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第3話

遅れてすみませんでした。新生活はなかなか忙しいですね。

 特訓初日、三人は修練場に来ていた。

 周りではすでに何人かの生徒が思い思いにい特訓している。


「さて、始めようか」

「嫌だ」


 そしていざ特訓を開始しようとシャロンが呼びかけたのにやる気を削ぐ言葉を発したのは当事者のセシル本人だった。


「セシル……」

「だって痛いじゃないか当たったら……」


 当たり前である。


「なら【ストーンプリズン】のあとに【ファイヤボール】の全力をくらいたい? …………レイラの」

「すみません僕が悪かったです我が儘言ってごめんなさい」


 シャロンの笑顔の提案もとい脅迫を聞いてセシルは海よりも深く反省、土下座した。

 因みに【ストーンプリズン】は地属性中級魔法で対象を石の檻に閉じ込める魔法、【ファイヤボール】は火属性初級魔法で火の弾を相手に飛ばす魔法だ。

 【模擬】の中だからこそいいがそれ以外の場所でやればどうなるかは想像に難くない。


「なんでそこで私の名前が出るのよ?」


 だが名前を出された本人は面白くない。

 唇をとがらせて不満を言う。


「そ、それはレイラが【ファイヤボール】を校内一上手く使えるからだよ。君なら上手くセシルの特訓になるように撃てるだろ? 頼りにしてるよ」

「シャロンが私を頼ってくれるなんて……。うんわかったわ、私に任せなさい!」


 シャロンは動揺した様子であったが上手くレイラを丸め込んだ。

 しかし今度はこれでセシルがシャロンに恨みがましい視線を送る。


「……ごめん」

「今日が命日になったら化けて出てやる」


 幸いレイラには聞こえることはなく命日になることもなかった。




 次の日


「ぎゃぁぁああああああ!!」


 昨日と同じ内容の特訓にセシルが悲鳴を上げていた。

 魔法を撃つ方もその悲鳴にかなり沈痛な面持ちだが相手からのストップがないので撃ち続けている。

 前日もその様子を見ていた他の生徒はかなり引いていた。


「さぁ……来い」


 息も絶え絶えで再び要求し再び吹き飛ばされる。

 たとえ【模擬】があっても死にそうだ。

 それとセシルは決して痛みが快感だとかいう人種ではないので。





 そしてそのまた次の日


「もう痛いです」


 発言したのはセシル。

 言葉の通り体中に絆創膏や傷が見られてとても痛々しい。

 軽い傷は【模擬】であまり防げないことが難点だ。


「やっぱり無茶だったかもね」

「そうね、ほとんど変わらないもの」


 二人もその姿に憐みの視線を送る。

 そしてレイラの悪意ある言葉にセシルが崩れ落ちた。

 だが実際三日坊主になるのも仕方がない。


「でもそれならどうするんだ?」

「……【魔法石】を買おうと思うんだ」

「【魔法石】を? お金はあるの?」

「ギリギリ一個分くらいは……」

「それじゃ駄目じゃない。あいつと戦うには最低でも三つは必要よ」

「いや勝つつもりはないんだけど……」

「ならバイトをしてみたらどうかな? 何時でも短期で雇ってくれる良い所があるんだけど」

「だったらさっそくそこにお願いしに行きましょう」


 セシルを無視し、シャロンの提案を名案とばかりに話が進んでいく。

 そしてアルバイトをして金を稼いで【魔法石】を買うという方向で勝手に話はまとまり、シャロンとレイラは納得がいっていなさそうなセシルを連れて目的の店へと向かった。

 三人は知らない。あと一日でも長く修業していたらあらぬ噂がたっていたことを。




 


 三人は学校から目的地へと繋がる商店街を歩いていた。

 

「それで僕はいったい何処で働かされるの?」

「喫茶店だよ。僕たちが入学式のときに改装が終わったって説明した所があっただろ。あそこは前々から僕が贔屓にしていた所で偶に手伝ったりしていたんだ。その時他にも人を連れてきてもいいよって言ってくれてね」


 そう説明されセシルはその日のことを思い出そうとする。

 

「(確か……前は薬屋で店員が同じだった所だったよな。……大丈夫かよ?)」


 セシルの顔があの時と同じ様に引きつる。

 店の外観はそれほど変わったものではなかったが、昔は薬屋だったってことがどうにも引っかかっている。


「でもそれって改装が終わる前だよね。僕が行っても迷惑じゃないのかな?」

「大丈夫だよ。改装後も同じように良いって言ってたから」

「(最後の望みが……)そう、それはよかった」

「さて着いたよ。ここが喫茶【アネルカ】だ」

 

 知らず知らずの内に店の前にたどり着いていたことに少々驚きながらもセシルは店を見る。


「(やっぱ至って普通だ、が……)」


 セシルは違和感を感じて店のガラス越しに中を見渡す。

 シャロンを挟んで隣にいるレイラも同じようで店内を見渡している。

 木でできたシンプルなテーブルや椅子が置いてあるが人が一人もいなかった。

 閉まっているわけでもないのに店員の姿さえない。


「すいませーん。アネルカさーん、いらっしゃいませんかー? ここで二日ほど雇ってほしいのですがー」


 シャロンはこの怪しい店に入る扉を開けて恐らく店長だと思われる人物の名前を呼んだ。

 少しすると奥から一人の紫色の髪で無精髭が生えた眠たそうな眼をした男性が出てきた。


「(これが店長か? 大丈夫かよ……)」


 出てきた男性の風貌にセシルは不安を覚える。

 正直言って胡散臭い雰囲気がある。


「あぁークィルターか。いったい何の用だ?」


 面倒くさそうな声色で男性はシャロンに問いかける。


「エリックさん、アネルカさんはいらっしゃらないのですか?」

「いるぞ。奥で寝てる」

「ここで二日ほど雇ってほしいのですが?」

「誰をだ?」

「彼をです」


 シャロンはセシルの方を手で示し、エリックと呼ばれた男性はセシルに視線を向ける。


「別にいいが家は客が来ないから給料なんて雀の涙どころか砂漠の迷い人だぞ?」


 言っている意味が分かりづらいが要するにこちらが潤いを恵んでほしいということだ。


「え、どうしてですか?」

「どうしても何もこんな新しい店にそうそう客はこねぇんだよ」


 こんなことを言っているが恐らく原因は他にある。

 昔は薬屋だったことや誰も店番していないことが原因であろう。


「……そうですか。だったら仕方ありませんね、失礼しました」

「まぁ待て。方法がないわけではない。シャロンお前も働け」

「は? いったいどういうことでしょうか?」

「まぁ良いから働け。そしたらどうにかなる自信はある」

「そこまで言うのならやりますが」

「よしなら決まりだな。クィルターは配ぜん係をやれ。お前は……食材の下ごしらえとかできるのか?」

「一人暮らしが長いので一様はできますが」

「ならそれで決定な。嬢ちゃんは……配ぜん係で良いか」


 この発言に即座にレイラは異を唱えた。

 というよりこの投げやりな言い方にイラッとしている。


「何で私まで働くことになってるんですか?」


 少々怒気が含まれた喋りだ。

 

「なんだ違うのか? ならさっさと帰んな」


 手を払ってシッシッと動物を追い払うかのように言うエリックに対してレイラの中の何かに火がついた。


「やりますよ! やらしていただきますよ! 見ていなさい、私の実力を!」

「そうかい、じゃあ明日朝七時から来な。営業は午前八時から午後六時までだ」


 それだけ言うとエリックは店の奥へと戻って行った。

 ある意味このキレかたは幸運だったのかもしれない。

 何せ彼女は【砲台】なのだから。


「……いつもあんな感じなのかあの人は?」

「まぁ概ねそうかな。彼は店長の孫で昔は薬剤の配合をしていた人だから優秀な人ではあるんだけど……」


 シャロンは口ごもらせるが容易に次の言葉は想像できる。

 正確に難ありと。





 週末午前八時


「よしじゃあだいたい覚えたな。もう開店だからしっかり働けよ」


 エリックが激をとばすが昨日の様子から、「コイツホントに真面目に働くのかよ」みたいな雰囲気がセシルとレイラから出ている。

 そもそも二人はメニューからして疑っていた。

 ノルトライン鳥の痺れ草煮込みやらフライングフィッシュの活け造りやら物凄いものがある。

 ノルトライン鳥は家畜の一種でいったって普通の食材だが痺れ草はその名の通り食べると痺れる草で狩りなどでも使われたりする。

 フライングフィッシュは生で食べるととてつもなく苦い。

 おおよそ客に出すものではない。

 

「おーい、客が来たぞ。定位置に着け」

「流石シャロンだね……」


 昨日まで客が来なかった店にいきなりの来店が。

 この秘密には十割シャロンが関わっていた。

 エリックがシャロンに頼んだのは店の前での呼び込みだった。

 しかも主に女性に声をかけろと教えたあたりエリックはわかっている。

 そうして呼び込んだ客、二人組の女子を席に誘導し巧みな話術でシャロンは注文を取った。

 本人は話術だと思っていないが同年代の女子には話術も同じだ。


「注文入りましたー、ラモンサンド二つ」

「りょーかい」

「(ラモンのサンドだと!?)」


 セシルは注文の料理に驚愕していた。

 ラモンとは果物の一種で一口食べれば半日は口がきけないほどの酸味がある。

 普通はスープにほんのわずかに入れて使用するのだ。


「……大丈夫なんですか?」

「いいーから黙って見てろ」


 エリックは容赦なくラモンを入れて料理を完成させる。


「できたぞー」


 シャロンを呼び料理を運ばせる。

 この時セシルはもうだめだと思い目を伏せた。

 だが、


「おいしー!!」


 あまりにも意外な声を聴いて顔を上げる。

 そこには何事もなく、むしろ好評価を受けるラモンサンドがあった。

 セシルはエリックの方に顔を向ける。


「あれか? あれはラモンに痺れ草のエキスを塗りこんだものだ。そうするとお互いに中和されて甘くなるんだ」


 あまりにも奇天烈な調理法にセシルは脱帽した。


「すごいですね。どうやって発見したんですか?」

「ん? あれは偶々偶然、実験の産物だ。実験動物に与えたら喜んで食ったから試しに味見したら甘かった。それだけだ」

「実験ですか……(客には絶対言えないな)」


 本当にただの奇跡だった。

 その後徐々に客入りはよくなり、次の日には口コミで店の外に長蛇の列ができるまでに繁盛した

 




 閉店後


「あーつかれたー」


 レイラは椅子に座り手足を投げ出していた。

 レイラは主に男性客の接客をしており、セクハラしようとした客をシャロンが撃退するといった場面もあったがそこは割愛。

 心身ともに疲れていた。


「いやーまさかここまで繁盛するとはな」

「本当ですね」


 エリックとシャロンの二人は二日間の成果を話し合っていた。


「…………」


 一方セシルは机に突っ伏していた。

 手が机の上で何かを持ったような状態で小刻みに上下している。

 包丁の使い過ぎだ。


「お疲れさん。約束の給料だ」


 エリックは立ち上がりポケットから三つの封筒を取り出してそれぞれに渡す。

 中には【魔法石】が買える十分なお金が入っていた。


「ありがとうございました」

「まぁこっちもおかげで収入が得られたしお互い様だ。明日頑張れよ」


 いつの間にか【決闘】のことがばれていたがセシルは激励を受けて店を後にした。

 その後魔法道具屋で【魔法石】を三つ購入し三人は帰路に着いた。


「……明日どうする気だい?」


 レイラと別れた後、シャロンはセシルに真剣な声で尋ねた。


「シャロは何するって分かってんだろ? だったら聞くな」

「君のすることはレイラへの裏切り行為だ。それは分かっているんだろうね」

「ああ……もう痛いほどわかってる」


 二人の間に重い空気が漂う。

 遠くでは鳥が鳴き、沈む太陽が二人の影を伸ばしていく。 


「そうかなら明日頑張ってね・・・・・

「わかった。全力で頑張るよ・・・・・・・


 セシルは部屋の中へと消え、シャロンは自室へ帰ろうとした。

 だが自室の扉の前に人影が。


「待ちわびたぜぇ、シャロン」

「……ゾルタンか。何のようだい?」

「いいからちょっと面貸せよ」


 二人は学校の敷地内から出て、暗闇が支配する町の方へと消えていった。



 決戦は明日だ。

まさかの修行スキップである。

読んでくださってありがとうございます。

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