12話 初めてのお友達!? 後編
全輪に引き続きタイトル詐欺…
実際に女の子として友達になったのは初めてですからお許しください…
楓さんがいなくなってしまってわたしたちだけになったテーブルの空気はだいぶ凍りついてしまって誰も喋ろうとしない。
「あ、じゃあとりあえず自己紹介でもしますか…」
楓さんがいなくなって少し凍りついた空気を日向がぶち壊してくれた。
「あ、じゃあわたしからいきますね…
茜と申します…年は16です…」
とりあえずわたしの友だちになってもらった形なのでわたしから自己紹介を始める。
三人の視線を感じて恥ずかしくって顔が熱い…
またゆでだこみたいな顔になっているのだろう…
「へーっ、そうなんだっ!
実は俺たちも16歳なんだよ!」
和樹がいつもの高いテンションで机から身を乗り出しながらそう言ってきた。
いきなりだったので反射的に身体がひいてしまった。
「ごめんな、こいついつもこんなだからちょっと許してくれ。
俺は大和だ。このうるさいのが和樹。」
わたしの反応を怖がっていると勘違いしたのか大和がすかさずフォローして、ついでに自己紹介まで済ませた。
さすが大和だ…
正真正銘のイケメンはやることが違う…
「俺は日向、よろしくねっ!
まさかタメだとは思わなかったわ…
いやいや、別に子供っぽく見えたとかじゃなくて…
こんな可愛い子と同い年とか嬉しいからさ。」
日向が自己紹介してそのあとに変なセリフを入れてきた。
そのあとすぐに訂正して取り繕ってたのはなんだか可愛らしかった…
すぐに訂正したのはわたしの顔が少し不機嫌になっていたからだろう…
「よろしくお願いします…
皆さんは学校が同じとかですか?」
わたしが必死に猫をかぶって出てきた言葉がこれだなんて…
「そうだよ。クラスは別だけどね…」
大和がいつもの感じでそう言った。
「へぇぇ…
クラス違っても仲良くなれたりするんですね!」
わたしはさっき頼んだアイスティーを少し口に含んで少し興味津々そうに問いかけた。
実際はこいつらの関係性なんて知ってるしどうでもいいのだけど男の子を立てて興味があるように見せてみた。
案外自然だったと思うし才能あるのかもしれない。
「んー俺たちは違うからよくわかんないや…
俺たちはバンドを組んでるんだ。
今日見舞いに来たのもそのバンドのメンバーなんだ。」
日向があっけらかんと答えた。
「皆さんバンドやってるんですか?
すごいっ!
わたしバンド大好きなんです!
そっかー、それで日向さんは金髪なんですね。」
バンドの話なら話題が広がると思ってわたしはテンション高めにそう切り出した。
日向の金髪をいじることも忘れずにね…
なんだか懐かしくって心があったかくなってくる…
「いや…これは地毛なんだけど…
ってか茜ちゃんバンド聞くんだ!
どんなバンドが好きなの?」
ちょっと落ち込みつつもテンション高めに返してくれた。
やっぱ日向は日向だ。
いじると面白いし見てると楽しい。
「うーん…
やっぱハイ◯タとかエ◯レとかですかね…
あと、ブルーシームドコーリングとか…」
わたしが好きなジャンルがわかりやすいようなバンドを挙げた後に一番好きなバンドを挙げた。
ちなみにブルーシームドコーリングとは昨今のインディーズシーンを牽引するパンクバンドでわたしが一番最初にライブを見たバンドでもある。
「ブルシム好きなんだ…
女の子にしてはだいぶエモいのが好きだね
そういえば橙哉もブルシム好きだな…」
「ブルシムか。
なかなかいい趣味してるね。」
「ブルシム俺も好きだよっ!
リタリンとか名曲だよね!」
三人は三者三様の意見を返してくれた。
日向は少し引いたというかそんな目でわたしのことを見てきた後ボソッと何かを言った気がする。
大和はわたしの趣味を普通に受け止めてくれてる。
和樹に関してはいつものようにブルシムを語り合いたい。
ただ、リタリンよりいい曲はいっぱいあるだろ…
「皆さんブルシムとかわかるんですね…
なかなか有名じゃないから知らないかと思いました。」
わたしは三人がブルシムを知ってるとわかってて話しているし実際好きなバンド論議なんていっぱいしたけど猫をかぶって楽しそうに会話をしてみる。
まあ、実際ブルシムの話は何回しても楽しいから楽しいふりをしているわけではない。
「まあ、俺たちはブルシムとよく対バンしてたレーゾンデートルの直接の後輩バンドに当たるしね…」
日向が後頭部をかきながら恥ずかしそうにそう言った。
「え、あのレーゾンデートルですか?
わたし達と同じくらいの年代なのにそろそろメジャーとかいう噂が出てるくらいのバンドじゃないですか…
レーゾンデートルと対バンとかしたことあるんですか?」
もちろん返ってくる答えはわかってはいるのだけどわたしはなんだかだんだん演じているのが楽しくなってきてテンションも上がってきた。
「うん。あるよ…
あの解散発言をしたライブは俺らの主催ライブだったんだよ…」
「あの日は大変だったよね…
橙哉は倒れるしレーゾンは解散発言するし…」
「きっとあのタイミングは俺たちの騒動をなんとかしようとしてだったんだろうな…」
大和が低いテンションで爆弾を放り投げてきた後に和樹に日向と続けたがわたしの頭は大和の発言でいっぱいいっぱいで二人の発言は頭に入ってこなかった。
「え…
解散発言ってなんですか…
レーゾン解散するんですか?
そんなの知らなかった…
どうして…どうして!?」
突然知らされたレーゾンデートルの解散にわたしの心は大きく揺さぶられた。
「どうして…
なんで…
みんな何も言わなかったじゃん…
わたしだけ知らなかったっての?」
猫をかぶってる余裕もないわたしの口から人に聞かせるようなものではない率直な気持ちがぽろぽろとこぼれてくる。
「あ、茜ちゃん?…大丈夫?…」
日向がそう言うと顔を覗き込んできた…
「何でよ…
何でなの…
今まで隠してたってことなの?…」
日向の顔を見る余裕すらない私は下を向いてあふれだす気持ちを口から垂れ流す。
「茜ちゃーん!
おまたせっ!ってどうしたの!?」
結局30分くらいで戻ってきた楓さんがおかしくなってる私の状況を見て悲鳴のような声を上げる。
「さっきおしゃべりしてたらいきなりこうなっちゃって…
なんかあったんですか…?」
大和が冷静に楓さんに状況を説明する。
いつもの大和より言葉数が多いところからきっと大和も焦ってはいるのだろう。
「まさか、代理人格の症状でも出てくるんじゃ…
流石にこんなところではまずいわね…
ごめんね、茜ちゃんちょっと具合が悪くなったみたいで…
この子そろそろ退院すると思うからそのうちまた会うことになると思うわよ…
今日はありがとうね。
あと、橙哉くんは面会謝絶だってさ…
退院してから会ってやってくれだって。」
楓さんはわたしを見て何かボソッとつぶやいたあとみんなに向かってそういうとわたしを抱えて病棟のほうまで急ぎ足で向かった。
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「なあ、結局あの子って何だったんだろうな…」
「さあ、でもとっても可愛かったよね!」
「きっとなんか事情があるんだ。
あのおねえさんが自信満々にそのうち会うだろうとか言ってた。
だからきっとそのうち会うのだろう。」
嵐のように楓が茜を連れて行ってしまって取り残された三人は茜について語り合うことしかできなかった。
「茜ちゃんだいじょうぶかな…
今更だけどほんと心配になってきたよ…」
日向がボソッと茜を心配する言葉を漏らした。
「大丈夫だよ!何せここは病院だからね!
それにこれから先会うかもわからない娘のことそんなに考えても何も生まないよ?」
和樹が慰めかどうなのかよくわかんない言葉を日向にかけた。
「そっか…
またいつか会えるといいな…」
遠くを見るような目で日向がそういった。
「女の子苦手な日向が珍しいじゃん。」
すかさず大和が突っ込みを入れた。
「俺だってほんとは女の子好きなんだよ…
なかなか恐怖感がぬぐえないだけで…
その点茜ちゃんは純真無垢って感じでなんだか安心できた。」
そういって日向は照明がつられているだけの天井を見つめた。
「そっか…
日向も大変なんだね…」
和樹が日向に慰めの声をかける。
これによって空気は一気に重くなってしまった…
「橙哉。
橙哉も大変な状況なのかもな…
これだけ経ってまだ面会謝絶なんて…」
大和はその空気に乗せられたのか全員が言わないでいた橙哉の話題を切り出した。
「その話はやめだ…
今心配しても仕方ないさ…
退院してから会ってやれってことは退院できるって事だ…
今は橙哉が帰ってくるまでやれる事をやるだけだ…」
日向はとても真剣な表情で大和の話題をバッサリと切り捨てた。
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「茜ちゃんだいじょうぶ?
何かあった?」
楓さんに抱えられて別館に着くころには私の錯乱状態も何とか落ち着いて会話できるくらいにはなっていた。
「特にあいつらに何かされたわけじゃないから…
ちょっとショックな事実を知っちゃっただけ…」
会話できるといってもまた心が高ぶって錯乱しないようにゆっくりと内容も考えずにしゃべることしかできなかった。
「そっか…
じゃああんなに急いで連れてきちゃって悪かったかしら…」
楓さんはちょっと申し訳なさそうにうつむく。
「いや、あのままいたらぼろが出ちゃうとこだったと思うから結構助かった…」
わたしは弱弱しい笑顔を作ることしかできなくって自分のふがいなさになんだか悲しくなる。
「そっか…
茜ちゃんも女の子として守りたいものがあるんだね…
でもね、今ここにはあたししかいないんだよ?
だから、つらいことはいっぱい溢れさせていいんだよ?
信頼できる人の前だったらいっぱい感情を露にしようね。」
楓さんの声がお風呂のときと同じように心に直接流れ込んできた。
「うわぁぁぁん…
雪ねぇのバンドがわたしの倒れたライブで解散発言してた…
きっとわたしが悪いんだぁ…
わたしが倒れたりするから…
責任取ったり色々あったんだぁ…
だからみんな黙ってたんだぁぁぁ…
うわぁぁぁん…
雪ねぇごめんなさいぃぃぃ…」
わたしは心から溢れる想いを言葉にし続けた。
「大丈夫。
きっと貴女のせいじゃないわ…
茜ちゃんは貴女らしく進んでいくことだけ考えればいいの…」
泣きじゃくるわたしを抱き締めながら撫でてくれる楓さんの手がとても暖かく感じる。
「そろそろ大丈夫…
あんまり泣いてると雪ねぇ達が来た時心配するし…」
小一時間ほど泣いていただろうか…
わたしはわたしの病棟がある別館のロビーで楓さんに抱きついていた。
相変わらず別館のロビーは人が誰もいない。
それでも面会に来た家族とか別館勤務の看護師さんとかは通る。
いつまでもこのままでは居られないわたしは慌てて楓さんから離れてエレベーターまでスタスタ歩く。
「もう大丈夫なの?
雪菜ちゃんとかまだ来ないと思うけど…」
楓さんが心配そうにわたしを見つめてくる。
「うん。
それにちょっとお腹すいちゃって…」
わたしは後頭部に右手を当てて左手はお腹をさすりながら可愛らしく言ってみた。
こんな事普段やらないから恥ずかしい。
顔が熱くなってきて顔が赤く染まっていくのがわかる…
「そっか…
まだご飯食べてなかったんだ…
あの子達と食べてるもんだと思ってた…」
楓さんがてへぺろといった感じで舌を出して可愛らしくウインクしてくる。
「その反応…
楓さんはもう食べたんでしょ…
自白しなさい…」
わたしはちょっと膨れながら楓さんを詰問する。
「ごめんなさい…
まさかあんな事になってるとは知らず…」
楓さんが大層申し訳なさそうにわたしに頭を下げてくる。
「謝ってくれればそれでよし!
わたし病室で休んでるから早く持ってきてよねっ!」
わたしはビシッといった感じで片手を腰に当てながら楓さんの目の前に人差し指を突き出した。
「はい…
今すぐ買ってきます。」
楓さんはそう言って今上がってきたエレベーターで下の階に降りていった。
だいぶ落ち込んでたけど大丈夫かな…
「それにしても雪ねぇが来たらきちんと説明してもらわないと…」
わたしは一人で病室までたどり着きベッドに腰掛ける。
「ああ、ベタベタして気持ち悪い…
昨日替えの下着がなくって着替えれなかったのが響いてる…」
そうだっ!
雪ねぇ達に来る時持ってきてもらおう…
『来る時わたしの下着持ってきて。
下着が足りない…』
雪ねぇのケータイにメールを送る。
ピロリンッ!
「返信はやっ…」
『そんなの無理よ!
もうバス乗っちゃったわよ!
そういうのは早く行ってよ!
o(`ω´ )o』
顔文字の使われたメールが一瞬で帰ってきた。
「後で楓さんと買いに行くしかないか…」
わたしはそう諦めて雪ねぇに諦めるとメールで返した。
「早く楓さんこないかなぁ…」
ベッドに腰掛けて足をぶらぶらさせながら楓さんを待つ。
ガラガラ…
「はあ…はあ…茜ちゃんこれでいい?」
楓さんは息を切らせながら売店の袋をわたしに差しだした。
袋に入っていたのはちっちゃいサラダとお蕎麦だった。
「こんなに食べられないよぉ…」
袋の中身を見てわたしは弱音を吐いた。
この身体になってしまってからすぐお腹いっぱいになってしまう…
この身体になって女の子のお弁当とかが小さいのも納得いった。
「大丈夫よ。
残したら私が食べてあげるから。」
楓さんが上唇を舐めながらそう言った。
「楓さんお昼足りなかったんでしょ。
あんまり食べると太っちゃうよ?」
わたしは楓さんの本音を見抜いて忠告する。
「じゃあ茜ちゃん頑張って食べなさい。
茜ちゃんの場合食べないと色々大きくなれないぞっ!」
思わぬカウンターパンチをくらってしまった。
「ぐぬぬ…
じゃあ食べるもん…」
わたしは意地を張って全部食べる宣言をしてサラダから食べ始めた。
「くふぅ…
もう食べられない…」
結局わたしはお蕎麦を半分くらい残してしまった。
「胃が小さくなっちゃってるみたいね…
まあ、この感じでお腹いっぱい食べていけば大丈夫よ。
後のは頂いちゃうわね…」
そう言って楓さんはつるっとお蕎麦をたべてしまった…
「あ、そうだ。
結局お買い物しなかったね。
下着の替えだけでも買いに行きたいんだけど…」
あんなにいっぱいあったお蕎麦(コンビニの蕎麦半分です。)をたべてもケロっとしてる楓さんにわたしは訴えかける。
「じゃあついでに買ってこようと思ってたもののメモとお金渡すから一人で行って来なよ…
これも訓練訓練!
一応わたしは後ろからついて行くけど援護は何もしないからね。」
そう言って楓さんはテレビ台の前にあった紙にペンでメモを書き始めた。
「え、まじでやるの?
それ冗談じゃなかったんだ…」
焦るわたしの姿を見てニヤニヤしながらメモを書いた紙とお金の入った封筒をわたしに渡してきた。
「大丈夫よ!
どうせそのうち経験することなんだから今のうちに体験して起きなさいよ。
それにさっきなんて友達でさえ気づかなかったじゃない!
あなたは心配することなんて何もないわ!
あと、領収書もらってきてね!
多分わたしの名前出せば勝手にやってくれると思うけどわかんなかったら電話して?」
そう言って楓さんはわたしにメモとお金の入った封筒を押し付けて先に病室から出て行ってしまった。
「まったく…
あの人は台風みたいだよ…
領収書忘れないようにしないと。」
ここでうじうじしていても何も始まらないので独り言をブツブツ言いながらもトボトボと本館に向かったのであった。
「うわぁぁ…
さっきにましてすごい人だなぁ…」
わたしは2階の売店までの通路からエントランスホールを見下ろして独り言をボソッとこぼした。
この病院は郊外の山奥にあるらしく患者さんもほとんどが入院患者さんらしく、来院するのはお見舞いの人が多いらしい。
そんな影響か、この病院は土日でも面会が解放されており土日にもなるとお見舞いの人でエントランスは溢れるのだそうだ。
「こんなとこでボケっとしてる余裕なんてなかったんだった…」
わたしはそんなことを独り言ちて売店に足を向けた。
売店にやっとのこさたどり着いて意を決して楓さんのメモを見る。
『・生理用品
(ちゃんと昨日教えた通りナプキンとタンポンどっちも買ってくること。
ナプキンは夜用もあるとなお良し。)
・レディースのファッション誌
(立ち読みしてもいいから茜ちゃんの好みの雑誌を何冊か買ってくること。)
・コットンと化粧水と乳液
(女の子たる者お肌のお手入れを欠かしてはいけません。)
わかんなかったら店員さんに聞いたら早いと思うわ!
じゃあ頑張ってね!』
楓さんのメモにはあんな短時間で書いたとは思えないほどびっちりと書いてあってちょっと引いた。
生理用品はなんとか探せそうだけど夜用を探してくるのが大変そうだ…
メンタル削られるものばっかりだけどファッション誌なんて見ても違いなんてわかんないだろうからわたしくらいの年齢の子が表紙のやつを何冊か買えば間違いないだろう。
「ふむふむ…
こっちが化粧水でこれが乳液ね…
コットンは…あった!
次は雑誌かな…」
化粧水と乳液はわたしが普段立ち入らない化粧品とかの棚で難なく見つけることができた。
最初はどっちも同じに見えたけど下の方に化粧水とか乳液とか書いてあったのを見つけて難なくどちらも手に入れることができた。
「ファッション誌ってこんなにあるんだ…
どれがいいのかなぁ…」
雑誌コーナーにたどり着いたはいいけど種類がありすぎてえらべない。
「これでいっかぁ…」
結局パラパラめくってみてわたしくらいの年齢の女の子がたくさん出ているのを何冊か手に取った。
「あとは…
生理用品だけだ…」
さっき化粧品の棚に行った時にその裏に生理用品があるのは確認済みだ…
「タンポンはどれでも良さそうだしすぐわかったけどナプキンは種類が多くてどれ選んだらいいんだらいいかわかんない…」
わたしは生理用品売り場でナプキンの種類の多さに絶望した。
「だ、大丈夫?
お使いか何かかな…
お姉さん探してあげようか?」
そう言って優しそうなお姉さんが声をかけてくれた。
「お、おつかいっていうか…
わ、わたしが使うんです…
どれ選んだらいいかわかんなくって…」
お姉さんが優しさで声をかけてくれたのに無視するわけにもいかないのでどもりながらもわたしの状況を説明した。
「ああ、そういうことね…
初めての子にはこれがいいと思うわよ。
このシリーズは夜用もあるから余裕があれば買っておくといいかも!」
わたしのセリフで何か悟ったお姉さんは段の真ん中あたりの一番取りやすそうなところに置いてあるやつを一つとって渡してくれた。
ちなみに夜用も隣にあったのを指差してくれたからすぐわかった。
「あ、ありがとうございます!
お姉さんのおかげで助かりました!」
わたしが夜用も手に取って買いものカゴに入れたのを見て立ち去ろうとするお姉さんに深々と頭を下げた。
「いいのよ!
こんな可愛い女の子が困ってたら助けてあげるのは当たり前よ!」
そう言ってお姉さんは行ってしまった。
かっこいい…
わたしもどうせならあんなお姉さんになりたいな。
「下着買うって言ってもサイズわかんないよぉ!」
無事メモの品物も手に入れてホッとしていたわたしは下着売り場にあった複数のサイズの下着を見て頭を抱えてしまった。
「どれにしたらいいのぉ!
こんな時は店員さんに聞くしかないのか…
恥ずかしいけど聞くしかない。
意を決するんだわたし!」
「あの〜、何かお困りですか?」
そんな独り言を大きな声でしゃべっていたら見かねた女性の店員さんがわたしに声をかけてくれた。
「えっ!ああっ…
下着買いたいんですけどサイズがわかんなくって…」
わたしはだいぶもじもじしながら店員さんに困っていたことを打ち明けた。
「ああっ…
そーゆう事でしたら
このフリーサイズのスポブラがいいと思いますよ…
下はどう見てもSサイズですからこれですね。」
そう言って店員さんは紺色の布地のブラと同じ色のパンツを渡してきた。
「あ、ありがとうございます!」
「お会計いたしますか?」
わたしがお礼を言うと店員さんはそう答えてきたのでわたしは小さく頷いた。
「 下着と生理用品はこっちの袋に入れておきますね」
そういってお姉さんは紙袋に入れてくれた。
きっと男のころではこの気遣いの意味すら分からなかっただろう。
「あ、領収書ください…
あて名は高砂楓で…」
危なかった…
領収書忘れたら楓さんに怒られるとこだった…
「高砂…
そういうことですね…
何かと大変だと思いますが頑張ってください」
お姉さんは楓さんの名前で何かに気づいて小声でそういいながら袋を渡してくれた。
「あ、ありがとうございます…」
ごにょごにょといいつつではあるが何とか店員さんにお礼を言って出口へ向かう。
こうして無事買いものを終えたわたしが大きな袋を持って病院まで向かっていると遠くからわたしを呼ぶ声が聞こえた気がした。
「あ〜ちゃーん!
おーい!聞こえてないの?」
気のせいだと思ってそのまま歩いているとだんだんと声がはっきりとしてきた。
「ん?
ひーちゃん?」
明らかにひーちゃんの声だったので振り返ってみるといきなり視界が真っ暗になった。
今回作中で登場したバンドは伏字にされてるものが実際に存在するバンドで伏字にされてないものが劇中バンドとなります。
バンド名とかは著作権に触れるのかわからなかったので伏字にさせていただきました。
伏字にしてもわかる程度のバンドしか登場しない予定ですが調べてもわかんない場合などありましたらツイッターか何かでDMでもくださればお答えさせていただきます。
この子の性格ならこのバンド好きそうだなとかあれば教えてください。




