28話 茜と緋那と日向と。後編
「あーちゃん起きて!
わたしに相談する事あるんじゃない?」
ぼやぼやとした意識だからはっきりとは聞き取れなかったけどこの声はあかちゃんかな?
「ほぉ〜らぁ〜!」
やっぱりあかちゃんの声だ!
「うぇぇぇぁぁ…なに?ねむいんだけど…」
「ここは心の中だから眠くなったりしないと思うんだけど…
ってそうじゃなくって!
日向君との関係に悩んでたんじゃないの?」
「はっ、なんでそれを…」
あかちゃんの一言で一気に意識が明瞭になってきた。
「そりゃあんだけ悶々と悩んでればすぐわかるわよ…
一応脳みそは一つしかないんだから変に悩みすぎたり変なこと考えてるとすぐわかっちゃうんだよっ!
だからね、ひとつだけアドバイスしようと思って起こしたの。」
腰に手を当てて可愛らしくそう言ってくれるあかちゃんを見てると生き生きとした本物の女の子の可愛さが滲み出てるのがよくわかる。
わたしの見た目だけの可愛さとは違うな…
やっぱりまだまだ男だって事だよね…
「何いきなり項垂れてんのよっ!
せっかく人がアドバイスしてあげようって言ってるのに!」
そう言って拗ねてしまうところも可愛く見える…
「ごめんねっ!あかちゃん。
あかちゃんの可愛い仕草とか生き生きした女の子らしい表情とか見てたらわたしってまだまだ男よりだなって思って落ち込んじゃって…」
「そっか。ごめんごめん…まあそれは仕方ないと思うよ…だって茜ちゃんはまだまだ女の子初心者なんだもの。
でも、大丈夫よ?ちゃんと茜ちゃんは可愛らしい女の子だよ。だから自信持って大丈夫!
それにね、男とか女とかそんなの関係ないと思うの、だって茜ちゃんは茜ちゃんでしょう?
日向くんとの事だってそうだと思うんだよ。
どっちでとかじゃなくて普通に友達として接すればいいじゃない。
きっと日向くんもそう思ってるはず。
だって彼はいい人だもの…見てれば分かるよ…」
あかちゃんはそうアドバイスをしながら落ち込んで項垂れるわたしの頭を撫でてくれた。
しばらくそうしていると不思議とさっきの不安や落胆がすっと溶けて無くなって行くようだった。
「ありがと。そうだよね、日向いいヤツだもんね…
わたしがするべきはわたしらしくいればいいってことだよね。」
「うん。その意気だよ。
それさえできればきっとこの先なんだって乗り越えられると思うよ!」
そう言って笑うあかちゃんの笑顔はわたしの目にはとても素敵に映った。
いつかわたしもこんな風に日向の前で笑えたらいいな…宮代茜として…
「はぁぁ…でも、さっきみたいにすぐに感情に飲まれて落ち込んだり泣いたりしちゃうのはどうにかしないとなぁ…」
わたしはため息をこぼしながらそう言った。
「それも仕方ないんじゃない?
もともと女の子なんてそんなもんだよ?
ただ茜ちゃんはそれに慣れてないだけ…
だんだん慣れてきたら我慢だってできるようになるよ。」
まるでお姉ちゃんのような柔らかな笑顔であかちゃんはそう言ってくれた。
「なんだかあかちゃんは二人目のお姉ちゃんみたい。
わたし一人だったらきっと今頃壊れちゃってるよ。ありがと。」
なんとかこの愛しさと感謝を言葉にする事に成功した。
「いきなりどうしたのさ。
でもわたしこそありがとね。
きっとわたしは茜ちゃんを守るために生まれてきたんだよ。だからそう言ってくれるのは一番嬉しい。」
あかちゃんは目をウルウルさせながらわたしに抱きついてきた。
今度はさっきとは逆にわたしがあかちゃんの頭を撫でる形になっている。
「こうやってると安心する…
やっぱりわたし達は二人で一人なんだって実感するよ。
きっとわたしにとってあかちゃんはなくてはならない存在なんだと思う。」
「そっか。なるべくあたしも茜ちゃんに寄り添っていられるようにしたいな。
さっきは起こしちゃってごめんね。今日はゆっくり寝て明日にでも日向と遊ぶ約束しちゃいなさいよ。」
同じ見た目をしたわたし達が抱き合ってる姿はまるで精密な鏡写しのようだとおもう。
「明日は学校に顔合わせに行って制服の試着しなきゃだしそのあとにでも会ってこようかな。後で、日向にメールしてみないと…」
「うん。その意気だ。
じゃあ、明後日はあたしが出させてもらうね。楓さんと連絡取るまでにケータイ一回借りるね。あたしの作ってもらったらそっち使うようにするから。」
抱き合っていた手を離しながらあかちゃんはそんな事を言いだす。
「わたしは別に一緒でも構わないけどなぁ〜
まあ、倉田先生がそう言ったなら別に何も言わないけどね〜。
わたし達を完全に別個にするなら見た目で周りの人にわかるようにしよっか。」
「そうだね。じゃあ名札つけたりする?
他は髪の毛の分け目の位置を変えるとかそのくらい?」
あかちゃんからはなんだかトンチンカンな答えも帰ってきたけど髪の毛の分け目ってのは案外いいかもしれない。
「名札はないと思うけど髪の毛の分け目とかはアリかもね。どっちかが髪を結ぶとかもわかりやすそうだね!」
意識を取り戻した頃からセミロングより少しだけ短い可愛らしい髪型ではあったが退院する頃には髪の毛でたくさんアレンジ出来るくらいには伸びてしまっているので髪を結んでも見た目的にも問題はないと思う。
「そっかぁ。じゃああたしはストレートにしてサイドの片側に編み込みでも垂らそうかしら…」
「じゃあわたしはうまいこと髪の毛を縛る事にするね。今度雪ねぇに教えてもらお。」
「さっそく明日はそれでいけばいいじゃない。雪ちゃんにかわいいシュシュでも貸してもらえばいいじゃない。
あたしも明後日は雪ちゃんにお願いしようかなぁ…
じゃああたしは戻るね。ちょっと疲れちゃった。」
そう言ってあかちゃんはわたしからじゃよく見えない部屋の奥の方まで引っ込んでいってしまった。
一人でここにいても仕方ないのでわたしも玉座に戻る事にした。
玉座に座るといつもの様に深く沈んでいたわたしの意識がだんだんと浮かんでくる感覚が襲ってくる。
ぼやぁっとした意識をなんとか取り戻すとまだまだ男だった頃の面影も残るまだまだ見慣れないわたしの部屋のベッドに寝転んでいた。
ベッドサイドの時計を確認すると深夜の3時をまわったあたりだった。
「はぁ〜わたしはわたしらしくねぇ…
言葉で言うと結構簡単だけど案外難しいんだろうなぁ。だって日向と昔の通りに話すってことでしょ?それはそれで難しいだろうしなんかしっくりこないなぁ…」
「まあ、明日も早いから今日は寝ちゃおう」
よっぽど疲れていたのだろうか起きてからさほど時間が立っていないのにすぐに寝付けてしまった。
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「茜ちゃんにはああ言ったけどやっぱきついなぁ…
日に日に自分で抑えられなくなってる…
やっぱり心の奥底で日向くんの事が気になってるんだろうなぁ…
あくまでも主導権は茜ちゃん…主導権は茜ちゃんなんだよ…
本当なら共存じゃなくて大変な時にだけ守ってあげれる存在になれればいいのに…
そうじゃないといつ主導権が逆転して茜ちゃんを押しのけちゃうかわかんないよ…」
あたしは茜ちゃんはまだ入ってこれない心の奥底の部屋の隅でうずくまって自分の存在を小さく保つ事しか出ない…
「あたしは茜ちゃんに感謝してるんだ…
あたしっていう存在は茜ちゃんなしでは存在できなかっただろうし本当なら自分を脅かすかもしれないあたしの事を消さずにこうやって二人で生きて行こうって言ってくれた…
そんな茜ちゃんを守っていくのがあたしの使命だって感じたしその為ならわたしはいくらでも自制するし茜ちゃんを脅かしそうになったならいっそひと思いに消してもらう覚悟はできてる。
それでも自分の存在を大きくしてしまいかねない事をわたしはしそうになってる…
人を好きになるなんてそんな事しちゃったら絶対わたしは自分の存在を諦められなくなっちゃう…
だから日向くんを好きになるなんて事絶対ダメなんだ…
そもそも普通の人と同じ比重で存在なんかできやしないんだ…
わたしは茜ちゃんに大きな負担を強いてるんだからこれ以上望んじゃいけないんだ…
茜ちゃんが成長していく手助けだけできればわたしはそれで満足なんだ…」
そうやってブツブツと自分に言い聞かせながら自分が外に出て行くタイミングを見計らいながらひたすら自分を封じ込める事しかできない…
茜ちゃんの提案で交換日記をする事になったからわたしは暇つぶしに茜ちゃんの日常を覗くこともやめた…
だってフェアじゃないと思ったんだもん。
だからわたしは外の生活を一筋の光にして今日もこのくらい奥底でうずくまって次に外に出る時をじっと待つんだ。
もちろん茜ちゃんの心には細心の注意を払いつつだけどね。




