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第2話

 始業式から二日ほど経ち、都市の生徒たちの前にはつい数週間前と同じ授業風景が広がっていた。


「これから魔法の授業を開始する。担当は俺、オーレリー・アバックだ。昨年も担当したから分かっていると思うが俺の得意魔法は火だからそっちよりの授業になるが他の属性についても上級くらいまでならいくつか使えるから遠慮なく聞けよ。さて肝心の授業だが今日は初日と言うことで自習にする。だからと言って俺はこの場で見てるからサボるなよ」


 自習の言葉に生徒たちは喜びの声を上げ、思い思いに練習を始めた。

 

「レイラの【ヴォルカニックランス】を見せてくれる?」


 そう頼んだのはシャロン・クィルター。

 先日買い物に行った三人組で集まり魔法の技術を向上させるために練習に励もうとしていた。


「良いよ。実は見てほしかったんだよね。危ないから少し離れてて」


 そう言われセシル、シャロン両名は距離を取る。

 それはもう過剰なくらいに。


「なんでそんなに離れるのよー!?」

「よく一ヶ月くらい前のことを思い出してみてよ」

「うぅー」


 セシルの指摘にレイラも唸るしかなかった。

 それほどのことが一か月前にあったのだ。


「なら生まれ変わった私を見せてあげる。【ヴォルカニックランス】!」


 その魔法名を唱えられると彼女の上に真っ赤な炎の槍が現れて飛んで行く。

 多大な熱量を包容したそれは離れた場所で着弾し轟音をあげて爆発を引き起こした。


「「…………」」


 セシルもシャロンも目を見開き唖然としている。


「どうよ!」


 レイラが喜色満面の笑みでガッツポーズをしながら振り向いた。

 

「……すごいね」

「でしょでしょ!」

「でもここ以外では人に向かって撃たないでね」

「解っているわよそのぐらい」


 ここ修練場には【潜在魔法】と呼ばれる魔法の一つ【模擬】がかかっている。

 【潜在魔法】というのは百年前突然ある人物が発現させた魔法で、その日を切っ掛けに世界中で発現し始めた魔法の事だ。

 わかっていることは少なく、一人につき一魔法で誰にでも発現させられる可能性があるということだ。

 【数学持ち】のほとんどがこの【潜在魔法】を発現しておりシャロンも【強化】と呼ばれる【潜在魔法】を発現させている。

 【模擬】の効果はその空間内の生物すべてが致命傷を受けなくなり、死ななくなるというものだ。

 原理は不明だがある一定以上の攻撃は相手に傷を負わせることがなくなり、腕が切断される攻撃などを受けると、傷ができず切断されるはずだった場所から下が動かせなくなる。

 死んでしまうような攻撃が相手にあたった場合、その相手は強制的に気絶させられる効果を持つ。

 修練場では【魔法石】と呼ばれる魔法を封じ込め【魔法石】に込められた魔力を消費することで【模擬】を発動させている。

 【数字持ち】の決闘もこの修練場で行われることになっている。


「君らしい魔法だね」

「いったいどういう意味かな?」


 笑顔なのに米髪がひくついている。


「まあまあ、とにかく充分すごいってことなんだからいいじゃないか」


 そう言ってシャロンが宥める。

 その三人の元へある人物が近づいてきた。


「よぉ、さっきの魔法はお前らか」


 茶髪の少年ゾルタン・アグーテだ。


「誰が撃ったんだ? シャロンか、レイラか、それとも……ダッハッハッハッお前が撃てるわけねぇよな【無能】のセシル」

「…………」


 ゾルタンの言葉にセシルはただうつむいた。


「友人を馬鹿にするのはやめてくれないか?」


 その言葉を受けてシャロンが明らかに敵意含んだ視線でゾルタンを睨み付ける。


「馬鹿にする、なんのことだ? 俺はただ魔力量だけは一流なのに初級すらまともに使えない三流野郎についての事実を言ったまでだ」


 これがセシルが【無能】と下げずまれる理由の一つだった。

 それだけならまだよかったのだろうがセシルは学校での運動能力も学力も低く、周りから見た性格も弱気でおどおどしていたため自然とそういう眼でみられていた。


「やめなさいよ。ほらセシルもって、ああそうだった……」


 レイラはセシルに反論するように促すが彼はいつも通りなのか怯えた様子を見せているために嘆いた。


「俺が手本を見せてやるよ。【アクアショット】!」


 ゾルタンが唱えた水属性中級魔法【アクアショット】によって発生した水弾がセシルに向かって飛んでいく。

 しかしそれは直前で地面から隆起した土の壁に阻まれた。


「何してんだ、シャロン?」

「君こそ何をしようとしていた?」

「俺はただ手本を見せようとしただけだが?」

「だったらなんでセシルに向かって撃った?」

「ちっ、うぜぇんだよ優等生。少し才能があるからって粋がってんじゃねぇよ。こっちは貴族だぞ!」

「貴族だからって関係ないしそれに粋がってるつもりもない。これは努力して得たものだ」


 段々と険悪になっていく二人に他の二人は息を飲む。

 そして一触即発の事態になろうとした時、


「こぉおおらぁあああ!! 何やってる!!」


 担任教師に止められた。

 火属性中級魔法【ファイアウォール】により二人の間に炎の壁が発生し二人を分断する。


「あ、先生これは……違うんです」

「何が違う。お前たちは授業規則の【許可なく人に向かって魔法を撃たない】って規則を破ったんだ。何があったかは知らないがそれはあとで聞く。取り敢えず連帯責任で修練場十周だ!」

「「えぇーーー!?」」


 教師の殿下の宝刀連帯責任を発動されられセシルとレイラは悲鳴を上げる。

 

「ちっ、やってらんねぇ」

「あ待てどこへ行く!?」


 ゾルタンは不満を吐いてきびつを返し外に出て行き先生はそれを追いかける。


「私が居ないからってサボるなよ。あと魔法もなしだ」


 しっかりと釘を刺してから。


「私達、被害者だよね……」

「うん……」


 哀れである。










「ぜぇー……ぜぇー……」

「……あなたもっと体力つけなさいよ」


 レイラは額にかいた汗を拭いながら足下で仰向けに倒れるセシルに声を掛ける。


「授業時間内に走り終えたからいいじゃないか」

「そう言うシャロンはほとんど汗かいてないのね流石」

「鍛えてるからね」


 シャロンは男子の平均時間よりもかなり早く走り終えており運動能力の高さがうかがい知れる。

 レイラも女子の平均よりも早く走り終えているのでよりセシルが惨めに感じられる。

 実際他の生徒は一人走っているセシルをクスクスと笑っていた。


「ほら」


 シャロンが仰向けで倒れているセシルに手を伸ばす。


「ありがとう」


 シャロンの手を取ってセシルが起き上がった。


「それで今日はどのくらいの負荷をかけてたんだい」

「十キロくらいだ」

「無茶しすぎると身体を壊すよ」

「でも欺くにはこうするしかないだろ?」


 小声でのやりとりは一番近くにいたレイラでさえ聞こえなかった。


「あー授業終わっちゃったよ」

「ゴメン……」

「あ、そういう意味じゃないから!」


 つい出てしまったレイラの言葉にセシルは謝り、レイラは慌てて取り繕う。


「あいつがつっかかってこなきゃ今ごろはバキューンバコーンと魔法を撃てたのにってことよ」


 もしそれが本当なら寧ろよかったとセシルは思った。


「先生に報告する?」

「いいよ。まだ戻って来ないみたいだし。きょうしつに帰ろう」


 先生は未だゾルタンを探しているのか終了時間になっても戻って来なかった。

 先生がそれで良いのかと言いたくなるが普段はまともなので誰もなにも言わない。








「おいセシル」


 その日の授業が終わり放課後、ゾルタンがかなり不機嫌な様子でセシルの胸ぐらをつかみあげて話しかけた。

 魔法の授業後から今までゾルタンはサボっていたのに戻ってきたのだ。


「な、なに?」

「お前俺と決闘しろ」


 教室に衝撃が走った。

 残っていた生徒がガヤガヤと騒ぎ立てる。


「なんで?」

「何でだって良いだろうが! 兎に角やるつったらやるんだ、良いな!」

「う、うん……」


 セシルはゾルタンの気迫に思わず頷いてしまった。

 それを見て嫌味な笑みが浮かび上がる。

 どうやら演技だったようだ。


「週明けの放課後だ、良いな」

「うん……」


 そう言ってゾルタンは去っていった。


「あぁああああああああ」


 セシルは叫びながら机に突っ伏した。

 そのそばにシャロンとレイラが近づく。


「何やってるのよ! あいつ相手を精神的に完膚なきまでに叩きのめすことで有名なのよ!」


 その言葉でさらにセシルは深く机に突っ伏して呟く。


「……どうしてこうなった」

「何と言えば良いか君の性格上しょうがないと言えばしょうがないけど」

「どうするの? いっそのこと逃げる?」

「それは嫌だ。何か余計に人としてだめな気がする。でも本当にどうしよう……?」


 三人とも首をかしげて悩む。

 ただどうするかはほとんど決まっていた。


「魔法抵抗を上げよう」


 そう言ったのは当事者のセシルだった。

 魔法抵抗というのはその名の通り魔法に対する抵抗力のことだ。

 魔法抵抗が高ければ高いほど魔法のダメージは減少する。

 ただこれを上げるにはかなりの訓練が必要になっている。


「かなり無茶なことだと思うんだけど?」

「無茶だとわかっているけどそれでも僕が魔法を使えるようになるよりは確実なんだ。それに勝てるなんて思っていないし」

「そうよね、今まで散々手伝ってあげたけど無理だったものね」


 そんな気は無いのに確実にセシルの胸を貫く言葉を言うレイラ。


「わかった、手伝って上げる。魔法を撃たれた方が上がりやすいものね」

「そういうことでシャロ、頼む」


 セシルはレイラ無視してシャロンにお願いする。


「なんで無視するのかな?」

「手加減の言葉を覚えてくれたら頼むよ」


 レイラは魔法を弱く発動させることが苦手だ。

 通常通りかそれ以上の威力で撃つことに関してはピカイチなのだがそのせいで着いた二つ名は【砲台】。

 本人は気に入るはずがない。

 呼ぶと魔法が飛んでくることがさらに拍車をかけている。


「さて始めるなら早い方がいいからね」

「うん、そうだね。行こうか」


 三人は修練場に向かった。

読んでくださってありがとうございます。

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