35話 まさかそんな事に…
その日、朝起きた時にはひーちゃんはもう家にはいなかった。
ひーちゃんのお気に入りの靴がないし昨日から玄関に置いてあった可愛らしいスーツケースがないんだもん。すぐわかったよ。
わたしだってなんとなく察しがついていたんだ…
ここ最近のひーちゃんの様子がおかしかったのだってきっとそーゆうことなのだろうって…
でもさ、いくらなんでもいきなりってのは酷いんじゃないかなぁ…
普通の生活に戻ったらまた会えなくなっちゃうじゃん…
またねとか頑張ってねとかいろいろ言いたいことはあったのに…
「せっかく家族団欒の時を満喫してたのに…
いきなり行っちゃうなんて寂しいよ…
それに昨日しっかり気づいて寝ちゃう前に声をかければよかったんだ…
なんでわたしそうしなかったんだろう…」
少しだけ涙が溢れてくる。
ピロリンッ♪
玄関に立ち尽くしていろいろな思いを巡らせてるとケータイがメールの受信を主張した。
『いきなり居なくなってごめんね!
あたしそろそろお仕事に戻んなきゃっ!
今度からはOFFとかはなるべく帰るようにするね。だってあ〜ちゃんが心配なんだもん!
あ、それともこっちに来て遊ぶ?
なるべく電話もするようにするしメールもいっぱいするからっ!覚悟しておいてね?
だからさ、離れ離れだけど寂しくないよ。
それと、復帰会見今日の夜やるから時間あったらみてね!』
まるでタイミングを見計らったかのようなタイミングでひーちゃんからのメールが届いた。
「ひーちゃんどっかで見てるんじゃないの?
ドッキリなような気がしてならないよ…」
思わずそんなことを漏らしてしまう。
「ドッキリとかじゃないわよ。
ひーちゃんは朝早く事務所の人の車で行っちゃった。早くも色々と話題になってるみたいで大変みたいね…」
わたしの呟きに応えるかのように雪ねぇはリビングからやってきた。
「雪ねぇは知ってたんでしょ?
ひーちゃんが今日行っちゃう事。」
「私だって教えてもらったのは昨日の夜よ。
しかもあーちゃんが寝付いてから。
まあ、私も少し感づいてはいたけどね。」
当てつけのように言った私の言葉にもしっかり本音で答えてくれる。
雪ねぇのそーゆうところ嫌いじゃない…
「そっか…なら仕方ないよね…」
「ほら、いつまでもそーやってるわけにいかないんだしご飯食べちゃお。」
そうだよね…別にひーちゃんともう会えないとか格段遠くに行っちゃったってわけじゃないもんね。
わたしはわたしの生活をする事が先だよね…
ひーちゃんを心配させないためにも!
「雪ねぇ…なんだか寂しいね…」
ご飯を食べながらわたしはそんなことを口走ってしまった。
感じた事がすぐ口に出てしまうのは良くない癖だ…
「そうねぇ…私はここ何週間かが騒がしかったんだって思ってるわ
元々私と橙くんの二人暮らしみたいなもんだったわけじゃない?
だから元の宮代家に戻るだけよ。
邪魔者もいなくなったし私といい事してもいいんだよ?」
久しぶりにラリった雪ねぇを見た気がする。
いつもなら身の危険を感じてそそくさと逃げ出すところだけどひーちゃんがいなくなった寂しさからか身を委ねてもいいんじゃないかっていう気分になった。
「じゃあ、抱きついてもいい?」
思わず口からそんな言葉が滑りだしてきてしまった。
「えええっ!?どうしたの?
いつもなら、拒否するじゃない!!
大丈夫?熱でもあるんじゃ…」
雪ねぇは慌てて駆け寄ってくるとわたしのおでこに手を当ててそう言った。
「んー。ひーちゃんがいなくなって急に寂しくなっちゃったのかなぁ…」
「そうだよね。家族がまた離れ離れになるのは寂しいよね…よしよし。私はずっとそばにいてあげるからね。」
わたしが溢した言葉に反応した雪ねぇはすぐさま私を抱きしめてナデナデしてくれた。
雪ねぇはきっと家族が離れ離れになった事に少なからず責任を感じているのだろう…
私が橙くんにお父さんとの溝を作ってしまったとかそんな風に考えてるのは見え見えだよ
そんなに雪ねぇが気にすることじゃないと思う。離れ離れになったりとかはやっぱりお父さんに責任があると思うし仕方の無いことでもある…
「雪ねぇがそこまで背負う必要はないんじゃない?わたしだって雪ねぇの力になりたいし雪ねぇが辛い時とか寂しい時は支えてあげたい!それが家族じゃん。
だから一人で抱え込まないで。」
そう言ってわたしは雪ねぇに抱きつき返した。そうしていることがさも当然のように感じたしこうしていることでなんだか大きな安心感が得られた気がした。
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ご飯を食べてる途中に抱き合ってしまったわたし達はふと我に返ってまた朝ごはんに戻った。
「今日はわたしがお昼作るよ。
最近雪ねぇにご飯任せっきりだったし…」
「うーん。そうねぇ。
二人とも家にいる時は一緒に作りましょっか。学校始まったらお弁当作らなきゃだからお弁当と晩ご飯はまた当番制に戻しましょっか。朝も前までみたいに起きたら各自食べるに戻しましょっか。
じゃないと朝弱いあーちゃんは大変でしょう?」
「そうだね。そうしてくれるとありがたいかも…」
二人で朝ごはんの片付けをしているとふとそんな話題になった。
そんな話をしていたせいかひーちゃんもいないお父さんもいない日常に戻るんだという感覚が急に襲ってきた。
学校も始まるわけだし今まで限られた人としか接してこなかったけどこれからは色んな人と接するわけだし馴染めるかどうか不安にもなる…
「あーちゃんなんか難しい表情してるけどどうしたの?どこか痛いの?」
よほど不安そうな表情していたのか雪ねぇが心配そうにわたしの顔を覗き込んでくる。
「いや、どこか痛いとかじゃないから大丈夫だよ!ただちょっとこれからの生活が不安になっただけだから…」
「そっか…そうだよね…
でも大丈夫だよ。私がついてるしひーちゃんだってお父さんだってついてるんだから…
それに日向達がきっと助けてくれるわよ
あなたは周りの人に恵まれてるからきっと大丈夫よ。」
雪ねぇの優しさになんだか涙が出そうになってくる。
「ありがと。みんながついてるって考えたら少し気が楽になる…
早速なんだけどさ…後でちゃんと制服の着方教えて?なんか上手に着こなせないんだよね…
しっかり女の子してないと不審がられちゃいそうで怖いんだ…」
入院中あれだけ楓さんに女の子教育をされたとはいえまだまだちゃんとした女の子とはいえないだろうから見た目くらいはピシッと女の子でありたい…
「うーん。茜ちゃんはもうしっかり女の子してると思うけどなぁ…
まあ、いいわよ。私ももっと茜ちゃんに可愛くなってもらいたいし…
じゃあ午前中は私洗濯するからお昼食べたら教えてあげる。」
「うん。わかった…
じゃあ午前中はギターの練習しよっかな…」
そうだ。バンドに戻るタメにはギターも歌も元どおりできるようにならなきゃいけないんだ…
だからいっぱい練習しないと…
歌だってきっといっぱい練習すればまた思い通りに歌えるようになる…
「あんまり無理しちゃダメよ。
またあかちゃんのお世話になっちゃうわよ?」
雪ねぇは心配そうにわたしを見つめてそう言った。
「大丈夫だよぉ〜!
だってわたしは今からこの世で一番好きなことをするんだから!
じゃあお昼は一緒につくろーね!」
ちょうど片付け終わったのでそう言ってわたしはリビングから出て部屋に向かった。
「それにしても本当ギター触ってなかったなぁ…ごめんね、久々だったね…」
そう言って部屋の隅にあるギターケースに手をかけた。
ケースを開くとバッチリメンテナンスのされたわたしのメインギターが姿を現した。
「あれ?ライブした時より綺麗になってる…
雪ねぇがメンテしてくれたのかなぁ…」
あとで雪ねぇにお礼を言おうと決めてとりあえずギターをアンプに繋いだ。
本当に色々鳴らすなら地下にある防音室に行って大きいアンプで鳴らすべきなのだろうけど今日はとりあえず部屋のアンプで我慢する…
ギュアァァァンッッ!!
ツマミを少し弄っていつもの様に弾いてみる…
少し違和感はあるけど特に問題なく弾けてる気がする。
手の大きさが変わってるから少しの違和感は仕方ないと思う…正直これだけ弾けてることの方が不思議だ…
ポロンッポロポロンッ
ツマミをまた弄って今度はクリーントーンで弾いてみる。
これもさほど問題はなさそう…
ギターだけでも今まで通り弾けていることの嬉しさからテンションが上がりまくって自分の曲を弾いて弾いて弾きまくった。
結果…
「いたっっ!!」
左手の中指を切ってしまった。
他の指にもクッキリと弦の跡が残ってしまっている。
「ひょっとひょうしほりすひはなぁ…」
(ちょっと調子乗りすぎたなぁ…)
切ってしまった中指を咥えたまま独り言を言ったらなんだかとても間抜けな感じになってしまった。
とりあえず中指には絆創膏を貼ってギターを一旦置いた。
とりあえず血が止まるまでは弾けないので下に降りてリビングのピアノでも弾こうかという気になった。
色々弾いていたらもう止まらなくなってしまった。ギターじゃなくてもいいから何か弾いていたいっていう気分が襲ってくる。
ついでに歌の練習もできるからちょうどいいかなんて思ってしまう。
リビングに降りてあたりを見渡すと誰もいないようで思いっきりピアノを弾くことができそうだ…
「ん〜♪はぁ〜〜♪」
気持ち良くピアノを弾いていると自然と口からメロディが溢れだしてくる。
思い通りの音が出せている感じはしないけど声自体が美しいからかメロディまで美しく聞こえる。
こうして溢れてくるメロディを自然に口ずさむくらいなら普通にできるみたいだ…
この勢いなら歌だってしっかり歌えるはずだよね…
そう思ってスカーレットでも数少ないバラードを歌ってみる事にした。
”いまのわたーしは、そこにーいまーすか”
やっぱり違う…どうしても声もしっかり出ないしそもそもキーすら合ってる気がしないし自分の声って気がしない…
ピアノアレンジは我ながらとてもいい出来だと思ったのに歌がとても残念だ…
この曲はこーゆう曲じゃないのに…
キーもそうだけど一番の問題は勢いとか凄みみたいな部分が表現できないところだ…
今のわたしの歌はまるで歌姫が歌い上げるかのようだ…
とてもビジュアル系ギターロックのボーカルの歌ではない…
結果お昼になって雪ねぇに止められるまでピアノを弾きながら歌っていたけど納得いく歌は一回も歌えなかった。
一つ進歩があったとすればあかちゃんを呼び出すことがなかった事くらいだ。
あと、今の声はピアノ伴奏の方が映えそうな感じだなっていう風に思った。
「あーちゃんさっきの歌いつもと違ってまた素敵だったよ?」
落ち込むわたしをみて心配したのか雪ねぇもそう声を掛けてくれる
「客観的に見ればそうかもしれないけどわたしの中じゃ全然違うしあんなのスカーレットの曲じゃない…あんな歌でステージに立つなんてファンのみんなに申し訳ないしそれ以外にメンバーに申し訳ないよ…
どうしたらいいの?……ただでさえみんなが見たいのは橙哉だっていうのに…」
雪ねぇとお昼のリゾットを準備しながらも不安な気持ちとか自分への不満がポロポロと溢れだしてくる。
「うーん。
厳しいこと言うなら確かにスカーレットのステージであれやられたら私でも怒ると思うわ…それにあーちゃんがいきなりステージに立つのもなんだか受け入れられないと思う…
ただ、私が一つ言える事はみんなとバンドをしたいなら何もスカーレットじゃなくていいと思うの…名前も変えて曲も新しく作ってファンのみんなにはしっかり説明して…
それじゃダメなの?」
雪ねぇが言ったこの一言がわたしの心にグサッと深く刺さった。
もちろんそういう手があるのはわかるしそうするのはとてもいいことだとも思う。
バンドとしてもわたしとしても…
でも、そうしてしまったら自分は全く違う誰かになってしまったって認めるようで…今までの自分がなかった事になりそうで …とても怖い…
できるならわたしのまま、スカーレットのままバンドを続けられればいいのに…
そんな思いを巡らせていると途端に涙が溢れそうになる…
ただでさえ泣き虫になっちゃったけど今日はいつも以上に泣きたくなってくる…
「そうするのが一番だってのはわかるよ?
でもそうしたら今までの自分を否定してるみたいじゃん!それが怖いんだよ!
ううっ…ぐすっ…うわぁぁぁぁん!」
すぐに限界は来てしまって喚くように泣き叫んでしまう。
このやりきれない気持ちをどこに持っていけばいいのかどんどんわからなくなってしまう…
「よしよし、ごめんね。
お姉ちゃんが悪かった。そうだよね…心配だよね…でも大丈夫。あーちゃんの音楽はとっても素敵だったから。ちゃんと今までのあーちゃんの全てが感じられたから。
自分を過去も現在も全てぶつけるのが音楽でしょ?だから音楽にぶつければいいのよ…
今は音を楽しみなさい…」
雪ねぇはリゾットを作る手を止めてわたしを抱きかかえてなでなでしてくれる。
今まで以上に優しいあったかい手つきで沈みまくってた心がどんどん落ち着いていく。
「すぅ…すぅ…」
落ち着きすぎてしまったのかどんどん眠くなってきてついには意識を手放してしまった。
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「んぁっ!?」
ふと目覚めるとそこはソファの上だった。
「あれ。目覚めた?
もー、お昼ご飯作ってる時に寝ちゃうなんてー。もう夕方だけどご飯どうする?
あと1,2時間で晩御飯の時間だけど食べる?
それとも晩御飯にしちゃっていい?」
「ふあぁぁ…晩御飯さっきのリゾットにしてー。どうせ雪ねぇも食べなかったんでしょう?」
「あら、よくわかったわね。
私はめんどくさかったからシリアルで済ませちゃったのよ…
晩御飯の担当決めてなかったからめんどくさくなっちゃって…」
雪ねぇは割と自分の為だと手を抜きたがるからなぁ…
「そっか。
また当番表作らなきゃだね…
そう言えばそろそろひーちゃんの会見の時間じゃない?」
「当番表は前と一緒でいいんじゃない?
名前だけ変えてまた貼っておくわ。
ひーちゃんの会見ってどこのチャンネルがいいのかな?」
雪ねぇはリモコンを操作しながらそう言った。
番組表を確認したら特別番組みたいな形で放送するチャンネルが3つほどあった…
「別にどこでもいいんじゃない?
それに全部が全部丸々見るならケーブルのアイドルチャンネルとかk'sプロのチャンネルの方がいいんじゃない?
地上波とかは全部生中継って訳にはいかないだろうし…」
そう言いながらわたしはケーブルテレビのリモコンを操作し始めた。
幸いウチはお父さんの仕事の関係とかで地上波からケーブルテレビまでテレビ関係全部見放題なので問題なくケーブルテレビも見ることができる。
「じゃあやっぱりk'sプロのチャンネルにしよっか…多分事務所のチャンネルが一番あーちゃんの意思を反映してると思うもの。」
「そうだよね。そうしよう!
それにしてもk'sプロもケーブルのチャンネル持ってるとか大きくなったよね…
ほんとひーちゃんのおかげっていうか…」
k'sプロとはひーちゃんが所属している事務所でここ最近メキメキと勢力を伸ばしつつある大手事務所である。
もともとバンドとかアーティスト系の音楽事務所で、タレントは少なかったけれどひーちゃんがアイドルとして大ブレイクを果たしてバラエティとかに進出するようになった為タレントや芸人さんなどもここ最近では多く所属しているみたいだ…
わたしの大好きなバンドもいくつかこの事務所に所属していて、インディーズ業界ではこの事務所から声が掛かればブレイク間近と言われるくらいである…
「そうあんまり言わないであげて…
私達バンドマンが一番お世話になってるんだから…」
「そうだねぇ…バンドマン的には最大手だもんね…レーベルに声かけられるより全然良いって話も聞くし…」
そんな雑談をしながらチャンネルを合わせるとちょうど番組が始まったところみたいで会見場だと思われるホテルかどこかの景色が映し出されていた。
「よかったー。まだ始まってなかったみたいいね…」
「それにしてもすごい大々的だよね…
なんだか最近よく見る謝罪会見みたいでなんかやだな…」
わたしが思った事を口にした途端画面の先は慌ただしくなった。
『えー。それではこれより宮永緋雪の復帰会見を始めさせていただきます。
まず初めにk'sプロダクション所属、宮永緋雪に登場していただきます。』
画面に目を向けるとアナウンサー調の見た目の司会らしき男の人がそう告げた。
5秒くらい経ったところで袖の方から白を基調とした可愛らしいカクテルドレスを来たひーちゃんが現れた。
そしてひーちゃんがk'sプロのロゴがたくさん入ったパネルの前に進むにつれてどんどんとフラッシュが焚かれてたちまち画面は白い光で眩しくなった。
ひーちゃんの美しい姿と会見の異様な雰囲気に呑まれてしまったわたしと雪ねぇは只々ひーちゃんの一挙手一投足に注目することしかできなかった。
『みなさん…本日はお集まりいただき…誠にありがとうございます。
今回、私が何の説明もなく休養してしまったことで沢山の方々にご迷惑とご心配を掛けてしまい誠に申し訳ありませんでした。…
今回の休養によって死亡説や蒸発説がささやかれていたようですが私はこうして元気です。この度は私の軽率な行動によって沢山の方々にご迷惑とご心配をお掛けしてしまう結果となってしまい…大変反省しております。
ですが…私宮永緋雪はタダでは起き上がりません!!来月末から復活ツアーと称しまして全国ツアーを開催いたします!
ツアーだけじゃなくて新しいアルバムも発売することが決定しました!
皆様とお会いできなかった1ヶ月間を埋めるためにも私宮永緋雪は全力で走ります!!』
冒頭は何とも謝罪会見の様な様子を呈していたけど最終的にはひーちゃんの告知会見になってしまっているというすごい会見だった…
画面の中ではひーちゃんが新しいアルバム制作のパネルを持って写真撮影に応じている…
「はぁぁ…とりあえず何とかひーちゃんも上手くやれそうでよかったよね…」
「最初謝罪会見みたいで何だかドキドキしちゃったわね…」
二人で安堵しながらそんな会話をしていると一転画面の中がざわつき始めた。
一体何が起こったのかわからないのでわたし達は慌てて画面を凝視する。
程なくして画面にテロップで【記者からの質問:結局休養していた理由とは何だったのでしょう?】
と表示されているのを見て全てを悟った。
きっと記者の誰かがこんな質問をして和やかムードの会見をぶち壊したのだろう…
『そうですねぇ…理由ですか…
とっても私事ですけどいいんですか?』
ひーちゃんは少しおどけた風に言うけど目は真剣だった。
『皆さんも知りたいところだと思うので是非教えて頂ければと思います。』
ひーちゃんの目力にも負けず記者の人は質問を続けた。
記者の人も負けじととても真剣な表情だった。
『わかりました。』
ひーちゃんはその真摯な表情に負けたと言った風にそう言った
『簡単に説明させて貰うとわたしは家族をまたバラバラにさせない為にお時間をいただいたって形です。
一ヶ月位前にあたしの家族に大きな変化が2つ起こりました。まず一つはあたしの大切な大切な双子の兄が病気で倒れました。今も生死をさまよって遠くで治療をしているところです。
もう一つは可愛い可愛いもう一人の双子の姉…まあ、どっちかというと姉の方が妹みたいですけど…
その双子の姉が長い長い入院から退院しました。
家族がこんな状況なのにわたしが家族に関与せずに仕事をしている場合じゃないと思ったんです。
仕事ばっかりのお父さんは絶対帰ってこないだろうからわたしが帰って二人を支えないとって思ったんです…』
ひーちゃんはいつの間にか両目に涙を湛えて今にも泣きそうな表情になりながらもなんとか話しきった。
『やっとお兄ちゃんはしっかりとした治療を受けられる病院に転院できて、あ〜ちゃんはゆっくりですけど病院の外の生活に慣れてきました。
でもまだまだ二人とも不安だと思うんです…
だからあたしは二人を勇気付ける為にも何を言われようと活動を続けます。
いつの日か可愛い可愛いあ〜ちゃんと二人で立つステージをお兄ちゃんに見てもらいたいって夢もありますから。』
そう言って涙を拭いながらも素敵な笑顔でそう言ったひーちゃん。
その瞬間からフラッシュが焚かれすぎて瞬く間に画面は真っ白になってしまった。
結局その会見はあの後当たり障りのない質問で終わってしまったけどわたしにとっては最後の質問がわたしの生活を劇的に変えてしまいそうで少し不安にもなった。
『最後に一つだけいいですか?
双子のお姉さんは芸能界を目指しているってことでよろしいですか!?』
ひーちゃんの去り際に放たれたこの質問にひーちゃんはピタッと立ち止まって少し考えた後にこう言った。
『それはあの子次第ですけどあの子ならあたしより人気になっちゃうかもしれないですあたしはそれくらいの可能性があると思います…
それにあの子はもうちょっとずつ有名になりつつあるみたいですよ…
だからわたしはそれに油を注いだだけです』
そう言い終わるとひーちゃんは袖の方へ消えていった。
「ひーちゃんは本当にあーちゃんをアイドルにする気なのかしら…」
画面がブルシムのニューシングル告知に変わると雪ねぇはすごく心配そうにそう言った。
「さすがにわたしなんかが出来るような簡単なお仕事じゃないでしょ…」
この時のわたしはひーちゃんの発言の力を楽観視していたのかもしれない…
「ひーちゃんもあーちゃん次第って言ってたからね…まあ、あーちゃんもよく考えるといいかもね…」
そう言って雪ねぇは食べ終えたお皿を洗って部屋に戻っていった。
わたしも今日は疲れたので休んでしまおう…




