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Crystal Earth Online  作者: 真幸
1、終わりの始まり
3/9

<02> = Why is he alive ? =

(2012/06/04)改変終了。

 そびえるようにして強固な外壁が街を囲んでいる。薄暗い茶色のそれは三階建ての建物相当の門を構え、煙のような装飾で飾られている。この街、『ルーン・パーク』の名からして北欧に由来するものとは思えるが製作者以外その真意を知るものはいない。

 カツカツとブーツが歩くたびに音を鳴らす。静かなその街においてその音だけは虚しく響いた。

 バケツヘルムを被った彼はその門を潜り終えると、赤レンガに包まれた街の内部に視界を広げた。


 エーフィ国、首都『ルーン・パーク』。

 周囲を川に囲まれたその街は外敵から身を守るために使われているだけで、内部には蒸気や煙突から煙によって煤まみれにした暗い街になっている。

 街の一つの特徴である赤レンガの建物もそこらかしこに煤の黒ずんだあとを被り時間を感じさせる。視界には見えるはずの無いゲームだった街の姿が見えたが、すぐさま現実という霧で彼、ユキの視界を覆った。

 今ではブーツの鳴る音のみが響き渡るこの三車線くらいあるこの広い歩道も、喧騒と人で埋め尽くされていた昔と比べると天と地ほどに殺風景に寂しくなってしまった。

 グラリと彼の視界が揺らぐ。いや、どうやら二、三日飲まず食わずだったのが体に来ているのだろう。と食べなれすぎた人の顔ほどある大きさのパンをアイテム欄から取り出し、赤レンガの壁を背にしてそれを食べた。

 乾いたスポンジのような無味無臭のくだらない感触が口の中で広がる。いくら強靭な攻撃を喰らってもHPのある限り死ぬことの無い体だとしても空腹と言うものには抗えなかった。リアルの体は点滴か何かで栄養を送っているだけなのに対してこちらの世界では摂取しないと体が言うことを聞いてくれない。色々理不尽すぎるこの世界に何度とないため息を吐き。彼、ユキは襲い来る疲れに目蓋を閉めかける、さすがに無茶しすぎたと止め処ない息を零した。


「―――あれ?」


 静かな首都で人の声を聞こえた。それもこのゲームには珍しい女性の声が。


「そのバケツヘッド。さっきの戦場で一緒だった方ですよね?」


 胸元を隠す?程度につけている薄い布地から見えるチューブトップに短いスリットスカートを穿いた女性がこちらにやってきた。


「―――誰?」

「だから、さっきの戦場で最後の僻地攻めに単身で突っ込んだ人ですよねぇッ!?」

「―――あぁ」

「あのときペネ打ったものです!!」

「………あぁ。そういえばペネ打ってくれたから助かったのか」

「ですです」

「さんきゅー」


 心にもない声でそう言い捨てるなりユキは宿屋へと歩き始めた。


「ちょ、ちょっと!!なんですかその心にもない台詞は!!アタシは!!死にかけていたアナタを助けたんですよ!?そこは泣いてありがとうございましたって言うのが普通じゃないですか!!」


 うるさいのに絡まれた。めんどくさいことになったとユキは本日何度目かのため息を吐きすてる。ユキと並列して歩きながら言い分をいってくる淫らなチューブトップを着た少女。確かハミール装備だったか。そのハミール子を横目で見るとその淫らなチューブトップに包まれた胸の谷間に視線がいってしまう。

 このバケツを被っててよかったとユキは改めて思う。たぶん彼女にはユキの視線に気づいていない。なぜなら外面でも目を開けていることすら視認しずらいくらいに目元周りが暗いので絶対に気づかれはしない。なるほど、バケツ紳士とは紳士の心得さえあれば窃視し放題だということになるのか………奥が深いバケツ紳士道。


「って、ちゃんと聞いてますか!!」

「あぁ」


 まったく聞いてなかったユキは内心焦りながらさきほどのテンションで声を出す。どうやら窃視していたのはバレていないようだった。


「だったらちゃんと助けてもらったことをアタシに感謝してください!!心をこめて!!」

「………うざ」


 ユキは足を止めて。率直な感想を彼女に言い捨てた。


「うざって―――アナタは死にたいんですかぁ!!デスゲームが始まってもう二年ですよ!!生きたいんじゃ――――」

「余計なお世話なんだよ!!テメェもテメェだよ。さも助けたのが相当なものだと思って天狗になってんじゃねーのか?っは、こっちとしては弓カス様を見ただけで殺したくなるんだよ」

「っな!!誰も天狗じゃありません!!確かに弓はカスですけど。そうならないように二年間こうして―――」

「―――ッチ」


 久しぶりに首都が騒がしいもので野次馬がゴロゴロと現れ始めた。建物から顔を出す者や初期装備で路地に出てくる者、ヒソヒソと内緒話するのが嫌に目立つ。それから少しして一つの単語が飛び交いはじめた。


『ダスト』と。


 ユキはその場を離れるために走り出した。


「あ、ちょっと―――!!」




 * * *




 首都、ルーンパーク南部のはずれ。設定上この区域はスラム街となっており、北部にある住宅街では『部隊(他のネットゲームでいうギルドの名称)』宿所になっており部隊に所属しているものならばメンバーと一緒にそこをねぐらとすることができる。

 ユキはあの人の視線から抜け出したかった。北部と南部どちらが人が少ないかと言われると断然南部に当たる。さきほどいた場所は首都の入り口でありリアルでいうところの駅前通りに当たる。それで北部を住宅街とすると南部は雑木林といったところだ。

 ユキは近場にあった土手に腰を下ろして被っていたバケツヘッドを投げ飛ばした。

 所詮こんなもんつけても彼の存在を消せるはずもなかった。


 姿形を変えても自分のキャラクターの頭上には『Yuki』と表記されているのでそれを見ただけで大抵のものは彼のことを『ダスト』と理解するだろう。それでも表記名が小さいので誰もかれも彼の姿を見て『ダスト』だと思うようにはならなくなった。人の目と言うものは印象に残りやすいものを最初目がいくものだ。リアルでも人の目は髪型や服装に目に行きやすく、コンビニ店員の名札ほど印象に残らないものはないのだ。

 頭を振り、肩まで伸びるその長い金髪をあらわにするなり碧眼の瞳で水面に映る自分の顔を見る。初期起動での取った自分の体そのものであって、髪や瞳の色はゲーム内で変えたものだ。当時でこの髪だ。二年経った今ではどのくらい伸びているのか怖くて考えたくもない。


 この突如として彼等はこのゲームを出ることができなくなった。

 最初はログアウトができない不具合か何かと思われた。だが、戦争でデッドしたものは二度と会うことがなく一週間経っても一ヶ月が経っても出ることができなかった。

 そしてプレイヤー全員が一つの答えを導き出した。


 これはデスゲーム。戦争で死んだらリアルでも死ぬ。無理に出ようとしたらそれも死んでしまうから外部からの切断もない。


 当時五万人はいたプレイヤー数も、今や一万人を切ろうとしているところだ。ただでさえ突っ込んで死んで復活を繰り返すことを前提とした戦争ゲームなのに死んだらゲームオーバー。最初からやり直しどころかハードごと吹き飛ぶような、もう一生できないのが正しい。

 戦争でのスコアを出すためにやっていたゲームも今では生き残るため、今日と明日の衣食住のために戦争に行っているのだから意味もない。

 ゲームクリアなんてものはあるのだろうか?未だに見えぬゴールを探す者は多い。彼、ユキもその一人だ。彼の場合は罪滅ぼしの部分が大きく、自分が殺してしまったメンバー、部隊員、親しかった友人達、そういった彼等と目指した生還と言うゴールを一人で探しているのだ。

 しかし、一人で生きている彼はどんなに頑張っても誰にも認められず、どんなに人を思っても悪評が足を引っ張る。心と言うガラスはもう、綻びが生じて崩れてしまいそうで時間の経過で空っぽになるのも時間の問題だと焦点の合わない目で水面に映る自分の表情をただただ見つめることしかできなかった。


「どうして………俺は………」


 もう口を開けば後悔しかなかった。

 二年前までは楽しんでいたものがそうでなくなり、むしろ生きていることを問われるような存在になっている。なぜ俺はあのとき遠藤の誘いを断らなかったのか、どうしてこのゲームをインストールしたのか、どうして家にLギアが届いたのか―――。


「こんなところにいたんですか」


 <<以下の単語が用語集に追加されました>>


【エーフィ国】…… 主人公達が所属する国の名称。国王聖帝ロイドが廃れ、荒れ狂ったエーフィ帝国を導き、立て直したという設定を持っている活気のある国。そういった設定はゲーム内ではあまり意味はない。


【パン】…… 見た目がどう見てもシイタケにしか見えないパン。最初期のころそういったネタが広まり公式でも『CEOの世界には『パン』はありますが『しいたけ』はありません』や、『Q.『パン』が『しいたけ』にしか見えません。A.仕様です』と答えている。


【ペネ】…… ペネトレイトショットの略称。スカウト系列、弓スキルの一つ。弦を限界まで引き絞って強力な矢を射る技。三職存在するCEO一を誇る超射程スキル。効果的は範囲内の敵を吹き飛ばすのみで威力は小さいく、主に味方救出と敵の足止めになる。その分発動までの時間が長いので見てから避けれるスキル。『んゆー☆』と可愛らしく叫ぶと威力があがるらしい。


【ハミール装備】…… チューブトップに薄い布地を被せ、短いスリットスカートを穿いた淫靡な装備。中立国ブイー島に存在する遊技場内のルーレットで手に入るレア装備。レアといっても見た目が変わるだけでこのゲーム内では特殊な効果がついた装備などは存在しない。男性に人気のある

女スカウト専用装備。


【デスゲーム】…… 主に何らかの理由によって集められた登場人物たちが主催者から提示されたゲームに挑むというスタイルである。ゲームには危険を伴うことが多く、場合のよっては名前の通り死を迎える可能性もある。現状ではゲーム内で死ぬとリアルでも死ぬのかも不明。しかし外部からのアクションが無いことからその可能性が大きいとプレイヤー達の間で浸透している。



(2012/06/04)

 改変終了。


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