22話 一家だんらん?
「茜…待っててくれたのか…
今日は遅いから帰ってもいいって言ってたのに…」
「○○君が疲れて帰ってくると思ったら待っててあげたいなって思って…迷惑だった?」
「茜っ!…」
わたしは勢いのままベッドに押し倒された。
角度の問題なのか顔はよく見えないけど男の頃のわたし似だ…
「○○君…いいよ?」
きゃーっ!!
わたしったら何言ってるんだろう!
わたしの口から発している言葉のはずなのに彼の名前のところだけ聞き取れない…
そんなことを考えてるうちに彼の顔はどんどん近づいてくる…
あわわわわ…
「あ〜ちゃん!起きて!
起きないとチューしちゃうよ??」
彼の顔との距離がゼロになろうかといったところでどこか遠いところからひーちゃんの声が聞こえた。
慌てて閉じていた目を開けるとそこにあったのはひーちゃんの顔だった。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
わたしは慌ててひーちゃんの顔を押し返した
それにしてもわたしは何て夢を見ているんだ…
昔の自分にそっくりな人とあんな事するなんて…
「もうっ!いきなり酷くない?」
「ごめんねっ…でもいきなりキスしようとしてきたひーちゃんも悪いと思うよ?」
「うぅ…ごめんね…」
ひーちゃんはシュンとしてしまったけどそんなひーちゃんもとっても可愛かった。
それにしても危なかった…
無意識にビンタするとこだった…
ひーちゃんは一応アイドルなんだからビンタをするなんてあってはならない事だ…
「まあ、ひーちゃんは起こしに来てくれたんだからとやかく言う筋合いはないけどね…
ありがとね!起こしに来てくれて!」
「そうだよ!
いっくら呼んでも起きてこないから起こしに来ちゃったよ!
下でお姉ちゃんもお父さんも待ってるから早く行こう?」
「えっ、もうそんな時間なの?急がなきゃじゃん!」
そう言ってわたしは身体を起こして部屋を出ようとするがひーちゃんに腕を掴まれてしまった。
「ひーちゃんっ、急がなきゃなのにどうしたのさ!」
わたしが振り向いてそう言うとひーちゃんはあちゃーと言った風に手を額に当てている。
「あ〜ちゃんさぁ、今の格好で恥ずかしくないの?」
呆れたような顔でそう言われてわたしの姿を見下ろしてみると胸は軽くはだけてそこからブラが少し覗いていてお腹もキャミまでめくれてへそが丸出しでスカートなんてクシャクシャになって少しずり落ちていた。
見るからになんだかエッチな感じになってしまっていた。
正直なところ少しはだけていることはわかってしたのだけど家族の前だし外へ出るまでに整えりゃいいと思っていたけれど正直この格好で雪ねぇの前に立つことすら恥ずかしい…お父さんなんてもってのほかだ…
それにいきなりこんな格好で現れられても正直目のやり場に困るしはしたないと思う…
女の子はこういうちょっとした服の乱れも気をつけなければいけないのか…
(ちょっとした乱れで済むレベルではないけれど橙哉の頃から結構がさつだったので茜の認識がそうなのである)
「ほら、早くしないとお父さんたち待ちくたびれちゃうよ!」
少し思考にふけっているとひーちゃんが急かしてくれる。
わたしは慌てて服装を整えた。
「うん、じゃあ下降りよっか!」
服装を直した私を見るなりひーちゃんはにっこりと笑って下に降りていった。
「うん!!」
そういってわたしも下の階に降りて行った。
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「あーちゃんスカートよれよれだよ?
スカート履いたまま寝ちゃったんでしょ…そーゆーの気を付けないとだめだよ?」
下に降りると廊下でお父さんと雪ねぇが待ちくたびれていた。
わたしを見るなり雪ねぇはお母さんみたいなことを言い始めた。
女の子として必要なことだってのはわかるんだけど慣れないなあ…
「まあまあ、あ~ちゃんもまだ慣れてないから仕方ないって…
それよりも早くいかないと遅くなっちゃうよ?」
ひーちゃんがそういってくれたおかげで雪ねぇにうだうだ言われることもなく助かった。
「そうだね!早く行こうよ!」
棒立ちになっているお父さんの腕を取って勢いのまま玄関を出た。
「まったく、あーちゃんったら…」
そういいながらも楽しそうに車に乗り込むわたしを見ながら雪ねぇは微笑んだ。
「政寿司って車で行くほどの距離だったっけ?」
お父さんがわたしが助手席に座って雪ねぇとひーちゃんが後部座席に座ったことを確認して車を発進しようとしたところでわたしが疑問に思ったことをぼそっといってみた。
「まあ歩いていけない距離じゃないし全然歩いていけるんだけどいかんせん人の目があるからね」
お父さんにそう言われてやっと車で行く意味を理解した。
簡単に言うとひーちゃんが顔ばれして騒ぎになるのを防ぐためだ。
まあ、休養中の国民的アイドルがこんなところで歩いていたらそりゃ騒ぎにもなるだろう。
ここで騒ぎになってしまったらさっき病院を出てくるときにあんなに警戒しきてきた意味がないだろう。
「そっか…騒ぎになったら大変だもんね…」
わたしが納得してその場は話が終わったけど後ろのひーちゃんの雰囲気が少し沈んだのが感じられた。
「そうだよね…わたしが休んでる事で迷惑かけちゃってるよね…
なるべく早く仕事再開しよ…」
わたしの後ろに座っているひーちゃんがボソッとそう漏らした…
ひーちゃんそんなこと考えてたなんて…
これってわたしがこんなになっちゃったせいだよね…
「大丈夫だよひーちゃん。
わたし達はそんなこと思ったりしないよ?
ひーちゃんのタイミングで再開すればいいと思うよ?」
暗い雰囲気を醸し出すひーちゃんにわたしは努めて明るくそして優しく楓さんの語り口を意識しながらそう言った。
「あ〜ちゃんにそう言われるなんてなんか変な気分だよ…
まあ、その気持ちは伝わってきたよ…
だからこそあ〜ちゃんが今の生活に落ち着いたら早めにお仕事に戻らなきゃねっ!」
最初は複雑な表情をしていたひーちゃんだけど最後はいつも通りの輝く笑顔でそう言ってくれた。
ひーちゃんのこういう笑顔をみるとやっぱりひーちゃんはアイドルになるべくしてなったんだなって思う…
贔屓目にみてるからかもしれないがそれくらいひーちゃんは可愛かったし輝いて見えた。
「わたしもそうした方がいいと思うわ…
そうじゃないとひーちゃんがろくに買い物も行けないからね…」
「そうだね…
早めに会見でも開いて休んでた理由と重大発表をしないとね」
心配する雪ねぇをよそにひーちゃんは不敵な表情でそう言って見せた。
「重大発表っ?引退とかそーゆーの早まっちゃやだよ?」
ひーちゃんの重大発表って言葉を聞いてわたしは慌ててそう言った。
ひーちゃんが引退とか勿体無さすぎるしもっとステージで輝くひーちゃんが見たいよ!
「あははっ…さすがにそれはしないよ。
まあ、そう遠くないうちにしようとは思ってるけどね
ってそんな話してるうちに着いちゃったよ…」
ひーちゃんが苦々しげにそう言うと政寿司の看板が見えてきた。
わたし達が会話に夢中になっているうちに着いてしまったようだ…
「まあ、緋雪の話は俺らがどうこう言える話じゃないからな…
だから俺らが今することは今をしっかりと楽しむことだけだ!」
「そうだね!
せっかく美味しい政寿司なのに楽しめなかったら損だよね!」
そんな話をしながらわたし達は政寿司の暖簾をくぐった。
「へいらっしゃい!あれ、緋哉 《あかや》さんじゃないっすか!
ここ何年か見ないんで心配してたんすよ!奥さんいなくなってから気落ちしてたんじゃないかって…
って、茜菜さん?!どうして!!」
暖簾をくぐるといきなり30代くらいの元気なお兄さんが声をかけてきた。
その人こそ政寿司の店主の弦之助さんだ。この人はお父さんの後輩なんだそうだ。
「この子は茜菜じゃないぞ?
俺の新しい娘で茜っていうんだ!」
弦之助さんのせりふに一瞬顔を曇らせたお父さんであったがすぐに表情を変えて満面の笑顔で私のことを紹介した。
そして私に目配せして言外に自己紹介をしろといってきた。
きっと慣れるための練習をさせたいのだろうけどいきなりで恥ずかしい…
「え、…あっ…宮代茜と申します…。よろしくお願いします…」
いきなりだったせいかしどろもどろになってしまったけれど何とか自己紹介を終えることができた。
「っ…緋哉さんついにおかしくなって茜菜さん似の養子を取るまでになっちゃったんですか!?
それに橙哉くんはどこいっちゃったんですか?」
「ちょちょちょまてい!俺はそんな変態じゃないぞ!」
そこでお父さんはあたりを見回してわたし達以外にお客さんがいないのを確認して話を続けた。
「実はその橙哉がこいつなんだ…」
ほかに人がいないのを確認したにもかかわらずひそひそ声でそういった。
わたしのことがほかの人にばれないように気を使ってくれているのだろう。
「えええええええ!!!
それっていわゆるおかまちゃんってやつですか?」
この人はなんて失礼なのだろう!!
わたしの中に黒い感情が渦巻いていく!
「これはあ~ちゃん怒っていいと思うわ…」
「そうね、弦さんはちょっとデリカシーなさすぎね…」
「弦之助…これはちょっとフォローできないぞ…」
3人してひどいいいようだでもわたしもそもそも同じ意見だ…
「歯…食いしばってください…」 パシン!!
そういいながらわたしは弦之助さんの頬をビンタしてしまった…
「えっ??ってことはなんか深い理由があるのか…
さすがにデリカシーない発言だったか…」
弦之助さんは少々落ち込んだ様子でそう言っている…
これ以上の勘違いをされないためにもわたしの状況を説明しておこう…
「わたしはTS症候群って言う病気でこんな姿になっちゃったんです!!
別にわたしはこうなりたくてなったわけじゃないの!
それにわたしはもう完全に女ですから!!」
あれ…?わたしはオカマって呼ばれたことに怒っていたはず…
決して男と間違われたことに怒っているわけじゃない!…はず
決して胸が小さいから男に間違われたとかではないはず…
まだまだ発展途上なだけだもん…
「そ、そうですか…ごめんね…
まあ、立ち話もなんですからとりあえず座ってくださいよ…」
「そ、そうだな…
俺たち寿司くいに来たんだよ…
とびっきりのやつお願いなっ!!」
わたしの言葉を聴いて弦之助さんはちょっと困ったようにいったあとに取り繕うようにわたし達に近くの席に座るように勧めてきた。
それにお父さんも反応して弦之助さんに合わせて来た。
二人なりに気を使っているのだろう…
「そうだね!わたしタコが食べたい!!」
「へいお待ち!」
そうしてわたし達一行は政寿司でひと悶着ありながらも政寿司でおいしいお寿司を堪能したのであった。
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「いやー…やっぱり政寿司は美味しいね!
またみんなで来たいよ!」
政寿司で美味しいお寿司をお腹いっぱいに食べて帰る車の中で唐突にわたしはそんな事を言い出した。
「茜…ほんとごめんな…弦之助にはキツく言っておくから…」
「別に大丈夫だよ…帰り際にも弦之助さん土下座までしてくれたし…」
『本当にすみませんでした。
混乱していたとはいえ茜ちゃんを傷つける事を言ったのは確かです。』
『わたしこそビンタなんてしちゃって本当にごめんなさい…』
土下座をする弦之助さんにわたしは頭を下げながらそう言った。
『いいえ、僕はビンタされるくらいのことはしたと思います…
だから茜ちゃんは頭をあげてください…』
お父さんとわたしを交互に見ながらそう言った弦之助さん。
『じゃあ、今度来た時もとびっきりのお寿司を食べさせてください!
それでチャラってのはどうです?』
土下座をする弦之助さんにわたしはそう問いかけた。
『それでいいのでしょうか?本当に…』
『ええ、もちろん。
じゃあまた来ますね!!』
本当に店を出る直前にこんなやりとりがあったのだ…
弦之助さんに悪意がないのはわかるし今後こういうことが起きないとは限らないし家族のフォローがある状態で経験できたのは大きかったと思う。
「それにお父さんもこういう事態をある程度経験させたかったんでしょ?」
申し訳なさそうな顔をしながら運転するお父さんに向かってわたしは微笑みながらそう言った。
「ま、まあそれもあるけど普通に楽しくごはん食べようと思ってたんだけどなぁ…」
お父さんはわたしの言葉を聞くなりさらにシュンとしてしまった…
「わたしは全然楽しかったよ?」
「あたしもー!!」
「私も楽しかったよ?」
わたしがお父さんをフォローするとひーちゃんと雪ねぇが続いてくれた。
「そう言ってくれると助かる…
こんな風に茜が楽しそうにしてるのを見れれば安心して仕事に戻れるな。
今度からはなるべく帰ってこれるように頑張るからさ、またみんな揃ってごはん食べに行ったりしような…
毎日帰ってきたりはできないからそれくらいはさせてくれ…」
お父さんは小さく決意を決めるようにそう呟いた。
そっか…お父さんも忙しいもんね…
それにひーちゃんだってお仕事に戻らないといけない…
みんなでワイワイやれる時間ってのは案外短いもんなのかなぁ…
「まあ、お父さんはたまに帰ってくるくらいがありがたみがあっていいんじゃない?」
「そうだねっ。いつもいたらお父さんのこと鬱陶しく感じちゃうもん…」
雪ねぇとひーちゃんの集中放火をくらったお父さんはぐったりと落ち込んでしまっている。
「2人とも言葉のトゲ鋭すぎでしょ…」
呆れたようにわたしが言うと2人とも少し笑っ
てくれた。
「こうやって庇ってくれるのは茜だけだよ…」
すっかりしょげてしまったお父さんは甘えるようにそう言ってきた。
「ひーちゃんラブだったお父さんはどこに行ったのかしらね?」
「そうだよ。わたしと仲直りしたのさっきじゃん」
「お父さんはついにあたしから離れていくんだね…」
雪ねぇから始まり今度はわたしも乗って3連コンボを決めた。
お父さんはついにしょげて喋らなくなってしまった。
そのあともお父さんはお構いなしに家に着くまでわたし達はおしゃべりを続けたのであった。
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「ねぇ、そういえば日向くん達には連絡しなくていいの?
今すぐじゃなくても学校始まるまでには連絡しておいた方がいいんじゃない?」
リビングでお茶を飲みながらテレビを見ていると雪ねぇがいきなりそんなことを言い出した。
「んぇ?いきなりどうしたの?
まあ、日向達にはそのうち喋らないとね…
でも話す前に外でわたしをどういう風に扱うか考えないとなんじゃないかな?」
わたしはさっき弦之助との事があってからずっとその事を考えていた。
ほとんどの人は弦之助さんみたいに勘違いをするだろうし弦之助さんみたいにわかってくれる人ばかりじゃないだろうから…
「それってどこまでの人に真実を話すかってこと?」
「うん。戸籍的にも橙哉の戸籍の書き換えじゃなくて茜として新しい戸籍になってるから。
茜として全く新しい人生を送る事だって可能なんだよ。
それに学校にだって掛け合えばそーゆう扱いをしてくれるみたいだしね。」
「それはあーちゃん次第じゃないかしら?
私としてはさっきみたいな事であーちゃんが余計に傷つかないようにも本当に信頼できる人だけに話すべきだと思うわよ?」
雪ねぇの言う事ももっともだ。
けれども今までのわたしはなかった事になってしまうようで怖い…
頭では今後の為にも戸籍通り宮代橙哉とは全く別人物として生きる方がいい事はわかっている。
それでも宮代橙哉という存在を自ら消してしまうようで怖いから決心がつかないでいる…
「学校始まるまで1週間以上あるんだからとりあえずゆっくり考えたらいいんじゃないかな?
あ〜ちゃんの答えはあ〜ちゃんじゃないと出せないからね。」
「そうだね…
とりあえず何日か悩んでみる…」
「うんうん。
じゃあ私そろそろお風呂入って寝るね。」
結果ひーちゃんがいい感じにまとめると雪ねぇはそう言って席を立ってしまった。
「じゃああたしも部屋戻るね!
おねぇちゃんあがったらお風呂先入っていいよ!」
そそくさとティーカップを片付けてひーちゃんも部屋に戻ってしまった。
「仕方ないなぁ…わたしも片付けて部屋戻ろうかな…」
一人でリビングで過ごすのもなんだか寂しいのでわたしも部屋に戻る事にした。
「それにしても久しぶりにキッチンに立つと全然変わってなくてびっくりだな…
明日は久々に早起きして朝ごはんでも作ろうかな…」
洗い物をしながらキッチンを見渡すとわたしが茜になる前からほとんど何も変わってなくてなんだか懐かしく感じる…
そんな事を感じながら明日の朝ごはんを作るための材料を探しながら献立を考える。
「お風呂上がったよ〜。次どっちが入るの〜?」
呑気にキッチンで献立を考えている間に雪ねぇがお風呂からあがってきたようだ。
「わたし入るー」
キッチンから雪ねぇにそう言ってわたしはお風呂の準備をしに部屋に戻った。
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「ふぁぁ…久しぶりにお風呂入ると気持ちいいなぁ…」
わたしは伸びをしながらそう呟いた。
3日ぶりに入ったお風呂はサイコーに気持ちよかった。
楓さんから習った通りちゃんとトリートメントをしてブローまでやった。
女の子はきっちりと美容にも気をつけないといけないそうだ…
「あ、あーちゃんあがったのね!」
お風呂あがりの牛乳を飲もうとキッチンまで行くとリビングでテレビを見ていた雪ねぇが声をかけてきた。
「……ってあーちゃん?!…
あーちゃん?ちゃんとブローした?しかもスキンケアもしてないし…ちょっと来なさい…」
わたしの姿を見るなり雪ねぇはわたしの腕を掴んで歩き始めた。
「雪ねぇ!?」
連れて行かれた先は雪ねぇの部屋だった。
「座って?」
そう言って雪ねぇが指差した先にあったのは立派な鏡台だった。
わたしは言われるがままに鏡台の前にある椅子に腰掛けた。
「もうっ…楓さんからちゃんと習ったでしょう?お風呂あがったらやることがいっぱいあるって…」
雪ねぇは手際よくわたしの髪をブローしながらそんな事を言ってくる…
「ちゃんとやったよ?
トリートメントもしたしブローだって洗面所でさっき…」
「まだしっかりブローできてないのよ!
もうっ、自分でやり慣れないなら慣れるまでは私がやってあげるからちゃんとやりなさい…
それにスキンケアだって何もしてないじゃない…」
雪ねぇはブローした私の髪をさらさらしながらそう言う。
それにしても雪ねぇがブローするだけでこんなに違うのか…
さっきまではまだ少しベタついていたような気がしたけど今はそれを微塵も感じない…
「楓さんから聞いたことはあるけど何をするか教えてもらったことはないんだもん…
楓さん曰く「こんなにもちもちすべすべの茜ちゃんにはまだ必要ないわ。」だってさ…」
「楓さんったら…この可愛さをずっとキープするためには今からやらないとダメよ?
やらない娘はお肌がガサガサになっても知らないわよ?」
そう言いながらブローを終えた雪ねぇはわたしの前髪をヘアバンドであげてスキンケアをする準備を始めた。
「ちゃんと覚えるのよ?」
「本当はお風呂上がってすぐ洗顔をしてからなんだけどそこは省くわね?
最初にコットンに化粧水を取ってお肌全体になじませます………」
この後雪ねぇのスキンケア講座は30分ほどかかった…
女の子は美容にこんなに時間をかけていたのか…
正直結構疲れたしこんなことずっとやっていく自信はないなぁ…
少しは荷物を整理しようかと思ったけどスキンケアなりで疲れちゃったから寝よう…
目覚まし時計をセットしてお布団に入るとすぐに睡魔が襲ってきた。
未だなんとなく橙哉の頃の匂いが染み付いた布団でわたしは深い眠りに落ちていった。




