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NANASE  作者: 白桜 ぴぴ
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ダイヤモンド 4

『真由美、どうして、喋ってくれないの? NANA』


 PM11:00。

 私は、七瀬からのメールを読むと、返信もせずに携帯を閉じた。


 寝るにはまだ時間があるが、特別見たいテレビもないから、ベッドに寝転がって屋根を打つ雨音をぼんやりと聞く。…雨は嫌いだ。気分まで憂鬱になる。

 目を閉じて今日一日の出来事を、ランダムに思い浮かべているうち、藤井に借りた本の事を思い出した。


 『銀河鉄道の夜』を、読まなくっちゃ。


 私は、鞄からあの肌色の背表紙の文庫本を取り出すと、ベッドに潜りページを開いた。


 それは、2人の少年が、列車に乗って銀河を旅する物語。孤独な少年ジョパンニが、唯一の親友カンパネルラと共に見た夢幻の世界だ。濃い鋼青の空の野原を走る汽車からは、白い十字架や、水晶の河原、蠍の火などが見える。そして、揺れる列車の中で、少年達は不思議な鳥捕りや船で死んだ兄弟とその家庭教師の青年などと出会う。

 旅の果て、目覚めればジョパンニは、元いた丘に寝転がっていた。そして、同時刻。カンパネルラは川で溺れて死んでいた…


 銀河鉄道は、死後の世界を走る列車なんだ…。私は、本を開いたまま漠然と思う。同時に死んだばあちゃんを思い出した。…できるなら、私だってこんな列車に乗り、ばあちゃんに会いに行きたい。そして、今抱えてる悩みをみんな聞いてもらいたい。

 七瀬と口をきかなくなったと言ったら、学校でいつも一人だと打ち明けたら、ばあちゃんはどんな顔をするだろう? きっと、例の悪戯っぽい瞳をクルクル動かして、それでも、にっこり笑うだろう。そして、あの優しい声で私を励ましてくれるに違いない。『大丈夫、真由美なら上手く切り抜けられるよ』


…ばあちゃん、逢いたいよ…。


 その時、携帯の着メロが鳴った。ベッドから降りてチェストの上の充電器から携帯を外す。メールが一件来ていた。予想通り、七瀬からだった。


『どうして、返事くれないの? NANA』  


 無言のまま携帯を閉じる。返信なんか、するもんか…! そう思って携帯を閉じようとしたら、また、着メロが鳴り始めた。今度は、電話だった。七瀬からだ。誰が出るもんか!

 私は、チェストの一番上の引き出しを開け、ブルブル鳴り続ける携帯を放りこ

もうとした…その時…

「…! これって…」

 鳴り続ける携帯をじゅうたんの上に置き、私は引き出しの中を覗き込む。そこには、あの日以来すっかり忘れ去られていた漆器の小箱が、隅の方に、慎ましやかに置かれていた。そう、それは、ばあちゃんの遺品の中から出てきた物である。

「魔法のダイヤモンド…!」

 確か、連休明けの通学途中に、あのダイヤモンドの七瀬と話をしていた筈なのに、七瀬へのイジメ問題やら、町田と小林の仲たがいとか、色んな事がありすぎて、すっかり忘れていたのだ。

 小箱を手に取り、陶器製のふたを開けると、あのピンクダイヤが燦然と輝きながら姿を現した。…ばあちゃんのくれたペンダントだ。『幸せを呼ぶ、魔法のダイヤモンド』だ。どうして、私は長い事、これの存在を忘れることができていたんだろう? こんなにきれいなのに…信じられない程輝いているのに…! 

 私は銀色の鎖を人さし指にかけて、シャラリと箱の中から取り出した。私の指の動きに合わせて、ダイヤモンドが揺れる。揺れる度に、58の面が光の呼応を繰り返す。それは、星の瞬きよりも鮮やかな光のハーモニーだ。

 ダイヤモンドを見ているうちに、まるで、天上からおばあちゃんのあの笑い声が聞こえて来るような気がして、私の心に暖かい気持ちが溢れて来た。

「幸福になれる」

…なんて、おとぎ話を信じたわけじゃないけど、いつも、おばあちゃんの側にいられるような気がして、私はそれを首にかけた。

 そして、心の中でこう唱えた。


『どうか、おばあちゃん、私を守って下さい。 

 私の心が、これ以上醜く歪まないように…』


 次の日、奇跡が起こる…


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