1話 最高のライブ…
拙い文章でお邪魔します
とっても自分の趣味の小説です…
ちょっとでも興味があったら読んでいただけると嬉しいです
また、本小説内の楽曲の音源化も考えております。
あの日のライブは唐突に終わりを告げた。
あの日のライブはおれの誕生日記念として久々の主催ライブだった。
なのに!おれの意識は最後の曲で客席にダイブ したところでプツリと途切れた。
☆★☆★☆★☆★
「おい!宮代ぉこのスピーカー持ってけって言ったろ!」
「すみません!いま持っていきます! 上手ですよね。」
「バカヤロー下手だって言ったろ!」
おれは音楽業界の某会社でアルバイトをしながらバンド活動をしている高校2年生である。
「橙哉も大変だな、スタッフさんに毎回目を付けられてこき使われるなんて」
帰り掛けにそう話し掛けてきたのはうちのバンドのベーシストで親友の汐崎日向である。
「お前ばっかりサボりやがって、ズルいんだよ!」
そう言っておれは日向の横っ腹を殴る。
「ひっで、俺は目を付けられないようにしてるだけだよ。 お前が目を付けられるのは仕事できるのにそんな髪色だからだろ?」
確かにおれの髪色は前髪の一部が赤いいわゆる赤メッシュと呼ばれる髪型だがそんなに目立つのか?
「おれの髪ってそんな目立つ?目立つといえば金髪の日向の方が目立つと思うんだけど」と俺が思ったことを口に出す。
「俺の髪は地毛だからな、思いっきり染めました!って感じの橙哉とは違うから。あとブロンドといってくれ」と返ってきた。
正直どうでもいいので話を変えることにする。
あとズルイから日向は死んどけ。
「そんなことはどうでもいいから来週の主催のセトリどうするよ?」
「酷くない⁉︎……まあ今回は主催だしオリジナル主体で行きたいね。 まああとせっかく出てくれるんだしレーゾンさんのコピーやってもいいかも」スルーしたのが堪えたのか多少へこんでいるがいつも通りの口調で返してきた。
因みにレーゾンとはおれの姉の雪菜が組んでいてメジャーレーベルから声がかかるくらい人気のバンドであるレーゾンデートルのことである。因みにウチは3人兄弟でもう一人、おれの双子の妹である緋雪がいる。緋雪はアイドルをやっていて東京で一人暮らしをしている。
「え、マジか。 誰がコピーの話つけんだよ!」
「お前が雪菜さんに言えばいいじゃん♪」
そんな簡単なものみたいに言わないでほしい。交換条件を押し付けられるのはおれなんだ。
「大丈夫だって!雪菜さんお前に超甘いじゃん。」
こんなことを日向は言っているが実際雪ねえはブラコンなだけでおれのことはこれっぽっちも考えていないだろう。
「あいつはブラコンなだけだからww」
そう返すと、「確かにww」と返ってきた。
「まあ、いいや。 一応雪ねえに聞いてみるわ。 また明日学校でな!」
「おう!明日こそ寝坊すんなよww」
家が近づいたのでそういって俺たちは別れた。最後の一言は余計だ。言われなくても起きれるから。
☆★☆★☆★☆
「おっかえりー橙くん♪ご飯にする? お風呂にする? それとも…お姉ちゃん?」
「ただいま。 夕飯は食ったから風呂入るわ」
正直雪ねえは普通に接するとめんどいので華麗にスルーを決める
「橙くんスルーはないよね。 これはお仕置きが必要かな♪抱きつきの刑だ♪」
雪ねえはそう言いながら俺に抱きついてくる。胸が当たってるから正直ご褒美です。
こんなムッツリな考えでいるといいことがない気がするので、話題をかえてみることにする。
「雪ねえ、今度のライブのことなんだけどレーゾンのコピーやってもいい?」とさっき日向に言われたことを聞いてみる。
「いいけど、私から条件を出さしてね♪」
やっぱりそうきたか、正直予想は出来ていたがこうなると何を要求されるか不安だ。
「条件とはな「橙くんのお嫁さんにして♪」かぶせるのやめて、あと絶対ムリだから 法律的にもおれの心情的にも」
要求を聞こうとしたら台詞を言い終わらないうちに返事が来たので笑顔で拒絶してやった。
「橙くん、私は新しい扉を開いてしまいそうだよ!」
とラリった顔で言ってきたので雪ねえは勝手に扉を開いてしまえばいいのに。
そう伝えると真面目な顔して「橙くんは私をドMの雌ブタにしたいそうね。橙くんのどえすっ!」
なんて返してきたので雪ねぇはもうダメかもしれない。
「まあ、条件なんて簡単なものよアンコールで共演させてくれればいいわよ。 私はもうそれだけで充分だから…」
といきなり真面目モードで言ってきた。
最後の方はボソッとつぶやくように言ったみたいだけど聞こえなかった。
「最後なんか言った?」 「なんでもないよ!」
おれが言った言葉にそう返された。珍しく雪ねぇの落ち込んだ場面を見た気がして心配になった。どうしたのかな?
そんなことを考えていると、「橙くんの隣に居たいからって言っただけだから」と照れたように返してきた。
でもおれは雪ねぇがなにかを隠しているような気がした…
「とりあえずレーゾンの曲コピーするのに何やってほしいとかあったら要望聞くけど…」
こっちとしては曲をやらせてもらう側なので一応聞いてみることにした。
本当は話を明るい方に向けたかったという気持ちもあった。
「橙くん的にはコピーの方向性を早く決めたいんだろうけど特にこれをやってほしいって曲はないのよね~
だけどアップテンポな曲は橙くん達のほうが得意だろうからしっとりしたのやったらいいんじゃない?」
雪ねぇはお見通しなのよ的な言い方でそう言ってきたけど別にそういうわけじゃないんだよ…
でも的確な意見を出してくれた。これでコピーの方向性も見えてきたので正直なところとても助かった。
「そっか じゃあその方向性でちょっと考えてみるわ! ありがとう 雪ねぇ」
そういって話を終わらせて部屋に戻ろうとすると
「ねぇライブの話も終わったんだしおねぇちゃんのこともっと癒すなり苛めるなりしてよぅ」
そういっておれに抱き着いてきた。しかも抱き着いてくる力はとても強い
「なんなんだこいつは…」 そんなことを考えていると
「おねぇちゃんは橙くんへの愛が止まらないからこのままでいるね!」
と気持ち悪いことを言ってくる
「だれか助けてくれぇぇぇ」
深夜の宮代家にはおれの情けない悲鳴が響き渡っていた。
☆★☆★☆★
「おはよう橙哉、どうなった?レーゾンのコピーの話」
朝から日向が昨日の顛末を聞きにきた。
「んばっば〜 こぴーはおっけーでたから〜
こぴーの方向性もしっとり系にするね~」
おれは朝が弱いので挨拶の返事も適当になりがちだ。
というより朝が弱すぎていつもこの時間は頭が回っていないんだ。
「んばっば⁈ なにその意味わかんない挨拶は!」
と日向が当然の突っ込みを入れてきたがかったるいからスルーを決める。
「ボケといて突っ込み無視とかないだろ。」
とか言って日向は落ち込んでいた。
おれは芸人じゃないんだからそんなこと求められても答えれるわけがない。全く日向は困った奴だ。
「おっはよー!…日向どうしたの?」 「また日向は突っ込み無視されて落ち込んでいるのか?」
そんなやりとりの最中に声をかけてきたのが騒々しいチビ和希で、和希に続いたのが優男系イケメン大和である。
この二人は身長差がすごいのではたから見ると兄弟のように見える。
ちなみにこの二人と日向とおれでスカーレットメモワールというヴィジュアル系バンドを組んでいる。
ただ、ヴィジュアル系といってもバンドのイメージカラーを緋色に設定して衣装などもそんな感じにしたら自然とヴィジュアル系と呼ばれるようになった。
ちなみに和希がドラマーで大和がギタリストである。俺のパートはお察しの通りフロントマンである。ギターもボーカルもこなしている。
「おはよう。今度のライブレーゾンさんのコピーやることにしたから!」復活した日向がそう言う
「マシで!やったー」
「嬉しいね!」日向のその発言に二人とも喜んでいた。
だだ、喜ぶのはいいがこれから詰めなければならないことがたくさんあるのだ。そのことを口にすると。
「「「喜ぶくらいいいだろ!」」」と言い返された…喜ぶのはライブが成功してからだろ。
「はいはい、目一杯喜んだところでらいぶの話するぞ〜。眠いけど。」おれが眠そうに言う。
「そんな方に言われても響かないから。」
そう日向は返してきたけどおれは朝弱いんだから仕方ないじゃん。
そしたら大和が「昨日も働いてたんだろ?今日も深夜スタなんだし寝ぼけさしといてやれよ」と言ってくれた。
さすがスカーレット一の優男だね。
そんな話をしながら学校に向かうのであった。
☆★☆★☆★☆★
「橙哉!そこのリフにアレンジ加えたりすんなよ!もう一回やるぞ!」
そう叫んでいるのはなんと大和である。
「完璧にコピーするだけじゃダメだろ!俺らなりのオリジナリティーが必要だろ⁉︎」大和はコピーに妥協しない性格なのでアレンジを加えたがりな俺とはいつもぶつかるのだ。
ちなみに今はさっき言った深夜スタの最中である。俺と大和がぶつかるのはスタジオの時のお約束なので、ある程度二人が落ち着くと日向が折衷案を出してくれる。
「はいはい、二人とも喧嘩はお終い。なんでお前らは毎回こうなるんだよ。二人とも妥協という文字を知らないのか?」いつも思うがこいつの喋りはなんだかむかっとくるものがある。
「しってるわ!でもいつも大和が妥協してこないんだから仕方ないだろ!」深夜のテンションで気が立ってたおれがそう言うと。
「なんだと「はーい!今回については橙哉に直すべき点があると思いまーす。だって橙哉さぁリフのアレンジに気を取られすぎてリズムがのぺっとしてるんだもん。大和もそう言いたかったんじゃない?大和舌足らずだからさぁ」
大和の言葉を遮って和希が言ってきた。こいつ案外よく聞いてるんだなと思ったのでそう言葉にする。
「それは…ドラマーだからねっ!当たり前のことだよ!」そう返された。 そう言われるとそうだなぁ 俺はこんな当たり前のことすら見落としていたのか。冷静にならなきゃね。
「そうだな。この件はおれが悪かった。しっかりコピーしてからアレンジに励むわ!」おれは自分の過ちを認め謝った。
「まあ橙哉もこう言ってるわけだし大和も落ち着けよ。」いい感じに日向がまとめようとする。全くいいとこ取りなやつだ!
「うん、じゃあとりあえずしっかりコピーでやってみよう。」そう大和が言って練習が再開した。
そんなこんなで深夜スタは進んでいった。
☆★☆★☆★☆★☆★
「ふぁぁこんな朝早くからスタジオなんてなかなかないよな」今日は大事な主催ライブの前日である。
ちなみにただいまの時刻は午前6時45分で、今日俺が起きたのは午前5時半である。だから当然の事ながら眠い。業界バイトより朝が早いなんてどうしてんだって話だよ!
「朝早くから熱心だねぇ。明日のライブ頑張れよ!」そう話しかけてきたのがおれらがお世話になってるスタジオのおっちゃんである。
「ごめんねーこんな朝早くから開けてもらっちゃって!」朝から和希はテンション高めだ。いつだったか「そんなテンション高くて疲れない?」って聞いたら「朝はテンション低いからね‼︎ だからそんなに疲れないよ!」っていってたのでこのテンションは本調子ではないのだろう。末恐ろしいよ全く。
「いや、いいんだよ。お前らのライブを希穂が楽しみにしてるみたいだからな!」
希穂とはおっちゃんの娘さんで嬉しい事にクリムゾンのファンらしい。あと、最近聞いた話によると希穂ちゃんは大和と同じクラスらしい。
おのれ大和よ知ってて隠しておったな。
ちなみにおれと日向が同じクラスで他はみんな別々のクラスである。
「じゃあ希穂ちゃんのためにも頑張りますかね」と大和がイケメンみたいなことを言い始めた。 本物のイケメンはやっぱ違いますわ〜。
「あれあれ〜大和くんは希穂ちゃんに気でもあるのかなぁ?」と心底ウザい言い方で日向が大和をいじっている。
「うち希穂に手え出したらタダじゃおかないからな ぁ」と日向のいじりに乗っかってきた。
「まあこんなお遊びができる余裕があるなら明日も心配することはないだろ。 はやくスタジオ入って最後の仕上げしておいで!」
どうやらおじちゃんは俺たちを和ませるために日向の大和いじりに乗っかってくれたみたいだ。おっちゃんありがとー!
そんなやりとりをしてからスタジオに入り、MCなどの打ち合わせも終わったので最後に通し練をやって今日の練習をお開きにしようとしてた時
「そういえばさ〜 昨日聞いたんだけどレーゾンさんなんかむちゃくちゃ揉めてるらしいよ〜」と和希がいきなり爆弾を投下してきた。
「えっ まじかよ。 それやばくない?だってメジャーから声掛かってたんじゃなかったの?」
「えっ 明日のライブも心配だね」と日向と大和もびっくりしている。
おれなんて初めて聞いたのでむちゃくちゃびっくりして呆然としてしまったが、最近雪ねぇの元気がないのを思い出した。
「いまそれを言ってもどうにもならないからその話は後で雪ねぇに聞いておくわ!」
大事なライブ前に動揺してもしょうがないので話を急いで終わらせることにした。
「それよりも最後の通し練やってから帰りたいから急ぐぞ〜」と俺が発破をかける。これで動揺してあしたに響いたんじゃ元も子もない。 でも…雪ねぇ大丈夫かなぁ もしその話が本当なら悩んでるんじゃないだろうか。
「そうだね〜 最後きっちりやって締めようか!」話を振った和希は案外平気そうである。まだレーゾンの解散が決まったわけでもないのに日向と大和の2人は死んだ魚の様な目をしてる。この分じゃ通し連も集中できないんじゃないだろうか。
案の定2人は集中できなかったようで通し連はグダグダに終わった。そういうおれも動揺しているのかミスを連発してしまった。
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前日のスタジオもグダグダに終わってしまい本番が心配ななか俺たちはライブハウスに集合していた。
ちなみに結局雪ねぇが帰ってこなかったため昨日の噂についてはわからずじまいでモヤモヤしたままである。
「とうやー 結局昨日の噂について雪菜さんに聞けた?」
そう聞いてくるのは昨日話題を振ってきた和希である。
「無理だったわ〜 昨日結局雪ねぇ帰ってこなかったもん」
心配させたくないけどはぐらかすのもどうかと思ったので正直に答えた。
「そっかぁ まあ今日会うわけだし聞いてみればいいか」
そういってきたので和希はそんなに気にしていないみたいだけど大和と日向はポンコツみたいになっている。
おれが聞いてくる内容に期待していたみたいなのでショックも大きかったのだろう。
「こんなんで大丈夫かよぉ もうあと4時間で開演だぞ?」
後ろから肩を組んで声を掛けてきたのはレーゾンのベーシストでおれらの良き先輩でもあるテツさんだ。
「「「「おはようございます!」」」」
俺たちはハモって挨拶をした。
その流れで和希と日向はは親しげに話しこんでいる。
おれと大和はちょっとハウスのPAさんと話があったのでPAさんを探しているとズキッと激しく頭が痛んだ。
「……いたっ」
「なんか言った? ってか体調悪そうだけど大丈夫?」
「いや、大丈夫!なんでもないから!」
本当は頭とお腹の下の方がとても痛い。でもライブ前に心配させたくなかったからとりあえずみんなには黙っていよう。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
そういって俺はトイレへ向かった。
トイレへ向かう途中入り口から誰かが入ってきた
「開場まだですよー もうちょっと待っててくださいねー」
そう声を掛けてからよく見てみるとなんだかげっそりした雪ねぇだった。
「なんだ雪ねぇじゃん リハこないとかどうしたのさ」
「ああ橙くんか、ごめんね遅れちゃって。ちょっと色々あってね…」
そういう雪ねぇの目が少し腫れてる様な気がした。
「まあいいけどさ… ってか雪ねぇ大丈夫?なんか目腫れてない?」
「大丈夫… 本番まで少しそっとしといて……」
とても無理してる様な雪ねぇだったが本人がそういうならそっとしておこう。
「わかった 本番楽しみにしてるから」
そう言ってバックヤードに消えてく雪ねぇを見送る。
「あれって雪菜さん?なんか具合悪そうだけど大丈夫かな…」
「橙哉も体調悪そうだけど大丈夫ぅ?」
テツさんと話し込んでいた日向と和希が俺としゃべってた雪ねぇを見てたのか声をかけてきた。
「雪ねぇはそっとしといて欲しいってさ 俺は大丈夫だから」心配させたくなかったので無理にでも笑顔を作って答えた。
「橙哉体調大丈夫か?PAさんに話し通しておいたから」
そこにさっきまでPAさんを一緒に探してた大和が戻ってきた。用事は済ませておいてくれたらしいさすが出来るオトコは違うねぇ。
でもこのタイミングで体調の話題出してくるのは間が悪いとしか言いようがない。
「大丈夫だって… それより話し通してくれてありがとね。 本当はおれが行かなきゃなのに。」
「PAさんには緊張でトイレに籠ってるって言ってあるから心配しなくても大丈夫」
まあ見た目の状況的に間違っちゃいないのかもしれないけどその言い方は語弊がある、まるでお腹下しちゃってるみたいじゃないか!
「ってかやっぱ体調悪いんじゃん そういうのちゃんと言ってよ4人でスカーレットでしょ?」
「本当だよ。橙哉のやってること雪菜さんと一緒だよ? なんだかんだ言って雪菜さんと橙哉って似てるよな。姉弟だからってそんなとこ似なくても…」
そう言って和希と大和が声をかけてきた。
二人ともどことなくおこってる?
体調悪いの隠してたのカチンときたのかな…
「なんで二人が怒ってるのかわかんないって顔してるな。二人とも怒ってるわけじゃないから… 体調悪いの心配してるだけだし… 体調悪いなら相談して欲しかったって思ってるだけだと思う。」
「言いたいこと全部大和にいわれちゃったな。なぁ和希!」
混乱してたおれに状況を説明してくれた大和の言葉の後日向が場を和ませようとしてくれる。
「まあ、そうだね。」
和希もムスッとしてはいるが自分もそう言いたかったんだよって顔してる。
「ごめん!心配させまいと黙ってた。でも体調悪くてもライブは全力でやるし体調くらいどうってことないよ!とりあえず本番近くになるまで楽屋で休んでるわ」
そう言って体調を少しでも良くしようと堂々と休んでくる宣言をした。少しでも体調を良くしてサイコーのライブにしたいから。
「それがいいと思う」
「あんまり無理しちゃダメだからねー」
「とりあえずレーゾン始まる辺りになったら呼びに行くから」
みんなはそう言って各々がやっていた作業に戻っていく。
とりあえずおれは控室に戻ってゆっくり座ることにした。
「何とかして本番までには体調直さないとな」
そうしてボーッとしてるとなんだかだんだんと意識が遠くなっていく気がする。
★☆★☆★☆★☆★
ああ、ここの天井はこんなに高かっただろうか
ああ、おれの視界ははこんなに白かっただろうか
不思議と頭やお腹の痛みはなかった
というより体の感覚というものがなかった
ここはどこなのだろう
そう考えてはみるが頭が働かない
おれはここで死んでしまうのだろうか
果たしておれは音楽でなにか残せただろうか
このままじゃ終われない…
死にたくない……
そんなことを考えてると遠くに誰か人影が見えた。
その人影はだんだんと近づいてきた、そして人影が
近づくにつれてゆっくりと体の感覚が戻ってくる。
だが戻ってきた感覚は自分の物ではないような感覚であった。
さらに人影は近づいてくる。
人影がはっきりと見えてきたところで人影は動かなくなった。
「女の…子?」
はっきりと見えた人影は美しい茜色の髪をした女の子であった。
『さ……なら、…よう……』
女の子が何か言っているが距離があるため上手く聞き取れない。
すると、女の子はどんどんと近づいてくる。
そしておれの目の前で立ち止まる。
おれは第一に女の子とおれの身長が同じであったことに違和感を覚えた。
女の子がおれの頭に手を乗せると、途端におれの体を光が包んだ。
『これで私と一緒だね。キミにもう会えないのはさみしいよ…… さようなら、さようなら。』
少女が発した言葉ははっきりと聞こえたのだがまるで意味がわからない。
だが、おれの体を光が包んだ後からは明らかに身体の感覚がおれの物でははなかった。
驚きの中少女の顔を見るとなみだを流しているようだった。
「なんで君は泣いているの?何か悲しいのかい?」
少女を怯えさせないよう優しく問いかける。
自分の口から発せられた声は驚くほど美しく優しい物であった。
『これはキミとの別れが悲しいからだよ。
もうキミと会えないと思うと胸が張り裂けそうだよ。
それにキミだって泣いているじゃないか、キミこそ悲しいことでもあったのかい?』
少女の語りかける言葉は真実を語っていた。
おれの頬を熱い何かが流れている。
冷静になってみると自分でも泣いていることがわかった。
『キミは私と同じだから… むしろキミは私なんだよ… キミは私と一つになるんだよ… だからキミとはさようなら。』
またもや意味のわからない話をされてしまった。
それでもおれが涙を流しているのは変えようのない事実である。
おれはなんで泣いているのだろう。
この女の子は誰なのだろう。
何故この娘は泣いているのだろう。
一体ここはどこなのだろう。
そんなことを考えているとまたもや体の感覚がなくなってきた。
『もうすぐキミともお別れだね。最後に会えてよかったよ。アタシの分まで楽しんでね。楽しかったよ。アタシがキミでよかっ…よ。あ…がと…。………』
だんだんと少女が薄れてゆく。もう身体の感覚はなくなっている。ああ、また何もない空間に戻るのか…。
『……うやー と…やー とうやー 橙哉!』
なんだか声が聞こえる。だんだんはっきりと聞こえてきた。日向がおれを呼んでいる。帰らなきゃ!
★☆★☆★☆★☆★
「はっ! ひなたぁぁ!よかったぁ、おれはまだ生きてる!」
気づいた時には日向が目の前にいた。
周りもいつものライブハウスだ。
帰ってこれたんだな…
「どうしちゃったんだよ。あとお前他のバンドの本番中寝るとかどうかしてるよ。そんなに体調悪かったのかよ。心配になってレーゾンの前に呼びに来て正解だったよ。」
日向が呆れたような顔をして心配そうな声で話しかけてくる。やっぱりこいつは感情をとりつくろえない奴だな。
「おれ寝てた?じゃああれは夢だったんだ。よかったぁ」
寝てたというならあれは夢だったのだろう。
全くあんな夢見るなんて…
疲れているのだろうか
「夢? なんか変な夢でも見てたのかよ。そんなどうでもいいことはいいから… いくぞ!」
どうでもいいこと?
ちょっとカチンときたからわき腹にひじ鉄でも入れてやろうか。
「どうでもいいことってなんだよ!」
そういって軽く日向にひじ鉄を食らわせた。
「痛っ! まあそんな元気があるなら大丈夫だろ。早くしないとレーゾンさん始まっちゃうぜ?」
そういって日向はおれの手を引いて歩き出した。
なんだかやりにくいわぁ。いつもの調子じゃないみたいだ。
「わかったから手を離してくれ! 一人で歩けるから!」
恥ずかしくなってきたので手を離してもらう。
「はいはい、そういえばさっきなんとかレコードさんから声かけられたんだよね。ライブ楽しみにしてるってさ。これってチャンスじゃね?」
歩きながら日向が爆弾をぶっこんできた。
ってかなんとかレコードさんって… それくらい覚えておけよ…
「じゃあ頑張らないとだな!体調も戻ってきてるからいけるだろ!」
やっぱり少し寝たおかげか体調は良くなってきている。
懸念事項であった体調も戻ってきてるのでもう何も怖い物はない!
気合いを入れてライブに臨まなければ!
「よかったぁ… 体調戻ったんなら大丈夫だな!でも気合い入れる前にしっかりレーゾンさんのライブ見届けないとね」
そういってフロアの方へ日向が駆け出していく。
おれも続いてフロアへ入っていった。
☆★☆★☆★☆★☆★
フロアに入るとちょうどSEが流れてメンバーが出てくるとこだった。
「みんな盛り上がってる〜? レーゾンデートル始めてもいいですかぁ?」
「「イェーイ!!!」」
そんな煽りからレーゾンのライブは始まった。
フロントに立つ雪ねぇはさっき見た時とは比べものにならないくらい元気な姿を見せていた。
やっぱりレーゾンってすごいなぁ。
雪ねぇってすごいんだなぁ。
そう思わずにはいられなかった。
「今日は私達の後輩バンドのスカーレットメモワール主催イベントに来てくれてありがとね!なんか今日はボーカルの橙哉の誕生祭らしいんでプレゼント用意してきたんですよ!」
雪ねぇがいきなりMCの流れで変なことを言い出した。
「っていうことで橙哉にっていうよりファンの皆さんにプレゼントです!レーゾンデートルでSKY!」
そういって俺たちスカーレットの代表曲を演奏し始めるレーゾンさん。
ってマジかよ… メジャーデビュー間近の人気バンドがおれらの曲やってるよ。
なんか感動するわ…
すげえ盛り上がってるし
「ありがとね〜この後もまだまだライブは続くからね〜 時代をオレンジに染めNight楽しんでいってね!」
そういってレーゾンさんは退場していった。
圧巻のライブだった。正直ちょっとプレッシャーだわ…
でもイベントの名前もっといいのあったよな…
時代をオレンジに染めNightって…
ネタかよ。
「すごかったな!レーゾンが俺らの曲やってたぜ!気合い入るな!」
日向がそう話しかけてきた。
「感動したよ… よしっ次のバンド終わったらおれらだし準備するか… いつまでも感動に浸ってられないからな。」
口ではそういっているものの心は浮き足立ってる。
早く準備して集中しないと。
「そうだね、俺らも成功させないとね!」
そういって日向とおれはバックステージに向かった。
☆★☆★☆★☆★
バックステージでは大和と和希が機材の準備を始めていた。
「2人とも遅い!もうすぐ出番だよぉ?早く準備しないと!」
和希がもう早く出たくて仕方がないみたいな雰囲気でそういってきた。
レーゾン最後まで見てたら遅れたのはわかるけどこのくらいなら何も問題ないはずだ。
「ごめん!でもレーゾン見てたら目を離せなくって…
でも俺ら本番前準備あんまないから大丈夫だよ!」
おれは素直に自分の非を認めて謝罪をし、そのあとに少しばかりの言い訳をした。
「気持ちは分からなくもないけどさ… 2人の準備少ないからっていってもオレの手伝いとかしてくれてもよかったじゃん」
言い訳は受け入れてくれたが少しふくれて文句をこぼしている。
「ごめんって…」
おれたちは素直に謝って、ふくれた和希を横目に機材の準備を始める。
「あと一曲だってさ。とりあえず気合いれときますか!」
袖で舞台の様子を見てた日向がそう言った。
スカーレットの中で気合を入れると言ったら円陣を組むことを意味している。
「気合入れる前にやることあるだろ…
転換の準備して終わった奴ら出迎えるぞ!」
大和がもっともなことを言ってくる。
実際今やってる奴らはレーゾンのあとにもかかわらずどっしりとやっていてなかなかなものだ。
「そうだな… とりあえずあいつら出迎えてからだな
おっ、終わったみたいだぜ?」
日向も納得したのか舞台の様子を見に行った。
「お疲れ様です!。俺らがんばって繋げたんで頑張って来てください!」
今やってたバンドのボーカルが声をかけてきた。
ちなみに敬語を使われてるけど彼の方が年上だから…
彼らがやり始めた時には俺らも人気が出てきてたからなんだか尊敬されてしまってる。
「お疲れ様! カッコよかったよ!あとは俺らがびしっと締めてくるから」
そう言って俺はセッティングに向かった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「おっしゃー みんないい流れでつないでくれたんだ! 俺たちもサイコーのライブするぞ!」
「「「うぉぉぉ!!」」」
セッティングを終えて袖で気合を入れているとSEがかかり始めた。
「行きますか!」
そう言っておれたちはステージに上がった。
ステージから見えた景色は最高だった…
客席がオレンジ一色だった。
転換が終わって俺らが捌けてから着替えたようだ。
「えっ?みんなどうしたの…オレンジなんか着ちゃって…」
俺は動揺してマイクでみんなに聞いてしまった。
「時代ををオレンジに染めるんだろー‼︎」
「橙哉くんの色だからー‼︎」
様々な声が聞こえるがみんな一致して俺のために着替えてくれたみたいだ。
感動して泣きそうになった。
泣くわけにはいかなかったので笑顔を作って
「ありがとよ! それじゃあ俺らのライブでもっとオレンジに染めないとなぁ! 盛り上がれぇ」
そう言って一曲目を始めた。
☆★☆★☆★☆★
「ありがとう!スカーレット至上最高の夜だったよ!
」
そう言って俺らは舞台から捌けた。
「サイコーだったな。 客席がオレンジ色とかすげーよな!」
日向がすごい盛り上がってる。
「これから俺らもオレンジになるわけだけどな」
珍しく大和が笑いながらそう言ってきた。
実は俺らもアンコールはみんなでオレンジのTシャツをきることにしていたのだ。
「いいんじゃない?ハコ全体オレンジとかなかなか無いだろうし」
和希もうっすら笑いながらそう言っている。
あいつは絶対想像してるな。
「ほんじゃ行きますかね。」
みんな着替えたのを確認して俺が声をかけてるとみんなステージに向かっていく。
「夢みたいな時間だな…」
俺はステージに向かうメンバーを見ながらそうつぶやいた
『モウソンナジカンモオワリダヨ』
ぐっ…
強い頭痛とともにそんな声が聞こえた…
でも…ステージに立たねーとな!
そう自分を奮い立たせてステージに向かう。
☆★☆★☆★☆★
「「「「うわぁー!!」」」」
ものすごい歓声が聞こえる…
不思議と痛みはなくなってる…
「うぉらー‼︎‼︎ お前らまだまだやれんのか!」
自然と体が動く!
「今日は特別な日だからさ…
ゲスト呼んでんだよ! 上がって来いよ雪菜!!」
台本通り煽りを入れる。
するとなんと客中から雪ねぇがでてきた。
もう観客席はムチャクチャだ…
「へへっ… やってくれんじゃん!
客中から来るとか雪菜サイコーだよ!」
おれは思ったことを思わず口にした。
「あんた達もやってくれんじゃん
アタシら食っちまったんじゃないのぉ?」
雪ねぇはそう言って握手を求めてきた!
「おれらも大きくなったってことよ
ほんじゃ行きますかね!」
そう言っておれは雪ねぇの握手に応じる
「それじゃあアンコールいこーか!!
スカーレットfeat.雪菜でレーゾンデートル!」
そう言っておれらはレーゾンで一番有名なバラードを演奏し始めた。
「「僕らが生きてる〜 意味だけ〜♪」」
アウトロも終わり
2人のコラボは大成功に終わった。
「あびがどうぅぅぅ
ざいごーのライブだっだよ〜」
雪ねぇはもうボロボロだ…
「ステージで泣くなって… ありがとう!雪菜っ!
みんな拍手で見送ってください!
レーゾンデートルから雪菜でした!!」
おれは泣きじゃくる雪菜を袖まで連れて行った。
「それじゃあアンコールラスト一曲
サイコーに暴れていこうぜ! もっと前に詰めろよ!
みんなで踊って走って飛びまくるぞー!」
「「「「うわぁぁぁぁ」」」」
観客のボルテージも最高潮だ!
「行くぞ〜 うわぁい!」
そう言っておれは客中に飛び込んだ!
いつも通り観客の手の感触を感じる…
いつも通りのダイブだった…
なぜだか得体の知れない暖かさが全身を包んでいた…
そこでおれがおれであることは終わってしまった…
☆★☆★☆★☆★
見慣れない天井が見える…
あれっ…体が動かない…
まるであのライブの日に見た夢の中のようだった
頭の中から声が聞こえる…
『やっと起きたの?
これから新しいアナタの素晴らしい日々が始まるのに… 寝てるなんてもったいないよ…
ワタシガカワッチャウヨ⁇…』
あの夢の女の子の声だった…
最後の声はとても人間の物ではなかったが…
新しいアナタ…?
なんのことだよ…
っていうか今の状況は?…
なんとか声が出せない物だろうか…
で、でない…
なんとなく手は動かせる気がした…
おれの直感通り右手だけ動いた
顔を触ろうとして手を近づけると
ムニュって感触があった…
そっか胸触ったのか ははは
………ん?
誰の胸だよ…
首は動かせないが周りに人がいる感じはしない…
おれの胸なのか?…
そんな…まさか……
思い切って胸を揉んでみた…
『んんっ…』
今とても変な感じがした…
触られてる感覚があった…
まさか女の子になってるの?…
おそるおそる股間に手を伸ばしてみた…
そこにはあるべき物がなかった…
ガラガラガラ
ドアが開くような音が聞こえた…
「キャァァァ
橙くん何やってんのよ…‼︎」
雪ねぇの声が聞こえる…
何かびっくりしてるようだ…
あっ…
俺股間を手で触れたまんまだ…
「いくら女の子の体に興味があるからって
場所とか考えなよ…‼︎‼︎」
雪ねぇが怒り出した…
声が出ないから言い返せない…
必死にジェスチャーして声が出なくて体が右手しか動かないことを伝えようとする。
「声が…でないの? 体も…動かないの?」
まだまだ混乱してるみたいだけど
そのジェスチャーでおれの状況がわかったらしく
「それならっ…」って言ってどこからかおれのケータイを取り出し右手に握らせてくれた。
『おれどうなってんの? なんか胸とかあるんだけど…
股間も…ないし』
とりあえず今の率直な疑問をぶつけた…
ピロリン♪
雪ねぇに届いたようだ…
「橙くんは女の子になっちゃったんだよ…」
ピロリン♪
雪ねぇからメールが送られてきた
そこにはおれのケータイをもったあの夢の女の子がベットに横たわっている写真だった…
「それが今の橙くんだよ…」
ええええ
おれ、女の子になっちゃったの?