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5、災禍振りまくもの

 調査局に呼びだされた翼と芦屋家の現当主である道宗(みちむね)は、調査局長室にいた。

 だが、その雰囲気は決して和やかなものではない。

 にらみ合いこそしていないが、二人の間には険悪な空気が流れている。

 無理もないといえば、無理もないのだろう。

 土御門家、もとい、安倍家と芦屋家には確執がある。

 自身が従えていた式神を奪われ、恥をかかされたとか、留守にしている間に妻を寝取り、殺害したといった、安倍晴明と芦屋道満にまつわる伝承だ。

 そのいずれも、二人の間に友情などという言葉はないことを語るかのようなものばかりであり、それを千年が経った今も引きずっているのだから。


「急に呼び出してすまない、ご両名」

「まったくだ。呼びつけておいて待たせるとは何事だ」

「要件は?」

「まったく……わかってはいたが、もう少し歩み寄ろうとかできないものかね?」


 口から出てきた言葉こそ違えど、二人の想いは共通して、さっさとこの場から立ち去りたい、というものであることを察した保通は、苦笑を浮かべてそう話した。

 だが、すぐにその苦笑は消えて、その眼差しに鋭い眼光が宿る。


「『奴』が現れた」


 保通のその一言に、翼と道宗の顔に驚愕の表情が同時に浮かびあがり。


「「それは本当かっ?!」」


 まるで示し合わせたのかと問いかけたくなるほど同時に、保通に同じ問いかけをした。


――お前ら本当は仲いいだろ……


問いかけられた保通はそのツッコミを心中にとどめ、平静を装い、話を続けた。


「確かだ。これが奴が現れたときに撮影された画像だ」


 保通はそう言いながら、奴と呼ぶ老人、蘆屋道満が撮影された画像を二人に見せる。

 画像に写るその老人が、歴代局長の頭痛の種となっている老人と同一人物であることは言うまでもない。

 その老人の画像を見た翼と道宗は眉をひそめ、それと同時に空気が凍り付いたのではないかと思うほど、重くなった。


「……どこだ?」

「うん?」

「この男はいまどこにいると聞いている!!」


 保通は道宗の鋭い剣幕にひるむことはなかった。あくまでも冷静に、この人物がいる可能性があるであろう場所として、調査局がマークしている場所を伝えた。

 それを聞いた道宗は早々と部屋を出ていく。

 慌ただしいその様子に、保通と翼は、やれやれ、とため息をついた。


「いくら自身の一族の汚辱とはいえ、慌て過ぎではないか?」

「そういうお前も、口調ほど冷静ではないようだが?」

「まぁな。あの男は晴明様の代からの因縁があるんだ。いい加減、ここで終いにもしたくなる」

「……それは事実なのだろうが、お前の冷静さを欠いている理由はそこではないだろ?」


 保通は翼のその言葉に隠れた本音を読み解き、いたずら小僧のような笑みを浮かべた。

 翼はそっとため息をついた。確かに、いまの自分は冷静さを欠いている。そして、その理由もわかっている。

 その理由となるものを、翼は無言で保通に指差した。


「……月華学園?この学校がどうかしたのか?」

「俺の倅をつけ回しといて、とぼけるつもりか?お前は」


 ぎろり、と翼は冷たい視線を保通にぶつけた。

 数日前まで、調査局はとある事件の手がかりを持っていると推測し、護を付け回していたことがある。

 おそらく、そのことを言っているのだろう。

 そして、付け回していたということは、護がこの月華学園に通っていることを知っており、護の交友関係もある程度、把握しているということだ。

 さすがに済まなかったと思っているらしく、保通は苦笑を浮かべた。

 だが、すぐにその笑みは鳴りを潜めた。


「それで?息子さんにはこのことは伝えるのかな?」

「伝えずとも気づくだろうさ……あいつは呪詛や穢れに聡い。何より、出雲の巫女姫がいる」

「ならばいいが……あいつの存在を伝えるつもりはないのか?」


 その問いかけに、翼は沈黙した。


「早い段階で知っていたほうが、のちのち、役立つと思うが?主に心づもりをしておく、という意味で、だが」

「わかってはいるが、奴が護に興味を抱くようなことはできる限り避けたい」


 彼、蘆屋道満は言ってみれば『歩く災害』。

 そこにある、そこにいるだけで何かしらの被害をもたらす、非常に厄介な存在だ。

 特に厄介なことに、その被害を道満自身が意図して引き起こしているということ。

 災害を振りまく理由が自身の快楽のためだというのだから始末に負えない。

 ただでさえ厄介なその彼と、先祖返りと思われるほどの強い霊力を得た護が遭遇したら。

 あるいは、彼は護のその力を利用して更なる災害を引き起こしかねない。それも、利用されるであろう護ですら、最後まで彼の目論見を見抜けず、利用されていたことに気づくことのないまま。

 むろん、対処できないこともないだろうが、想定できる最悪の事態を回避できるな、ら回避するにこしたことはない。


「だが、もし奴の方から接触してきたとしたら?」


 保通がそう問いかけると、翼は確かな意思を持った瞳を向け、はっきりと答えた。


「その時はその時。仮に奴の策に乗って身を亡ぼすことになろうとも、それはあいつの責任であって私が干渉することではない」


 ともすれば、冷たく見えるかもしれないが、護はもう間もなく十七歳となる。

 もうそろそろ、自分のしでかしたこと、あるいはしようとすることに責任を持つということを覚えてもいい頃合いだ。

 おそらく、翼は道満が護に何かを仕掛けてきた結果、災厄に巻き込まれ、どのような結果になろうとも関与するつもりはないのだろう。

 むしろ、翼は、道満の出現を息子の成長に都合のいい、ある種の刺激として見ているようだ。

 そう悟った保通は、スパルタにも見えれば放任主義のようにも見える翼の親としての姿に、呆れたとでも言いたそうなため息をつくしかなかった。

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