32話 楓さんとデート 後編
「じゃあ、話を続けましょっか」
喫茶店に着いて注文した飲み物が届くなり楓さんはそう切り出した。
「高砂さん…で、大丈夫でしたっけ?」
楓さんの問いかけに3人の中で一番背が高くてイケメンな大和くんがそう切り出した。
その問いかけに楓さんは軽くうなづいた。
「僕らと茜の話なんで少し席をはずしてもらったりはできないですか?
ちょっとプライベートなこととかもあるんで…」
大和くんは真剣な表情でそう切り出した。
こんなイケメンにこんな真剣にこんなこと言われるとか茜ちゃんはいったい何やったのよ…
「いや、あなたたちには一つ知ってもらわなきゃいけないことがあるの…
それを知ったうえでなら茜ちゃんには何を話そうが私は止めないわよ。」
「知らなきゃいけないことって何ですか?」
金髪のチャラめな王子様みたいな風貌の日向くんが食い気味に切り出してきた。
こうやって見ると今までドキドキしていたのがうそのように思えるほどふつうに見えた
やっぱり茜ちゃんフィルターがかかってるからなのかな…
「このことはあまり口外してほしくないんだけどそれは守ってもらえるかな?
それだけ約束してほしいんだけど…」
「「「わかりました…」」」
3人とも案外素直にそういってくれた。
もっと反抗するかと思ったけど案外素直ななもんなんだなぁ…
「まず最初にだけど…あなたたちの目の前にいるのは茜ちゃんじゃなくって緋那ちゃんっていう別の娘よ。」
楓さんが周りに細心の注意を払ってそう切り出した。
3人が3人とも絶句といった感じでなにも言い出せないでいるようだった。
「ちょっと信じられない話かもしれないけど私たち《・・・ 》はそう扱っているわ。
もう3人は茜ちゃんがTS症候群だっていうことは知ってると思うけどその症状に代理人格っていうのがあるのは知ってる?」
「ちょっと勉強したんすけどよくわかんなかったっす。」
日向くんが先陣を切ってそう答えた。
「まあ、難しい話だし理解はしてくれなくてもいいのだけどわかってほしいのはその代理人格っていうのがこの緋那ちゃんってわけ
TS症候群の治療の一環として茜ちゃんと緋那ちゃんを完全に別個として扱っているのよ…
まあ、簡単に考えるなら多重人格みたいなものだって考えてくれればいいわ」
まるで生徒に教えるように楓さんはそういった。
いいタイミングだしここらで自己紹介でもしてしまおう…
「どうも初めまして、茜ちゃんの代理人格の緋那って言います。
茜ちゃんほどとは言わないからあたしともなかよくしてください。」
とりあえず人並みの自己紹介をした。
「え、じゃあ君は茜じゃないってこと?」
日向くんが頭の上にハテナマークをいっぱい浮かべたような状態でそう問いかけてきた。
ほかの二人に至っては未だに思考が復帰しないようでポカーンとしてしまっている。
「そうだよ。まあしゃべり方とかでそのうちわかると思うけど性格とかも全然違うから…
茜ちゃんと一緒なのはせいぜい体くらいよ」
あたしはあっけらかんとしてそう答えた。
「うーん、あんまりわからないけどとりあえず君に怒るのがお門違いってことはわかったかな」
「これからについては茜に相談しろってことだろ?
緋那ちゃんが橙哉…茜ちゃんと全く別の人格だっていうなら俺たちはそう接するだけだよ」
やっと思考が復帰したのか和希くんと大和くんが優しくそう答えてくれた。
なぁんだ…二人ともとっても優しいじゃん…変に構えちゃって損したなぁ
「とりあえず俺もなんとなくは理解してきたかな…
まあ、茜みたいにとはいかないと思うけどよろしくしようよ」
そういって笑う日向くんの笑顔がどうしようもなく素敵に見えてしまってだんだんと顔が紅潮していくのがわかる。
この人の前だと一歩引いたあたしになれないかも…
「あ、うん。よろしくね。」
恥ずかしくなってきてしまってそんなぶっきらぼうな答えしか生み出せなかった。
「ってことだから茜ちゃんも緋那ちゃんもよろしくねって言いたかったのよ」
楓さんがあたしの暴走を未然に止めるように少しだけ話題を変えてくれた。
「あたしからもお願いね…茜ちゃんは前に出さないけどきっと傷ついてると思うから…
こういう時は友情が一番だと思うもん。それにまた音楽やりたいみたいだしね…」
楓さんに続いてあたしからも茜ちゃんのことをお願いした。
茜ちゃんの幸せがあたしの中の最優先事項だもん…
「それに関しては明日しっかり仲直りしようと思うから大丈夫だよ。
あ、俺らそろそろ行かないとじゃない?そろそろ呼ばれる頃でしょ。」
日向くんがさわやかに言いながら時計を見て何かを思い出したかのようにそういって立ち上がった。
「そうだね、じゃあまたあおうね!」
「高砂さん、ありがとうございました。
高砂さんのおかげで緋那ちゃんを傷つけずに済みました」
和希くんと大和くんもそういって立ち上がった。
「いえいえ、私も話せてよかったわ。
今後とも二人をよろしくね。コーヒー代はそのお礼だと思ってくれればいいわ。」
楓さんがそういって3人を送り出した。
「またね。」
あたしも軽くそう言って3人を見送った。
「ご飯食べちゃおっか。」
3人をが店から出ていくなり楓さんははにかみながらそういった。
時間を確認するとあと30分くらいでケータイが出来上がる時間になる…
「そうですね。ここオムライスあるかなー…デミグラスかかってるやつ…」
「ふふっ、あるといいわね。すみませーん!!」
あたしの注文が決まったところで楓さんはよく通るその声で店員さんを呼んだ。
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「いやー、おいしかったですね。
あそこのオムライスがあんなにおいしいとは思わなかったなー」
「そうね。私もびっくりしたわ。
あそこあんなにおいしいご飯出してるのにガラガラなのかしら…」
あたしの問いかけに楓さんはそう返してくれた。
ちなみに楓さんが食べたのはハヤシライスだった。
「ちょっと寄り付きがたい雰囲気はありましたよね。
高級そうだしなんか敷居が高そうな感じしませんでした?」
「そうねぇ…やっぱり気軽に入りずらいのかしらね?」
そんな事を話しているとすぐにケータイショップについてしまった。
「じゃあ、私サインとかしてくるからカバーとかでも見ておいて」
ケータイショップに着くなり楓さんはそういって窓口まで行ってしまった。
一人になってしまったのでちょっと寂しくも思いつつケータイのカバーを物色しているとなんだかひそひそ話をしている声が聞こえてきた。
まさかあたしじゃないと思って気にしないでいたらだんだんその声はあたしのほうに近づいてきた。
まさかあたしどっかにデミグラスソースでもつけっちゃってるのだろうか…
と思って全身をまさぐったり近くにあった鏡で確認したりしても何も異常はなかった。
え、なになに…茜ちゃん後ろ指さされることでもしちゃってたの?
ちょっと怖いんだけどぉ~…
「あのっ!宮代さんですよね!」
あたしがびくびくしながらなにもなかったようにケータイのカバーを物色し始めたところで制服を着た女の子3人組に声をかけられた。
「え!?まあ、そうですけど…」
よく状況が飲み込めなくって何も考えない返事をしてしまった。
「やっぱりそうですよね!!今日はだいぶ雰囲気が違うから別人かと思ったんですけど…
前回は声かけらんなくって…今日みたいな女の子らしい恰好もすっごく素敵です!」
女の子たちはあたしの返しを聞くとちょっと興奮した感じでそういってきた。
話を聞いてなんとなく状況がつかめてきた…
この子たちは前に茜ちゃんがここで撮影したのを見ていた子たちで未だに茜ちゃんを芸能人だって勘違いしているのだろう…
「あ、いや…ごめんね…あたし別に芸能人とかじゃないからさ…」
そういってあたしはやんわりと拒否の意を示した。
「あっ、そうだったんですね!でもあたしたちは応援してますから!
あの時の写真が掲載される雑誌も絶対買いますから!
最後に握手だけしてもらってもいいですか?」
なんだか会話がかみ合わないような気もするけどとりあえず求められたので握手だけすると満足したのか頑張ってくださいねとだけ言って女の子達はいなくなってしまった。
「嵐みたいだったなぁ…」
「それだけ茜ちゃんが人気出てきちゃったってことね」
はぁ…とため息をつきながらそうこぼすと後ろから楓さんがさっと近づいてきてそういった。
「あ、楓さん!終わったんですね。
はぁ…茜ちゃんがこんなに有名になってるなんて思わなかったですよ」
思わず楓さんにため息交じりに愚痴をこぼしてしまう
「私だってさすがにここまでとは思わなかったわよ…
まだ雑誌だって発売されてないのに…
もうこの界隈ではインターネットとかで有名になっちゃってるのかもね」
楓さんは少し脅すような感じでそんな怖いことを行ってきた。
「そんな怖いこと言わないで下さいよ。
インターネットで茜ちゃんがさらされてるとか怖すぎます」
あたしの身にも危険が及びそうだし何よりも茜ちゃんが心配になる…
「茜ちゃんの場合さらされるっていうより祭り上げられるって感じだろうけどね…
私も正直怖くって検索とかできていないのが現状なのよねぇ…
茜ちゃんがどうしたいかはわからないけど緋那ちゃんは気をつけなさいよ」
楓さんが本当に心配そうにそういってくれる。
「うん。あたしは茜ちゃんの思うように生きてほしいから邪魔になるようなことは何もしないつもり。
それよりあっちのお店のほうがカバーとかおいてそうだしそっち行きたいな」
あたしは話題を変えるかのようにそう切り出した。
もちろんそういう意味合いもあったけどそれ以上にさっきからあっちのお店が気になって仕方がないのだ。
「わかったわ。じゃあ、あっちでカバーとかはみましょっか。
でーもー、その前に!はい!
しっかり頑張って生きてね。私は茜ちゃん以上にあなたのことが心配なの。
だから、約束ね。勝手にいなくなったりしちゃだめだから。もみじみたいな思いは絶対にしてほしくないから」
そういって契約したてのまだ紙袋に入れられたままの携帯電話を渡してきた。
「うん。ありがと。
なんだか本当におねぇちゃんみたい…
あたしはあたしとしてしっかり生きるから。」
少し涙があふれてきながらもしっかり決意表明をして携帯電話を受け取った。
「うん。約束だからね。
じゃあ、ここからはいっぱい楽しくお買い物しましょっか。
私も今日は有休だからもうはっちゃけまくっちゃうんだから!」
そういって楓さんはあたしの手を引いてお店のほうへ歩を進めだした。
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「いやー、いっぱい買い物したー!!」
やってきたアイスコーヒーを一口飲むなり楓さんは上に伸びながらそういった。
「ほとんどあたしの買い物だったじゃないですか…
楓さんほんとにそれだけでいいんですか?」
あたしはそういって楓さんの横に置いてある紙袋と自分の横にある紙袋の量を見比べた。
その差は歴然としてあたしのほうが量が多かった。
いっくら楓さんが楽しんであたしの洋服とかを見ていたとはいえこれでいいのだろうか
「あたしは自腹だからもうっちょっとしてからのバーゲン待ちなのよ
それに緋那ちゃんに似合う洋服を見てるだけでお姉さんおなか一杯よ」
ちょっとトランスのような状態に入りながらも楓さんは案外まともなことを言っていた。
「そっか、楓さんは節約上手なんですね。
逆にあたしにいっぱい着せる分には経費で落とせるからいいってことですか…」
あたしは最後のほうにちょっとだけしょぼんとした演技を加えてそういった。
「まあ、私も世話焼きだからいろいろ着せてみたくなっちゃうのよ
こんなだとおばさん臭くなっちゃうかしら…」
経費だからというよりも親戚の子にいろいろ買い与えるような気持なのだろう…
なんだか楓さんが親戚のおばさんみたいに見えてくる…
「いや…そんなことないですよ…」
ちょっと気を使ってそういった
「それはちょっとおばさんっぽいかもって思った顔だなぁ…
まあ、緋那ちゃん可愛いから許してあげちゃうけど」
酔ってるんじゃないかっていうほどテンションの高い楓さん…
よっぽどこうしているのが楽しいのだろう
「良かった…それにしても楽しそうですね
あたしちょっと疲れちゃいましたよ…」
そういってあたしはテーブルにぐてーっと突っ伏した。
そりゃあ疲れるでしょ、あの後買い物してる途中でもお構いなしに声かけられるんだもん…
あまりにも声を掛けられて疲れてしまったのでさっきの喫茶店に逃げ込んでこうして休憩をしているのだ…
「まあ、人気者は大変ってことね…
どうする?もう帰る?それともまだ見る?」
楓さんが話をうまーく落としてくれたところで次にどうするか問いかけられた。
「うーん。まだ上の階とか見られてないしもうちょっと見ていきたいな」
どうせレイクモールに来たんだから隅々まで堪能して帰りたい。
帰ったらまた茜ちゃんの中で悶々とした日々が続くのだから。
「わかったわ。私ももうちょっと見て回りたいところがあったからちょうどいいわ。
さっき入ったばっかりだしもうちょっとここでゆっくりしていきましょっか」
楓さんはそういっておしゃべりモードに突入したようだ…
「そうですね。さすがに今すぐなんてあたしも無理ですもん」
結局お茶をしながらいろいろ話しているうちに1時間以上が経過してしまった
「そろそろ行きましょっか。まだまだ見るところはいっぱいあるものね」
二人の飲み物がちょうどなくなったころおしゃべりにいったん区切りを付けてこの店を出ることにした。
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「ありがとうございましたー」
いろいろ回って最後に楓さんがプレゼントという形で可愛い髪留めを買ってくれた。
「最後に緋那ちゃんに見せたいものがあるんだぁ」
そういって髪留めの店を出るなり駐車場のほうに足早に向かっていく楓さん。
「じゃあ、ここからは目をつぶろっか」
建物の出口に近づくと楓さんがそんなことを言った。
反抗する理由もないので素直にあたしは従った。
「じゃあ、ここで目を開けてもいいよ。」
目をつぶって楓さんに手を引かれながら少し歩いたところで立ち止まると楓さんはそういった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!きれいっっっ!!!」
意を決して目を開けるとすぐそこに夕日に照らされてオレンジ色に染まる湖があった。
息をのむほど美しい光景であたしは子供のようにはしゃいでしまう。
「きれいでしょう?わたしこれが見せたかったんだぁ…
この世界はこんなにも素敵だよって言いたかったんだけど緋那ちゃんはもうわかってたみたいね」
楓さんは柄にもなくそんなロマンチックなことを言い出した。
「こうしているともっと感じれます!!
楓さん。連れてきてくれて本当にありがとうございます!」
あたしはそういって楓さんに深々と頭を下げた。
「いいのよ。私たちは患者と看護師以前におんなじTS症候群の仲間でしょ?
わたし達は仲間であり友達でもあるんだから。これからもずっとよろしくね!」
その時の楓さんの笑顔は息が止まりそうなぐらい美しかった。
あたしたちは夕日が沈むまで夕日の映る湖畔を眺めていた。
帰りもいっぱいおしゃべりしながら家まで送ってもらって楓さんを見送るとどっと疲れがこみあげてきた。
とりあえず楓さんにお礼のメールを送って今日買ってもらった洋服とかを茜ちゃんのとは分けてクローゼットにしまって今日あったことを交換ノートに書いたところで力尽きてしまって部屋着に着替えてご飯も食べずにベットにばたんきゅーしてしまった。
ごめんね、茜ちゃん。
おやすみ……




