13、寸劇体験~1、月美、女侍に扮し浪人を懲らしめる事~
寸劇の衣装に着替え、全員が合流し、スタッフとの打ち合わせが始まった。
シナリオの流れとしては、道場からの帰りに茶屋に立ち寄った月美と先客でお茶を飲んでいた明美が突然暴れだした清たち素浪人同士の喧嘩に巻き込まれそうになったところを、市中見回りを行っていた新撰組隊士に助けられる、というもののようだ。
シナリオを聞いた瞬間、清は思っていたものと違う、と文句をこぼしたが、新撰組は本来、都の治安維持という役割のために作られた組織である。
維新志士との立ち合いや池田屋事件、戊辰戦争での活動などが有名であるため、そういった忘れられがちな側面を取り上げているあたり、このシナリオを書いた人間はよほど新撰組に興味がある人間なのだろう、と護は感じていた。
もっとも、勉強があまり得意ではない清は何も感想を抱いていないらしく。
「って、俺、もしかしなくてもやられ役?!」
「あら、いいんじゃない?むしろあんたはその役のほうがぴったりよ」
「んだとぉっ?!」
「あぁ……勘解由小路くんって、二枚目役よりもうっかりな人とかの役が似合うもんね」
「吉田までひでぇっ!!」
むしろ配役のほうに色々と物申したいようであった。
その清を、歴史にあまり興味がない明美がからかい、佳代がさらに追い打ちをかけるという、見ていて哀れともとれる光景が広がっていたのだが、普段から有難迷惑なことをやってくる清に対し、助け舟を出す気はない護と月美は、ただただその光景を眺めるだけだった。
そんな高校生たちのやりとりを温かな目で見守っていたスタッフたちだったが、時間も推しているので、注意事項に移った。
注意事項といっても簡単なもので、模造刀とはいえ下手をすると大怪我につながりかねないため、扱いに気をつけてほしいということと、セリフは大筋さえ間違っていなければ多少アナログでもかまわない、という二点だけだった。
それ以外は基本的にアドリブでもかまわない、ということらしい。
そこまで自由度が高くて大丈夫なのか、と問いかけたくなるが、あくまでもこれは「体験」であり、本格的な撮影ではなく、思い出づくりという側面が強いため、そこまでクオリティが高くなくてもいい、ということのようだ。
「それでは、時間も推しているので、さっそく、始めましょう!」
いつまでも収拾がつかなくなる予感がしたのか、スタッフの一人が護たちにそう声をかけた。
護たちはその指示に従い、配布された台本の配置へとついた。
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江戸の町を、刀を差した年若い女侍が歩いていた。
彼女は病に伏せった剣術道場の主であり師範である父親に代わり、門下生たちに稽古をつけ、屋敷に帰る途中だった。
その視界に茶屋が入り込むと、くぅ、と小さく腹の虫が泣いた。
そういえば、今は昼時で、自分も稽古で体を動かしたからそれなりに腹も減っている。
――どうしよう……昼餉は用意されてるだろうけど、距離を考えると腹の虫が暴れるかもしれない……
そんなことを考えながら女侍は立ち止まったが、意を決してうなずき、進路を茶屋のほうへと変えた。
「いらっしゃいまし」
「団子を一つ」
「はい」
茶屋娘に注文をして、女侍は外に出ていた台に腰掛けた。
将軍のひざ元ではないが、京は賑やかな場所だ。
すぐ隣に天下の台所である大阪があることも関係しているが、何よりここは天皇のおわす御所がある場所だ。
――いわば、江戸の次に権謀術数渦巻く街、ということになるな……
特に、浦賀に黒船が来航して以来、いくつかの派閥に割れていた。
舶来の技術をいち早く取り入れなければ蹂躙されるとして、長く続いた鎖国を解こうとする開国派と、舶来人を徹底的に排斥し、一切の干渉をさせないとする攘夷派。
この二つの派閥に加え、幕府を倒すべきという倒幕派、あるいは尊皇派。そして、これまで通り幕府を指示する佐幕派。この二つが絡まり、この日の本は混沌としていた。
――いつ、外来人との戦いが起こるかもわからない。そうでなくとも、強硬手段に出る連中も出てくるやもしれん。だからこそ、力を蓄え、磨くべき。父上はそうお考えなのだろう……そこに、男も女もない、ということも
出された茶をすすりながら、女侍は心中でそうつぶやいていた。
そうこうしていると、さきほどの娘が串団子を一皿、女侍の傍らに置いた。
出された団子をほおばり、女侍の顔はその甘味にほころんだ。
自分が感じていたよりも体は空腹だったのか、それとも、単に甘いものを食べてほっとしたのか。
いずれにしても、そこにいたのは年相応の、そして男の恰好をさせるには美しすぎる笑みを浮かべる少女の顔になっていた。
ほっこり顔の女侍が一本目の団子を食べ終わり、二本目に手を伸ばしたその時だった。
突然、店内から、バリン、と器が割れる音が響き、少し遅れて男たちの怒号が聞こえてきた。
「んだとてめぇっ!やるってんのかっ?!」
「はっ!上等だ、抜けっ!!」
何事か気になった、というよりも半ば反射で店の中を覗き込むと、浪人風の男が二人、刀を手に騒いでいた。
どうやら、酔った勢いでの喧嘩らしい。
――まったく無粋な……もう少しゆっくり団子を楽しませてくれればいいものを……
ため息をつき、せっかくのひと時を邪魔された苛立ちを抑えつつ、女侍は手に取った団子を皿に戻し、傍らに置いた刀を手に取って店の中へと入っていった。




