<07>
どうして俺の名前を………っ!とかそんな反応はしなかった。少し驚いた程度、数時間前に聞いた馬鹿だが天才だかわからない奴だ。だって俺にこのゲームを誘ったのは『アイツ』なんだからその張本人がいてもおかしくない。
振り向くとイケメンが2人立っていた。
「遠藤………?」
「あんまりリアルネーム出すなよ。ここではフィーニスって呼んでくれ」
自称フィーニスと名乗る男は本当にあの遠藤なのかと思うほどに落ち着いた青年だった。全体的にスマートな体を要所要所に厚みをつけるように黒の外装をつけ、背中にはポンチョのような小さな黒いマントを、腰に巻いたストールの赤が印象的なかっこいい服を着ている。もう1人は黒の眼帯で白い毛皮のジャケットと、フィーニスと同じポンチョを着た男だった。もしリアルでこんな2人がいたらイケメン爆発しろ!!とこの広いフィールドに響きわたるような声で発していただろう。
しかし、ゲームの遠藤はリアルよりもかなり大きく身長を設定しているようで、(俺も人のことが言えないが)俺を見下ろす形になっている。20センチのサバってどんだけー。若干身長を大きく設定した俺も、足を地面につけただけで身長による違和感が少なからずにあった。それ以上の違和感になると、もう自分の体じゃないっていう表現のが正しい気がする。
「よくわかったな俺だって」
「だって名前しかり、服装しかりでわかるよ。といっても確信に至ったのはスコア。だけどね」
さっきまで見せたフィーニスの印象と打って変わって、今見せたのはリアルの遠藤の笑顔だった。はやりあれが素なのだろうか。
「wiki見た初心者ですらもうちょっとまともなスコア出すし、服装や武器も少しはましだと思うぜ?」
「んなこと言われても触りだけやってみようと思っただけで………」
「それに色々教えてやるからやるなら電話しろって言っただろ?」
「………」
「話はそれくらいにしろよフィー。早く紹介しろ」
話をぶった切るように毛皮のジャケットを着た男が発した。身長は遠藤、フィーニスと同じくらいで少し老けた顔だ。それでも30前半というところだろうか。声からは20代中盤な気もする。
「へいへい。まずこいつはユキ、俺のリア友。んでユキ、こっちはウチの部隊長のダインスレイフことダインさんだ」
「あ、あぁ。どうも………」
まだ今日の帰りに話した程度で友達呼ばわりされてちょっとドキッとして、きょどりならがお辞儀した。そのあとに続くようにダインさんは「ダインだ。よろしく」と不器用に言った。
「この人はいつもこんな感じだからあんまりに気にしないで」
「はぁ………」
「あと他にも馬鹿なエンヴィと、何考えてるかわからないルルールさん。ウチの『ブタイ』の花、レディーちゃんとかいるんだけど………まだ時間的に早いからね」
時間といえば下校してから数時間しか経っていない。だいたい18時くらいだろう。一般的に仕事している人といえば19時以降に来るもんだと遠ど―――フィーニスが言っていた。
それよりも聞きなれない言葉を聞いた気がする。
「舞台?」
「別にどこかの劇場で踊ったりする集団とかじゃなくて『部隊』ね。行動を共にする集団的な、軍隊の編成の『部隊』」
「他のネットゲームで言えば『ギルド』、簡単に言えばチームみたいなものだな」
「ついでに名前はSnE、『SnorraEdda』だ。お前も入るだろ?」
ダラリと伸ばした手で俺を指差すなり、視界に『Yes/No』の選択肢が出てきた。すぐさま部隊への申請なのだと理解する。
予想通りの展開すぎる………。
なるほどな。こうやって俺を泥沼の展開に引っ張っていくのだろう。
いいだろう、この流れを空気読まずにぶった切って笑いながらログアウトしてやる。どうせ俺にはこのゲーム向いてないんだから辞めてしまった方がいいんだ。
演出染みにゆっくりとその選択肢に伸ばしていると「あぁぁぁ!!じれったい!!」と俺の手を掴んで『Yes』を押させた。
「――――っ!!」声にならない声という言葉の存在を生まれた初めて知った瞬間だった。声にならない声ってなんだよ。っとあざ笑ってたけど今ならあのとき呼んだ作者に謝れる気がする。
その表情にフィーニスが「な、なんだよ」と俺のオーバーリアクションに驚いていたけど、すぐさま「どうせYes押してたんだからいいだろ」と返された。反論しようものならその悪意のない笑顔がとても怖かった。
そしていきなり俺の背中に現れたポンチョ。どうやら部隊所属になると勝手に装備されるようだ。背中を見ようとするのだが何か模様が描いてるある程度にしか見えない。
「ん?部隊マーク見たいのか?」
ホラ。とフィーニスが自分の背中を見せる。丸い円の中に本が開いてあり、その本に剣が突き刺さっている。そんなマークだった。あとから聞いた話だと、スノリエッダは魔剣ダインスレイフの話が載ってる本のようで、強いて言えば自分と部隊員の表現だとか。ついでに描いたのはルルールさんとか言う人らしい。
「どうせゲームのこと教えるんだ。同じ部隊入ってた方が色々と楽なんだよ。どこにいるかすぐわかるなしな」
そこでウィンク一つするフィーニス。あぁ、俺もう逃げれないんですね。
観念してコイツの授業に付き合うことになるのでした。
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【フィーニス】…… CEO内の遠藤のキャラクター名。Lv26の盗賊。クローズβからプレイしており、ゲーム内でも結構名の知れたプレイヤー。俗に言うニュータイプ。別キャラにオルサというキャラも存在する。
【ダインスレイフ】…… 主人公達が所属する部隊の部隊長。Lv29の戦士。片手剣と両手剣の2つの武器を扱う。フィーニスほどではないが、フィーニスが所属する部隊の部隊長としてそこそこ知名度はある程度。寡黙で鋭い目つきで何を考えてるかわからない男だが、人一番に部隊員のことを思っている。
【部隊】…… CEO内でのギルドの名称。首都内にいる部隊統括理事長に1万Gold差し出すと結成することができる。メニュー欄から部隊員リストが見れ、INしている部隊員が今どこにいるかがわかるようになったり、各員の戦果によって部隊のレベルがあがり、3以上になると背中に部隊マークが表示できるようになる。部隊レベルのカンストは5で、今のところとくにこれといったメリットはない。
【SnE】…… 主人公達が所属する部隊の略称。正式名はSnorraEdda。エーフィ国で三指に入らないが、上位陣と互角に渡り合えるフィーニスがいる部隊。として名が知れている。部隊マークは丸い円の中に本が開いてあり、その本に剣が突き刺さっているマーク。