17話 最後のリハビリ
「ごめんねっ!あかちゃん!
わたしあかちゃんの気持ちも考えずにひどいこと言っちゃった…」
わたしは心の部屋であかちゃんに深々と頭を下げている。
ワイワイと楽しくやって帰ってきたあかちゃんに起こされたわたしはあかちゃんに言ったひどいことを謝罪しようと思ったのだ。
「大丈夫だよ!
あたしこそ茜ちゃんの気持ちを素直に受け取れなくてごめんね…
楓さんの話聞いたりひーちゃんと雪ちゃんと話したりしたおかげであたしも茜ちゃんの言ってることが理解できたよ!」
あかちゃんがわたしの頭をくしゃくしゃ撫でながら溢れんばかりの笑顔でそう言ってくれた。
「そう言ってくれるとありがたいよ。
わたしと二人でまた楽しい思い出作っていこうね!
そういえば楓さんの話ってなに?
わたし聞いてないよ?ぜひ聞かせてよ!
わたしも知っておくべきことなんでしょ?」
わたしはあかちゃんの肩を掴んでグラングランと揺らしながらそう言った。
「わ、わかった…
話すから…だから離して…」
あかちゃんは息も絶え絶えでそう言った。
「ああっ…ごめんねっ!
それで、楓さんの話って?
きになるよぉ…早く聞かせて?」
わたしは目を輝かせながらあかちゃんを問いただした。
「そんなに目を輝かせることでもないと思うけど…
まあ、簡単に言えば楓さんの過去について聞いたのよ。」
そう言ってなんだかんだ言って楽しそうに楓さんの過去について教えてくれた。
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『ずーん…』
そう効果音が聞こえそうなくらいわたしのテンションはダダ下がりだった。
「起きていきなりそんな暗くなっちゃってどうしたの?
なんか怖い夢でも見てた?」
わたしがベッドから身体を起こすと楓さんの優しい声がベッドサイドから聞こえてきた。
「ううん。別にそういう訳じゃないんだ。
そういえば…
ごめんなさい楓さん!
あかちゃんから勝手に楓さんの過去の話聞いちゃまいました…」
わたしはベッドから身体を起こした状態で頭を下げた。
「そっか…
緋那ちゃんから聞いちゃったのね…
まあ、勝手に聞いちゃったのはよくないと思うけど許してあげるっ!
どのみち茜ちゃんも知っておくべきだと思うしね。」
楓さんはそう言って笑顔で許してくれた。
あんな事を経験しても今ここで笑ってられるなんて楓さんは強いんだなって強く感じる。
「ありがと。
ごめんなさい、勝手に聞いちゃって。」
そんな楓さんの優しさに触れてなんだかしゅんとしてしまう。
申し訳ないことをしたなぁと思ってしまったから…
「茜ちゃんが気にする必要はないよ!
さっきも言ったけど茜ちゃんも知ってて欲しかった話だしねっ!」
そう言う楓さんの顔はとても輝いていた。
そんな楓さんの顔を見るとなんだかわたしは幸せにならないといけないなぁと思う。
だって楓さんの想いをこうして受け取ってしまったのだから…
「うん、わかった。
楓さんの想いはわたしが受け取ったよ。
絶対わたし達は幸せになってみせる!」
わたしは楓さんの手をぎゅっと握って決意を述べた。
「その意気よ!
わたしもできるだけのことはするわ!
だから何かあったらいつでも相談しに来てね?
明後日には退院するんだからっ!」
そういう楓さんの目は少し赤くなって今にも涙を流しだしそうな感じだった。
「楓さんっ!泣かないで?
わたしもしばらくはここに通う事になるだろうし寂しくなったらいつでも会いに来るから!」
今にも涙が溢れそうな楓さんに抱きついて上目遣いのうるうるお目目でそう楓さんを慰める。
「茜ちゃんそれは反則よぉ〜…
あんまり誰にでもやると勘違いされちゃうわよ!」
両手で涙を拭いながら楓さんは冗談交じりにそう言ってきた。
「大丈夫だよ!
ちゃんと心を許した人にしかやらないもんっ!」
「それが心配なんだけどね…
全くこの子は魔性の女に育ちそうでこわいわ…」
「えっ?
なんか言ったぁ?」
「な、なんでもないよ?」
おっかしいなぁ…
なんだか考え込むようにボソッと何か言ったと思ったのに…
まあ、ここで考えこんでも仕方ないか…
「そう?
それならいいんだけど。」
「そうだっ!
明日にでも茜ちゃんの退院パーティーでもしない?
これまで茜ちゃんがいっぱい頑張ってきたの知ってるからお姉さん奮発しちゃうよ〜?」
楓さんがこうして話題を変えてくれたことで退院する寂しさみたいなものも少し薄れた。
「そう言って本当は楽しくケーキとか食べたいだけなんじゃないの?
昨日も緋那の退院パーティーって言って食べてたんでしょ?」
「あははは… ばれた?
でもね、茜ちゃんをお祝いしたいって気持ちは変わらないよ?
だからこそするべきかなって…」
ペロッと舌を出して可愛げに言う楓さんだがそれがとても似合っていてとても二十代後半には見えなかった。
全く…この人は末恐ろしいよ…
「それなら仕方ないなぁ…
わたしは宝栄堂のフルーツタルトがいいなぁ…」
「なんだかんだ言って茜ちゃんも楽しみにしてるじゃない…
まあいいわっ…
じゃあ明日は宝栄堂のケーキでパーティーしましょう!
さっそく雪菜ちゃん達に伝えておかなきゃ!」
「大丈夫。
もうメールしておいた!」
「さすが仕事が早いわねぇ…
それにしても茜ちゃん…表情でルンルン気分なのが丸わかりね…」
「そ、そうでもないしっ…
って言うかそんなに表情に出てる?」
「それはもうモロバレだよ?
でもそんなとこが可愛いからこのままでいいと思うわよ♪」
このままでいいわけはないと思うけどとりあえずどうしようもないからこのままで入るしかないのかなぁ…
あ、そういえば今日がリハビリ最後なんだ!準備しなきゃ!
話題も変えられてちょうどいいか!
「そうかなぁ…
あっ、そういえば今日でリハビリ最後でしょ?
早めに終わらせてリハビリの先生達にお礼とか言いたいから準備するね!」
「えっ!?ああ、そうかぁ…
じゃあ早めに準備していきましょうか
!
手伝うことあれば手伝うわよ?」
楓さんはわたしがいきなり話題を変えたので少しびっくりしていたみたいだけどすぐに持ち直して首を傾げながらわたしに手伝うことはないかと尋ねてきた。
「うーん。
まあ準備って言ってもパジャマからジャージに着替えるだけだから手伝ってもらうことないと思うよ?」
「そうよねぇ…
あっ、じゃあタオルとか準備しておくね」
「うん。ありがと」
そう言ってわたし達はリハビリへ行く準備を始めた。
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「そっかぁ…茜ちゃんとリハビリするのもこれで最後かぁ…
これからは少し寂しくなるなぁ…
でも茜ちゃんならこの先なんだって乗り越えられるはずだよ!
なんたってこの僕のリハビリに耐えぬいたんだから!
だから自分に自信持つんだよ?」
結局最後の最後までこの人には慣れなかったな…
筋肉ムキムキでサムズアップをしながら爽やかな笑みを浮かべてる某パチンコの緑髪の海パン男みたいなこの男はわたしを見てくれたリハビリの先生だ。
よくサムズアップしてるからサム先生って呼んでる。
わたしを見てくれたリハビリの先生は二人いて正直もう一人の先生の方が好き。
「あんまり暑苦しいと嫌われちゃうよ?
ごめんねぇ…こんな先生がいて…
あいつも悪気があるわけじゃないから…
全ては君の美しさのためだよ…」
そう言って爽やかに笑うのがもう一人のリハビリの先生だ。
こんな風にキザな言動が目立つからキザ先生って呼んでる。
「まあ…そう言うなら…今日で最後だし…」
キザ先生がフォローしなかったらサム先生のことを気持ち悪い人としか思えていなかっただろう。
「じゃあ最後のリハビリ始めていこっか!
まずはこれからかな!」
そうして最後のリハビリは順調に進んでいった。
まあ正直もう普通に生活できてるしリハビリが必要かって言われたら正直いらないと思う。
キザ先生も「君のスタイルを維持するための運動だと思ってよ」っていってたし…
まあ、何もない病院の中で気分転換できるって考えたらいいのか…
結局そんなことを考えているうちに最後のリハビリは終わってしまった。
「うぅっ…
これで最後だと思うとさみしいよ!
これから色々あると思うけど頑張るんだよ?」
「おいおい…女の子の前で情けないぞ…
やれやれ…こいつは置いといて感動の最後としようじゃないか。
はい。これは俺たちからだ。
受け取ってくれるよね?」
そう言って可愛らしい花束を差し出してきた。
なんだかボロ泣きしてるサム先生といつも通りなキザ先生との差が面白くって不思議と笑みがこぼれる。
「ふふっ…サム先生かわいいっ!
でも、泣いちゃダメだよ…サム先生は笑顔の方が素敵だよ?
キザ先生、ありがとう!
このお花大事にするね!病室戻ったら早速飾らなきゃっ!」
二人を見ているとなんだか心があったかくなってくる…
この二人とも会えなくなるのかと思うとだんだん目頭が熱くなってくる…
「茜ちゃん。君はとても頑張ったよ。
これからは自信を持って自分の足で歩いて行くんだよ!
せーの…」
「「リハビリ終了おめでとう!」」
二人揃っておめでとうといってくれたのがとても心に刺さった。
サム先生はおめでとうっていうのも一苦労ってくらいにボロ泣きになっているけど…
きっとサム先生は心が綺麗ないい人なんだろうな…
わたしのためにここまで泣いてくれるなんてきっといい人に違いないよ…
「ありがどう…ぐすっ…
二人のおかげでわたし頑張れた…
ここまで普通に生活できるようになったのは二人のおかげです…
ありがどう…ううっ…」
サム先生が泣いているのを見てわたしは泣かないんだろうなと思っていたけど結局二人の言葉に感極まってしまった。
「あれ…涙は明後日の退院まで取っておくつもりだったのに…」
どんどん涙は溢れてくる。
「明後日の退院の日に会わせる顔がなくなっちゃう…」
「その心配はいらないよ…
実は茜ちゃんが退院する日は二人とも研修に出ちゃって見送れないんだ。
だから今日が本当に最後だよ…」
キザ先生は寂しそうにそう言った。
「そ、そうなんだ…
寂しいよ…体育の先生みたいでとっても頼もしかったし楽しかった…
退院してもきっと遊びに来るからね!」
キザ先生の言葉に驚いたわたしは涙も止まっていた。
「茜ちゃーん! 迎えに来たわよ!
そろそろ時間だし次が詰まっちゃうわよ?
」
そうこうしているうちに楓さんが迎えに来てしまった。
「え!楓さんくるの早くない?もうちょっと時間あると思った…
これ以上いると次の人たちが押しちゃうよね…
ありがとうございました!また遊びにくるね!」
わたしはそう言いながら楓さんに手を引かれてリハビリ室を出たのであった。
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「あれ、その花束どうしたの?
さっきから腕に抱えてるけど…」
病室に行くまでの道を歩いていると楓さんがわたしが手に持つ花束に気づいたようだ。
「あ…これ?
さっきね、キザ先生とサム先生に貰ったんだぁ♪
可愛いよねぇ…
二人とも明後日は研修で見送れないからって言って渡してくれたんだっ」
「そうなの?
あの二人もやるじゃない…
じゃあ病室戻ったら飾りましょっか。」
「うんっ♪」
わたしは花束を貰って何故だかルンルン気分になっていた。
男の頃はそんなことなんてなかったのに…
やっぱり心も女の子に近づいていっているのだろうか。
「あ〜ちゃんいないと思ったら花束なんて持ってどうしちゃったの?」
「花束とあーちゃんっ…
なんて素晴らしいのだろうっ!」
リハビリ室から病室までの長い道のりをよろよろと歩きながら病室までたどり着くと病室からひーちゃんと雪ねぇが出てくるところだった。
「あっ、二人とも来てたんだ!
今日は来るのなんだか早くない?」
わたしはなるべく花束については触れないように話題を逸らした。
「え?いつもと変わんなくない?
それよりその花束どうしたの?
誰にもらったのよぅ?」
わたしの思惑とともに逸らした話題はひーちゃんにばっさりと切り捨てられてしまった。
「えっ…そのっ…
リ、リハビリの先生だよっ!」
顔が熱くなってくるのが自分でもよくわかる。
きっとまた顔を真っ赤にしているのだろう。
「え!あたしその人のこと聞いたことない!
聞かせて!どんな人なの?
きっとあ〜ちゃんが顔を真っ赤にするってことは男の人でしょ!」
珍しくひーちゃんがヒートアップしている。
ひーちゃんコイバナみたいな話は大好きだからなぁ…
っていうかわたしの反応でそこまで見抜くってひーちゃんすごいよ…
「ひーちゃん落ち着きなさい。
こんなとこじゃなんだから中に入ってお茶でもしながらゆっくりとお話を聞かせてもらおうじゃない…」
雪ねぇがひーちゃんを止めてくれて助かった。
っていうか雪ねぇのその目のほうがよっぽど怖いよ!
「ううっ…
わかったよ…
お茶入って落ち着いたら話すよ…
って言ってもそんな大仰な話じゃないよ?」
そう言ってわたしはサム先生とキザ先生のことを話し始めた。
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「なぁんだぁ…
どうもあ〜ちゃんにその気はないみたいだし相手の先生も紳士な部分から来る行動みたいだしなんだかなぁ…
(まあ、サム先生に関しては少しその気はありそうだけど…)
で?あ〜ちゃんはどっちがお気に入りなのさ?」
ひーちゃんはがっかりした様子をした後にすこしだけ含み笑いをしたように見えたがすぐにニヤニヤとした笑みを浮かべ始めた。
ひーちゃんのこのニヤニヤとした笑みは正直嫌いだ。
ひーちゃんにその気はないのはわかるのだがなんだかバカにされているような気がしてならない。
それにしてもひーちゃんは表情がコロコロと変わってなんだか面白い。
でもそんだけコロコロ変わっていると疲れないのかなぁ…
「あーちゃん?どうしたの?
さっきからなんか微妙な表情しながら考え込んでたみたいだけど…」
「ふぇっ!?
あ、ああ…別になんでもないよ…
すこしだけ考え事をしてただけ。」
思考に耽っていた頭が雪ねぇの一言によって一気に現実に引き戻されたことによってわたしは素っ頓狂な声を上げてしまった。
「もうっっ!
あたしの質問そんなに考え込むことじゃなかったでしょう?
あっ! もしかしてどっちかのこと考えちゃってたり?」
ムッとした表情で少し怒っているようなジェスチャーをしたひーちゃんだったがすぐに何かを思いついたようでニヤニヤしながら詰め寄ってきた。
「べべべ別にそんなこと考えてないしっ!
他のこと考えてただけだしっ!」
わたしはなんて事をしているのだろう…
これではまるで図星だったかの様ではないか…
「他の事ってなぁにかなぁ?」
「な、なんでもいいでしょう?
とにかく先生達の事考えてたわけじゃないから!」
「本当かなぁ…
信用して欲しければ何考えてたか喋ってよ。」
そう言ってひーちゃんは手をわしゃわしゃしながらにじり寄ってくる。
ひーちゃんのこの体勢から繰り出されるのはワキこちょこちょか胸揉みしだくかのどちらかだろう。
「ひっ…
わ、わかったから胸だけはやめて…、
考えごとはひーちゃんのこと考えてたのっ!表情豊かだなぁって…」
「っっ…///」
(ヤバいよこの表情っ…
涙目からの恥じらいとかこの子天才よっ…)
わたしがそう言うとひーちゃんは顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。
「あーちゃん… あんまり他の人にはそれやっちゃダメよ?
このままだとあーちゃんの将来が心配よ…」
雪ねぇにたしなめられてしまった…
しかも将来を心配されるとかっ…
わたしなにかしちゃったかなぁ…
「えっ、えっ?
わたしなにかしちゃった?」
「意識せずにやってのけるとかあ〜ちゃんどれだけなのよっ!
あたし悶え死ぬところだったんだからっ!」
「えっ?え?? どゆこと?」
「あーちゃんが可愛すぎるってことよ!」
ひーちゃんと雪ねぇは何を言っているのだろう。
二人の方が絶対可愛いはずなのに…
わたしは女の子になってまだ1ヶ月もたってないペーペーなのに…
「わかんないって顔してるけど本当のことだからね?
とりあえず男の子の前でだけは気は抜いちゃダメだよ?」
「そうだよー?
あ〜ちゃんの可愛さならすぐ囲まれちゃうよ?」
「えー。
そんなことないでしょ。
男の扱い方なんてわたしの方が知ってるでしょ。元男なんだし。」
「いやいや、それはないよ!
だって今のあ〜ちゃん見てたら男の子誘ってるようにしか見えないよ?」
「えー。
ないない。絶対違うって。
わたしそんなことしてないもん!」
「はいはい。
そのへんにしておきなさい。
まあ、茜ちゃんは気をつけるべきだと思うけどね。」
楓さんの制止が入ったところでこの話題は終わりになった。
この後もわたし達はいつも通り面会終了時間までガールズトークに花を咲かせたのであった。
いつもと違うのは明日の退院パーティーの準備をしながらだったということだ。
わたしは一応まだ病人なのでベッドの上で飾り物を作った。
こうしていると明日がたのしみで仕方なくなってくる。
「早く明日にならないかなぁ。」




