表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/250

7、異形の影

 明美と別れた月美は、普段通り家に入り、夕食と入浴を済ませて、護の部屋で護と一緒に宿題に取り組んでいた。

 その時になってようやく、神社の前で感じた妖気について、護に話したのだが。


「えっ?!それじゃ、護、気づいてたの?」

「あぁ。そうでなかったら、桜沢と話さないまま、境内の掃除を継続してた」


 どうやら、護を含み土御門家の人間は、まだ日が高いうちに出現した妖気に気づいていたらしい。

 そのことに驚きながらも、月美はどこか納得していた。

 妖気を感じた場所は、土御門神社の、土御門家の人間が守護する領域の目の前だ。

 自身が守護する場所の目と鼻の先で起こった異変に、翼たちが気づかないはずがない。

 おそらく、護は様子を見るためにあの場にきたのだろう。


「なんだか、術者として護に一歩も二歩も先を歩かれてるような気がするなぁ……」

「そんなことはないだろ」


 いじけながら口にする月美だが、護はそれを否定した。


「少なくとも、占に関してはお前の方が二歩も三歩も先を行っていると思うぞ」

「そうかなぁ?」

「この間なんて、俺よりも早く水盤で占いの結果を出したじゃないか」


 すねたように半眼になりながら、護はそう返した。

 水盤での占いは月美が得意とするものだ。

 護が得意とする式占とはかかる労力も違えば、結果の見え方も違ってくる。

 そのため、比べてもしかたのないことなのだが、古今東西の魔術を学び、身につけてきた陰陽師の端くれとして、やはり感じるものがあるのだろう。


「けど、やっぱり他の術でも護に追いつきたいよ」


 だが、月美は不機嫌そうにつぶやく。

 その態度に、護は苦笑しながら慰める。


「お前にはお前のペースがあるだろ。焦るなよ……俺も人のことを言えないけど」

「ふふっ」


 護のその様子が面白いのか、月美は思わず微笑みを浮かべる。

 その微笑みに護は安堵を覚え、微笑みを浮かべたが、早く宿題を片付けることを提案し、二人は再び宿題に取り組むのだった。


----------------------------------


 同時刻、土御門家の書斎では、翼が一人の男と電話で連絡を取り合っていた。


「あぁ、間違いない。もっとも、私と息子が感じた妖気がお前たちが探している妖のものであるかどうかの確証はないが」

『妖から直接依頼を受けることも多い君たちが違和感を覚えたなら、間違いないとみていいだろう。しばらくは土御門家の周囲に監視網を張らせてもらっても?』


 電話口の男の言葉に、翼はどこか焦りを感じた。


「かまわないが、事態はそれほど急を要するわけではないだろう?」

『む?まぁ、たしかにそうだが……』

「ならば、あまり功を焦ってもしかたあるまい?むしろ、焦りすぎて相手にこちらの動きを読まれてしまうほうが厄介だ」

『む……』

「賀茂、お前は何を焦っているんだ?まだ人的被害が出たわけではない。もう少しじっくりことを構えるべきではないのか?」


 もっともなことを返され、電話口の男――保通はぐうの音も出なかった。

 翼としても、気持ちがわからないでもない。

 保通は現在、日本の霊的守護を担う政府機関のトップに君臨する男だ。

 政府高官から何かしらの圧力がかけられているのかはわからないが、結果を出さなければ、叩かれる材料をみすみす政敵に与えることになりかねない。

 それを避けるためにも、早期に結果を出そうと必死になっているのだ。


『捜査は慎重に行うが、他に手掛かりになるようなものが出ていないんだ!!あらゆる手を尽くす必要がある!!』

「わかったわかった。そういうことにしておこう。そんなに興奮するな、血圧が上がっても知らんぞ」


 からかうような口調で翼にたしなめられ、保通は言葉を詰まらせた。

 電話口でも聞こえるほどのため息をついた後。


『……そういうわけだから、こちらのほうでも君の家の近辺は調査局の捜査員に監視させてもらう。では、失礼する』


 保通はそれだけ言って、一方的に電話を切ってしまった。

 翼は通話終了のボタンを押し、そっとため息をついて窓の外を見る。

 そこに広がっているのは、いつもと変わらない、この敷地から見える町の風景だ。

 だが。


――今現在、確実に変化が訪れている。俺たち術者しか気づくことのない変化が


 その変化を巡り、これから様々な存在がこの周囲にやってくることは、すでに決定してしまっている。

 だが、翼はそれを煩わしく思うどころか。


「……騒がしくなってくるな」


 どこか楽しみで仕方がない、という様子で微笑みを浮かべ、窓から見える夜景を眺めていた。


----------------------------------


 一方、電話を一方的に切った保通は、悪態をつきながら、椅子に勢いよく越しかけ、天井を仰いだ。


――くそっ、土御門のやつ……わかっているさ!俺が功を焦っているのは!!


 電話口で翼に言われたことを脳内で反復させながら、保通は苛立ちを抑えていた。

 確かに、今の自分は功を焦っている。

 まだ未公開の情報だが、昼間のうちに妖の仕業と思われる事件がいくつか発生しているのだ。

 すでに通常の捜査もお手上げ状態であり、警察庁から早期解決を求める通達もされている。

 いや、警察庁だけではない。

 警察庁のトップを通じて、各省庁のお歴々から早期解決を依頼されている。


――まったく、自分の利益(欲望)にしか興味がないぼんくらどもが。こうなってしまったそもそもの原因が貴様らにあるということわかっているのか?!


 わけがわからない、古臭い、非科学的。

 そんな単純な理由だけで排除し、いざ自分たちではどうしようもなくなったときにだけ、頼ってくる。

 そんな連中に、なぜ自分たちが尽力しなければならないのか。

 いっそ、土御門家や風森家、あるいは地方に散った術者たちのように、政治家(化け狸ども)が住処としている霞が関(伏魔殿)など関係のない場所で仕事ができれば、どれだけ気が楽か。

 都内にいながら、そんな道を選ぶことを許された旧友を羨ましく思い、保通は本日何度目になるかわからない陰鬱なため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ