒れ伏せた。
「あーちゃん?大丈夫?
え…お兄ちゃんっ!お兄ちゃんっ!」
緋雪も大分混乱しているようで憔悴した顔でオロオロしているだけである
「どうした‼︎ いまの叫び声はなんだ‼︎」
「橙くん⁉︎しっかりして‼︎」
いいタイミングで緋哉と雪菜が帰ってきた。
「お、お姉ちゃん‼︎あの時と一緒だよ!
またあかちゃんが目覚めてくるんだよ!」
緋雪が半狂乱になりながら雪菜に訴えかける。
前回も橙哉もとい茜の変貌に立ち会っているので緋雪は茜の異常に敏感であり。また、感化されやすくなっており茜を見て緋雪もパニックに陥っていた。
「わかった。
ひーちゃんは一回落ち着こうね…
お父さん!
さっき紹介した倉田先生連れてきて!」
雪菜は緋雪を抱きしめて背中をポンポンしながら緋哉にテキパキと指示をだしている。
「あらあら、あたしヤバい時に出てきちゃった? ごっめんねー。
なんか修羅場ってるみたいだけど大丈夫?
(まあ、ずっと見ていたからどんな状況かなんてわかりきったことだけどね…)
そ、そんな睨まないでよ!
あたしも家族の一員でしょ?
会いに来るのもいけないっての?」
床に突っ伏していた茜もとい緋那はおちゃらけた態度で起き上がってきた。
雪菜に一睨みされてシュンとしていたがすぐに再起動して演技がかった感じに雪菜の神経を逆撫でるセリフを放った。
「あんたなんて家族じゃない!
早く橙くんを返してよ!…はやく!」
「お姉ちゃん!一回落ちつこ?」
雪菜は軽くヒステリーを起こしていた。
そんな雪菜をみて緋雪は正気に戻り、今度は立場が逆転するように雪菜を落ち着かせていた。
「なんか姉妹の絆見せつけられちゃって
なんか不快〜。
あたしも姉妹のはずなのにな〜。」
緋那はさらに言葉を重ねる。
これは他の言葉とは違い本心であったのかもしれない。
緋那はいつもの演技がかった表情ではなく寂しげな生の表情を見せた。
でも、そんな様子をみる余裕もない雪菜はまだ気を逆立てている。
「橙くんと私は姉妹じゃない!
橙くんはあたしの大事な弟なの!絶対守るって決めたんだから…」
雪菜は今必死に順応しようとしてる茜が聞いていたら相当ショックを受けそうな言葉を言ってしまった。
「お姉ちゃん! それは禁句だよ…
あまりにもあーちゃんが可愛そう…
それに!あかちゃんもあかちゃんだよ!
なんでお姉ちゃんに喧嘩ふっかけるようなこと言うのさ!ちょっとは自重してよ!」
緋雪が2人の間に入って仲裁をする。
緋雪は緋那を一人の人間としてとらえているようで意外と緋那に悪い感情は持っていないみたいだ。
「うう、わかった。ごめんね茜ちゃん…」
「はーい…でもひーちゃんがあたしのことしっかり見てくれていることは嬉しいな」
うなだれる雪菜と嬉しがる緋那。
対照的であるがやはり同じ血が流れているのか2人とも立ち直り始めるのは早かった。
そして緋那は先手を切った。
「ごめんね、お姉ちゃん。
なんだかいじわるしたくなっちゃった。
茜ちゃんの心がしっかりしているうちは茜ちゃんを取って食ったりしないから大丈夫。
私は茜ちゃんが辛い時に守ってあげる役割の人だと思ってよ。」
緋那は素直に今の気持ちを告げた。
「そんなの信用できるわけないじゃん…」
いじけるように雪菜はいう。
普段大人っぽく振舞っている雪菜の年相応の振る舞いを見て緋那は笑みをこぼした。
「お姉ちゃんもそんな顔するんだね…
なんだか安心したなぁ
大人っぽくなるってそういう表情見せなくなることだと思ってたよ…
大丈夫だよ!今のあたしの顔をみて!
嘘ついてる顔してる?」
緋那ははにかみながら安らかな顔をして雪菜に質問を投げかけた。
その顔はこの3日間雪菜と緋雪にしか見せなかった茜の安心しきった顔であった。
「うう、その顔で言うなんてずるいよ…
まあ、わかった… でもあたしと茜ちゃんの時間取ったら許さないわよ?あかな!」
いじけ顔でいたが、吹っ切れたのかいつも通り橙哉狂いのお姉ちゃんの顔に戻っていた。
心の中では雪菜も緋那は本当に悪い存在ではないと分かっていたのだろう。
ガラガラ
「さっきまで喧嘩してる声が廊下まで聞こえていたのにもう仲直りですか。
ずいぶん仲がよろしいんですね。」
倉田先生が皮肉りながら病室まで入ってきた。その後ろには緋哉が付いてきている。
「3日ぶりですね、緋那さん。
あれからよく寝ていましたね。
どうですか?久しぶりの外の世界は?」
倉田医師が牽制球を投げるように緋那に問いかける。
「倉田先生はあたしのこと怒らせたいの?
あたしは乗っ取ったりする気なんてないって見てれば分かるんでしょ?
そんな代理人格まで消そうとするなんてどうにかしてるよ。」
緋那は冷静を装っているが内心かなり怒っているようだ。
そして倉田医師のやり口に見当が付いているのか自分が消されるのを恐れているのか
緋那は倉田医師のことを大分嫌っているらしい。
「私は医師として最善の方法を提示しているまでです。
実際貴女のように共存を望む方は少数派ですし上手くいったケースなんてなかなか無いんですよ?そんな可能性を信じろというのでしょうか?医者だって万能では無いんです。
どちらも救うなんてことは不可能ですよ」
倉田医師は理詰めで緋那を追い詰めていく。
でも、緋那も気が強いので引き下がったりはしない。
「そんなのわかんないじゃん。
可能性の話じゃない…あたしはあたしも茜ちゃんの一部だと考えてるからあたしがいなくなるなんてありえない!!
これはあたしと茜ちゃんが決めることなのよ!家族でもない貴方が口出しする権限なんてないよ!」
緋那はなかなかヒートアップしてきた。
このままいくと暴走して暴れかねない緋那を見かねた雪菜が止めに入る。
「はーい。緋那ちゃんちょっと落ち着こうね。これは茜ちゃんとも相談してみないとね。倉田先生!とりあえず茜ちゃんにも緋那のこと認識させたり時間が欲しいので様子を見させてください。
この話はそれでいいですか?」
雪菜は現実的な対処をを倉田医師に提案する。
「私はもともとそのつもりでいたので大丈夫ですよ?
しっかり私のことも頼って欲しい所ですけど本人の意見も大切ってことで今回は別に構わないですけど…
今度から気をつけていただきたいです。」
倉田医師は医師である自分の診療が気にくわないのかと少し怒っているようだが、それを感じさせない表情は見事である。
だが、「私もヒートアップさせるつもりなんてなかったんです。ただ事実を述べたまでです…」等とブツブツとヘソを曲げているのは医師としてどうなのだろうか…
「わかりました。善処します。
緋那ちゃんもわかったよね?」
「う、うん」
雪菜が緋那にプレッシャーをかけて強引にうんと言わせた。
「それでは私はここらでお暇しますね。
何かありましたらまた呼びに来てください。 あと、家族ってのは父親が守るものですよ!頑張ってくださいね緋哉さん!」
倉田医師は飄々と帰っていくついでに終始オロオロしていた緋哉に激励の声をかけて行った。
「は、はいっ。頑張ります」
珍しく緋哉が恐縮しながら応えた。
「珍し〜ね。お父さんがオロオロしたり恐縮したりするの。なんかあったの?」
緋雪が緋哉の異変に気付いて声をかけた。
「いやーさー。倉田先生って精神科の先生らしいじゃん。橙哉について聞いてたらさ「家族上手くいってないんですかっ?
家族は大事にしてください。それが父親の唯一できることなんですよ?」って言われちゃってさ…
茜菜がいなくなってから上手くいってないのはわかっているんだけど…
その…みんな、ごめんな。」
緋哉がしおらしく謝罪の言葉を述べる。
その対応にピクッと眉を動かしたのが雪菜であった。
「こんなとこで謝られてもあたしはゆるせないし第一茜ちゃんの前でもきっちりと謝って欲しい。緋那ちゃんには悪いけどこれだけは譲れないよ。
お父さんは茜ちゃんに謝るべきなんだよ」
冷たい声で言い放った。
雪菜はチラッと一瞬緋那の方をみて緋那が大丈夫ってジェスチャーしてるのを見ると重苦しい声で言い放った。
「あ、あたし席外そうか?
30分くらいで茜ちゃん起こせると思うけど…」
緋那は気をつかって茜に戻ろうとしたが
「緋那ちゃんが気にすることじゃないよ?
ここでこんな話をすることが間違ってるんだから…
もっと緋那ちゃんとは仲良くなりたいんだからまだ行かないでほしいな」
雪菜は緋那にも姉の表情で優しく守ってあげるスタンスを貫くことにしたらしい。
「わかった。
茜が落ち着くまで居るつもりだからうちに帰ってからゆっくり話し合おう。
じゃあ俺は役所に申請書類出しに行ってくるから。雪菜と緋雪は面会時間終わったらまっすぐ家に帰ってくるんだぞ。」
緋哉は申し訳なさそうな顔をして病室から出て行った。
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緋哉が帰ったあとの病室はとても和やかであった。
雪菜が淹れた紅茶を飲みながらおしゃべりをしている。
雪菜も緋雪も緋那への悪い感情は忘れてしまったかのように楽しそうにガールズトークに花を咲かせている。
「まったく茜ったらトイレ入る前に「無心だ無心になるんだ」とかやってるからあたしがちょちょっと入れ替わってトイレしてあげてるんだよ。
だからあの子無心だからって思ってるけど実際にあの子がしてないからトイレとか大丈夫なんだよね」
緋那はクスクスと楽しそうに笑いながら茜の恥ずかしい話を暴露した。
「えー。あーちゃんダメダメじゃん。
明後日にはお風呂入れるっていうのにどうするんだろ〜」
「あーちゃんらしいわね」
雪菜も緋雪もクスクスと笑いながら楽しそうに緋那の話を聞いている。
ガールズトークに花を咲かせるうちに雪菜も茜のことをあーちゃん、緋那のことをあかちゃんと呼ぶようになっていた。
「お風呂までには自力でトイレさせたいわね。慣らさないと大変だし。」
緋那も楽しそうに笑いながら会話に花を咲かせていた。
だが、ふと眠気を感じた緋那は二人にしばしの別れをして眠りにつくことにした。
「あ、ごめんね!
私ね、寝ちゃうと自動的に入れ替わっちゃうんだよね。ちょっと眠くなってきちゃったから茜ちゃんと対話できるようになりたいしこのまま茜ちゃん起こして私はお暇するね。」
緋那は二人に別れをいった。
「そっか。じゃあね〜。」
「今度はあんまりあーちゃんを混乱させない方法で来てね?」
緋雪と雪菜は緋那の言葉に動揺するとこもなく別れの言葉を口にした。
「うん、茜ちゃんと対話できるくらいまでになったら負担も減るはずだから努力するね!
じゃあ、あたしはいくね!茜ちゃんによろしく言っておいてね!」
そう言い残して緋那はベッドに倒れふせた。
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「あ…ねちゃ… あか…ち…ん
あかねちゃん… 起きて〜
起きるのよ。茜ちゃん!あーかーねー!
んも〜。橙哉くんおきなさい!」
「う…ううん…」
緋那は白地にピンク色でバラの装飾がされた可愛らしい椅子に座って眠りこける茜に声をかけるがなかなか返事が返ってこない。
「仕方ないなぁ…」
チュッ
緋那は茜のほっぺたにキスをした。
「う…ううん
なんだよぅ… 誰だよぅ?
…ん? うわぁぁ!
え、誰っ? ってか俺?
ってかなんでキスされてんの?」
茜は緋那の存在に気付きただただ驚いている
「…ん?
ここなんだか見たことあるなぁ…
……あっ! あの日ライブハウスで見た夢と同じだ。 じゃあここも夢か!」
「勝手に自己完結するな!」
バシッ!
現実逃避するかのように勘違いした茜に緋那が勢いよくツッコミをいれた。
「あたしの存在に気づいたぁ?
初めましてになるのかなぁ…
あの日の夢のこと覚えてるなら
久しぶり! だね。
私はあなたの代理人格の緋那っていいます。
よろしくねっ!」
緋那はちょっと混乱しているであろう茜に自己紹介することから始めた。
「っ‼︎ ってことは人格をとって代わりに来たのか? 何があってもお前には屈しないし茜って名前も絶対残してやるんだから!」
茜は威嚇する猫のように緋那に噛み付いていった(もちろん物理的にではないが…)
「大丈夫だよ? 私はあなたをまもってあげる存在だから。とって代わったりしないよ?
安心して? 私はあなたの見方だからね?
あなたが頑張るなら応援してあげるからね?
お姉さんとかお母さんみたいなものだと思っておいてくれればいいから。」
そう言って緋那は茜を優しく後ろから抱きしめた。
姉や母のような気持ちで優しくもしっかりと抱きしめた。
そして頭を優しく撫でた。
「お、おかあさん。
うそっ… 懐かしくもあったかい…
なんだかお母さんのこと思い出すなぁ…」
茜は驚いたような様子で目を見開いている。
「ふふっ。茜ちゃんってやっぱりカワイイ!
お母さんを思い出すのって当たり前かもね。
あたし達2人がお母さんの遺伝子に一番近いんだもん。」
緋那は妹を見るような目で茜をみつめる。
「…かった わかった…
あなたの話信じるよ…
みんなからあなたの話は聞いてるよ?
とっても女の子っぽくてカワイイ娘だって…
で、俺の前に姿見せて何の用?」
茜は可愛らしい女の子の姿で橙哉の時のように振る舞うので背伸びしてるようで子供のような可愛らしさを醸し出してる。
(わ、我ながら対面して
みてみるとこんなにも
破壊力があるんだ…
無自覚ってこわいな…)
べた褒めであるが茜が聞いたら起こりそうな言葉を頭に思い浮かべながら緋那は茜の質問に答える。
「姿を見せるも何も私はもともとここにいるんだけど…
軽く説明するとここはあなたと私の頭の中の世界よ? ほら、あたし達って一つの身体を2人で使ってるわけじゃない?
それは脳も同じってことでしょ。
だから脳の中にこの部屋があるって考えて?
茜ちゃんが慣れてきたからここに気づいたってだけ…
あと、そろそろ落ち着いたかと思って起こしに来たよ?」
緋那はちょっと詳しく説明した。
実際はここからが本題だ。
「ふーん。じゃあ2人でここを共有するってわけだ。 ルームメイト的な感じなのね?
そっか。でも、ただ起こしに来たんじゃないでしょ?」
茜は軽く理解したといった体でいるが緋那の思惑にすぐに気づくあたり流石の洞察力である。
「えっ! ば、バレちゃったかぁ。
じゃあいきなり本題で悪いんだけど
もちろんあなたの心に著しい負荷がかかったらすぐに変わるけど。それ以外にたまに入れかわらせてほしいなぁ〜って思ったりぃ…」
緋那は本気で驚いたあと、語尾が小さくなりつつではあるが本題を切り出した。
「うーん。 まあ、同居者が病んじゃうくらいならたまに外に出してあげてもいいか。
いいんだけど。俺のプライベートを邪魔しないでね。もちろん俺も緋那のプライベートを邪魔しないように徹底するから。
あと、これ大事なんだけど…入れ替わっている間の出来事をなるべくここで共有すること。
それができるなら許してあげる。」
茜はすぐに約束事をまとめて緋那に提案する。
ぽけ〜っとしてはいるが案外しっかりしてる茜らしい行動である。
「うーん…
ここで共有ってのは難しいんじゃないかな?
だってここに2人いるってことは本体が空っぽになっちゃうし茜ちゃん一人でここの扉を開けるのはまだ無理だと思うよ。
茜ちゃんがもうちょっと成長すればここから様子を見ることだってできるのになぁ…
わかった! 日記をつければいいんだよ!
交換日記的なもの!」
緋那は難しい顔をしているが、急に何か思いついたかのようにすっきりとした顔になった。
「日記ねぇ…いいんじゃない?
あと、自分でここの扉開けないってどういうこと?」
茜は緋那の意見に賛成しつつ緋那に疑問を投げかける。
「うん、それはね?茜ちゃんがこの部屋の扱いに慣れてないってのが一番かな…。
慣れないとここに来るのも一苦労だよ?
外に出てる時なんか特にね。」
「そっか…
ならなるべく早く慣れるようにしないと…」
緋那は茜の質問に丁寧に答え、茜は一人で納得している。
「とりあえず今度はいつ出てくるの?
それまでに日記用意しておくけど…」
茜は相当順応力が高いようですぐに状況に対応し始めている。
「うーん…
これから茜ちゃんの基礎女子力アップ計画をするよう2人にたのんだからな〜
あんまりあたしが出てくると意味ないし…」
「ちょっとまったぁ!
なんだよその意味不明な計画は…
勝手に決めんなよ! 基礎女子力なんていらないよ!」
緋那はポロっと茜に計画を漏らしてしまった。
結果、茜は勝手に進めていたこととその内容に憤怒する。
「トイレくらいでドギマギしてるあなたに言われたくないわよ!
いい?しっかりと女の子に慣れてもらいますからね!サボっちゃだめだよ!」
緋那も茜に逆ギレしてしっかりと女の子に慣れるよう念を押した。
「うう…
まあ、日常生活に支障でるといやだし…
2人なら女の子に必要なことをしっかり教えてくれそうだし…
仕方ないかぁ… うん!」
茜は緋那に正論を頂いちゃったので言い返せない。そこで、考えも見直して前向きに計画に取り組むことをしぶしぶではあるが了承した。
「まあ、一週間後くらいに出て来ようかと思ってるからとりあえずはお姉ちゃんとひーちゃんと一緒に計画をしっかりこなしてね。今のままじゃ全然女の子としてなってないからねっ!」
緋那はめっ!といった感じで可愛らしく俺にダメ出しをしてきた。
そうやって生き生きと女の子をしている緋那の姿をみて、同じ姿でも生き生きと女の子らしく動いていると別人のようになるんだと実感した。
「緋那かわいい…」
「ふぇぇっ!?
いきなりどうしたの?」
緋那がいきなり変な声出したと思ったら顔を真っ赤にして恥らっている。
俺なんか言ったかなぁ…
「 あんた自覚してないのぉ?
今ボソッと「緋那かわいい…」って言ったじゃなまたい…
思ったこと素直に口に出すのも自重した方がいいわよ?」
緋那が顔を真っ赤にしたままバカにしたような呆れたような顔をしてくる。
「やっぱまた声に出してたか…
気をつけないととは思っているんだけど…
ごめんね?」
俺は自分の意志で素直に緋那にあやまった。
「今度から気を付けてくれればそれでいいよ…
じゃああたしはそろそろ行くね。そこにあるちょっと大きめの金色で装飾された白い椅子に座れば外にもどれるはずだから。」
そういって緋那は白地に金色の装飾を施されたまるで玉座のような椅子を指さした。
「こ、これに座ればいいんだね?
じゃ、じゃあまた一週間後に会おう!そん時はまた緋那が外に出てくるの?」
俺は玉座のような椅子を指さし外の世界に帰る準備をしつつ緋那に今度出てくるときの方法について尋ねてみた。
「どうしようか悩んでるけど一回こっちで茜ちゃんを玉座から引きずり降ろしていろいろと話し合ってから外に出ようかと思ってるよ?
まあ、茜ちゃんの心に重大な負荷がまたかかったらすぐに出ていくけどね。
私はここからでも茜ちゃんの様子をある程度は見ることができるから玉座から引きずり下ろすときは周りの状況をよく見てからするようにするね」
ふむふむといった感じにあごの下に手を当てて考え込んでいたが
結論が出たからかすぐにそのポーズをやめた緋那はちょっと意地悪な表情で無駄なつけたしをしてくる。
ってか緋那は常に俺の状況を見れたのね…
なら交換日記とかほとんどする必要がないじゃん…
緋那とゆっくり会話できるツールだと思えばいいんだ…
「わかった! ってかこの椅子って玉座っていうんだね。なんかそのまんまじゃない?」
ちょっとイヤミな感じで言ってみた…
「きっと貴方と思考パターンが似てるからよ」
緋那は見事に返してきた…
こんな風にいわれちゃあぐうの音も出ないよ…
「あたしそろそろ本格的に眠いから行くね!じゃあまた一週間後に!」
緋那はそう言い残して俺らの周りにある可愛らしい2つの椅子と玉座しかない真っ白なこの空間の奥のほうへと歩いてゆく。
「おう!また1週間後ね!」
そう緋那に声をかけると軽く手を振ってくれた。
さあ、俺も外に戻んなきゃね。きっと雪ねぇと緋雪がまってるだろうからね!
そう自分に言い聞かせて俺は恐る恐る玉座にすわった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「あかちゃん行っちゃったね。
あーちゃんと対話って言ってたけどどういうことなんだろう…」
「きっと二人にしか分かんないことなんだろうけどこっちでも2人がコミュニケーションとる方法を作ってあげないとね。」
幸せそうに眠る茜を見て緋雪と雪菜は緋那について話している。
「私も緋那ちゃんってあーちゃんを消してしまう存在かと思ったけど案外そうでもなさそうだしあとは茜ちゃん本人次第ってとこらなのよね」
「そうだね〜あーちゃんがあかちゃんのこと受け入れられたらなんだか家族が1人増えるみたいで嬉しいね」
2人は世話の焼ける末っ子を見つめるような目で茜のことをみつめている。
「…んんっ
ふあ~あ… んあ?…
ああっ、外に戻ってきたのか…」
どうやら本当に玉座に座ることで外の世界に出てくることができるらしい。
周りを見渡すと雪ねぇとひーちゃんが俺のことを生暖かい目で見ているのが見えた。
なんだか気持ち悪くて仕方がない…
「ふたりして気持ち悪い顔してどうしたの?」
起きていきなりだが体を起こして二人に毒を吐いた。
「もどってきていきなりフルスロットルね。あーちゃん?」
いつもの雪ねぇのとち狂った反応ではなく案外普通の答えが返ってきた。
緋雪はいつも通りスルーするスタンスのようだ。
「あ、そういえば緋那ちゃんが茜と対話するとか言ってたけど緋那ちゃんには会えたの?」
雪ねぇが結構ドストライクなことを言ってくる。
「そうそう!緋那と会ってきたんだけどさ!茜ちゃん基礎女子力アップ計画って何なんだよ!
勝手に緋那と無駄なもの計画しやがって!」
雪ねぇと緋雪に文句を言ってやりたかったんだよ!
まったく無駄な計画立てやがって…
「女の子にしかわかんないこととか教えてあげようってのになぁ~
あとあと困ってくるのはあーちゃんなんだけどな~
そんなこといっちゃっていいのぉ?」
緋雪が馬鹿にした感じで言ってくる。
「大丈夫だし!」
俺はよく考えずに勢い余ってこう言ってしまった。
言ってしまった後に後悔するってこういうことなんだ…
「へぇ~
じゃあ女の子の日とか来てもだいじょうぶなんだねぇ?」
「ごめんなさい!教えてください」
緋雪が痛いとこをついてきたのですぐさま手のひらを返したかのように謝る。
本当にぐうの音も出ないとはこのことだ。
「まあ、今回は許してあげるけど次はないわよ?」
緋雪はニヤッと人の悪い笑みを浮かべながらそういった。
「はい!今度とも精進します…」
芝居がかった口調で俺は言う。
「うむ。しっかりと頑張りなさい。」
緋雪も仙人のような口調で合わせてきてくれる。
「「「あはははっ」」」
病室に3人の笑い声がこだまする。
個室の病室じゃなかったら怒られてたとこだったよ。
なんだかんだ言って昔のように笑いあえたりできてるんだよな。
このままほかのみんなとも昔のように過ごせればいいなぁ…
そんなことを考えながらも面会終了時間まで3人でおしゃべりに花を咲かせていたのであった。