19話 TS症候群の特徴!?
「お〜、馬子にも衣装ってやつか?
とうy……茜でも可愛く着飾ればいっぱしの女の子に見えるじゃねえか。」
昨日と同じ轍は踏まないように今日は早起きをしたのだ。
おかげで昨日雪ねぇ達が持ってきてくれた退院用の洋服が似合う髪型とちょっとのメイクを楓さんにされてしまった。
そんなわたしを見たお父さんの反応は娘を見る父というよりは着飾った嫁を見るような目だった。
言葉はぶっきらぼうだけど目がなんだか下心のありそうな感じだ…
「いくらお母さんに似て可愛いからって襲ったりしちゃダメだからね?
そんなことしたらお母さん悲しむよ?」
「そんなことしねぇよっ!
俺も娘に手を出すほど落ちぶれてねぇからなっ!」
雪ねぇがツッコミをいれるとお父さんは慌てて否定した。
そんな反応するともっと怪しく感じてしまう…
わたしは冗談交じりで両手で胸を隠した。
「茜もそんな反応するんじゃないっ!」
お父さんのイキのいいツッコミが帰ってくる。
「おやおや、だいぶ賑やかじゃないですか。
親子仲が良さそうなのはとても良いことです。
ところで、宮代茜ちゃん退院おめでとう。
君の苦労はまだこれからだと思うけどとりあえず身体は全くの正常になりました。
心に関してはゆっくりと落とし所をつけていけばいいだろう。」
なんだか一ヶ月前の先生とは言ってることが違うような気がする。
先生は「代理人格になり変わられないように君も早く女の子として順応しなさい」って言うような人だった気がする。
この一ヶ月でなにがあったのだろう…
「僕もね、高砂くんの報告書を読んで少し考えを変えてみることにしたよ…
それでなんだが少しばかり僕らの研究に力を貸してくれないだろうか。
もちろん君にはそれ相応の報酬を支払うよ?
それに心配とかはする必要はないよ?
やることはいたってシンプルなんだよ。
定期的に僕や高砂くんのカウンセリングを受けてくれるだけでいいんだ。
どうかお願いできないだろうか。」
先生はわたしに頭を下げた。
「宮代さん、娘さんをこのようなことに巻き込んでしまうのはとても申し訳ないのですが私達が責任をもって茜ちゃんに危害は及ばせないようにしますのでご協力いただけないでしょうか?」
先生はわたしが考えていると見計らってお父さんにも頭を下げた。
きっと保護者の承諾とかそういう大人の事情が関係しているのだろう。
「先生、頭をあげてください…
俺は…茜がそれでいいと思うなら別に構わないと思いますよ。
茜ももう16ですからこーゆー事は茜の決断に任せます。」
そう言うお父さんの顔は今まで見たことないほど父親らしい顔をしていた。
お父さんもちゃんとわたしのこと考えてくれてたんだ…
「茜ちゃん 。お父さんもこう言っています。
僕としてもこれは貴女が決めることだと思います。
自分で結論を出してください。」
「す…少しだけ考える時間をもらってもいいですか?」
わたしは正直はところこの話を受けてもいいかなと思ったけど少し冷静になって考えてみることにした。
「そうですね。考える時間は必要でしょう。
それではその間に宮代さんにはこれからの手続きなどの説明をしてしまいましょう。
茜ちゃん、僕は少しお父さんとお話をしてくるのでその間によく考えておいてください。
それでは…」
ガラガラ…
こうしてお父さんと先生の二人はわたしの病室を後にした。
「楓さん…報告書ってなんですか?
お兄ちゃんを実験台にしてたってことですか?」
「ち、違うよ?だから落ち着いて?
私達は患者さんの様子を毎日報告書として担当医に報告しなくちゃいけないの。
報告書っていうのはそのことよ。
先生も茜ちゃんの頑張りを見て考えを変えてくれたみたいね…」
さっきまで黙りこくっていたひーちゃんが楓さんに食ってかかった。
それを楓さんはすっぱりと切り捨てていたがそれを見てわたしもさっきの研究っていう言葉が気になった。
果たしてわたしのなにを研究するのだろうか。
あかちゃんについて根掘り葉掘り聞かれたりするのはやだなぁ…
ってゆーかこーゆーのはあかちゃんの意見も大事なのではないだろうか。
「楓さん…
わたしも研究って言葉は気になった…
あと、やっぱりあかちゃんにも相談してみないといけない話なのかなぁって…」
「茜ちゃん。一つ誤解して欲しくないのは私達はTS症候群の患者さんをどうこうしようとかそう言うわけじゃないのよ…
私達は患者さんの将来とかこれからの為に研究をしているの。
詳しく言うと将来の事とか心のあり方とかそう言うことを助言してあげる為にね。
あと、とりあえずは茜ちゃんが協力してくれるならそれでいいわ。
緋那ちゃんにはそのうち私から話をしようかと思ってるから。」
楓さんの優しい声といつもの素敵な笑顔で私の不安はだいぶ和らいだ。
つらい時とかに楓さんのこの声と笑顔を見に来る口実ができるってことでもあるのか…
「あかちゃんには別に話すってあかちゃんはあかちゃんの判断でってことですか?」
「そうよ?緋那ちゃんは緋那ちゃんだもの。
きっと聞かれたくないことも出てくるだろうし私達と繋がってるって知られたくないとかもあるかもしれないからね。
茜ちゃんに相談するかも緋那ちゃん次第ってことね。」
楓さんの話は一理あると思ったしわたしもその方がいいと思った。
「そっか、そうだよね。
逆にわたしが口を出しちゃったら言いたいことも言えなくなるもんね…
じゃああかちゃんの事は心配なしに考える。」
「うん。それがいいと思うわ。」
やっぱりわたしとしては楓さんのところに相談とかしにくるいい口実ができるってことが大きいんだよね…
それだけでこのお話を受ける価値はあると思う…
どうしようかな…
「あ、あともう一個伝えておかなきゃいけないことがあったんだ…
別にこの協力に期間は定めてないから茜ちゃんが辞めたくなったらいつでも言ってくれていいってことだけ頭に入れといてほしいの…」
ふと考え込んだわたしに楓さんは思い出したかのようにそう言ってきた。
「そっか…それならまあ安心かな…
それに楓さんとお話ししたり相談する口実ができるのは悪くないと思うんだよね…」
「まあ、べつに協力はしてくれなくても相談くらいならいつでもしてくれて構わないし時たま遊びに来て元気な姿を見せてほしいな」
ボソッとこぼしたわたしの言葉を楓さんは聞き漏らさなかった…
協力はしてくれなくてもっていう時の楓さんの言葉に真摯さを感じたしそう言ってくれるのが何よりもわたしを大切にしてくれる証拠だと思った。
「わかった…協力するよ。
わたしで役に立つのなら楓さんの役に立ちたい。
不束者ですがよろしくお願いします。」
わたしは結局楓さん達の研究に協力することにした。
未来のTS症候群の患者さんの為にもわたしができることがあるのならわたしも役に立ちたいし…
この協力を通じてわたしも将来について考えることができるのではないかと思ったのだ…
「そんなにあせって決めなくてもいいのよ?
ゆっくり悩んで結論を出してくれればそれでよかったんだけど…」
「ううん、いいの。
わたしも楓さん達の役に立ちたいしそれに未来のTS症候群の患者さんの為になるならわたしも協力したいって思ったの。」
「そう…
茜ちゃんの意思でやりたいって思ってくれているなら私も嬉しいわ…
これからもよろしくね?茜ちゃん。」
楓さんは終始心配そうな顔をしていたけどわたしが意思を強くもって応えるとまるで妹の成長を見守る姉のようにとても優しい表情に変わった。
「あ〜ちゃんだけ楓さんとお話する機会をまだ持てるなんてずるいぃ…
あたしも楓さんともっとお話ししたかったよぉ!」
私達のこれまでのやり取りを眺めていたひーちゃんは少し駄々をこねるように楓さんに抱きついた。
「こらこら、楓さんに迷惑かけちゃダメでしょ?
それにひーちゃんはお仕事があるからこんなとこまで来れないでしょ?」
雪ねぇはそんなひーちゃんに窘めながら的確なツッコミをいれている。
「ふふっ…私的には教えてくれればいくらでも時間作るわよ?
アイドルにも辛いことはあるだろうから私でよければ話もきくわ。
もちろん雪菜ちゃんも相談に来てくれていいのよ?
それに私達からお願いしてお話を聞くこともあると思うから…」
そんな二人のやり取りを見てクスクスと控えめに笑いながら二人のことを交互に見ながらそう言った。
「そうですね。
私も相談とかできたら相談に来ますね。」
「あたしもあたしもー!!
またお仕事に行き詰まったらここに来るね!」
「ひーちゃんは控えめにしておかないとまたお父さんが心配して暴走するよ?」
やっぱりこうしておしゃべりするのは結構楽しい!
この気持ちも男の子の頃はあんまり感じなかったことかもしれない…
こうして些細なことに気づくごとにわたしはもう男の子じゃないんだと実感する。
「そうよ?
また長く休んだりしたら世間が心配するわよ?
それなら緋雪ちゃんの場合はなるべくおやすみする日が少なくなるようなスケジュールで相談に乗ればいいってことよね。
あれ…茜ちゃんどうしたの?
顔色悪いけど…」
あれ…なんか知らないうちにわたし心配されてる?
少し気持ちが陰っていたのが顔に出てしまっていたのだろうか…
「茜ちゃん!?大丈夫!?」
楓さんが必死の顔で私の肩を掴んできていた。
「え!?ああ…大丈夫…
ちょっと考え事してただけだから…」
楓さんの焦りようにちょっとびっくりした。
べつにそんなに焦るほどボーッとしてないと思うんだけどなぁ…
「大丈夫ぅ?
あ〜ちゃん目に光宿ってなかったよ?」
ひーちゃんに言われてケータイで自分の顔を確認してみると憔悴しきって酷い顔のわたしが映っていた。
「あれ、こんなになるほどのこと考えてなかったと思うんだけどなぁ…」
「何考えてたの?」
わたしがこぼした言葉を拾ったのは今度は雪ねぇだった…
「特に珍しいこと考えてないよ?
些細なことでも昔との違いに気づくともう男の子じゃないんだなぁって実感するなぁって考えてたの…」
わたしの言葉を聞いたみんなの反応はそれぞれだったけどニュアンスはみんな同じだった…
ひーちゃんは明らかに呆れていたし雪ねぇは片手を頭に当ててため息をついているし楓さんはしょうがないわねぇといった感じでわたしのことを見ていた。
「あのね、茜ちゃん…
貴女は少し自分がTS症候群の患者だって自覚を持った方がいいと思うわ…
そりゃそんなこと考えてたらそうなるわよ…
このままだと近いうちに緋那ちゃんに迷惑かけるわよ?
だから男の子とか女の子とかなるべく考えずに生きた方がいいわよ?」
「そうだよ!
あ〜ちゃんはあ〜ちゃんだよ?
だから心配しない方がいいよ?」
「二人の言う通りよ!
あーちゃんはあーちゃんらしくいるだけでいいのよ!」
そう言う3人の顔をみると安心して少し涙が出てきてしまった。
「ううっ…ありがと…
わたしはわたしらしくいればそれでいいんだよね。あんまり男の子とか女の子とか考えないようにしないとっ!」
わたしは涙を拭いながらそう自分を鼓舞して小さくファイティングポーズをとった。
「そうそう。その意気だよ!」
ガラガラ…
「おや、何やら盛り上がっているじゃないですか。
宮代さんとのお話は終わりましたので今度は茜ちゃんとお話をしたいと思います。
先ほどの件は決断できましたか?
まあ、その話はあとで聞きましょう。」
毎度思うのだがこの人はなぜノックもせずに入ってくるのだろうか…
わたしが着替えてたりでもしたらどうするつもりなのだろう…
「あっ、そうだ。
私から雪菜ちゃんと緋雪ちゃんにお話があるんだった。
倉田先生、カウンセリング室借りますよ?」
「わかりました。
鍵は僕のデスクに置いてあります。
よろしくお願いしますね。」
「じゃあ、二人とも行こっか。」
「「はーい」」
倉田先生が入ってきて喋り終わると今度は楓さんが思い出したかのようにそんなことを言い出して雪ねぇとひーちゃんを連れて行ってしまった。
「とりあえず座りましょう…失礼します。
宮代さんは茜ちゃんの横にお願いします。」
そう言って先生はお父さんには私の隣に座るよう促して自分はわたしの向かいに座った。
なんだか三者面談みたいだ…
お父さんと並んで座るなんてそれこそ中学の三者面談以来だ…
「なんだか学校の三者面談みたいですね……
まあ、冗談はこのくらいにして…
とりあえずなにから話し始めましょうかね…
とりあえず茜ちゃんの今後の話からしましょうか。
今通っている学校にはこちらから話を通しておきました。
戸籍の変更申請も受理されていることですし学校側からもこれからは女子生徒として通学するように手配していただけるそうです。
ですから4月からも継続して学校に通う事ができます。
まあ、雪菜ちゃんも同じ学校ということで心配はあまりないでしょう」
そっか…同じ学校に通えるのか…
きっとダメだろうなと思っていたからこそ少し嬉しい。
「次に国からの補助制度についてお話しますね。
国からの補助制度では生活に必要な身の回りのもの例えば下着や生理用品などですねと社会的に必要なもの例えば制服やスーツなどですね。
この二つの購入代金を国が負担してくれます。
それとは別で月に1万円の洋服代金の助成があります。
この二つの助成が3年間保証されています。
詳しくはこのパンフレットをお父さんとよく読んでおいてください。
ここまでは大丈夫ですか?」
なんだか矢継ぎ早に言われて頭はパンク寸前だけどなんとか理解したと思う。
きっとパンフレットを読めば理解できるのだろうって事だけわかったからなんとかなるでしょ!
「とりあえずあとはさっきの答えを聞いてからでしょうか…
心は決まりましたか?」
先生の真面目な声と表情で一気に空気が引き締まった気がする。
雰囲気に乗せられてというわけではないけどわたしの気持ちもだいぶ引き締まった。
「はっ、はい!
わたしでよければ是非協力させてもらいたいです!」
最初の声は裏返ってしまったけどわたしはしっかりと答えを返した。
「そうですか!それは嬉しいですね。
詳しい話は後日にしましょう。
そうですね…次のカウンセリングの日にでもしましょうか。
カウンセリングは1週間後の水曜日でよろしいですか?
とりあえず高砂くんを通じて連絡させていただきます。
あ、そうそう。
一つだけ言い忘れてました…
TS症候群の患者さんの体質についてです。
貴女達TS症候群の患者さんはなぜだか異性を惹きつけやすいのですよ。」
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「ええーっ!
それって理由とか解明されてないんですか?」
緋雪ちゃんは驚きを隠せない様子だ。
それもまあわからなくはない、わたしもそれを知った時は大層驚いたのだから。
「ええ、科学的には何も解明されてないわ。
しかも性格がどうとかそういうのじゃないらしいわ。
初対面の人でも惹きつけてしまうことがあるみたいだし。
茜ちゃんを見てればなんとなくわかるとは思うけど…
まあ、茜ちゃんの場合それが強すぎて同性にまで及びつつあるんだけどね…」
「あーちゃんなら全然あることですね!
男の子の頃からとっても素敵だったもの!」
雪菜ちゃんはいつものように目を輝かせながら茜ちゃんについて語ってる。
っていうか雪菜ちゃんのこれはTS症候群が理由じゃなくて元からだったのね…
「へぇー、後で茜ちゃんの昔の話聞かせてね?
でね、もう一つTS症候群の患者さんの特徴があるんだけど…
これは茜ちゃんには内緒だよ?
患者さん本人には伝えないことになってるから…」
ごくり…と二人が息を飲む音が聞こえたきがする。
二人とも食い入るように真剣に私の話を聞こうとしてくれている。
茜ちゃんって愛されてるなあ…
「TS症候群の患者さんはね…メンタルがとっても不安定なの。発症直後なんて特にね…
落ち込みやすいって言うかなんて言うか…
とにかくメンタルが不安定なのよ。
だからね?二人にはしっかり茜ちゃんをフォローしてあげてほしいの。
そうしないと私みたくどんどん代理人格に依存していってしまうわ。
交友関係なんかは特に悩むところでしょうしね…
あの危なっかしい茜ちゃんの事だから知らぬ間に異性を惹きつけてトラブルに…
なんてことが起きてもおかしくないと思うのよ。
だからしっかりフォローしてあげてもらってもいいかな?」
自分から言ってて思うがこの話をすると自分もこうだったと言わんばかりでなんだかこそばゆいなぁ…
いつものように年に合わないキャピキャピした笑顔でそう言った私だけどやっぱりこんなおばさんが華の女子高生の前で何やってるんだろうって思うのよ…
「うん!わかった!
あ〜ちゃんはあたしが守るよ!
大切なお兄ちゃんだもの!今はもうお姉ちゃんなんだけどね…」
「当たり前のこと言わないでくださいっ!
私があーちゃんを守るのは義務ですから!
だから楓さんは安心してくださいっ。」
そうだよね…家族だもんね…
私が心配してあげる必要なんてなかったのかな…
「そうね。
二人ならそう言ってくれると思っていたわ。
とりあえず二人にはさっきの二つの特徴を覚えておいてほしいのよ。
じゃあ、病室に戻りましょうか」
私は二人を外に出るよう促してカウンセリング室には鍵をして茜ちゃんの病室に足を向けたのだった。
今回でやっと退院かと思いきや…
なんと次回までもつれ込むという…




