32、愛しいがゆえのわがまま
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光が鑑定結果を受け取り、場所を特定することができた頃。
護は滝行を終えて、自分の部屋に戻ると、そこには自分の式である五色狐たちが控えていた。
その光景に特に驚くことはなく、護は自分が彼らに命じた任務の結果を問いかける。
「揃い踏みだな」
「まぁな」
「成果は?」
「上々だ。あいつら、報酬を約束したらしっかり持ってきやがったぞ」
何を報酬として提示したのか気になったが、大したものではないだろうことを祈り、護は手を差し出す。
すると、代表して黄蓮がくわえていた何かを護に差し出した。
そこにあったものは、布のようなもので丁寧に包まれた何かだ。
その包みを開けると、そこには黒い体毛のようなものがある。
霊力を持ち見鬼の才を持つ人間が見れば、その体毛から何か漂っていることを視認できるため、普通の動物の体毛ではないことが理解できるはずだ。
いかにも取扱要注意な品物をどう使うのか、五色狐たちは心得ているらしく、何も問いかけることはなかった。
「ご苦労さん」
五色狐たちにねぎらいの言葉をかけ、護は受け取った体毛を呪符で包み直すと、少し長い紐をつなぎ、魔法陣が描かれた紙の中央に置いた。
護は魔法陣の前に座ると、目を閉じ、意識を魔法陣に注ぎこんだ。
その瞬間、魔法陣から淡い光があふれ、それに呼応するかのように体毛を包んだ呪符も光があふれ始めた。
「力の主の元への導を示せ」
普段よりも低く厳かな声で呟くと、呪符は静かに浮かびあがり、ひとりでに動き始める。
どうやら、護が口にした言葉の通り、残留している妖気の持ち主の元へ導こうとしているようだ。
「黒月、紅葉。抑えててくれ」
手を離すと猛スピードで部屋から出ていってしまいそうな呪符を抑えながら、護が式たちに命じると、黒い狐と赤い狐が呪符に結わえていた糸を前足で抑える。
五色狐たちに抑えてもらっている間に、護は手早く準備を終え、呪符を結わえ付けている紐を持ち、町の中を走り始めた。
宙に浮かぶ包みに引っ張られているという、かなり奇妙な光景であるにも関わらず、誰一人、護のその姿を気にする様子はない。
夕暮れ時で人の姿がまばらだから、ということもあるのだが。
「オン・マリシエイ・ソワカ、オン・マリシエイ・ソワカ、オン・マリシエイ・ソワカ……」
護が摩利支天の真言を呟いているという点も強い。
摩利支天は厄避けの加護を与えてくれる神仏であり、災いをもたらす存在からその姿をくらますことなど造作もないことだ。
もっとも、今回はその力を一般人に認識されないようにするために使っている。
しかし、残念ながら摩利支天の真言を用いた隠形術も完璧というわけではない。
その証拠に、護から数メートル後ろに、護を追いかけるようについてくる影が一つあった。
しばらくの間、護はその尾行に気づかなかったが、さすがに人ごみが離れていくに従って、何かがついてきていることにようやく気づく。
だが、ついてきている何者かに敵意がなく、現段階において最も頼りになる味方であることも、なんとなくだがわかっていた。
町を離れ、地元にある山の麓に到着すると、護は背後を振り向き、今もついてきている人物に声をかけてくる。
「もうこそこそすんのはやめたらどうだ?月美」
「別に、こそこそ、して、ない……」
息を切らせながら、月美が護の言葉に返した。
少しして落ち着いたのか、月美はほっとため息をついてから歩み寄ってくる。
「どこにいくのか聞く暇もなかったんだもん……というか、あんなに早く走るなんて思わないもん、ついてくのがやっとじゃない!」
「まぁ、これで一応、鍛えてるからな」
「だから痩せて……その修行、一緒にやっていい?」
「構わないぞ?」
「やった……じゃなくて!!」
つい、本題から逸れそうになった月美だったが、途中でそれに気づき、軌道修正した。
「いったい、どうしたのよ?いきなり家から飛びだして」
「あぁ……月美には話しておいたほうがよかったか」
しまったなと思いつつ、実のところ護は今回、月美に見つかってしまったことをあまりよく思っていない。
いくら仕事で頼ることがあったら頼ると約束したとはいえ、今回は二度も襲撃を受けたことから、荒事になるのは目に見えていた。
護にとって、月美は最優先で守るべき対象であるため、危険なことに巻き込むわけにはいかない。
その心理が影響して、護は月美に伝えることなく、行動を起こしていたのだ。
だが、そのことは月美も重々承知していた。
だからこそ。
「ねぇ、護……前にも言ったよね?わたしだって、術者なのよ?ちゃんと戦える、かどうかはわからないけど、護のサポートくらいならできるし、自分の身を守るくらいのことはできるよ」
仮にも、月美は出雲に根付く術者の一族。
それも、土御門家が祀っている葛葉姫命の社を管理し、守護する任を受けもつ風森家の巫女だ。
それなりに術は心得ているし、身を守るすべも知っている。
だが、何より。
「大事な人に頼ってもらえないことが、一番、辛いんだよ?」
それが一番の本音だった。
結局のところ、護から何も伝えられていないことが、月美にとっては一番堪えるのだ。
たしかに、自分は護にとって足手まといかもしれない。それは重々承知している。
けれど、それでも頼ってほしいと思うし、支えたいとも思う。
「わがままだってわかってる!わかってるけど……」
「……わかった。言わなかった俺が悪かった」
月美が言い切る前に、護が謝罪した。
危険なところへ月美を連れていきたくないというのは本当なのだが、そのために辛い想いをさせたくないというのもまた事実。
――なら、自分が彼女を守ればいい。それに、五色狐が控えている。いざって時はこいつらに護衛を任せればいいか
少し悩みはしたが、最後にはそう判断し、護は月美に手を差しだす。
「なら、一緒に行こう」
「うん!!」
月美は笑顔を浮かべ、その手をつかんだ。




