3話 新しい名前!?(前編)
更新が遅れてしまい大変申し訳ありません。
全部夏の日差しと無茶なスケジュールのせいです。
いえ、ごめんなさい私のせいです。
俺は個室の病室で窓際に設置されたベッドに座って春が近づく冬の空を眺めている。
俺が意識を取り戻してから3日が経った…
今日までの間に倉田先生や雪ねぇや緋雪からあの日にあったことや俺の病状などを詳しく聞いた。
ちなみに、身体はなんとか自力でトイレに行ったりできるくらいまでには戻ってきていた。
無心になりすぎてトイレしてる間の記憶がないけど…
まあ、周り汚したりしてないし大丈夫!
でも、まだお風呂は入らせて貰えてない。
看護師さんの代わりに雪ねぇと緋雪が身体を拭いてくれるのだけど恥ずかしくて仕方ない…
着替えとかも毎回雪ねぇと緋雪が持ってくる可愛らしい服装や下着を言われるがままに着させられている。
まったく…いつも違う服装を持ってくるがどこからこんなに手に入れてきているのだろうか…
トイレに行ったりできるようになったことで可愛い少女の姿をした自分を自分の目で見るようになったおかげで自分の身体は変わってしまったんだなと思うようにもなってきていた。
でも、まだ正直なところまだ受け入れられないしなんだか実感もわかない。
雪ねぇや緋雪に身体を拭かれたり着替えさせられたりする時に見える自分の白くてきめ細かい素肌に自分の身体ながらドギマギしてしまったりしているのできっと男気分が抜けていないのだろう…
でも、倉田先生や雪ねぇ達の話を聞いた限り突然男に戻る何てこともありえないしおまけに緋那っていう問題もあるし諦めるしかないのかなとも思えてきた。
あれから今日まで緋那が表に出てくることはなかった。
まあ、自分の性別とか全く考えずに今日まで生活してきたから当たり前っちゃ当たり前なんだけど。
倉田先生の話を聞く限り男の頃の暮らしには戻れないだろうし辛いって言えば辛いのかもしれない。
でもやっぱり実感がわかないってのが一番の感想なんだろうな…
今日はなんだか変に考え事しちゃうなぁ…
雪ねぇと緋雪どっちもいないからだろうか…
そういえば雪ねぇからライブどうなったのかとかいろいろ聞かないとな
雪ねぇも緋雪もどこに行ってるんだろう…
「ちょっと人連れてくるから今日は一人でゆっくりしててね 橙くん♪」
「そうそう!楽しみにしててね おにーちゃん♪」
なんて言って二人とも何処かへ行ってしまった。
誰を連れてくるのだろう…
日向とか連れてくるのかなぁ…
なんだかあいつらに会うのは心の準備が出来てないっていうか…
いまの俺の状況をなんて伝えたらいいかわかんないや…
このまま黙っていたらみんな怒るかなぁ
日向とかは黙っていたことに怒りつつも本気で心配してくれそうだな〜。
ふふっ、なんだか懐かしいなぁ〜
ガラガラガラッ!
「どうしたのぉ?なんか嬉しそうな顔して
なぁにが懐かしいのかなぁ?」
いきなり勢いよくドアが開いたと思ったら緋雪がちょっとバカにしたような声でそう言いながら病室に入ってきた。
「うわぁぁぁ、って緋雪かよ〜
驚かせんなよ… ってか俺口に出してた?」
緋雪が入ってきたことに驚いた俺はまた素っ頓狂な声を上げてしまった。
まったく恥ずかしい限りだよ…
なんだかこの身体になってからちょっと怖がりになったかも…
「うん、すごい聞こえてたよ?
日向とか連れてくるのかなぁってとこから… ってかお兄ちゃん顔赤くしちゃってどうしたの?とってもカワイイけど!」
ほとんど考えてたこと漏れてたとか…
ってか顔が心なしか熱いような気がする
やっぱり体が変わってるから勝手も違うみたいだな
昔は恥ずかしくっても顔が赤くなったりしなかったし…
「べ、別になんでもないから!」
なんか悔しかったのでこう言ってしまったがなんだかこれではツンデレちゃんではないか…
変な誤解されてそうだなぁ…
「お兄ちゃん可愛ぃぃぃ…」
緋雪はそう言って顔を赤らめて何処かへ行ってしまった。
緋雪と入れ替わるように雪ねぇが病室に入ってきた。
「あらあら、やっぱり仲良いわねぇ
でもあんまりひーちゃんをいじめないであげて?」
雪ねぇは何を勘違いしているのだろうか
別に緋雪をいじめたりはしていないのに…
「不服そうな顔してもだめよ?
橙くんはもっと自分の可愛さを自覚しなきゃだめよ?」
にこっと可愛らしく笑って雪ねぇは言う
俺の可愛さってなんだよ
そりゃ顔は緋雪や雪ねぇには及ばないけど可愛らしい顔立ちをしているけれど…
ってか雪ねぇの方がよっぽど可愛いでしょ
俺の立ち振る舞いなんて男のそれなんだから可愛らしいなんて似つかわしくないとおもう…
「むむむ…」
「あらあらどうしたの?変な声出して…
納得いかないって顔してるけど」
雪ねぇには俺の心情を見抜かれてしまうのだろうか?
あと…変な声ってなんだよそんな声出してないし。
「あらあら、しっかり言ってたわよ
むむむ…って
私が心情を読めるんじゃなくて橙くんがわかりやすいのよ。」
えっ、そんなに顔に出ていたのだろうか…
あとむむむってなんだよ…
この体は思ったことなどが表に出やすいのだろうか…
「そ、そんなことはどーでもいいじゃん。
ところで連れてくるって誰のことなの?」
話を流してついでに気になっていたことを聞いてみた
「あ、その話?
知りたい? どーしよーかなー
橙くんがどうしてもってゆーならー」
「あ、そういうのいいから早く教えて」
「つめたっ!
まあいいけど…じゃあ呼んでくるから待っててね」
雪ねぇといつものようなやり取りをしてなんだか心があったかくなってきた
「ひーゆきー会いたかったぞー!」
「キャー‼︎」
ゴスッ
すると気持ちの悪いおっさんの声と緋雪の悲鳴と重たい音が響き渡った。
きっと誰かが緋雪に抱きつきにでも掛かって殴られたのだろう…
でも、そのおっさんの声には聞き覚えがあった。
「も、もしかして連れてくるって…
と、とうさんのこと?…」
恐る恐るその声の主について聞いていると
「イタタタ…
おー、橙哉生きてたか!
‼︎…
せ、せ、せんな…
茜菜が、茜菜が生き返ってる…
う、嘘だろ?
あ、会いたかった…
会いたかったよ、茜菜ぁ…
ううっ ぐすっ…」
声の主が緋雪に殴られたであろう鳩尾をさすりながら病室に入ってきた。
声の主は緋雪大好きオヤジこと宮代家の大黒柱である宮代緋哉であった。
とうさんは俺を見るなりいきなり抱きつきながら泣き出した。
ってか茜菜って誰…
わけがわかんないよ…
「お父さん! 現実を見て!
お母さんは死んじゃったんだよ?
今お父さんが抱きついてるのは橙くんなんだよ? お母さんじゃないの!
しっかりしてよ!」
みんなが固まっている中一足先に再起動を果たした雪ねぇがとうさんを正気に戻そうと必死に声をかける
最も、声をかけるというには少々乱暴すぎる節があったが…
雪菜に激しく揺さぶられやっと正気を取り戻した
緋哉は橙哉をみて言葉にならないといった様子でいたが橙哉を抱きしめながら深呼吸をすると気持ちの整理も付いてきたのか橙哉を抱きしめたまま語りかけ始めた。
「お、お前本当に橙哉なのか?
な、なんで茜菜の姿に…
す、すまん。 こんないきなり質問攻めされてもわかんないよな…
困ってるってのがまるわかりだよ
こんなとこも茜菜そっくりだな…
雪菜から橙哉がTS症候群になったってことも聞いたしどんな病気かもある程度知っていた…
でも、こんなにも変わってるなんて知らなかった…
しかも茜菜と瓜二つなんて…」
緋哉は焦りながらも優しいトーンでそう語りかけてきてくれた。
「とうさん。
そんなに俺は変わっちゃったかな
中身は何一つ変わりやしないんだけどな…
見た目なんてその人を測る物差しでしかないんだ… 中身をもっと見てくれよ…
確かに俺は女の子の、しかも美少女の見た目になっちゃったけど橙哉なんだよ…」
俺はとうさんを引き剥がしながらそう言った。そう言っているとなんだか無性に悲しくなって涙が溢れてきた。
ようやく自分は昔とは変わってしまったってことも、もう元には戻れないことも実感した。
みんなが中身を見てくれてないってことともう元には戻れないってことが混ざり合って俺に襲いかかってくる。
「ぐすっ…
うわぁぁ…
うわぁぁぁぁぁぁぁん」
俺はぐちゃぐちゃになるまで泣いた。
何故だかとうさんに抱きつきたくなってとうさんに抱きつきながら泣いた。
不思議なことにこれだけ精神が不安定になっても代理人格は現れなかった。
★☆★☆★☆★☆★
「橙くんも落ち着いたみたいだし本題に移りたいんだけど…」
そういう雪ねぇの声に反応しようと頭をあげるととうさんの顔があった…
周りを少し見てみるととうさんと抱き合っているのが分かった…
「うぇぇぇぇぇえ な、なんでぇぇ
なんでとうさんと抱きあってるのぉぉぉ」
先ほどまで泣いていたうるうるの目つきでの上目遣いは破壊力抜群である。
緋哉は、目の前の可愛らしいのは俺の娘だ…いや息子なんだと言い聞かせて橙哉の上目遣い攻撃を乗り切った。
「なんでってとうさんの胸で泣いてたからじゃないか! こんな年の息子に泣き付かれる身にもなってくれ…」
とうさんはげっそりしてるアピールをしながらそう言った。
「お父さん!
もう橙くんは息子じゃなくて娘なんだよ?
あと、嬉しそうにしてたくせに何をいってるんだか…
もうっ! そろそろ本題に入るよ!」
雪ねぇが暗い口調でボソッといらない訂正をして、そのあと話題を変えた。
「ここにお父さんを呼んだ理由は簡単よ!
橙くんがこれから女の子として生きていくためにお父さんに橙くんの状態を知って欲しかったってのと色々必要な処理をするために話し合うことが必要と思ったからよ。」
雪ねぇは堂々と俺がが女の子として生きるためにとうさんに尽力して欲しいとの旨をいきなり言い出した。
「まあ、あたしも雪ねぇの意見には同意なんだけど〜。
実際なにを決めたり話し合ったりするわけ?」
今まで冷たい目を緋哉に向けながら口を閉ざしていた緋雪がそう質問を投げかけた。
「まあ、TS症候群は特定難病って言って自治体に申請することで戸籍の変更や別人としての社会復帰とか医療費や必要最低限の物の購入などを助成してくれるの。
だからとりあえずは申請して戸籍とかを変更するために橙くんの新しい名前を決めないとなーって感じかな。
名前が決まればあとは倉田先生とお父さんでいろいろ申請とかすればいいみたいだし。」
雪ねぇは倉田先生に教え込まれただろうことをスラスラと口にした。
「名前って、前にも決めたじゃん!
あかなって名前をさ!あれじゃだめなの?」
緋雪はそう口にするがふと俺の顔を見てなにを思ったのか「それじゃお兄ちゃんが可哀想だね…」なんて言ってしおらしくしてしまった。
きっと悲しそうな顔をしていたのだろう。
少しさみしいななんて思っていたのは事実なんだし。
「ひーちゃんも気づいたと思うけど。
あれは緋那ちゃんにつけた名前じゃない。
橙くんとして独立した名前を付けてあげないと。しかも一生使えるような名前をね」
雪ねぇは俺の意思を汲み取ってくれたのか
そう説明を付け加えた。
「俺に案がある。お前らには俺と茜菜の字から一文字使ってるんだ。
まだ一文字だけ使ってない文字がある。
茜菜がとても大事にしていた一文字だ。
奇しくも緋雪と橙哉は茜色とも緋色とも取れる雪の夜に生まれたんだ。
だから本当なら「二人とも女の子なら緋雪と茜だね」なんて話していたくらいなんだ。
もしかしたらあの時の茜菜はこうなることをわかっていたのかもな…
だから、橙哉の新しい名前は茜がいいと思う。
これは俺と茜菜からの切なる願いだ。
橙哉、どうか俺と母さんの願いを叶えてくれ。」
緋哉はそう言って深々と頭をさげた。
「うん。いいと思う。
緋那とも語感が似てるしね。
お母さんの願いもあるとなっちゃぁ
お母さんの分まで生きないとって気にもなるからね。
気に入ったよ。『茜』」
俺は心の底からそう思った。
もう男だったころの生活に戻れないのだとしたら新しく女の子としての名前とか必要だと思っていたから好都合だったし
お母さんの名前からもらった名前なら誇りをもって生きれる気がしたし
なんだか生きていく勇気みたいなものをもらえそうな気がした。
そしてお母さんが付いているならどんなことがあっても緋那に人格を明け渡すことはないだろうと思ったからである。
「うん!じゃあ橙くんの新しい名前は『茜』で決まりだね!
これからもよろしく!茜ちゃんっ♪」
雪ねぇはいつもの優しくて明るい笑顔でそう言ってくれた。
「これからは本当に
おねーちゃんって呼ばなきゃね。
よろしくねっ!
茜おねーちゃんっ♪」
緋雪もちょっと意地悪なことを言いつつ祝福してくれている。
こうしていると女の子として生きていくんだという実感も湧いてくるような気がした。
少しずつでもいいから女の子としての振る舞いをしていかなきゃなー。
「じゃあ俺は先生のところ挨拶して色々処理をしてくるよ。
雪菜、案内してくれるか?
緋雪は茜についていてあげてくれ。
茜はとりあえずはしっかり休むんだぞ!」
珍しくとうさんが父親らしいことをいう。
「「「はーい。」」」
3人で仲良く返事をして各自行動を開始した。
雪ねぇはとうさんについて行って緋雪と俺はそのままとうさんと雪ねぇを見送った。
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「ねぇ、おにっ…おねーちゃんっ!
あたしたちの名前の由来あんなことだったんだね。なんだか笑えてこない?」
とうさんと雪ねぇのいなくなった病室でどもりながらも緋雪が話しかけてきた。
緋雪も姉としての俺と会話するのに緊張しているのだろうか…
そしてなんだかおねーちゃんと呼ばれるのは大きな違和感がある…
「そうだね。
なんだかとうさんと母さんらしいよね。
きっとおれの名前だって「男の子だったら茜哉かしら」とか母さんが言って
とうさんが「茜って文字だと女の子っぽいし男の子っぽくなるように橙哉とかどうかな?」って決めたんじゃないかな?」
なんだかこの話に違和感を感じる気がする。
自分の名前の話をしてるはずなのにもう自分の名前ではないんだなって実感してる自分がいる。
「あははっ!
たしかにお兄ちゃんの名前もそんなテキトーに決められてそうだよねっ!
でもさー、お兄ちゃんさっきも言ってたけどさ。
中身は何一つ変わっていないって…
あくまでも私は思うんだけどさ、見た目も変われば心も少しずつ変わってくと思うよ。
あたしがそうだったから…」
そう言う緋雪はちょっと辛そうで
そして不安そうな顔しながら緋雪が言う。
「そんな顔しないでよ。緋雪は辛いことを思い出さなくてもいいんだよ…
辛いこと思い出させてごめんな…
あと、俺は別に緋雪から反対意見を言われてもショックを受けたりしないよ。俺はきちんとわかってるよ。
緋雪は俺を見てくれてるんだって…」
あれ、なんか言いたかったことと違う気がする。
こんなにも心に素直に言葉にするなんて
そして緋雪を疑うような言い方をするなんて…
「う、うん。大丈夫!
あの頃のことはあんまり覚えてないもん!
お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ?
あ、またやっちゃった…
おねーちゃんはおねーちゃんだよ?」
わざわざ言い換えなくてもいいでしょ…
とぼけたような顔を緋雪はしているが
まあ、少しでも沈んでいる俺を慰めようとする緋雪の心遣いだろうな…
「間違えるんだったら
おねーちゃんって呼ぶのもやめたら?
雪ねぇとも被るしさ…
新しく呼び名でも決めてよ。」
俺は優しい兄でいられたのだろうか
変わってしまった俺でもこんなに慕ってくれてるんだ。
兄だったころにに戻れないならせめて仲の良い双子の姉妹になれないだろうか。
これから俺はどんどん女の子っぽくなっていかなきゃいけないんだ
双子の兄妹から双子の姉妹のようになれたら外でもしっかりやっていけるんじゃないだろうか…
緋雪に女の子っぽいあだ名を決めてもらうことで覚悟を決めよう。
「え…いいの?…
うーん、じゃあ〜
緋那ちゃんがあかちゃんだから〜
おねーちゃんはあーちゃんかなっ!」
緋雪は俺の真意が見えないからか戸惑っていたが真剣な表情をしているだろう俺の表情をみてうなずいた。
少し考え込んでからこれだっ!とばかりに人差し指を立てて俺の新しい呼び名を言い放った。
「ふふふっ♪
それじゃあ緋那と間違えちゃうんじゃない?
まあ緋雪がいいならいいんだけどね。
じゃあ俺も緋雪のこと雪ねぇみたいに
『ひーちゃん』って呼ぼうかな…」
冗談交じりに俺がそう言うとキョトンとした顔をしたあとにとても嬉しそうな笑顔を緋雪は見せてくれた。
まあ、仲良し姉妹になるためには俺も緋雪のことをあだ名で呼んだほうがいいかと思っていたので流れでそうなってくれたのはとても好都合だった。
「あーちゃんって気に入っちゃった?
とっても嬉しそうだよ?あーちゃんっ♪
あたしもひーちゃんって呼んでくれたら嬉しいなっ!」
え、俺そんなうれしそうにしてたかな…
緋雪はニシシとでも聞こえそうな意地悪な笑みを浮かべながら言ってくるが最後の笑顔はやばい… 妹ながら可愛すぎる…
さすがはアイドルといったところか…
「わかった。これからは姉妹としてよろしくね!ひーちゃん。」
さっきの仕返しに俺もサイコーの笑顔で返してやった。
あれっ?でも、緋雪もといひーちゃんの反応はあんまり返ってこなかった。
「う、うん。」
『なにあれ!あーちゃん可愛すぎるっ
我慢できないよあんな笑顔されたら…
いっぱい可愛がってあげたくなる…』
緋雪は自分を抑えるのに必死で素っ気ない返事しか出来なかった。
緋雪…ひーちゃんはやっぱり姉妹ってのはまだ複雑なのかな… 悪いことしたかな…
いろいろと考え込んでしまう。
「もう、あーちゃん変な誤解してない?
すぐに考え込む癖と気持ちがすぐに表に出るのなんとかしたほうがいいと思うよ?」
悪いほうに考えていたのがひーちゃんにはバレてしまっていたらしく叱られてしまった。
「はーい。ごめんなさーい。」
少し落ち込んだトーンで可愛らしくやってみた。これは男だったころから緋雪によくやる手段でこれをやると冷たい目で「気持ち悪いよ?」と言ってくれるのだけど…
緋雪…ひーちゃんはそんな様子もなく顔を赤らめているだけである。
「ん?」
「あ、あーちゃんはまた歌とか歌わないの?場所はあたしも用意できるよ?」
俺がひーちゃんの様子をおかしく思っているとひーちゃんは何をトチ狂ったか急にまた歌をやらないのかなんて聞いてきた。
「え?ひーちゃん?
俺、歌やめたりなんてしてないけど…」
「え?ここ何日か鼻歌すら歌ってないからなんか心境の変化でもあって歌うのやめたのかと思った。
じゃあまた歌ったりするんだ!
あたしあーちゃんの歌すきだからまた聴きたいなぁ〜」
ひーちゃんは嬉しいことを言ってくれる
でも、いま改めて歌うってことを考えてみると正直今の俺は昔のように歌えるわけないしそれを聞いてガッカリしたくないし怖いっていう気持ちがとっても大きい
あれだけ好きで自分のすべてだったはずなのに…
きっと元からこうなることはどこかでわかっていたんだろうけどめまぐるしく変わる周囲にかまけて
考えることから逃げていたんだろうな…
「あーちゃん大丈夫っ?
具合悪いの?顔真っ青だけど…」
ひーちゃんがそんなこと言ってるけど自分ではそんな実感はない。
「大丈夫だよ?
ちょっと気持ちが落ち込んだだけ。
こんな時は少し歌ってみるといいかもね」
歌うことがやっぱり怖い気もするけど
ひーちゃんをなるべく心配させないように気丈に振舞っているつもりだ。
ひーちゃんの顔色を見る限りなんとか取り繕えているのだろう。
「い、いいかもね。
あたしも久々におにっ…あーちゃんの歌聴きたいなぁ」
緋雪も慣れていないのであろう。
また間違えているのを見ると微笑ましい。
「ふふっ♪
またひーちゃん間違えてるよ。
わかった。なんか歌ってみるね」
ひーちゃんのおかげで気分もだいぶ晴れてきたので歌ってみることにした。
”いまの私はそこにいますか。
夢に見た永遠のあの楽園に
いつか悲しい世界から
にげだしてしまいたいよ”
ズキン
「いたっ、っていうか何あの歌…
俺の書いた歌はこんなんじゃない。
おかしいよ自分の曲なのに全然表現できてないよ。
やっぱり俺の体じゃなくなったんだね…」
ズキズキズキッ
「いたっ…
いたたたたたた…」
『#/g@qmpく……そうね
だいぶ苦しそうじゃない…
なんならカワッテアゲヨーカ?』
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ
いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
橙哉もとい茜は叫び声をあげて倒れこんだ。