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22、月美からのお説教

 護は月美に連絡して、土御門家から迎えの車を出してもらい、佳代と一緒に土御門神社に戻ってきた。

 そこまではいいのだが、現在、護は月美の前で正座している。

 理由は、佳代をだまし討ちするような形で使鬼に下した件についてのお説教のためだった。


「で?」

「とりあえず、あの場で完全に鬼になることを避けるのにはああするしか思い浮かばなかったので……」

「仕方なく、契約を結んだ、と?」

「はい」


 背後におどろおどろしい何かの気配を感じさせながら、月美の問いかけに護は答えていく。

 急を要することだったということは、佳代の様子を見ればわかる。

 だが、それでもやはり同級生を、それも女子を自分の配下につけたということが気に入らないらしい。


「そりゃ、あの場で生成りから鬼になって護が祓ったなんてことにならなかったのはよかったけど……それでも!女の子を使鬼にするなんて!!」

「面目次第もございません……」


 半歩引いたところで笑みを浮かべていることのほうが多い月美が、物凄い剣幕で怒っている。

 その姿に、普段は冷静な護も、さすがにおどおどとし始めた。

 もっとも、月美の方は佳代個人を使役にしたことではなく、女子を使役にしたことが気に入らなかったらしく。


「女の子だったら、わたしがいるじゃない……」


 と、口をとがらせてすねたような口調でつぶやいていたが、その声は護には聞こえていなかったらしく、何の反応も示さない。

 とはいえ、口ではなんと言おうと、護が行ったことは救命処置のようなものであることはわかっていたため、それ以上のお咎めはなかった。

 だが、月美には一つ、心配ごとがあるらしく。


「……それはそうと、大丈夫なの?」

「うん?」


 いったい、何が心配なのかわからず、護は首を傾げる。

 その様子に、月美は深刻な表情を浮かべたまま、問いかけてきた。


「吉田さん。ちゃんと、戻れる?」

「正直なところ、わからん」


 月美が心配していたことは、佳代が元通り人間に戻れるかどうかということだった。

 今は、人間の姿に見えるが、それは護が隠形術を施して爪と牙と角をうまく隠しているためだ。

 人間に見えている(・・・・・)というだけで、生成りのままであることに変わりはない。

 法師との霊的な繋がりを断ち切っているから、これ以上、人外になることは防げるだろうが、人間に戻すことができるかどうかは別の話だ。


「転生して人間になったとか、祀られて神になったなんて伝承は聞くけど、生きて人間に戻った話は」

「あぁ、俺も聞いたことがない」


 生成りは人間が鬼へと変じる過程にあるという妖だ。

 鬼にまつわる伝承の中には、転生して人間になったというものや村人に祀られ、神となったものがある。

 だが、やはり鬼から人に戻ったという伝承は、二人とも聞いたことがない。

 そのため、護も彼女を戻すことができるかどうか、まったくわからないというのが正直なところだ。

 だが、これ以上、佳代が人間でなくなることはない、という確証はあった。


「ひとまずこれ以上、人間から離れていくなんてことはないと思う」


 むろん、推察に過ぎないということはわかっている。

 だが通常、人間が比喩表現ではなく、本当の意味で鬼になるということは、あり得ないといっても過言ではない。

 それこそ、何者かから何かしらの術を施されるか、あるいは、何か曰くのある土地に足を踏み入れ、その土地の影響を受けない限りは。

 だが佳代の場合は、少しばかり事情が違う。


「法師と霊的な繋がりを持ったせいで、何かしらの術をかけられたんだと思う。それに、吉田はいじめられていたからな」

「もしかして、いじめていた人たちに対する憎しみで、生成りになるように術をしかけられていたってこと?」

「憶測にすぎないけどな」


 その術を解除することができれば、元に戻る可能性はある。

 だが、護はそんな術があることすら知らなかったし、まして、扱ったことなどあるはずもない。

 その上。


――あの爺のことだ、そう簡単に解呪できるような術を使ってるとは思えない


 何か一つでも取り扱いを間違えれば、取り返しのつかない結果を生み出すような、底意地の悪い罠をいくつも仕掛けているに違いない。

 それらをかいくぐり、無事に術を解除するにはかなりの時間を有することになるだろう。

 そのため、いまはこれが精一杯、ということになる。

 だが。


「目覚めが悪いから、ほっとくわけにもいかない。時間はかかっても、元に戻す」


 それが護の答えだ。

 それを聞いた月美は、それ以上、何も言えなくなってしまった。

 いや、そもそも護に対して怒りをぶつけていた理由は、自分以外の女子が護の近くにいるということ。


――そのことに嫉妬してたから、護にそれをぶつけていた。そういう意味じゃ、明美もそうなんだけど


 だが、彼女の場合、自分の近くにいるから必然的に護の近くにいることになる。

 加えて、明美が護に対してそのような感情を抱いていないということを知っているため、別に嫉妬する要因はない。

 だが、佳代の場合は、治療のための時間稼ぎとはいえ、護が使鬼にすることを、近くに置くことを選んだ。

 惚れた男、それも自分を選んでくれた男が別の女を近くに置くことほど、屈辱的なことはない。


――護が心変わりしたことはないし、そんな意図があるはずもないってこともわかってる。わかっているんだけど……


 それでも、心の中に芽生えたモヤモヤしたものを吐き出さずにはいられなかった。

 そのモヤモヤしたものが、護への説教という形になったのだ。

 護もそれをなんとなくではあるが、感じ取ったらしい。


「嫌な想いをさせてすまない。けど、他に方法が思い浮かばなかったんだ」

「わかってる。でも、ちゃんと吉田さんには話を付けさせてね?」

「そりゃもちろん」


 これ以上、話がややこしくなることを避けたかったのか、それとも、自分が踏み込んでいい領域ではないということを悟ったのか。

 とにかく、護は月美と自分が期間限定とはいえ、新たに使鬼に加えた佳代の面会を許すのだった。

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