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茜色で描く未来  作者: みやしろましろ
橙哉→茜 茜の過去と今
15/68

15話 緋那の苦悩

「おっはよー…

寝覚めはどうだい?」


わたしが目を覚ますといきなりあかちゃんの声が聞こえてちょっとびっくりした。


「ふぁぁぁ…

あれ、あかちゃん?

なんで…ってここ玉座の部屋じゃん…」


わたしは寝ぼけながらもなんとか周囲の状況を把握した。


きっとあかちゃんがわたしをたたき起こしたのだろう。


「なんか用でもあった?

あ、そうだ。

雪ねぇにかわいいノート買ってきてもらったからこれで入れ替わる準備万端だよ!」


わたしは前回あかちゃんに言い忘れたことを思い出して口にだした。


「お、そっかぁ!

じゃあ心置きなく行ってこれるね!

そろそろころあいかなって思ってちょっと外に行ってこようと思って起こしたんだど…」


ちょっと申し訳なさそうにあかちゃんは言う。


「そっか…

なら行っておいでよ!

退院も決まったことだしさ!」


そうなのだ…

実は昨日楓さんから退院の日取りが決まったと知らされたのだ!

しあさってにはここを退院するとなるとなんだか寂しいような気もする。


レーゾンの解散を聞かされた日から早1週間も経ってなんだかんだ言って私が目覚めてからはや2週間になる。

そりゃここにもなんだか愛着が湧いては来る。


「ちなみにしあさってが退院日だよ!」


「じゃあ、あたしがこの病院で過ごせるのは今日が最後になりそうだね…」


あかちゃんはちょっと悲しそうな顔をしてうつむいた。


「えっ!!なんでよ!

別に何回でも出てくればいいじゃん…

わたしは別にいつ出てきてくれてもいいんだけど…」


あかちゃんの悲しそうな声を聞いて私はすかさず言い返した。


「そういうわけじゃなくて…

なんだか今の体の状態から見て茜ちゃんの体に自分の意志で入るのは一週間に一回が限度みたい…

だからなるべくバタバタしてない今のうちに外に出てしまおうと思うんだ!」


一瞬あかちゃんの顔が曇ったように見えたけどすぐに明るいい表情のあかちゃんに戻った。


「そっか…

そのうちあかちゃんとわたしで半分半分に入れ替われるようになれたらいいね」


わたしは本心から思っていることをぶちまけた。


「茜ちゃんはそれでいいの?

あたしにそのうち身体乗っ取られちゃうかもなのに…」


あかちゃん震えてる?

なんか変なこと言っちゃったかな…


「あたしは茜ちゃんの人生が素晴らしくなればそれでいいと思ってるよ…

そこにあたしが居ようと居まいと…

だからあたしが外の世界に出るのは本当にたまにでいいんだよ!

この身体は茜ちゃんのものなんだから!」


あかちゃんの声は異様に冷たいものだった…

こんなあかちゃん見たいわけじゃないのに…


「だって、わたしもあかちゃんも幸せになれたほうがいいじゃん…

あかちゃんはわたしにとって自分の一部みたいなもんなんだよ…

だから幸せになって欲しいんだよ!」


わたしは本心からあかちゃんの幸せを願ってそう言った。


「そんなの出来るわけないんだよ!

あたしが幸せになる事と茜ちゃんが幸せになる事は両立できないんだよ!

いつかあたしと茜ちゃんが違う人を好きになって二人とも結婚したくなったらどうなるのさ!


二人と結婚するの?

そんな事できないでしょ!


いつかあたし達どちらかが幸せを諦めなきゃいけなくなる日が来るんだよ!

その時に茜ちゃんは変わってくれるっていうの?

そんな事はあたしは許さないからね!」


あかちゃんがここまで考えてるとは正直思わなかった…

あかちゃんの言ってることはもっともだ…

なんでわたしはそこに気づかなかったのだろう…


「ほら、何も言えないでしょ?

どっちにしろあたしは茜ちゃんのスペアでしかないんだよ!

あたしは茜ちゃんの心がTS症候群に壊されてしまった時のスペアなんだよ!

スペアなんて使われないに越したことはないんだよ!


わかった?

わたしはちょっと外出てくるから茜ちゃんはここで少し頭を冷やしてなよ…」


そう言ってあかちゃんはどさっと玉座に座ってしまった…


あかちゃんあんな悲しいことを考えてたなんて…

今までのわたしの対応はあかちゃんを傷つけてたのかなぁ…


どうしたらいいのだろう…

本当に二人とも幸せになる方法はないのだろうか…


そうしてわたしは深い思考に落ちていった。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



「んぁ〜…

茜ちゃんったらあんなこと言って…

もしあたしが茜ちゃんの身体を乗っ取るようならどうするつもりだったのだろう…」


ベッドから身体を起こして伸びをしながらあたしは愚痴をこぼした。


「あらっ、やっと起きたの?

今日はだいぶお寝坊さんね!」


窓側から女の人の声が聞こえた。

この声は楓さんだろう…


あの短時間で茜ちゃんが信頼を寄せている女の人がどんなものかとても気になった…


「あらっ、その顔つきは緋那ちゃん?

えっと、初めましてでいいのかしら?」


ちょっと意地悪をして困らせてみようかと思っていた矢先、楓さんから先手をきられた。


「あっ…えっ!

なんで気付いたんですか?

見た目だけなら絶対気づかないと思ってたのに…」


あたしは楓さんに対して動揺を隠せないでいた。


「そうねー…なんでだと思う?」


下手をするといい年こいたキャピキャピし過ぎにも見えるようなセリフをこの人が言うとなんだか決まっている…


「楓さんがTS症候群のプロだから?

とかそんなのとかしか思い浮かばない…」


突拍子もない面白い答えとか思いつかなかったので一番まともで一番つまらない答えを言うしかなかった。


「ううーん…

それも間違ってないよ?

でも一番の理由はさっき茜ちゃんに対してあたしがなんたらって言ってたからよ!」


バーンと効果音が出そうなほどドヤ顔で楓さんがそう言った。


なーんだ…そんなことか…

ってか自分で言ったことを忘れてたなんて…

恥ずかしくなってきた。


「茜ちゃんみたいに顔を真っ赤にしたりしないのね」


楓さんがあたしをからかうようにそう言ってくる。


「そこまで恥ずかしがることじゃないでしょ…

茜ちゃんがおかしいのよ…」


あたしは呆れながらそう言い放った。


「そうね…

あの子が恥ずかしがりやさんなだけよね。

あ、そうだ…忘れてた…

改めて、初めまして!

私は高砂楓って言います!

よろしくね!」


とても楓さんの年齢には見えない自己紹介に正直少し引いた…


「よろしくお願いします。

宮代緋那あかなって言います。

楓さんの事は大体見てたんで茜ちゃんに接するように普通にしてもらって大丈夫です。」


あたしは楓さんに普通に接してもらえるように言った。

実際見ていた限りだとこの人はあたしにも同じ距離感で接してくれると思ったからこう言う言い方をしたのだ。


「うん。わかったわ。

まあ、こんな自己紹介してもどうせきちんと会うのは今日くらいなんでしょ?

私も代理人格があった時期もあったしそれくらいはわかるわよ…」


腰に両手を当てて『えっへん』とでも言いたげなドヤ顔でそう言った。


「そうね。

楓さんも患者だったんだもんね…」


あたしは楓さんの苦労を想像してちょっとアンニュイになってしまう…


「そんな暗くならないでよ!

私は全然気にしてないんだよ?」


楓さんが慌ててあたしの気分を上げようとしてくれる。


「わかった…

さて、今日は何しようかしら…

せっかく外に出てきたのに病院の中じゃする事もないんだよね…」


あたしは楓さんの意を汲んで今日の予定でも立てようと思ったけど考えてみると案外する事がなさそうだった…


「リハビリもあとは普通に生活程度の運動をして体力をつけるだけだし女の子教育も緋那ちゃんなら必要ないし…」


楓さんもあたしがやる事を必死に考え込んでしまった。


「まあ、雪ちゃんとひーちゃんが来れば楽しくなりそうだし。

それまでお散歩したりしてようかな…」


「それいいじゃない!

お外散歩して外のベンチで茜ちゃんが買ってきたファッション誌でも読んでましょうか!

そうすればリハビリにもなるし一石二鳥ね!」


楓さんが一生懸命考えて出てきた答えがこれだった…


まあ、お日様の下でゆっくりするのもいいか…

茜ちゃんの好みも知れることだし…


「わかった…

じゃあそうしよう!」


そういってあたしは立ち上がった。


「善は急げだよ!

行くなら早くいこう!」


そういってあたしは楓さんの腕を引っ張って外まですたすたと歩き出した。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★



「いやーやっぱり晴れた日のお外は気持ちいいわねー!」


楓さんが大きく伸びをしながらそういった。


あたしたちは病院の敷地内にある中庭という名の大きな庭園みたいなところにあるベンチに腰かけている。


「外に出ると気分もだいぶ変わりますね…

こうしているとなんだかずっとこのままでいたいって思っちゃう…」


なんだかこうして太陽を眺めながらぼけっとしてるとこのままいつまでも外に出ていたいと思ってしまう…

あたしは茜ちゃんをしっかり導くための存在なのに…


「なあんだか…変なこと考えちゃってる?

私は緋那ちゃんも立派なひとりの人間だと思うけどなぁ…

あんまり重く考えなくてもいいと思うよ?

いつか選ばなきゃいけない日は来るかもしれないけどその時まではいっぱい楽しむべきだと思う…

本当はこういうの先生の方針に反するからダメなんだけど…

私は緋那ちゃんみたいな娘もいっぱい見てきたし実際に代理人格がいた経験もあるから…

私としては緋那ちゃんにも精一杯人生を楽しんでほしいな」


楓さんがちょっとにやにやしながらあたしの顔を覗き込んできたかと思ったらいきなり真面目モードでしゃべり始めた…


こうしていると年の離れたおねぇさんができたみたいでなんだかとてもうれしくなってくる…


「なんだか楓さんがこうしてあたしのことも考えてくれているのがとっても嬉しい…

本当ならあたしなんていないほうがいいのかもしれないけど…

それでもあたしの存在を肯定してくれる人がいるのがとてもうれしい…」


感極まって涙が出てきてしまう…


「可愛いなぁ…

こればっかりは元患者じゃないとわからない話かもだからね。

だからこそ私は茜ちゃんも緋那ちゃんも存在を否定しないよ?」


(いくら代理人格としてしっかりしててもそりゃ悩むこともあるわよね…

こんなにも華奢な女の子だもんね…

私たちもそうだったのかなぁ…

どう思う?もみじ…)


「あれっ…

楓さんとあーちゃん?」


「あ〜ちゃん泣いてる?

どうしたの?

楓さん!遠い目をしてないで状況を教えてよ!」


雪ちゃんとひーちゃんの声が聞こえてあたしは慌てて涙を拭いた。


だってなんかこんな状況だと楓さんが泣かしたみたいに見えてもやだしあたしが勝手に泣いていただけなんだからすっと気持ちを切り替えたい。


「あーちゃん?

大丈夫?目が真っ赤だけど…」


雪ちゃんが心配してくれてるようだけどあたしが勝手に泣いているだけなので心配してもらうのもなんだか悪い気がする…


そもそもあたしは茜ちゃんじゃなくて緋那だし…


「うん…大丈夫だよ?

っていうかあたしは緋那だけどね…」


なるべく心配させないように取り繕ったつもりだけどきっとまだ涙の跡が残りまくりなんだろうな…


「そっかぁ

あかちゃんだったかぁ…

なんだかあ〜ちゃんにしては泣き方が可愛らしかったからおかしいと思ったんだよね。


で、なにかあったの?」


さすがひーちゃんだと思う。

すぐにあたしだと見破ったし泣いてたこともバレバレだった…

(実際は雪菜と緋雪は緋那を見つけた瞬間に泣いているところを目撃してるのでバレバレだった)


「別になんともないもん…

ちょっと茜ちゃんと喧嘩しちゃっただけだし…」


恥ずかしくなったあたしは膝に顔を埋めてボソボソと喋る。


なんだか茜ちゃんみたいな事しちゃって尚更恥ずかしくなってきちゃった。


「あーちゃんと喧嘩しちゃったの?

それで落ち込んでたってことね…」


「あれぇ、あ〜ちゃんと喧嘩しちゃったかぁ…

そんな滅多にそんなことにはならないと思ったのになぁ…」


二人してなんか納得しているけど別に喧嘩したことが泣いてた原因じゃないんだよな…


「そうなのよ!

珍しいこともあるもんでしょ?

話聞いてたらなんだか不安とか色々溢れちゃったみたいなの…」


いつの間にか楓さんが話に入ってきていた。


「なんか言い方が子供に対するみたい…」


そう言ってあたしはそっぽを向いた。

全く…子供扱いなんてしないでほしいよ…


「そーゆー態度するから子供っぽく見られるんじゃない?」


「あはははっ!

お姉ちゃんの言うとおりだよ!」


雪ちゃんの的確な突っ込みにひーちゃんが目元に涙を浮かべるほど笑っている。


二人とも失礼しちゃうっ…


「もうっ…バカにしないでよっ!

あっ、そうだ!

さっき楓さんが遠い目をしてたとか言ってたけど遠い目なんかしちゃってどうしたの?楓さん?」


あたしにできることはちょっとの抗議と話題を逸らすことくらいだった…


「そうだよ!

泣いてるあかちゃん放置してなんで遠い目をしてたの?」


ひーちゃんが乗っかってきてくれて助かったよ。

ひーちゃんのおかげでうまく話題を逸らせた。


「えっ!

別になんか理由があったってわけじゃないのよ?

緋那ちゃんを放置してたっていうかそれについては可愛いなぁって思ってたら時間が経っちゃったっていうか…

緋那ちゃんの泣き方も慰められるタイプの泣き方じゃなかったし…」


うふふふっ…

楓さんがたじたじになっててちょっと面白い。


「まあ、楓さんの言い分はわかるけど肝心なとこが足りないなぁ…

遠い目をしてた理由がまだだよ?」


ひーちゃんが目をキラキラさせながら楓さんに言い寄ってる。


「いやっ…別に理由とかないけど…

……本当に話さなきゃダメ?」


最初は言い逃れしようとしていた楓さんであったがひーちゃんにじーっと見つめられて腹を括ったようだ…


「うーん…

そんなに話したくないことなら別に問いただしたりはしないけど…

あたしは個人的にものすごく知りたい!」


ひーちゃんが暴走を始めた…

こうなったひーちゃんはなかなか止められないだろう…


「ぐっ…そんな目で見つめられたら…

わかったわ…

別に特に面白い話でもないわよ?」


「大丈夫…続けて?」


「わかったわ…

簡単に言うと昔のことを思い出してたのよ…

詳しく言うと緋那ちゃんの苦悩の一端を見て懐かしくなっちゃったのよ…

柄にもなく代理人格について思い出してたのよ…」


楓さんは腰に手を当ててため息をつきながらそう言った。


「ふうん。

いつも前向きな楓さんでも昔のことを振り返ったりするんだね…」


ひーちゃんがちょっとしんみりしているがあたしはそれどころじゃなかった…


「えっ、楓さんにも代理人格とかいたんですかっ…

それなら是非お話を聞かせてほしいです…

あたしが今後どうしたらいいのかわかるような気がするんです…」


あたしは前のめりになって楓さんの手を握る。


「えっ!…

ど、どうしようかな…」


楓さんが本気で慌てている。


「私からもお願いです。

これからの二人を支えるために私たちも知っておきたいです…」


雪ちゃんがダメ押しの一発をかました。


(そこまで言われたら…

でもどうしよう…

まあ、茜ちゃんと緋那ちゃんの為よね…

それならいいわよね…もみじ…)


「仕方ないわねぇ…

そこまで言われたら話すしかないじゃない…」


楓さんはしばらく思案した後大きく息を吸って自分の過去について喋り始めた。

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