闇鍋
もうすぐ春だっていうのに、なぜか寂しく男だけで鍋パーティーをすることになった。
「なんで鍋なんだ…」
俺は企画者の友人に言った。
「なんでって、そりゃ寒いからに決まってるだろ。寒いときには鍋を食う。定番だろ?」
「さも当然のように言うなよ…」
俺はため息ついて、友人に聞いた。
「それで、何鍋なんだ。それに誰が来るんだ」
「来るやつらと食材については、秘密な。あ、そうそう。一人1つの食材を持ってくるようにな」
「…闇鍋するつもりか」
「ピンポーン。だいせいかーい」
友人の笑顔に、握り拳をぶつけてやりたかったが、それはやめておいた。
前日に友人の家で鍋パーティーをするという話で、親には説明をしておいた。
俺が持って行ったのは、鱈だ。
すでに切り身にしてある。
他の奴らがだれかは知らないが、碌なことにならないような気が、今からしている。
できれば、この予想が外れることを願うばかりだ。
「ちーっす。持ってきたぞ」
闇鍋するからには、食材の名前を伏せておく。
他の奴らは4分の3ほど集まっているようだ。
「おう、待ってたぜ。あがれよ」
友人がさっさと俺をリビングのテーブル脇まで連れてくる。
「食材については、そこらへんに置いておいてくれ。電気切って、それから入れるからな」
「あいよ」
そういって、ビニール袋を近くの戸棚の上に置いた。
全員そろったのは、俺が来てから15分後だ。
「では、これから、闇鍋パーティーを開きます!」
水だけはやたらとあった。
さらに、なぜかカレールーまで2箱ほど置いてある。
「では、電気消すぞ。食材は、電気を切ってから袋から取り出すようにな」
友人が言ってすぐに、電気を消した。
カーテンも閉めてるから、部屋の中の明かりといえば、カーテンから漏れている光だけだ。
一人ずつ、食材を鍋の中にいれる。
「全員入れたか」
友人が聞いた。
数秒待ってから、電気をつける。
蓋が閉まった状態で、後は煮えるのを待つだけだ。
テレビを見ている間も、良い香りが漂ってくる。
「今回は成功かな」
俺が友人にいう。
「ゲデモノ持ってきたやつがいないんだろうな。残念だ」
友人は真剣に残念そうな声を出していたが、俺にとっては、良い方向に予想が外れたから、ホッとしていた。
「じゃあ、そろそろ電気消すからな」
「おう」
友人が再び電気を消す。
こんぢは鍋の中身を掬うのだ。
すでに白米が用意されている。
一人一人が順番によそっていき、終わったころに電気を再灯する。
「なんか無駄に豪勢な鍋だな」
よそった後の器を見ると、白滝と牛肉が入っていた。
「すげえな、牛肉なんか入ってたぜ」
「初回だからな。今回だけ奮発して、神戸牛のA5を買ってきたんだ」
「わざわざすごいな。俺が持ってきたものなんか、タラの切り身だぜ」
「白菜と白滝と、これなんだ…」
別のやつが一口食べると、言い切った。
「これ、鰹節だな」
「それ、こっちが持ってきたやつだな」
そんな感じで、タラ、牛肉、白菜、白滝、ソーセージと鰹節が入った、何とも普通な鍋に終わった。
「次回もこれぐらいでいいんだがな」
俺が食べ終わってから、片付けを手伝いつつ、友人にいった。
「カレーいれなくて良かったっちゃあ、よかったんだがな。これじゃ結構つまらんな」
友人がいらんこと考えているのがすぐにわかった。
「そういや、あのカレーってなんだったんだ」
「ああ。あれはな、どうしても食べれなかった時用さ。なんか、どっかに漫画で読んだんだがな、カレーを入れると何とかなるらしい」
それから友人が俺に言った。
「今度はカレーいれる羽目になりそうだな」




