24、幼馴染との共闘
日曜日に出かけることにした護と月美だったが、その帰りに突如、狼男に襲撃され、戦闘を行うことになった。
現在、護と月美はいつでも男の攻撃を回避できるように身構え、狼男は再び障壁で遮られるのではないかと考えているのか、いっこうに攻めてくる気配がない。
怪異避けの神言の効力がまだ続いているためだろう。
だが、それもあとどれくらい効力が続くかわからない。
護と月美はこれからどうするか対策を練らなければならなくなった。
「護、どうするの?」
「逃げようにもこれじゃあな……倒すにも今は決め手に欠けるからな」
現在、二人はほとんどの道具を家に置いて来ているため、まともな準備がまったくできていないのと同じような状態だ。
こんな状態では、隙を見つけて逃げることが最善手となる。
それは月美もすぐにわかったようで。
「なら、逃げる?」
「それが一番。といっても、ただで逃げないけどな」
護がそう返した瞬間、怪異避けの効力が切れたらしい。
狼男が何のためらいもなく突っ込んできた。
突進してくる狼男を左右に分かれて回避すると、護と月美は刀印を結び、同時に呪を唱える。
「水気招来!」
「木気招来!」
「「急々如律令!!」」
月美の呪に応じ水柱が落ち、狼男とその周囲を濡らすと、今度は大量の植物が芽吹き、急速に成長する。
植物は一瞬で立派な樹木となり、数秒とかからないうちに林を作りあげた。
ただの木に狼男の動きを阻害できるわけはなく、狼男はその剛腕で木々を薙ぎ払おうとしている。
だが、木と木の間がかなり密になっているためか、思うように体を動かすことができないようだ。
おまけに、狼男の周囲にある植物はよくしなる材質をしているらしく、力を入れるとあらぬ方向へ曲がり、断ち切ることができずにいた。
「月美!」
「わかった!!」
狼男が脱出に手間取っているうちに、護と月美は自分たちがやってきた方にむかって走りだした。
林で動きが制限されている間に、この場から離脱することにしたようだ。
だが、獲物をみすみす逃すほど、狼男も甘くはない。
爪で切り裂くことができないとわかったのなら、それ以外の方法を取ればいい。
そんな理性的な判断力を見せた狼男は、自分の邪魔をしている木を手でつかみ、へし折ろうとし始めた。
「ちっ、素直に逃がすつもりはないってか?」
「まぁ、当然だと思うけど」
その様子に、護はげんなりした顔で文句を言い出し、月美は苦笑を浮かべた。
「どうするの?あいつのスピードじゃ、すぐに追いつかれるよ!」
だが、このままではいずれ追いつかれる。
そのことを心配して、月美は護に問いかけたが、現状、護には怪異避けと五行の気を使った術以外に、狼男の行動を制限する手段がない。
不動金縛りはあっさりとまではいかなくともあまり長時間の拘束ができないことは、これまでに何度も経験済みだ。
なにより、太い腕から相当な量の筋肉があると予想できる。
下手な縄ではすぐにちぎられてしまうことは、想像に難くない。
――となれば、あと残された手段は……
護は走りながらも必死に考え、ある一つの手段を思いつき。
「……やってみるか」
そうつぶやき、突然、護は立ち止まった。
その行動に月美は驚きの声をあげ、同じように立ち止まったが。
「月美は先に!すぐに追いつく!!」
と指示して、護は術で作り上げた林の方へ視線を戻した。
着ている上着の内ポケットから数少ない呪符を一枚取りだし、狼男の方へ投げつけるが、呪符は狼男ではなく、狼男がつかんでいる木に張り付いた。
「火生木、急々如律令!!」
瞬間、呪符から炎が吹きだし、狼男がつかんでいる木に燃え移った。
そこからさらに炎は勢いを増し、やがて林全体を炎が包みこむ。
炎におびえ、煙に苦しむかと思いきや、狼男はむしろ邪魔なものが消えてくれて好都合とばかりの様子だ。
だが、護は冷静に、狼男がむかってくるよりも早く次の術を行使する。
「火生土、急々如律令!!」
今度は大量の土が急激に盛り上がり、護と狼男の間に巨大な壁を作り上げた。
だが、狼男は壁の存在を気にすることなく、突っ込んでくる。
それなりの厚みがあるはずなのだが、狼男の顔とかぎ爪はその厚みをものともせず、壁をつき抜けてきた。
壁にひびが入っていき、ついには壁を破壊して迫ってくるのではないかと思えたその瞬間。
「土生金、急々如律令!!」
先に行っているはずの月美の声が響き、土の壁が鋼鉄へと変化する。
岩を突き抜けることができても、鋼鉄をどうこうすることは難しいらしい。
鋼鉄の壁にぶつかった衝撃からか。
「きゃうんっ!」
と狼男は悲鳴を上げる。
その後、どうにか壁から離れようとするが、腕が思うように抜けず、身動きが取れなくなってしまった。
――さすがに火炎放射してきたり、魔術を使ったりはしないって思いたいけど、ここはさっさと立ち去るに限るな
どのみち、術で作り上げた鉄の壁は、それほど長い時間、そこにあるわけではない。
術で作り上げたものは、そこに込められた力が尽きれば、自然と消滅してしまう。
せっかくこれ以上、無駄に争う必要がなくなったのだから、ここは逃げの一手を打つべきと判断し。
「月美、今のうちに!」
「うん!」
護は少し後ろで身構えている月美の手を取り、その場から離れることを選んだ。
「水気招来、急々如律令!!」
もちろん、自分たちの匂いを水で消すことを忘れてはいない。
聞きかじった知識と、あくまで伝承でしかその特性を知らないが、狼男というからには、おそらく嗅覚も狼並みと考えるべきだろう。
そうなれば、匂いで追跡したうえで奇襲をかけてくるという可能性もなくはない。いや、ほぼ確実にそうしてくる。
できることならそうならないでほしいんだけれども、と願いながらも、護は念には念を入れていた。
だが、結局、狼男は追ってくることはなく、二人は無事に神社に帰ってくることができたのだった。




