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28、仮説証明の手段

 神社がある下町から遠く離れた田舎町。

 そのさらに奥の山に密かに建っている施設があった。

 外見からはその施設は古くなりすぎているうえに、役所の人間から立ち入り禁止の通達を受けていたため、滅多に近づくことはない。

 だが、好奇心に忠実な怖いもの知らずや、大人の忠告を聞き入れることをせず、自分から危険に飛び込んでいく子どものように、素直に従わない人間も存在する。

 探検や肝試しと称してこの施設にたびたび侵入しようとするが、老朽化している割に、子どもが入ることのできるような穴すらない。

 それだけでなく、時々、何かが動いているような音が聞こえてくることもあるのだ。

 施設に近づいた人々の中には音だけでなく、何かを見たという者もおり、特に子どもからその報告がされてきた。

 だが、その報告はすべて『子どもの戯言』として、町の大人たちは真偽のほどを確かめることはされず、見向きもされず、放置されることとなる。

 実際、いままでまったく問題はなかったのだから、放っておいても問題はない。

 そう考えてのことなのだが、その判断が結果として正しかった。

 もし、念のために施設を調べるという選択をしていたら、彼らの命はそこで尽きていたかもしれない。

 それだけの危険が、そこには潜んでいたのだから。


----------------------------


 自分の仮説を証明するため、護は早速、光に連絡を入れることにした。

 話す内容は、当然、占いの結果とそれを踏まえた上で調査してほしい場所なのだったのだが。


『あんた、ふざけてんの?!占いで出てきたから『はい、そうですか』って誰が調べるってのよ!』


 それを話した瞬間、文句を言われてしまった。

 無理もないといえば、無理もない。

 占というものは、多少乱暴な解釈ではあるが、あくまで数ある未来への道筋の中から、一本の道を選び、その先にあるものを読み取るものであり、その確実性は低い。

 もちろん、十人が十人、同じ結果を出したというのなら検証する価値はあるだろうが、今回は護と月美の二人だけ。

 それも、それぞれが違う手法で、違うことを占っていたのだ。

 信用するべきかどうか、その判断がつかないし、判断しろということ自体、無理難題だ。

 だが、もはや手段を選ばないと決めた護は強気だった。


「ほぉ?そんなこと言っていいのか?せっかくの情報提供だってのに」

『むっ……』

「まぁ、俺は別に構わないがな?提供された情報をろくに吟味せずに投げ捨てて、その結果、対応が遅くなって事態収束にかなりの時間がかかっちまっても」

『うぐっ……』


 飛んでくる護からの口撃に、光はひるんだ。

 実際、自分たちは護たちほど情報を入手できているわけではない。

 唯一の手掛かりといえば、先日のあの男だけだったのだが、あの男は取り調べの最中に不審死を遂げている。

 男の遺体は、事件性がない(・・・・・・)ことから、検死を行うことができず、何も情報を得ることができなかった。

 そして、それ以降も狼男らしき人物に遭遇することはなく、時間だけが過ぎていくような状況が続いている。


――情報は欲しい。欲しいんだが、それがこの男からもたらされるというのが腹立たしくて仕方がない!!


 気に入らない男からの情報など、突っぱねてしまいたいところなのだが、かといってこのまま情報を逃すというのもやりたくない。

 光はそんなジレンマで頭を抱えることとなる。

 それを知ってか知らずか、護は沈黙を守ったまま、光の選択を待っていた。

 しばらくの間、電話の向こうでは光のうめき声が響いていたが、ようやく腹をくくったらしい。


『……で、情報って何?さっさと教えなさい』

「おいおい、随分と悩むんだな……お前もメンツを大事にする口か?」

『はぁっ?!そんじょそこらの高官たち(アホ連中)と一緒にしないでくれる?!あんたが気にいらないから聞きたくなかっただけだから!』

「本人を前にして堂々と気にいらないって言える度胸に感心するよ」

『うっさいわね!どうせあんたも気づいてんでしょ?!』

「まぁ、気づいてはいたな」

『ほんと、かわいくない……』


 光の正直な思いに対し、護が本心で返すと、光は電話口でぶちぶちと文句を言い続けた。

 そんな光の様子に、護は頃合いと見て自分たちがようやくつかんだ糸口になるかもしれない情報を伝える。

 だが、案の定というべきか、返ってきた光の反応はあまりいいものとは言えなかった。


『スギ科と思われるの林に隠れた廃墟、ね……じゃ、聞くけど、その情報の信憑性は?』

「神が集う国で、おそらく最も霊力の強い巫女がそれを見た。それだけじゃだめか?」

『結局、占の結果ということなのね?けど、それだけで信じろっていうのは』

「おいおい、仮にも陰陽師。自身の直感を信じないでどうすんだよ?」


 直感というものは、自身がいままで培ってきた経験や知識が無意識化で直結したもの。

 陰陽師に限らず、術者は特に自分の直感を大切にしている。

 護が月美の占の結果が情報となりうる、という判断も直感で感じ取ったものだから、こうして光に情報として提示しているのだ。


『……わかった。ひとまず、あなたの直感を信じます。少し、時間をいただきますが構いませんね?』

「あぁ。だが、何かわかり次第、連絡がほしい」

『それは構いませんが……まさか、あなたも関わるつもりですか?』


 予想していたとはいえ、本当にそうくるとは思わなかったのか。

 訝し気な顔をしながらそう返している光の姿を脳裏に思い浮かべながら、護はため息をつく。


「当たり前だ。元々、俺はある筋から依頼を受けて、成り行き(・・・・)調査局(あんたら)と関わることになっちまったんだ。だったら、この成り行きが行きつく先を見届けるのが筋ってもんだろ」


 口ではそう言うが、本音の所は。


――というより、単に調査局だけにやらせると仕事を押しつけたような感じがして嫌なだけなんだけど


 という、護なりの責任感からだ。

 その一言を口から出さないように注意しながら護は反論していたのだが、その言葉に込められた意思に、光はそっとため息をつき、降参することを決めた。

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