29話 学校へ行こう!
「ふぁぁ…そろそろ起きなきゃ…
雪ねぇに髪の毛もやってもらわないとだし」
眠い瞼をこすりながらもなんとか起きる事に成功したわたしはまだ起きていないであろうみんなのために朝ごはんを作ることにした。
時刻は7時をまわったあたり。
お父さんは別として雪ねぇもひーちゃんも何も予定がないだろうし起きてこないだろう。
お父さんはもともとわたしの付き添いで学校についてきてくれるみたいなので8時くらいには起きるだろう…
ガチャ
「あれ、今日も早いじゃない。」
そんなことを考えながらリビングのドアを開けると奥のキッチンから雪ねぇの声が聞こえてきた。
キッチンの方を覗いてみると案外テキパキと料理をこなす雪ねぇとこそこそと身を隠しているひーちゃんの姿があった。
「ひーちゃんはそこで何やってるの?…」
「ひーちゃんはここにはいませーん。」
呆れ気味に声をかけるとひーちゃんらしき物体から明らかにひーちゃんの声でそう返してきた。
「病み上がりなのに朝ごはん準備させたりしちゃってたから今日は二人で朝ご飯作ろうっていって教えてあげながら作ってたんだけどなんだかそれがバレるのが恥ずかしいみたい」
「そっかひーちゃん家事とか苦手だもんね…
別に恥ずかしいことじゃないと思うけどなぁ
料理なんて教えてもらった方がよっぽど覚えるだろうし…
じゃああたしも手伝うね!それで恥ずかしくなったりはなくなるでしょ」
「だってさ。ひーちゃんも出て来なよ」
雪ねぇがそう言うとこそこそと隠れていたひーちゃんが恥ずかしそうに姿を現した。
「わかった…あーあ、せっかくあーちゃん驚かせようと思ったのに…
まあ、あ〜ちゃんに料理教えてもらえるなら願ったり叶ったりみたいなもんだしまあいっか。」
ひーちゃんは最初ふくれながらそう言ってきたけど結局納得した様でうんうんと頷きながらそう呟いた。
「なぁにぃ?私じゃ不満でしたぁ?
そりゃああーちゃんのご飯は美味しいけど私も普通に出来る方だと思うんだけどなぁ…」
そのひーちゃんの呟きを聞き逃さなかった雪ねぇは不満げにそう言った。
「まあ、一緒に仲良くやれば誰が教えるとかにはならないでしょ。
そのうちひーちゃんだってできる様になるって。」
そう言って私は雪ねぇが下ごしらえをした食材をテキパキと調理していく。
雪ねぇとわたしの料理の大きな違いは確実に味付けにあると思う。
雪ねぇの料理は美味しいけれど何かたりないんだよなぁ…
なので下ごしらえ等の済んだ食材をわたしが調理する様にわたしとの雪ねぇの中で一緒に料理するときの分担が決まっている。
結局わたしがひーちゃんにコツとかを教えつつも全部調理してしまった。
「結局あーちゃんが全部作っちゃったわね…」
「ま…まあ、あたしは軽く教えてもらえたから大丈夫だよ?」
食卓に作った料理を並べ終わると雪ねぇとひーちゃんは呆れながらも食卓に着いた。
「ごめんねって…つい、いつもの癖が出ちゃったんだもん…今度またゆっくり教えてあげるから許して!」
「まあ、わたしは構わないけど」
「あたしも全然いいけど…
またゆっくり料理教えて欲しいな!」
ひーちゃんの笑顔は太陽にも匹敵するほど眩しく感じる…
こーゆう瞬間にひーちゃんはアイドルなんだなって実感する。
ひーちゃんがなんだかとても遠くに感じる気がした。
「あぁぁ…お前ら早いなぁ…
…………で、俺の分のごはんは?」
ぽやーっとひーちゃんの顔を眺めていると突然リビングの扉が開いたかと思うとお父さんがあくびをしながら入ってきた。
リビングの机を見るなりきょとんとした顔でお父さんはそういった。
「「「え?」」」
「あ、忘れてた…」
3人してきょとんとした表情をしてお互いの顔をしばらく見合わせていると雪ねぇが思い出したかのようにそうこぼした。
「え、まじかよ…お父さん悲しいよ…」
そういってお父さんはリビングの端っこで拗ねてしまった。
おおよそ父親とは思えない行動に姉妹揃ってドン引きした。
「はぁぁ。
じゃあ急いで作るから先にみんなで食べ始めてて。ごはんも冷めちゃうから…」
そんなお父さんの姿を見かねてわたしは席を立って台所へ向かう。
今日の朝は洋食にしたからお茶碗を変えたりせずに済んだけど和食だったらお茶碗を変えたりと色々面倒だっただろう。
「あと、すぐ作り終わると思うけどもし食べ終わってもちょっとそこで待ってて。
話したいことがあるんだよね…」
テキパキと自分の朝ごはんを作りつつ対面式のキッチンからそう声をかけた。
「わかったぁ!まあ、食べ終わったらお茶でもしながら話せばいいでしょ!」
「そうね。それなら紅茶いれる準備をしておかないとね。」
そう言ってひーちゃんと雪ねぇは楽しそうにしている。
お父さんはというと面倒くさそうにあくびをしながら頷いていた。
結局朝ごはんをちゃんと作るのが面倒くさくなったわたしは買い置きしてあったシリアルを食べる事にした。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「ってなわけでわたしとあかちゃんを別個人として接して欲しいってことなの…」
お父さんをダラダラとしたわたし達のお茶会に巻き込むのも悪いのでさっさと昨日あかちゃんから聞いた話をみんなに話した。
「うん。まあ、あたし達もそのつもりだったよ?楓さんもその方がいいって言ってたし」
「そうそう。心配されなくても私達はその辺しっかりやりますとも。
まあ、ケータイの事とかはさすがに気がつかなかったけどね。」
ひーちゃんと雪ねぇは驚きもせずあたかもこうなるのを知っていたかのように表情一つ変えず笑顔で返してくれた。
お父さんはというと腕を抱えて悩みこんでしまった。
「うーん。言いたいこともわかるし先生からも「茜ちゃんも緋那ちゃんも一人の女の子として扱ってあげてください」って言われてたからその覚悟もできてるんだけど実際にどうしたらいいかわからないんだよぁ…
俺じゃあ二人の見分けなんてつかないだろうし…」
独り言のようにお父さんはそう言いだした。
それを聞いてやっぱり見分け方決めておいてよかったって実感した。
「そんなこともあろうかとあかちゃんと二人で見分け方を決めてきました!
わたしは髪の毛を後ろか横で縛ってあかちゃんは三つ編みとか編み込みとかのヘアスタイルにするって決めました!」
「うーん。それだけじゃ弱いでしょ…だって朝とかお風呂入った後はわかんないよ?」
「そうねぇ髪の毛だと解いちゃったらわからないものねぇ…」
ひーちゃんと雪ねぇが即座に難色を示してきた。
そっか髪の毛にするとそんなことが起こるのか…
またあかちゃんと話し合わなきゃ…
「うーん……
ブレスレットとかで色分けでもすればいいんじゃねぇか?なんならブレスレットにネームでも彫っておきゃいいんだよ」
珍しくお父さんからナイスアイデアが出た。
「うーん。私達家族の中での見分け方としては結構ありだと思うけど…
まあ、外での見分け方なんてさっきの髪型でいいわけだしそれでいっか。」
「あたしもそれでいいとおもうよ!」
「じゃあそうする。あかちゃんにも後で話しておくね。」
結果家の中でもわかりやすいようにブレスレットをする事になった。
確かにこれならお風呂はいった後でも見分けが付くしほんとにナイスアイデアだと思う。
「あかちゃんには明日あたし達から話しておくよ。色の希望とか聞かないとだしね。」
「わたしはオレンジがいいなっ!」
「そう言うと思ってたわ。まあ、あかちゃんの希望次第で色は変えるかもだけどね。」
「じゃあ明日緋那から希望聞いたら知り合いに頼んで作ってもらうとするか。
じゃあ俺は着替えてくるよ。茜もそろそろ着替えないと学校との約束遅刻するぞ。」
ネーム入りブレスレットをすぐ作ってくれる知り合いって…お父さんは一体どんなつながり持ってるのだろう…
「じゃあなるべく早く着替えて私の部屋に来てね。髪の毛やってあげるから。
とびきりかわいくね…ぐふっ、ぐふふ…」
途中までいいお姉ちゃん感出てたのに最後ので台無しだよ…
「そうだよ〜。うんと可愛くしていかないと学校の先生達にも舐められちゃうよ?」
「可愛くして行ったところで変な目で見られる事に変わりはないと思うんだけど…」
「そーゆうことは気にしないの。女の子はいつでも可愛くいなきゃね。ほら、早く着替えてこなきゃ遅れちゃうよ?」
「はぁーい。」
もう時間もそろそろなので早く着替えなくちゃ…
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「きゃーっ!!
あーちゃんすごいかわいいっ!!」
着替えて雪ねぇの部屋にいって一言めがこれである…
学校に行くのにパーカー着ていくのもなんだから少しフォーマルにしようとひーちゃんにもらった少しお嬢様っぽいフェミニンな格好をしてみたから言いたいことはわからなくもないけど…
さっき部屋の姿見を見たときも自分だって感覚があるからまだしも街をこの娘が歩いてたらガン見てしまうだろうなって自分で思ったくらいだ…
「この可愛さに見合うように私も目一杯頑張らなきゃっ!」
そう言って雪ねぇは張り切ってわたしの髪をいじり始めた。
「じゃーん!こんな感じでどう?」
軽くメイクするからって言われて閉じていた瞼を開けると自分とは思えないような美少女がこちらを見つめていた。
「これ、わたし?」
わたしは自分が映る鏡を指差して素っ頓狂な事を言ってしまった。
もちろん映っているのはわたしなので鏡の向こうの美少女も素っ頓狂な顔をしてこちらを指差している。
「そうだよー。うん、かわいいっ!
食べちゃいたいくらいだよっ!」
「雪ねぇが言うと本気にしか聞こえないんだけど…」
わたしは身じろぎしながら雪ねぇにそう言う。
ガチャ…
「…なにやってんの?…
あっ!あ〜ちゃんかわいい!やっぱあたしの見立ては間違ってなかった!
…じゃなくって、お父さんもう準備して待ってるよ?」
呆れ顔で入ってきたひーちゃんだったけどわたしの姿を見るなり目を輝かせてベタ褒めしてくれたけどすぐに落ち着いた。
「うん。ありがと。急がなきゃ!」
わたしはそう言って用意していた鞄を持って雪ねぇから逃げるように玄関に向かった。
「おおっ、やっぱり女の子らしい格好してると茜菜にそっくりだな…かわいいぞ、茜。」
玄関に行くとお父さんが靴を履きながらこっちを見てそんな恥ずかしい事をサラッと言い出す…
「え…、あ、うん。ありがと…」
「お父さんまるでナンパする人みたいだったよ〜。娘にそんな色目使っちゃっていいのぉ〜?」
「あーちゃんはお父さんには譲らないわよ。
こんなかわいい娘は姉妹で仲良くするのが一番なのよ!」
わたしの後を追って玄関に来た二人がそんな事を言い出すからなおさら恥ずかしくなって顔が熱くなってくる…
ただ、、本当雪ねぇは自重してほしい…
「行ってきます!」
この前レイクモールで買ったおろしたての可愛いローファーを履いて照れた顔を隠すようにそそくさと家を出ると外ではお父さんが車を家の前の道に出して待っていてくれた。
「いつの間に…ありがと、お父さん。」
「いやー、娘とのドライブなんて張り切っちゃうだろ。」
スーツでバッチリ決めたお父さんがそーゆうセリフを言うと少し絵になるけどお父さんだから魅力は半減だなぁ…
「いや、張り切りすぎだしドライブでもないんだよ?」
「いや、娘と二人っきりで車に乗るなんてドライブ以外のなにものでもないぞ!」
「学校ではしっかりしてよ?」
「わかってるさ。」
お父さんはそう言ってやけに真面目な顔をした。
そんな感じで車に乗っているとすぐに学校に着いた。
来賓用の駐車場を使っていいみたいでそこに車を停めて校舎まで歩くみたいだ。
職員玄関まで行って守衛さんに用件を伝えると校長室まで行くように案内された。
ご丁寧に校長室までの案内もしてくれた。
校長室入るなんて初めてだから緊張する…
それはお父さんも同じようでガチガチになりながらドアをノックした。
「どうぞー。お入りください。」
返ってきた声は意外にもフランクなものでわたしもお父さんと胸をすっとなでおろした。
「「し、失礼しますっ!」」
それでも緊張の取れないわたしとお父さんはガチガチになりながら頭を下げて校長室に入った。
「そんなにガチガチにならないでください…
どうぞ、そちらにお掛け下さい。
初めまして、私がこの学校の校長の田崎と申します。そしてこちらが橙哉くんの担任の坂井先生です。」
「と、橙哉くんの担任の坂井と申します。」
こうして対面してみると普段集会などで見かける校長先生の数倍フランクな人に見える。
さっちゃんは校長先生と一緒だからかだいぶ緊張している様子だ…
ちなみに坂井先生はうちのクラスでは親しみを込めてさっちゃんって呼ばれてる。
だって小動物みたいで可愛いんだもん。
「どうもこんな忙しい時期に申し訳ありません。
茜の父の宮代緋哉と申します。この度はこちらの願いをお聴き入れいただきまことにありがとうございます。」
「いやいや、そんなにかしこまらないでください。いやねー、正直なところ橙哉くんがかかった倉田という医師はね私の教え子なんですよ。
教え子の願いを聞き入れんわけにもいかないですからねぇ。
もちろんそれがなくても橙哉くんをどうこうって話じゃないんですがね。
だいたいの事情は倉田から伺っております。私たちとしては橙哉くんをどういう形で扱うのかを伺っておきたいのですが。」
校長先生ってこんなに溌剌と話す人だったんだ…
いつも重苦しげな空気を纏ってるからてっきり厳しい人なんだって勘違いしてた。
「私達家族としては茜として女の子として扱っていただきたいところです。
できれば茜と橙哉の関係性も伏せておいていただきたいのですが、いかがなものでしょう?」
わたしがずっと悩んでいた事をお父さんはさっぱりとそう決めてしまった。
まあ、わたしもそっちの方がいいってわかってるから仕方ない…
「橙哉くん……茜さんはどう思っているのかな?」
お父さんとわたしの苦い顔を見て校長先生はわたしの呼び名を改めてくれた。
「わたしもそれでいいと思います。
わたしは女の子として生まれ変わるつもりなので昔の事を知ってることで変な感じになるのは嫌です…」
「わかりました。それでは学校としても茜さんを橙哉くんとは完全に別個な女子生徒として扱います。
事実を知っているのはここにいる私達と後ほど紹介します養護教諭の国広先生のみまでにとどめておきます。」
わたしが完全に喋り終わったタイミングで校長先生は学校としての判断を下してくれた。
完全に別個人として扱ってもらえるのはありがたかった。
まあ、もう一人別個人として扱ってもらわなきゃいけない人がいるけど…
「ご配慮いただきありがとうございます。
これで私も安心して娘を預けられます。」
お父さんは安心した様子で深々と頭を下げているけどわたしにはもう一人別個人と認めてもらわないといけない存在がいる…
「実はもう一人認めて貰いたい別個人がいるんです…
多分ご存じだとは思うんですけどTS症候群の症状の中に代理人格っていうものがあるんですけど…」
「大丈夫です。その話もちゃんと聞いておりますから。さすがに成績等個人情報までは別個人として扱うわけには行きませんがこちらの方は教員全員共通で認識させます。代理人格の彼女をどのように扱うのかは一旦保留にして様子を見て国広先生と茜さんで決めていただくつもりです。」
コンコン
そこまで校長先生が話したところで校長室のドアをノックする音が響いた。
「ちょうどよかった、お入りください国広先生。」
「失礼いたします。」
校長の返事を聞いて入ってきたのは案の定校内でも評判の高い保健室の小悪魔こと国広泰子だった。
「えー、こちらが養護教諭の国広先生です。
こちらが宮代さんと茜さんです。」
「初めまして。わたくし保健室の先生をしております国広泰子と申します。
宮代くんもなかなかイケメンだったけれどお父様はより一層素敵ですのね。
娘さんのサポートはお父様の素敵さに誓って一生懸命やれせていただきます。」
さすが保健室の小悪魔、そんな国広先生をみて顔を赤くするお父さんをみてなんだか無性に腹がたつ。
今までお父さんが女の人に鼻の下を伸ばしててもなんとも思わなかったのに…
昔だったら腹がたつにしてもきっとお父さんの方が素敵っていうフレーズの方に腹が立っていただろうけど不思議とそっちには腹が立たなかった。
「あ、はい。よろしくお願いいたします。」
「ではとりあえず女性陣は制服の採寸に行ってきてください。私達はここで残った手続きの話などを進めておきますから。」
「わかりました。」
校長がそう言うと国広先生は軽く一言だけ返事をしてニコーっと笑顔を浮かべながらオロオロするさっちゃんとわたしを連れて校長室をあとにした。




