<06>
エーフィ帝国、首都ルーンパーク。
暗転から視界に溢れたのは赤いレンガで張り巡らせた中世ヨーロッパの町並みと色取り取りの自分と同じプレイヤーの数だった。
しかしすごい人の数だ。3車線道路くらいある歩道なのだが、そこに敷き詰めるように人が縦横無尽している。その性で人ごみの終わりが全く見えない。
人ごみに酔いそうになる。すぐさま後ろを振り返ると、2階建てのビル相当の門がそびえ立っている。煙のような装飾をしており、ルーンの広場と称しているのだから北欧関係なのかと予想した。その門を通りぬけるようにして次々に人が出入りしている。
首都観光もしてみたかったのだが、そちらに興味が移った。自分もその流れに乗り、門をくぐってみることにした。
まるで液状の壁に手を突っ込んだ感覚。周りを見渡すと、皆気兼ねなく壁を通過している。郷に入っては郷に従え、俺の決意はあのチュートリアルですでに固まっている。別にここで本当に死ぬわけではないのだし、ゲームはゲームとして楽しまなくてはならないのだから。
真っ白に明転、視界に広がるのは海に囲まれた島の図だ。島の図には点々と武器がぶつかるマークと200という数字で埋め尽くされている。これが戦争を行っている場所なのだろうか?
適当な場所をタッチしてみると
『フィールド参加人数が限界を超えているため、フィールドに入れませんでした』
と表示された。さすがに100人対100人を謳ってるだけあって200人に達している戦場には入ることができないようだ。そうするとマークの下にある200という数字はその戦場にいる人数なのだろう。
だとすると200以下の数字が表示されているところを選択すればいいわけだ。185のところをタッチする。
防衛側90人、攻撃側95人。
防衛側のが少ないので防衛側をタッチ。するが
『第3国のプレイヤーは人数の少ない陣営にしか参戦できません』
「はぁ?」
防衛のが少ないはずじゃ……。画面が戻って見てみると防衛側の数が95人に変わっている。ならと攻撃側を押してみるが、さきほどと同じ『フィールド参加人数が限界を超えているため、フィールドに入れませんでした』の文章が表示されてどうしようもない怒りが込み上げてくる。
落ち着け俺………。どうせ戦場なんて星の数ほどあるんだ。いや、そんなにあるわけじゃないが……。人数が埋まっていない戦場がまだ数ある。その中で一番少ない140人のところをタッチしてみた。
あれ?さっきまで防衛側、攻撃側と選べたはずなのに今度は防衛側しか選択できない。よく見てみると防衛側エーフィ、攻撃側リーブと表示されている。
「………!」
なんか今日の俺は冴えてるのか閃きが多い。なるほどね自分が所属している国の戦争だとそれしか選べないわけか。そりゃ自分が所属してるのに敵側入ったら意味が無い。しかしさっきまで選べてたのはなんなんだろうか。さしずめ援軍というところだろうか?
グダグダと考えるのも面倒だし、自分の性分ではないとタッチした。
* * *
「こちらが今回の報酬になります」
戦争が終わり、人並みが一方に流れたので流されるままに俺もそっちに向かった。向かう先にはメイド服を着たNPCと思われるキャラクターが3人立っていて、それに並ぶように列が3列連なっていた。とりあえず並ぼうと並んで戦争の報酬と思われる巾着袋を貰った。
「どけヌーブ」
「あ、はい」
後ろからヌーブ?と言われてすぐさま列から出た。その辺の茂みに腰を下ろし、巾着袋を開けてみると視界に【300 Gold 入手しました】の文字がポップして終わった。
もうなにがなにやら全然だった。
思い返してみると混乱する数十分だった。
戦争開始の合図と共に四方八方に駆け出すプレイヤー。
近場のクリスタルに座り込む者、マップの中央に走っていく者、拠点の後ろへ向かっていく者、明後日の方へ向かう者と色々だった。
よくわからないので適当な人の後ろを着いていった。その人は青い生地のドレスに身を包み、青いキャップを被っている。フワフワと揺れるスカートに何度か視線をスカートに移ってしまうのをこらえた。左手には大きく、丸い薔薇の装飾をした盾を重そうにつけている。彼女は武器をしまうことを知らないのだろうか?と思ったが、目的地に一直線に向かう彼女を見ていたら、自分とは違い場数慣れしているようにしか見えなかった。
彼女の右手は空だ。もしかしたら彼女は左利きなのかもしれない。だが、武器が盾だけっていう職業はあるのだろうか?と思っていると。彼女は急に足を止め、右手を下に向けて薔薇を象った柄が象徴的な長剣を握り締めた。
俺もそれに習って右手に斧を握り締める。
どうやらここが戦場の最前線のようだ。相対する敵の頭の上には赤く名前のようなものが表示されている。さっきまで味方だけだったので気にならなかったが、防衛側は青で名前を表示され、攻撃側は赤で名前を表示されているようだ。
それ以外での敵味方の区別は見分けつかなかった。味方にも赤い装備をした奴もいれば、敵にも青い、さっきの彼女のような装備した女性もいる。
「行くぞ!!私に続け!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」
いきなり目の前の彼女が大声をあげ、右手の武器を掲げて敵に突貫した。
俺も習って「おーっ!!」と武器を掲げて突貫した。
結果は一瞬だった。激戦区に突っ込むと敵は一目散に俺を狙いだしたのだ。ブルった俺は一目散に逃げたのだが、一瞬ヒヤリと背中に冷たさを感じるや体が動けなかった。
今度は全身が冷たい。よく見ると下半身が大きな氷で埋め尽くされていた。
えええええ。でも上半身は動く、上半身だけ動かして移動を試みるが転倒してしまいそうになったので、急いで体勢を戻すのに精一杯だった。
そこに。
「ご馳走さまでーす!!バッシュ!!」
と敵の盾を持った奴が笑いながら俺を攻撃する。下半身の氷はなくなったのだが、今度は全身が動かない。手をバタつかせようにも命令がきかない。
敵のブレイズスラストが痛い。一発200とかどんだけだよ!!
「うめぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!!!!!!」
そう遠吠え地味た声でブレイズスラストを4回くらったころには俺のHP1000という数値は一瞬にして消えてしまった。
全身への命令が効くようになったと思うと、次は体全体の力が抜け落ちたように力が入らない。眠気のような気だるさが意識を襲い、膝から地面へ前のりで倒れてしまった。
段々と目蓋が閉じる。あぁ、死ぬってこんな感じなんだろうな。と直感した。
視界が暗転して、早10秒。
次に開いたときには拠点の前で立っていた。体を動かしてみると普通に動く。
なるほど、さすがにゲームだから何度死んでも大丈夫なようだ。ここで死んだらリアルでも死ぬ。みたいな事態になったらこんな即蒸発する状態では何もできないじゃないかと恐れたが、現状では大丈夫だ。と気を取り直したのだった。
そこからだった。この戦争が終わるまで19回俺は死んだ。なぜそこまで正確な数字なのかというと、ゲーム終了時に自分が出したスコア。キル数、デッド数、貢献?数、PCダメージ、建築ダメージの6つの数値が表示されるわけだ。しかもご丁寧に各カテゴリーごとに自分が200人中何位なのか教えてくれる。
俺のスコアは 0キル、19デッド、0貢献、520ダメージ、0建築ダメージだった。
それぞれ最下位に近いランクに対し、デッド数だけはぶっちぎりの1位だった。ついでに2位は6デッドだった。
わーい。やったー。などと棒読みで喜べるレベルだった。
そもそもなんでこんなに死ねたかというと、明らかにおかしいダメージを出されて死んだり、何もできずに死ぬパターンが大半だった。一番ひどかったのは道中歩いているといきなり何もないところから敵が現れてHP1000を一気に800近く削られたのは驚き、追撃のボディーブローで残り200を削った。時間にして約2秒。約2秒でダメージ1000って………。
もう悟った。俺このゲーム向いてないわ。
すぐさまログアウトしてこのゲームをアンインストールしようと心に決めた。
そう思っていると、ポンッと誰かに肩を叩かれた。
「フフフ。お前、久遠だろ?」
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【リーブ】…… 緑の国家。正式名はリーブ連合国。聖女セシルス・ファンブ・リーブによって、バラバラだった国同士をまとめ、世界平和を謳った。セシルスは女王として、自分の目的のためクリスブル統一を目指すのであった。それとは裏腹に所属しているプレイヤーは狂ったのが多く。何かあるたびに「またリーブの連中か」と各首都で言われる。ついでに主人公が所属しているエーフィ国の左隣になる。
【スコア】…… 約25分間の戦争で自分がした数値が表される。キルは敵に止めをさすと1カウント。デッドは自分が死ぬたびに1カウント。PCダメージはプレイヤーが操作するキャラクターにダメージを与えたダメージ総数値がカウントされる。建築もPCダメージ同様。口頭で自分のスコアを言う場合は6-2-15kなどと言ったりする。意味は6キル2デッド約15000のダメージを出したという意味。
貢献については次回。