27話 茜と緋那と日向と。 中編
「あれ、早かったね。結構揉めたり話し込んだりすると思ってたのに…」
玉座に座るあかちゃんが目を覚ましたのを見てあかちゃんに声をかけた。
「あれ、珍しいね。あーちゃんが起きてるなんて…
まあ、あたしの方は揉めるような話じゃなかったしね!」
目を丸くして驚くあかちゃんだったけどすぐにいつもの調子に戻って溌剌と答えてくれた。
「えー。あかちゃん倉田先生のことキライだから絶対揉めると思ってたぁ…」
きっとあかちゃんも研究の協力について話をしていたのだろうしあかちゃんはそーゆうのはキライなんだと思ってた…
でも、反応を見る限りそうでもないみたい…
きっとあかちゃんのこと分かってたようでまだ全然わかってなかったんだろうな…
「別にキライってわけじゃないわよ!
ただ単にあの対応が嫌だっただけよ…
それにあんなに美味しい話を断るわけがないじゃない。」
「研究の話?」
「うん。どうせあーちゃんも協力してるんでしょ?」
「ま、まあね…」
まあ、そりゃあ隠したりする必要ないか…
少しあかちゃんの視線が痛く感じる…
「まあ、あたしもOKしたからいいものの…
先生達はあたし達を完全に別個人として扱いたいみたい…
それでね、明後日あたりにちょっと楓さんとお出かけしてきていい?
いろいろ手続きとか買い物とかしたいんだって…」
完全に別個人ねぇ…よくわかんないや…
まあ、とりあえずあかちゃんがある程度外に出てくれることはわたしとしても嬉しいからいいんだけど…
「うん。わかった!そこは開けておくね!
でも今日はこれから日向達に会うからわたし出ていいよね?」
「え、うん。わかった。
じゃあ楓さんにお出かけの件明後日にするねって言っておいて!」
そう言ってあかちゃんは奥の方にぼやぁっと見えるお部屋に入っていった。
あかちゃんを見送ってからわたしは玉座に腰掛けた。
今まで不明瞭だったけど入れ替わるっていう感覚にもなんだか適応してきたようで意識がぼやぁっとしたと思ったらだんだんと意識が外に向いて行く感覚がする。
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「ただいま戻りましたぁ!」
「うん。おかえりなさい、茜ちゃん。」
少し二人をおちょくろうとなるべくあかちゃんのような感じで行ったのだけど楓さんにはバレバレだったようだ。
「せっかくあかちゃんっぽくしたのにすぐみやぶっちゃうなんて…」
わたしが少ししょぼーんとしながらそう言う
「茜ちゃんと緋那ちゃんの見分けくらいちゃんとつくに決まってるじゃない。
毎日一緒にいたのは伊達じゃないのよ?」
「そっか…流石だね!!
あかちゃんから伝言預かってきたよ。
お出かけの件は明後日にしてほしいってさ。」
楓さんからなんだかおねぇちゃんのような感覚を覚える。
やっぱり楓さんはちょっと歳の離れたお姉ちゃんのようだ…
「うん。じゃあその日は有休取るようにしておくね。
ってことで倉田先生お願いね!」
「はいはい。わかりました…
その日は他の看護師さんを手配しておきましょう…」
「新しい看護師さん来たからって変なことしちゃだめですよ?」
すこし嬉しそうな顔をする先生を見逃さなかった楓さんは少し不服そうに顔を膨らませながら可愛らしくそう言った。
「え、もしかして楓さんと先生ってできちゃってたりします?」
「な、な、なに言ってんのよ…
そ、そんなことあるわけないじゃない…」
顔を真っ赤にして否定する楓さん…
そんなに真っ赤になって否定してたらどう考えても黒でしょ…
「茜さん…僕らがどうとかは関係ないですよ…
ずっと一緒に仕事していればこういう風な冗談くらいは言えるようになりますしね」
そう言う先生の顔はいつも通りだったけれどもなんだかこれ以上詮索するなって言っているように感じるのでこれ以上は何も聞かないことにする。
まあでも気になるからあとでこっそりと楓さんから聞いておこ…
「そ、そうですね…先生たち長いんですもんね…
じゃあわたしはこれで失礼しても大丈夫ですか?」
楓さんはわたしの切り返しにほっとしたような少し残念そうな複雑な表情を浮かべている…
きっとそういう話をしたいって気持ちもあるんだろうなぁ…
「そうですね…大丈夫ですけど今のうちに次に来る日にちを決めてしまいましょう。
そのほうが茜さんとしても楽でしょうから。」
楓さんの表情を見ても先生の表情は一向に変わる気配がない…
「そういえば茜ちゃんこの後日向くんたちと会うんだっけ…
それじゃあ時間取らせちゃ悪いし先生と茜ちゃんが良ければだけど明後日緋那ちゃんから聞いておきましょうか?
茜ちゃんもそれまでに決めて緋那ちゃんに伝えておいてくれればいいわけだしね…」
「そうですね。この後予定があるのでしたらその線で行きましょう。
今後もメールとかで連絡するようにしましょう。茜さんのほうにも予定はあるでしょうし…」
「じゃあ今度から楓さんに連絡するようにしますね。」
わたしの返しを聞いて先生は少しだけ寂しそうな顔をした。
「茜ちゃんと連絡先交換できなかったからって落ち込まないでくださいよ…」
「ま、まあ茜ちゃんの今後のためにも私の番号は登録していない方が何かといいでしょうし…」
もはや呆れ顔で先生を慰める楓さん…
先生そんなに連絡先交換したかったのか…
「まあ、茜ちゃんとの連絡は私がやりますけどね?
当たり前ですよ?天下の女子高生にこんなおじさんの連絡先教えられる訳ないじゃない」
何気に楓さんは酷い言い様だ。
「言い方が少し腹立ちますがそれもそうですからね。
また高砂君から連絡もらってください。
それでは、私は失礼いたします。」
そう言って先生は部屋から出て行ってしまった。
「じゃあ私も検温入ってこなきゃ!
日向くん達待ってるんでしょ?
茜ちゃんも早く行ってあげな?」
「うん。ありがと。
あ、今度ちゃんと先生との関係聞かせてね。」
「もうっ!からかわないでっ!
…じゃあね。」
「うん。またねっ!」
そんなやり取りをしつつわたしはさっき入ってきたドアから外に出た。
「そういえば最後楓さん顔真っ赤になってたなぁ…絶対あの二人はなんかあるね…」
そんな独り言をブツブツと言いながら本館までの長〜い廊下を一人で歩くのだった。
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「では、ありがとうございました。」
来るとき寄った窓口に退館の手続きをしに行くと今度からは寄らずにそのまま向こうと連絡して欲しいと言われてしまった…
なんだか塩対応?…まあいっか!
日向達はまだカフェにいるみたいだしとりあえずカフェに向かうかな…
別れた時の大和の顔の曇り加減から見て会うのは少し怖い…
でもここで逃げるわけにはいかないよね…
そんなことを考えながらわたしはこの身体になってから初めて日向達に会ったカフェに重い足取りで向かい始めた。
カランコロン…
病院の中なのになぜだかとてもしっかりした作りの喫茶店のドアを開けるとちょうど入り口から見て一番奥に日向の顔を見つける。
和希と大和は…日向の方を向いているようだ。
日向はこちらを向いているのでわたしに気づいたようで手を振ってアピールしてくる。
「お待たせ。ごめんね。少し長引いちゃった。」
「いやいや、構わないよ?
また橙哉は面会謝絶みたいだったし…
まあ、とりあえず座りなよ…」
テーブルに近づいてそう言うと和希が気を遣ってそう言ってくれた。
わたしが来るやいなや大和の不機嫌度がマックスに達したであろうのが見て取れた…
「ほんとごめんね…失礼します…」
わたしはもう一回お詫びをして日向の隣に腰を下ろした。
もちろん大和がそんなことで怒っているわけじゃないのはわかるし、怒っている理由も大体想像がつく。
それでもわたしはこうするしかなかった。
「いつまでそうやって女の子ぶってるんだよ…
お前ももうわかってるんだろ?…」
「大和っ、いくらなんでもそんな言い方は…」
わたしが着席して紅茶を頼んで少しした頃、話を切り出したのは大和の方からだった。
まさか大和がこんなにストレートに言ってくるとは思わなかったので少しびっくりした…
それでもわたしは何を言われようとこうすると決めていたのでそれを全うするだけ…
「やっぱ気づいてたんだね…
折を見て話そうとは思ってたんだ…
なかなか機会がなくって…
わたしから話すね…全部。」
こうしてわたしはあのライブが終わってからのことを大和と和希に話した。
もちろんこんな事になってしまったことや今まで黙っていたことの謝罪も含めて…
「とりあえず一言言わせて。
黙ってたことにも腹が立ってるけどそれ以上に俺たちは心配してたんだよ。
それをこんな事になってゴメンなんて言葉で済まさないでくれ!」
「心配させて本当にごめんなさい…
本当、なんて言っていいやら…」
みんなに申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまって泣くつもりなんてなかったのにわたしの目からは涙が溢れ出してきてしまう。
「んっ、そうじゃないんだよ!
別に謝ってほしいわけじゃないし…
もうちょっと相談とか信頼して欲しかったよ…
それに、ノコノコと女の子として仲良くなろうなんて甘すぎるっ…」
「そうだよ…それにさぁさっきから女の子みたいにしおらしくしちゃってさあ…昔の橙哉はどこ行っちゃったのさ…
そんな女の子ぶってる橙哉なんて気持ち悪いだけだよ!」
しくしくと泣くわたしを見て和希も耐えきれないといった風に厳しい言葉を浴びせてくる。
「こんな大事なことを今の今まで話してくれなかったなんて俺たちは信用されてなかったのか…」
「俺たちはこんなに心配してたのにな…」
「今日は落ち着く時間をくれ。
バンドについては今度話そう。
こんな状態じゃ前なんか向けないよな…」
大和と和希はそう言って席を立ってしまった。
泣きながら一人取り残されるとかなんて惨めなんだろうって思いながらふと隣を見ると日向が優しい顔で座っていた。
「あっ、ゴメンね。
わたしがここにいるから出られなかったよね。」
そう言って慌てて立ち上がっても日向は一向にそこから動く気配はしなかった。
「茜ちゃん。座りなよ。」
わたしは促されるまま座っていた場所に座り直した。
わたしが座り直すや否や日向は語り始めた。
「俺はさ、橙哉に憧れてたんだよ。
俺を救ってくれて居場所までくれた橙哉に。
だからさ、今度は俺が橙哉を救う番かなって…
何があっても俺が一緒にいるから。
今度は俺が茜ちゃんを救うから!」
そんな告白まがいなことを言いながら日向はわたしの心を射抜くかのような瞳でわたしの目を見つめながら肩を抱きしめてくれた。
それが心地よくっていつまでもこうしていたいなんて叶わないことを願ってしまう…
これではまるで恋する乙女ではないか…
「うん。ありがと。その言葉だけでわたしはしっかりやってける気がするよ…
それでも、大和と和希とは仲直りしたい。バンド続けたい!
今度会うときはちゃんと伝えなきゃ…」
わたしは日向に抱きついてわんさか泣きながらも次に大和と和希に会う時の決意を固めた。
そんなわたしを抱きしめてくれる日向の手は少し震えていて日向にも無理させちゃってるんだなってちょっと申し訳なくなった。
それでもわたしは日向を抱きしめる手を緩めることができなかった。
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「送ってくれてありがとね。日向のおかげでだいぶ気持ちは固まったし楽になったよ…」
結局あのまま30分くらい日向の胸で泣いていたみたいで病院を出る頃には辺りは暗くなり始めていた。
大和達はカフェから出て行く時にわたし達の分まで代金を払って出て行ったらしくそんな律儀なところが大和と和希らしいなって思ってなんだかとても懐かしく感じた。
一人で帰れるって言ったのに送ってくって言って聞かない日向がなんだか可愛らしくも頼もしかった。
「じゃあ、また連絡してよ。
学校の事とか決まったら相談してよ。
今度またライブ見に行こうぜ!またね!」
「うん、またね!
とりあえず学校について決まったら連絡するね。」
日向は爽やかな笑顔でそう言って家の方へ歩いて行った。
わたしもそんな日向を笑顔で手を振って見送った。
ガチャ。
「甘酸っぱいねぇ〜。」
「青春してるねぇ〜。」
日向が見えなくなるまで見送って家の中に入った瞬間にかけられた言葉がこれだもん…
絶対二人とも盗み聞きしてたでしょ…
「別に青春してるわけじゃないもんっ!
日向とは何もないから!病院から送ってもらっただけだもん!」
「あれ、あーちゃん目少し腫れてるけどどうしたの?」
「本当だ…なんかあったぁ?」
二人してわたしのことをいじってきたと思ったらそうやって心配してくれた…
二人ともなんだかんだ言ってわたしのことよく見てくれてるなぁ…
「そんな大変な事じゃないけどちょっと大和と和希と喧嘩しちゃって…
わかってた事なんだけどそれでも抑えきれなくって…泣いちゃった…」
最後可愛く締めたけどちょっとまた涙が出てきそうでやばい…
「そっか…あーちゃん頑張ったんだね…
ツライ時は無理しないでいいんだよ?」
そう言って雪ねぇは優しく抱きしめてくれた。
「そうだよ!吐き出しちゃわないと後々もっと辛くなってくるんだよ?」
ひーちゃんも頭を撫でながら励ましてくれる。
やばっ、涙溢れそうだよっ…
「ぅう…えぅ…ありがど…
わたしどうしたらいいんだろ…
わたしのせいでバンドがみんながバラバラになるなんて嫌だよ!…うわぁ…うわぁぁん…」
結局いろいろ日向にも言えなかった事がポロポロ溢れてきて雪ねぇにしがみついてまた泣いてしまった。
「バンドなんてそんなものよ…
いっぱいぶつかっていっぱい喧嘩していっぱい仲直りすればいいのよ。
そのきっかけがちょっと特殊だっただけよ」
「そうだよ!いっぱいツライこと乗り越えていけばこそだよ!」
二人の励ましの言葉がとっても心に刺さった。
「そっか…ぐす…頑張んないとだね…
大和達が落ち着く頃にもう一回お話をしに行かないと…ぐす…」
「うんうん。でも無理はしちゃダメだからね?あーちゃんの心が壊れちゃったら元も子もないからね。」
「そうだね、それにもしツライ事があってもツライ事はあたし達と分け合っていけばいいよ!」
顔を上げて見えた二人の笑顔と優しい言葉が心底嬉しくってなぜだかとても安心した。
「うん。ありがと。二人のおかげでだいぶスッキリした。とりあえず着替えてくるね。」
このまま玄関に居るのもアレなのでとりあえずこのフェミニンな可愛らしい格好を脱いでお化粧も落としてしまう事にした。
「うん。そうだね。その崩れちゃったお化粧も落としちゃったほうがいいよ。」
「結構ぐしゃぐしゃな顔になっちゃってるよ?」
雪ねぇはいかにも心配してるといった感じでひーちゃんはニヤニヤしながらも優しさを感じる言い方でそう声をかけてくれた。
いつも通りな感じがとても心地よく感じる…
「うん。もちろんそのつもりだよ!
どんな顔になってるか怖いよ。」
わたしは溢れてくる笑みを隠そうともせずに満面の笑みでそう言って二階に上がった。
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「このシチュエーションであの笑顔ってついにあーちゃんおかしくなっちゃったのかしら…?」
「自分の顔を想像して面白くなっちゃったんじゃない?それにしてもあ〜ちゃんあれだけ化粧が崩れててもあの可愛さは尋常じゃないね…」
二階へ駆け上がる茜を見送りながらしばし絶句していた二人は茜が見えなくなると顔を突き合わせておしゃべりし始めた。
「そうよね…
お化粧結構落ちちゃってたのに…ナチュラルで可愛いくらいでびっくりよ。」
「日向くんがうまーく落としてくれたのかもね…。しばらく見ないうちにチャラくなっちゃったみたいだし女の子の扱いには慣れてるんでしょ。」
「え、日向ってあんなナリして女の子すっごく苦手だったと思うけど…いつもは強がってそんなそぶり見せないんだけどね…
だから女の子の扱いには慣れてないと思うんだけどなぁ…」
「日向くんもあ〜ちゃんのために頑張ったって事ですかね…ふふふっ…」
「青春ですねぇ…」
二人がニヤニヤしながらそんな事言ってるところを茜が見ればこの二人はやっぱり姉妹なのだなと実感するであろう光景であった。
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「はぁぁぁ…
日向には悪い事しちゃったなぁ…」
部屋について部屋着に着替えながらさっきの事を思い出しているとため息と独り言が溢れてきてしまった。
日向が女の子を苦手なのはわかってるのに日向の優しさに甘えてしまった自分が許せない…
正直今思い出せば日向があんなに弱々しく震えていたのはあの時以来かもしれない…
それでも私を抱きしめる手はちっとも弱々しくなかったしずっと離さずいてくれた。
「わたしは日向と女の子として接すればいいのかな…それとも橙哉として接すればいいのかな…」
この日は結局答えのない疑問に堂々巡りをしながらお風呂に入ってそうそうと寝てしまった。
「そーゆう事はあたしに相談してくれればいいのに…」
ベッドに転がってウトウトしているとどこかからそんな声が聞こえた気がする。
今回から隔週更新できるように頑張ります!
毎週月曜の夜更新予定で頑張りますので、これからも茜色で描く未来をよろしくお願い申し上げます。




